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第35回 京都教育センター 夏季研究集会 第一分散会 記録
第1分散会報告
基礎学力と「習熟度別学習」を考える


(1) 参加者 11名(司会1,記録1,報告2,一般参加者7名)

 参加者はここ数年、辛うじて2桁という実態である。本年度は教組教研が開催されるかどうか分からないため、それに代わる結集点という意味も含めて、予め15支部長宛てに参加を依頼しておいた。この依頼(分散会と第3分科会)に応えての参加は1支部のみのようであった。
 「学力」にかかわらず、今後の運動の発展を考えれば、どの研究会も参加人数だけでなく、支部毎の参加が得られるよう努力する必要があると思う。

(2) 報告から考えられること

 報告は、次の2本であった。
 @「習熟度別授業は学校崩壊につながる」
   ――学校をあげての授業改善のとりくみ――
            京都市立新林小学校  久保 齋
 A「少人数授業」(習熟度別)体制下の現状と問題
                       府下P管内小学校

 後で気付いたことであるが、この2本のレポートの違いについて分析、指摘しておくことは、今後の研究活動の方針、内容を考え決定していく上で、極めて重要であると思われる。それは次の2点である。
・ @は、発表者の氏名、校名まで明記しているのに、Aは、その両方を伏せている。
理由はもちろん行政との関係である。しかも、@は反動性では筋金入りの京都市教委であることを考えれば、なおさら、深い分析が必要であると思う。Aの発表者はかなり高齢のベテランであるが、「こんな経験は初めてだ。」と述懐しておられた。なお、よく29日の第3分科会でも、同じレジメで、P管の別の教師が報告した。
 ・ 今述べたことと関わりがあるのだろうが、@は「習熟度別」を「学校崩壊につながる」と分析批判した上で「学校をあげての授業改善のとりくみ」と対案を示している。Aは、現状と問題点の提示にとどまり、対策は、討論の中でも明確にはならなかった。
 以上2点は、教組を挙げての深い分析、討論が必要であると思う。
 なお、用語の使い方であるが、同じP管内の発表者が、1人は「習熟度別授業」と言い、1人は「少人数授業」と言っていたが「習熟度別少人数授業」に統一した方がいいと思う。それは政府の『骨太方針2002』にそう表現されているからである。



(3) 報告

@「習熟度別授業は学校崩壊につながる」
     ――学校をあげての授業改善のとりくみ――
              京都市立新林小学校  久保 齋


<多数の子どもが差別を受ける時代>

大阪市長選では、公約に習熟度別授業を掲げた人が当選し、校長権限で習熟度別授業ができるファシズム的な体制が作られ、多くの子どもたちが差別される体制が作られた。御所南小学校や土堂小学校等、特区と言われる学校では特別な好条件の下で「こんな子どもは賢くなる」という“実態”が作られ、多くの子どもたちが差別される側に立たされているのに、多くの人達は気づいていないばかりか、賛美さえしている。
習熟度別授業で、A、B、Cに分けられると、Aだけがやたらと張り切り、BもCも駄目になるという実態があり、中学校では、B,Cの生徒が教室に入るのさえいやがるというように、子どもにも本質が見抜かれてきている。
新林小学校では、学期初めに全学年の(6年なら1〜5年、5年なら1〜4年)の学力テストをし、1人ひとりの学力実態を全校的にオープンにする。
そして家庭訪問の時「お宅のお子さんの学力実態は○○です。○年生の所でつまづいています。」と言うと親は「塾へ行かさんならんでしょうか。」と言う。その時「学校の責任で回復させます。宿題という形でやりますから、必ず家では宿題をやらせて下さい。そして朝ごはんは必ず食べさせて下さい。」と言うと学校に対する信頼は凄く高まる。
学校では、15分指導して残りを宿題、4月から百日間かけて「逆のぼり指導」をし、7月にもう一度テストをする。これを全校あげて取り組んでいるので、「保護家庭」の多い地域であるが、学校は非常に落ち着いている。
私たちは先輩の築いて来た一斉授業のすばらしさの復権が大切だと考えている。一斉授業は単に安上がりというにとどまらず、教師の投げかけた問題を1人ひとりの子どもが自分なりに受けとめ(凛々しい個別化)更にそれを交流する(学力の社会性)それを教師が評価するという授業の改善が必要だ。これなくしては、さまざまな攻撃に堪えられない。
1学期の終業式も470名の全校生が生の声で静かに聞けるように安定している。教師どうし、3年前の凄まじく荒れた実態を思い出して、「一体あれは何やったんやろなあ。」と話し合っている。

 
A「少人数授業」(習熟度別)体制下の現状と問題
                     府下P管内小学校B教諭

民間研究団体の発行していた雑誌が廃刊になるなど、周囲の条件が悪化する中で、どうすればいいのか方針を出しにくい。この報告も、実態はどうかという範囲に止まっている。
報告された内容を要約すると、次のようなことになると思う。
1, 3〜6年の国語、算数のほぼ全単元を対象に実施している。
2, 診断テストをし、自己選択で3段階に分けるという手続きをとっている。
 診断テストは、つまずきを見つけるというのが本来の意味であるが、基礎、標準、発展というグループ分けに使うということを念頭において使われることが多い。
3, グループの名称は差別にならないように、しかし程度が分かるようにという“指導”がある。
4, 3グループの特徴
・基礎グループ じっくり、ゆっくり、個に応じて、発展的な内容は省く。
・発展グループ 自己解決、どんどん進める。
だんとつに伸びる。競うのが好きな子が集まる。
5, 子どもの実態
・ 子どもも多忙化  
・ 自分さえできればよい、教え合い後退。 
・ 休み時間も十分遊べない。
・ 1日の半分を他教室、他学級の子どもたちと過ごすため、ストレスをためる子もいる。
・ 不登校気味な子どもの登校しぶりを助長
6, グループの特徴
・ 下位グループ 対応教員の大変さ(1対1対応のため) 子どもどうしの教え合いができない。
・ 中位グループ 人数が多い。
・ 上位グループ 塾などへ行っている子が多い。速さの競争になる。発言が少ない。
7, 学級集団の変質 友だち関係の希薄化 旧クラスの関係を引きずり、新しいクラスの人間関係ができない。早い段階での学力に対するあきらめで自分のグループを決めてしまう。
8, 保護者の受け止め方
・ 疑問視する保護者が増えている。
・ 宿題、テスト、先生によって差があるという声が出ている。
・ 学校生活の不安を訴える保護者が増えている。
9, 教職員の状況
・ もっとも大事にされなければならない打ち合わせ時間がとれない。
・ 担当グループの子どもの交流時間がとれない。
・ 目標と評価の形骸化。
・ やりがいの喪失感。個性の発揮が不可能に。悪い方にそろえさせる。
・ これだけ苦労してやっていて、学力が伸びたという報告は1件もない。
 
以上はレジメに沿った報告であるが、、職場の交流の中で、「こんなことは長い間続く
はずがない。今やらされている教師や子どもは気の毒だ。このままでは学校崩壊がおこってくる」という話が出ていることが紹介された。
 そして、現状を早急に分析して方針を出さないと自滅していくという声が出ているし、50代の教師間では、いつ辞めるかという話がよく出るということだった。

 
 この後、「逆のぼり指導」に対する質問や、各地の状況の交流があったが、討論の焦点になったのは、久保 齋さんの「うちの学校やったら、子どもをABCに分けたら、親がどなりこんできます。どなりこんできて当然や。なぜ府下が大騒ぎしないのか分からない。」という発言だ。これに対して「新しい学力観の通知票の時は親がよく意見も言ったし、新聞に投書もした。それだけのエネルギーのある地域だ。」という発言があり、それに対して「それは教師が地域へ出かけて行って、どんどん発言もしたからや。」という発言が続いた。また、親に言うなという圧力もかかっているという、聞き捨てならない発言もあった。

 時間も不十分だったこともあるが、この先の分析と論議は、組織的にやるべき内容であろう。京教組定期大会の議案にも「少人数授業、『選択』教科等で、能力主義にもとづく習熟度別編成や高校の多様化に反対します」と方針が明記してある。また、今回の討論の中に、中学校関係者が1人もいなかったことも討論を十分深めることのできなかった理由の1つになるだろう。能力別編成について思春期の子どもたちは、もっと鋭く反応するであろうから・・・・。そのことを司会者が指摘して閉会した。(文責:藤原 義隆)


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