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京都教育センター第36回夏季研究集会
               第二分科会 記録(要旨)

「社会的排除」と生活指導


                       (京都教育センター 生活指導研究会事務局)
 ここに掲載した記録は、2005年8月27・28日に開催された「京都教育センター第36回夏季研究集会」の中で行われた分科会・分散会の内容を当日の記録にもとづいて京都教育センター事務局の責任でその要旨を編集したものです。文責は、京都教育センター事務局にあります。
 


 本分科会では冒頭事務局(築山)から、テーマ設定の趣旨等について報告され、ついで3つのレポートの報告と質疑、全般を受けた討論が行われた。


1.分科会テーマについて


 今回の分科会の目的は、新自由主義にもとづく「構造改革」によって社会構造の根本が破壊されようとしている現状にあって、子ども・青年の存在そのものを抑圧し、関係・コミュニケーションをゆがめる社会構造にあらためて視野を広げ、特に「社会的排除」という視点から問題解決の新たな方向を探ること、そして、抑圧・排除の力にさらされて子どもたちが抱える生きづらさを乗り越えるための、指導・援助のあり方を探ることにある。「社会的排除」を問題にするということは、問題解決が「あるべき社会」づくりの過程となることであり、そこでは、地域社会に自治と公共性を築くおとなの取り組みが、子どもの課題と重なり、学校づくりもその射程にとらえられることになる。


2.報告について

 最初に高校教育からみた生徒たちが抱える困難について、実態と課題が3つの事例にもとづいて報告された。事例の中では、今日広がりを見せる児童虐待の問題、経済的保護を含めた進路・自立への支援のあり方などが切実な課題となっていることが強調された。学校教育の課題としては、生徒の家庭生活をリアルに把握し、専門機関とも適切な連携をとって対応を図ることが特に求められており、また、PTAや地域の子育て運動など、地域ネットワークづくりの整備の必要性についても触れられた。

  次に公立中学校の非常勤講師の目から見た、生徒たちの実態とそこから感じた疑問・課題などについて報告があった。そのなかでも、次のような指摘は今日の社会状況のもとで思春期という自立への葛藤の時期を生きる子どもたちをとらえる上で、大変示唆に富んだものであった。「・・・教室でプリクラノートや手紙をせっせと書いている生徒(ほとんど女子)といろいろ話していくうちに、(そのようなタイプの生徒は)家庭でかまってもらえない生徒に多いと感じました。この生徒はひょっとして自分ひとりで長い時間をつぶす練習をしているのではないかと思ったことがあります。家族が夜遅くまで働いておられる、家に自分以外の人がいない間はいつも一人で過ごす。もちろんテレビを見たりメールをしたりもするのですが、成績が悪くても親が無関心だったり、自分自身も本を読んだり、勉強をしたりする癖もついていないこともあり、何かをしていないと時間が余るらしいのです。・・・また中学2年生になるまで一度もお母さんにおやつを作ってもらったことがない、家に針と糸がないという子が少なからずいます。・・・家庭への働きかけをどのようにしていけばいいのか、どこまで関われるのか難しいと感じています。」

 3番目の報告は、「排他的・抑圧的競争のなかで―小学校現場では、今どんなことが起こっているのか―」と題して行われた。報告では、「熱心な校内研究」が多忙化に拍車をかけ、「セブン・イレブン学校」とでも言うべき教職員の勤務実態があること、子どもたちの生活も、スケジュールに追われて次から次へと追いまくられる実態があること、学級の中に「(勉強やスポーツで)できる子=勝ち組=王様」「できない子=負け組み=奴隷」とでも言えるような子どもたちの姿があることが詳しく報告された。子どもたちは、そうした「進学・スポーツ競争」「過密スケジュール」を背景に、自由時間を剥奪され、人間的な発達から疎外されており、些細なことがきっかけとなって、子どもたちの「むかつき」「荒れ」が一気に噴出する構造が作られている、そのような子どもたちを「受けとめる」というのは、大変難しいことであるが、「まじめに、ていねいに最後まで『聞く』ことに徹して」いくことで、ようやく子どもたちが「本音で語りだしたな」と感じられたという。最後に「父母と教職員が手を取り合えるように、教職員の苦労・困難を理解してもらえるための特別の手立ての必要性」に触れ、教職員が「本務」である授業と子どもの指導のみに専念できれば、まだまだ学校には「楽しさ」があり、そのことは、「組合員・未組合員、管理職を問わず、教職員全体の一致した願いでもあるのだ」とされた。

 討論では、「社会的排除」という概念をめぐって、特に「中心」と「周辺」、参加などをめぐって、歴史学や社会学等それぞれの研究分野における固有の意味と、この概念・言葉を教育分野で用いていくことについて、慎重さ、正確さを期すことの必要性についての意見があり、確認された。また、学校における生活指導・生徒指導上の困難・課題がもつ社会的背景・意味あいの重さが従来にも増して大きくなっていること、したがって問題の解決には、学校と家庭・地域、教職員と父母・住民の協同・協働がその必要性を増しているが、それぞれが抱えている困難のために、共通の理解、認識を得ること自体が難しく、そのための独自の努力が必要となっていることが議論を通じてあらためて感じられた。


3.事務局より

 今回事務局の準備不足や、生活指導研究会の研究例会の取り組みができていなかったことなどにより、分科会参加者の組織等課題を残したが、新たな参加者が得られたこと、小学校の実態報告に基づく議論で提起された課題などを踏まえ、秋の教研など今後の活動の充実につなげたいと思います。多忙な中、報告、参加・運営にご協力をいただいた皆さんにお礼申し上げます。


 
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