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京都教育センター第36回夏季研究集会
               第四分科会 記録(要旨)

 「授業づけ、補習づけで本当に学力は伸びるのか!?」

                             
                                      (高校問題研究会)
 
 ここに掲載した記録は、2005年8月27・28日に開催された「京都教育センター第36回夏季研究集会」の中で行われた分科会・分散会の内容を当日の記録にもとづいて京都教育センター事務局の責任でその要旨を編集したものです。文責は、京都教育センター事務局にあります。



  京都教育センター高校問題研究会では、この数年間にセンター夏季研高校分科会や研究会独自の研究会に取り組み、

@京都府教委がすすめる「特色ある学校づくり」が高校間の学力格差を増大し、教育困難を拡大していること、

A京都の公立・私立の高校生は、授業や生活指導、高校入試制度、日本の教育全体の問題などに強い関心を持ち、不満の多いことについて各校で生徒の要求をまとめて実現しようとしていること、

が明らかになった。 生徒・保護者・教職員がそれぞれの立場から意見を出し合い、力を合わせて学校づくりをすすめることは、学校運営の基本である。しかし、近年の京都の公立高校では、府教委の指導方針のもとで「校長中心の学校運営」が叫ばれ、生徒・保護者・教職員いずれの意見の尊重も不十分な状態になっている。


 このような中で、「大学進学希望実現」「進学実績でよい生徒を集めよう」のかけ声で、「7限授業」は当たり前になり、「0限・8限・9限補習」「土曜補習」など、際限のない「授業づけ」「補習づけ」状態が広がっている。

今年度本分科会では、高校生(卒業生)や教員・保護者からそれぞれの高校の「授業づけ・補習づけ」の実態とそれに対する思いを報告してもらい、本当に学力をつけるにはどのような取り組みが必要かについて参加者をふくめて討論を行った。これからの京都の高校での学校づくり・学校改革の方向を考える契機になればと考える。


《報告した人》

●卒業生 ・Aさん(a高校卒業、現在は大学1年生)
●保護者 ・Bさん(Aさんの母親)(元a高校保護者)・Cさん(Aさんの父親)(元a高校保護者) ・Dさん(b高校保護者)
●教員 ・Eさん(b高校教員) ・Hさん (e高校教員) ・Fさん (c高校教員) ・Iさん (f高校教員) ・Gさん (d高校教員)
●参加者は24名(内訳は卒業生=大学生1人、保護者(元を含む)8人、大学教 員1人、大学生1人、高校教員9人、元高校教員3人、府立高教組役員1人)。


《開会あいさつ》

(臼井照代:京都教育センター高校問題研究会代表)

・すでに学校(2学期)が始まっているところも多いと聞くが、忙しいところをありがとう。
・最近の公立高校は、とにかく授業時数を増やしたらよいという感じで、目的は要するに「大学進学」。本当に高校生にどのような学力をつけるのかということになっていないようだ。また、自主活動が制限されたり、授業・補習にしばられて高校生活が不自由になりやすい。
・毎年高校生に集まってもらって話を聞くようにしているが、今年は卒業生お一人の参加になったが、参加者みんなで話し合っていきたい。よろしくお願いしたい。

《進行担当より》

・この分科会では、この7〜8年間、高校生・卒業生に学校での授業・生活指導・高校制度などについて意見を出してもらい、話し合っている。今年は、京都の公立高校で高校間の競争のように進行している「授業づけ・補習づけ」について卒業生や保護者・教員から実態を出し合い、真の学力をつけるにはどのような取り組みが必要なのかについて、参加者が日頃思っていることを出して欲しいと思う。
・分科会の討論の進め方と討論の柱(分科会運営委員会で検討)は以下の通り。

《討論の進め方と討論の柱》

@発表する卒業生・保護者・教員それぞれの学校の授業・補習の現状と改革への思いなどについて報告を受け、参加者から発言を求める。
A参加者がわからないこと(高校の学科・授業形式の違いなど)があれば質問してもらい、説明を求めるようにする。  
B発表する卒業生・保護者・教職員以外の参加者からも、適宜質問・意見を求め、討論が全体に広がるようにする。


討論の柱

@卒業生は、現在の京都の公立高校における授業・補習の体制・内容をどのように考えているか。

・学科・類やクラス編成について(できる子とできない子でクラスを分けることについて、どう考えるかなど)
・授業・補習について(U類などだけが受ける7限や全員参加補習について)
・授業日数や補習を増やす学校が多くなっていることをどう考えるか。
・授業・補習の時間を増やして学力がつくと考えているか。

A卒業生は、どんな授業・補習が理想と考えているか。             

・生徒の声・要求を学校の授業・補習のやり方に反映させるにはどうしたらよいか。
・テスト・成績や評価のしかたについて、どう考えるか。

B授業・補習などに対して保護者が意見を言うことは保障されているか。

・公立高校の制度、入試制度に対する意見 ・授業・補習、学校行事、クラス編成など学校の活動に対する意見

C授業・補習の方針が、学校の中でどのように決められ、進められているか。

・進学実績を上げることが優先されていないか。  
・生徒本人の自発的な希望が考えられているか。

D生徒・保護者・教職員の意見を反映して授業・講座等の学力をつける取り組みを進めているか。そのようにするためにはどうしたらよいか。

E京都府に「特色ある高校」としてさまざまな公立高校ができていることに対し、高校生・卒業生はどう考えているか。

・自分が今の(卒業した)学校を選んだ理由は?
・類型制や特色ある普通科の専門学科(嵯峨野高校京都こすもす科、堀川高校人間探究科・自然探究科など)をつくることをどう考えるか。
・京都府の公立高校入試制度について、高校生はどのような意見を持っているか。
   (通学圏拡大、単独選抜、中高一貫教育など)
・2004年度からの山城地域の新しい高校入試制度をどう考えるか。



・はじめに    参加者全員の自己紹介(所属・名前)(略)


【報告と討論 (略)

●(1)a高校の補習・進路指導のようす(卒業生:Aさん)

●(2)b高校の進路指導や学校のようす(教員:Eさん)

●(3)b高校での学校生活(保護者:Dさん)

●(4)c高校の授業・補習の実態と問題点(教員:Fさん)

●(5)d高校での授業を中心にした、担任指導と連携した学力づくり(教員:Gさん)

●(6)e高校の“フツーの普通科”高校生の実態と学校のとりくみ(教員:Hさん)

●(7)f高校の「学習・生活・からだのアンケート」の報告


《閉会あいさつ》(松田 博:教育センター夏季研高校分科会運営委員)


@今回の分科会では、授業・補習を増やすことに力を入れる学校と、今までのやり方を基本にする学校の両方の報告があった。受験・進学にひた走るような一元的な価値観と、そうでない学校とに二極分解していくのではないかという危惧を持った。とくに、前半の報告のa・b・c高校の話を聞いて、大学受験が価値観のすべてになっていることに疑問を持った。

Aいろいろな層の生徒が一つの学校にいて、互いに交わる中で力を伸ばせるような学校が大事ではないか。教育の在り方ともかかわって考える必要がある。

B今日の報告・討論を聞いて、高校三原則をもう一度考えていく必要があると思った。そのためにこれからも考えながら行動していきたい。


《高校問題研究会事務局より》(磯崎 三郎:教育センター高校問題研究会事務局長)

・本日の分科会の感想・意見提出のお願い                  
・高校問題研究会の活動の紹介と入会の案内


【分科会運営委員会のまとめ】

 分科会では、「授業づけ・補習づけで本当に学力は伸びるのか!?」のテーマで、卒業生・保護者・高校教員が、“授業づけ・補習づけ”の実態や進路指導のようす、授業と担任指導で学力をつけるとりくみ、生徒の学習・生活・からだの実態と学力の関係などについて報告した。報告と参加者全体での討論で明らかになった点を以下にまとめておきたい。

(1)前半に報告したa・b・c高校では、「授業時数確保」(7限授業やa高校の0限、c高校の95分授業を含む7限、b高校の夏休み中の“全員学習”など)、補習づけ(夏・冬休み中の補習やa高校の「進路社」・昼漢=昼休みの漢字補習など)、土曜補習(a高校の「アカデミック・サタデー」、c・d高校の「土曜講座」、b高校の土曜「ステップアップデイ」)など、大学進学に向けた学校の取り組みが強力に進められていることが明らかになった。 とくに、これらの取り組みでU類、「1.5類」の生徒が全員強制参加になるなど、生徒が選択の余地なく強制的に進められていることは問題であることが確認された。

(2)“授業づけ・補習づけ”は、国公立大学合格を何人出すかがすべてという一面的な価値観に基づく学校運営であり、そのような運営が教職員の十分な議論の上で決められたかについて大きな問題があること、教職員の勤務実態や生徒の実態への考慮がほとんどないことについても、意見が多く出された。

(3)d高校とc高校からの報告では、授業内容の工夫や質の向上で学力をつけることや、勉強への動機づけで学習意欲を引き出すことが大事なこと、教科だけでなく担任指導と連携した進路指導が求められることが強調された。 d高校では、そのような実践を教科と担任のサイドから進めたクラスでは、従来よりも進路希望実現の実績を上げており、むしろ安易に補習・土曜講座などを増やしてもやる気がなければ学力は伸びないことが報告された。

(4)e高校の「学習・生活実態調査」、f高校の「学習・生活・からだのアンケート」による報告では、授業増や補習強化を極端にはすすめていない「フツーの学校」の高校生の学習・生活の実態が報告された。家庭学習時間や授業への集中度、夜更かしなど課題が多いこと、家庭学習時間・睡眠時間や朝食を食べていることと成績には相関関係があることが明らかにされた。また、困難な中でも生徒への指導の強化や学校全体のとりくみ(f高校では課題・宿題を出すこと、e高校では毎朝の「朝の読書」のとりくみなど)を通じて学習時間や授業への集中度が改善されていることも報告された。

(5)本当の学力をつけるつけるために、現状の高校での学習指導・進路指導の中で何が課題となっているか。(「民主的な」学習指導・進路指導に向けて)

@多くの公立高校での「授業づけ・補習づけ」の体制に対し、それが真の学力につながるのか、生徒の実態に合っているのか、教員の勤務実態を考慮しているのか等の点から、十分な議論を行うこと。現状の7限など「授業時数確保」や補習拡大で学力が伸びているのか、総括・検証を求めること。 A生徒の進路希望実現に向けて新たな補習等に取り組む場合には、担当の学年・教科の「独自の」取り組みとしてではなく、学校全体の合意のもとで行うこと。 補習は、生徒の要求に応えるもので、強制にならないようにすることが必要である。

B安易に補習に依存するのでなく、授業を重視し、その質を高めて学力をつけること。とくに学習への動機づけ・やる気を育成すること。

C生徒の学習・生活や健康の実態を把握し(「実態調査」など)、学校全体でその改善のためにどう働きかけるかを議論し、取り組むこと。

(6)今回の分科会では、例年と比べ高校生・卒業生の参加が少なく(卒業生1人のみ)、逆に高校教員からの報告が5校からと多いのが特徴であった。それにより、とまった議論ができた面も多い。 来年度の分科会では、従来通り多くの高校生・卒業生の参加による学校の生の声を反映した運営にするか、今後の検討が必要である。
 
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