トップ 事務局 夏季研
第3分科会
  学力・教育課程研究会のまとめ
 
小野 英喜


【概要】

 第3分科会は,「今,学力のあり方を問う」というテーマで10名の出席者を得て,研究・協議をおこなった。はじめに,研究部会代表の藤原義隆先生から「主権者として自立するにふさわしい学力をすべての子どもに」と題した基調報告があった。その後、次の方たちから実践レポートの発表をしていただき、討論をおこなった。

レポート発表

@ 「小学校における小人数授業・・その後」・・・(乙訓地域の小学校)

A 「家庭学習で学力回復を」・・・ 澤田稔先生(京都子ども勉強会)

B 「中学校における評価改善の取り組み」・・・N先生(京都市立R中学校)

 レポートは、現在の子どもや学校の状況を明らかにした現状報告にとどまらず、取り組みの内容や課題も明確になる優れた報告であった。また、参加者の発言も、報告者を励まし、取り組みの展望を示すものが多かった。各レポーターの報告を討論の内容を含めて以下にまとめた。

【まとめ】

【基調報告】

「主権者として自立するにふさわしい学力をすべての子どもに」

【基調報告】は、最初に学力問題をめぐる情勢を、行政側からと「民主勢力側」からどのように見るかについて提起があった。文部科学省・財界は,教育基本法がもとめる「人格の完成」ではなく、学校教育を「グローバルな競争に勝ち抜くエリート養成」という「人材開発」の意図を露骨に示し,学校五日制や習熟度別学級など低学力と格差容認の政策をすすめている。また、地方自治体の教育委員会は,文部科学省以上に差別的な教育行政を進めている。しかし、高知県など一部の地方ではよりましな行政の動きも見られる。

一方,民主勢力側の取り組みとしては,不十分な点が多い。労働組合運動としてみても,「学習指導要領の白紙撤回、見直し要求」や「学校五日制」に見られるように,地方自治体の決議が力になっておらず,子どもの学力を保障する提起になっていない。学習指導要領は,「白紙撤回や見なおし」ではなく「試案扱い」という方針を出せなかったのか。学校五日制にしても,土曜日の受け皿ができていないため,学力低下と学力格差増大に拍車をかけることになった。

全国教育研究集会の「学力・評価分科会」は、日教組時代の曖昧さを引きずっていて,レポートの内容が学力保障や評価のないものがでてきている。さらに深刻なことは,全教教研集会の学力分科会に提出されたレポートを集計すると,1990年から2003年までの14年間に,10本以上のレポートを出している都道府県は,北海道,埼玉,東京,滋賀,京都,大阪、高知に過ぎず、5本以下しか出していないのが13府県(参加都道府県の50%)に及んでいる。これでは、労働組合が、子どもたちの学力保障の視点から研究活動を十分に進めているとは言いがたい実態がある。京都においても、支部教研で学力分科会が開催できないところが多く、国民の要求に応える実践をするためには、この課題を克服していくことが必要である。

 「主権者として自立するにふさわしい学力をすべての子どもに」保障するためには、次の3点で共通した取り組みを進めることが望まれる。

@ 学力形成を中心にした教育課程で、学力づくりと学校づくりを統一して進める。

A 細野武男氏が提起した「教育の三原則・科学的認識、集団主義、全面発達」を再評価し、実践課題として追求し、「学力形成と人格形成の統一」した取り組みを進めることが必要である。評価問題の研究と「よりましな通知表づくり」に取り組むことが求められている。

B このような情勢の中で、家庭学習は単に学校教育の補完物ではなく、「独習」という学習の到達目標に近づくための最も有効な方法で、本来は学校の教育課程に位置づけられるものである。子どもの学習を保障し学力をつけるための家庭塾や寺小屋についても研究を深めていきたい。その意味で、京都子ども勉強会の20年間の取り組みに学びたい。

 
【レポート・1】 「小学校の少人数授業の今」

 このレポートは、昨年度に引き続き、乙訓地域の小学校から「小学校の少人数授業」について1年間の取り組みの経過と課題を明らかにした報告である。

最初に、「今学校で」は、京都府の学力診断テストが行われ、管理職は、「何点とって、学校別で何位になったかが関心事になっている」といわれている。それは、「テストの点数が下がると教育委員会から責められる」からである。教育委員会は、その結果を親に知らせることにで「学校選択」の資料にすることを考えている。学力テストが小学校の序列化につながり、学校評価の規準の一つに使われている。

「少人数授業と習熟度別授業」は、3年生から6年生まで国語、算数ともに押しつけられている。2年生からやっている学校もあり、問題が深刻である。教育委員会は、「個に応じた教育」を標榜し、少人数授業を「上、中、下」に分け、父母には学ぶ内容は同じといいながら、教師には「内容に差をつけなさい」と言われている。「上、中、下」のどのコースを選ぶかは、子どもの自己選択が方針になっているが、その結果、子どもが「標準コース」に集中し、クラス編成ができず、教師の指導で分散させているが、「標準コース」は、少人数になっていない。

教育委員会は、習熟度に意味があり、「そのコースにどれだけの違いがあるか強調するように」とか、「『上』は発展的な問題をどんどんやらせて、『伸ばしこぼし』をするな」とも要求している。子どもの声をアンケートで調べると、「少人数だから良かった」という声が多い。

保護者は、どの子どもにも学力をつけてほしいという願いがあるので、基本的には少人数授業のやり方がおかしいと思っているが、教育委員や学校に言っても変えてくれないと諦めていて声をあげることはない。6年生から英語が入ったので、子どもを塾にやる事が多くなった。

教師は、形の上で少人数にするが、この単元で子どもにどんな力をつけるかを検討し、一定の到達目標をつくるようにしている。しかし、話し合いのできない学校では、「上」にきた生徒に対して、「どんどん進むので、ここはできる人が集まるところだ。」と平気で言う「少人数加配」の教師がいる。これに、教職員評価が入ると、話し合って検討することが難しくなる。「どの子どもにも一定の力をつける」という視点での教師の話し合いがないと、少人数授業が能力別コースになってしまう。学力がついたかどうかの判断は難しいが、少人数講座の取り組みは、勉強する場をつぶし、子どもたちをばらばらにしていく。

【質疑応答から】

・ 少人数クラスは、基の3クラスを5クラスに伸ばしている。少人数授業(算数と国語)は、体育大会やプールなどの行事があっても絶対になくならない。結果として、社会や理科が少なくなっている。話し合いを大切にしているが、教師の打ち合わせのために夜の9時頃までかかる。宿題は、学校によって異なるが、打ち合わせて共通のものを担当者が作っている。

・ 保護者には、当初は父母懇談会を持って意義や取り組みについて話し合ってきたが今では低調になっている。少人数授業を「学習の方法の違い」と説明しているが、教育委員会は、「できる子にはどんどんやらせ」と能力別の指導を強調している。親にも競争の原理が入っている。教育評価が入ってくる中で、親にどのように言ってよいかわからない。指導主事訪問でのチェック、議会の圧力もあり、多忙化で地域に出かけることもできず、ゆとりがない。

・ 評価で「1.2」がないと、指導主事が【1.2が一人もないのはおかしい。各クラスに1,2名はいるはずだ」と評定にまで注文をつける。しかし、これらは文章で残さず、すべて口頭である。

・ 中学校に行くと小学校で慣れてしまっていて、習熟度別コースを選んでいる。

 
レポート・2 「家庭学習で学力の回復を」

 京都子ども勉強会は、24年前、南区民主商工会の親の切実な願いから始まった。それは、このままでは高校に行くことができないという中学校の教師の一言から始まり、「オール2では私立高校にも行けない」というで、「経済的にも公立高校に行かせたいが学力がついていない」「子どもがやる気がないどうすればよいかわからない。」という親の悩みがあった。また、子どもたちの間に、「勉強に見通しが持てず投げやり的な様子である。」などの学習からの逃避が見られた。「小学校では自主性を伸ばす教育をされているが、中学校では管理教育になり落差が大きい」「友達関係でなやみ、自暴自棄になっている」など、切実な親の悩みを解決するために、勉強会を開いた。これらは、本来、学校で解決すべきものであるが、親が自衛的に集団的に取り組みを始めた。

 勉強会の活動は、中学生に対して高校進学を保障するための学習指導で、子どもたちと信頼関係を築くために合宿や対話集会、セミナー、クラス行事を開催するほかに、毎月保護者会を開いている。目標に向かって、できるまでとことん付き合うことが大切である。このような子どもは、一面的なものの考えをするが、指導員との信頼関係が必要になる。通常の勉強会は、週二回で、英語と数学を指導している。テスト前にはテスト対策を家庭学習には特別の教材を作っている。学習面でやれるようになると、生活も確立し、学習が続かない子どもは、親や教師との信頼関係が崩れている。

「信頼関係」とは、学習そのものに向かっていかない子どもとどう向き合うか、どのようにして絆をつくるかという中で課題になってきたことで、子ども集団に依拠しながら、子どもに対する深い理解と複眼的に子どもを捉えることからできるものである。子どもの置かれている現状をから出発し、期限切って何かをする自体が子どもを枠にはめていることになっている。

小学生の勉強会は、基礎学力を保障するための算数と国語の指導を独自の教材を用いて実施している。国語では、漢字、文章読解、ローマ字など系統的にテキストを用いて行っている。ローマ字で物語を読ませたり、日記をつけさせたりしている。家庭学習を重視して毎日、30〜40分の内容を課している。その内容は、子どもが持っている80%の学力でできるものを課している。中学生では、自我が目覚め、押し付けると反発し、必要性を納得しないとしてこない。到達目標が不明確な学習課題を出すとやってこなくなる。

 どの子どもにも基礎学力を保障するためには、「勉強会と家庭塾づくりを大きな教育運動ととらえ」て、子どものいろいろな問題が起こっても父母だけでは対応できないため、父母をサポートする教職経験者が必要である。そのためには、子育て共同体としての組織が必要になる。

 
レポート・3「中学校の教育評価について」

 すべての生徒に確かな学力を保障するという点から見ると、平成14年から「相対評価」が「目標に準拠した評価、いわゆる絶対評価」になったことは前進である。評価の改善で、「学習保障が課題にならない相対評価」から学力保障につながる評価になった。しかし、そのためには、「1.2の生徒を出さない取り組み」や「目標を明らかにした到達度を示す」評価へ、さらに「何ができて何ができないかがわかる」評価にしていかなければならない。ところが、現場ではそのような実践につながらない困難な点がある。

例えば、@教師が長い間の相対評価観から抜け出すことができず、人間の能力は生まれつきとか能力差があることを前提としたり、A相対評価は「客観的」だという間違った考えが残っていたり、B教科学習の目標について教師間での話し合いができていない、C観点別評価で、何ができて何ができていないかがわからず、生活態度や授業の態度を評価に入れるため教師の主観的な評価になるなど問題点がある。

しかも、D校長会のガイドラインで、4つの観点が同じ重みであることから、態度の重視、知識理解の軽視が起こっている。また、E教師の労働条件ともかかわって、観点別評価が煩雑で手間と時間がかかるという問題がある。

 教育課程の編成では、「四大文明は教えない」とか「世界史の内容がない」など授業時間数と学習内容が削減されたため、国民として必要な教養を身につけるための十分な内容を準備したり学習時間を取ることができない。しかも、選択教科や総合的な学習の時間があり、教科学習が減少している。

 このような中で、N先生は、@毎授業時間で学習目標の明確化し、復習プリントの活用などで生徒が「授業の目標がわかり」豊かな授業を進めていること、A観点別評価の中で、「知識・理解」は、基本問題としてテストで、「思考・判断」は発展問題としてテストで、「資料活用の能力」は、ノート点検、白地図などで、「関心・意欲・態度」は総合的な力としてレポートで評価している。Bテスト問題は、単元別に作成し、70〜80%できると合格にしている。合格点に達していないと再テストをしている。再テストで合格すれば。「知識・理解」と「思考・判断」の評定は「B」にしている。C回復指導としては、テスト返しのときに白紙答案を準備して答え合わせをするなどで行っている。

 R中学校では、毎朝10分間の「朝読書」によって学力の基礎をつくり、教員研修会を実施して評価問題を学校上げて健闘し実施している。それは、各教科で学習目標を明確にすることや評価規準と評価基準を明確にして生徒と保護者に知らせる取り組みである。

 今後の課題としては、@生徒の学力実態を調べて入学時点からの格差をどのようにするかという学力保障の取り組みである。R中学校が実施している入学時の漢字テストによると、40点以下の生徒が20人余いること、10点以下が7人もいて「ノートが取れない」など日常の楽章にも支障がある生徒がいることがわかった。これらの生徒には一斉授業だけではなく個別指導が必要になっていることである。A評価については、態度主義の克服や目標を上下させて評価を操作したりして授業を総括しない教師がいることで、もっと大きな問題点は、生徒が「間違う権利」を奪ってしまう小テストを評定・成績にいれるという間違った評価観を持つ教師がいることである。

 B総合的な学習の時間や選択教科では、手を抜くと生徒が荒れる原因になり、C毎日仕事に追われる職場では、どのように解決したらよいか展望が持てなくなることがある。D土曜日日曜でのクラブ活動や生徒指導、文化祭など教師は休まることがない。

                                                             (文責・小野英喜)
トップ 事務局 夏季研