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京都教育センター第36回夏季研究集会
               第一分散会 記録(要旨)

−−教師の仕事を語る いまを乗り越える元気の素−−

◆◆元 全日本教職員組合 副委員長 石川喩紀子先生にも参加していただき 「全体会」を深めました。 ◆◆

 ここに掲載した記録は、2005年8月27・28日に開催された「京都教育センター第36回夏季研究集会」の中で行われた分科会・分散会の内容を当日の記録にもとづいて京都教育センター事務局の責任でその要旨を編集したものです。文責は、京都教育センター事務局にあります。


 <はじめに>

 元全日本教職員組合副委員長、石川喩紀子先生にも参加していただき、夏季研全体会での報告をさらに深めることにした。各地域の教育集会や行事等と重なり、各学校の現場の先生が少なかったが、教職をめざしている学生の方の参加もあり、退職された先生方を含めて活発な討論が行われた。

 午前中の全体会の講演に引き続き、困難な中で奮闘されている全国の教職員の取り組みも石川先生から紹介していただき討論を深めた。 今後、日程の検討と共に、学校づくりという観点から多くの職場からの参加が必要である。


<討議の内容>

 @ 学校づくりの課題

 今年度は、第一分散会では報告(レポート)という形式をとらず、全体会のテーマ「子どもの希望を育む教育を求めて」を深める立場、とくに教師が元気に働きつづけられる学校づくりに焦点をあてて論議をしていく方向で討議がですすめられた。

 最初は、参加者の自己紹介とこの分散会で論議したいこと、学校づくりで何が課題になっているのか、話し合ってもらうことからはじまった。

司会:「元気に働きつづけられる学校づくり」というテーマであるが、学校現場の先生が少ない ので運営が心配だが、積極的な発言で討論を深めてほしい。

○ 京都南部の府立高校の統廃合問題で働きつづける学校そのものがなくなるという大きな問題 が、府教委の一方的な押しつけですすめられようとしている。撤回させる運動が高校生も含めて 展開されている。

○ 少子化の中で私立高校は今、大変な状況になってきている。私学によっては、全教職員の解雇とその後に条件をつけて全員を再雇用するが、条件が非常に厳しい状況になっており、切実な要求が起きてきている。この要求実現の闘いが急務。

○ 大学四回生で教職課程をとっており、教職員をめざしている。教育のあり方について大変興味を持っている。 ○ 教育基本法や教育現場の状況について論議を深めたい。宗平協に所属しているが、地上の問題で共通する問題に手を取り合って行動したい。

○ 今の学校現場の状況を明らかにして、どうしていくべきか深く論議したい。

○ 府立高校定時制の学校現場から参加。

○ 学級通信を通じて、父母と深く結びついた取り組みができた3年前は、充実した働き甲斐のある学校だった。

○ 今は、教職の講義も受け持っているが、学生たちが学校現場に勤めれば失望する野ではないかと心配している。

○ 戦争中に女学校に就職したが、校長からの攻撃が激しかった。戦後府立高校に勤務してからは、職員会議で充分論議ができて、生徒とは本当に一緒にいろんなことがやれて楽しい学校生活だった。しかし今は、大変。

○ 元気に働きつづけられる学校づくりをどうすればいいか、議論を深めて行きたい。


 A 今の学校現場の現状

司会:今の学校現場の状況はどうなっているのか、以前とどう違ってきているのか。今日的な課題に対して、社会的付託にどうこたえていくべきか、後半は、教育全般についても議論できればと思う。まず現状を高校・定時制・小中学校から発言してほしい。

○ 高校現場の現状:ここ10年ほどの間に、現場は本当にしんどくなってきている。高校制度改変で、格差づけがすすめられ、学校内では教職員の意見が出せない状況にさせられてきている。高校三原則が京都は全国の中で最後まで維持されていて、それにあこがれて京都にきたが、1985年には普通科T類U類ができ、地域制がこわされていく。補習進学体制がつくられ、勤務時間など無視されていき、進学率で評価される傾向が強まっていく。進学校めざす府南部から改変が進み、単独選抜に移行。入試制度が不安定で併願が急増し、中学校の進路関係の書類が多岐におよび、負担が増えた。中学校での輪切り指導もすすむ。また、城南高校の統廃合が一方的にすすめられてきている。生徒会も活発に活動しており、アンケートでは7割の生徒が反対を意思表示しており、結果を校長から府教委に提出させたりもしている。職場では、職員会議は教頭が議長をして、採決もせず意思確認のみで決定は校長がする。週一回から月一回になり、分掌会議で終わっている。意見も言いにくく、役職から組合員を排除することも多くなっている。

○ 定時制の現場:以前はみんなで決めることができたが、今は議論できず、みんなでやろうということにならないところにしんどさがある。無駄な文書作成など事務的なことで多忙になっている。校長の一方的な指示や決定で教職員は自主性が削がれ、やる気が失せて嫌になったり、むなしくなっている教職員が多い。自分のことだけ良ければいいという保護者の要求もあり、イチャモンと感じることも多い。校長も対応に追われ、声の大きい方に対応する傾向も見られる。定時制が、管理職の養成校のようになっているようにも感じる。

○ 小学校の現状:組合専従から5年前に現場に帰って、変化の大きさに驚いた。個人指導に任される傾向が強まって、何でも担任の責任だという風潮になってきた。教職員は今、確信が持てない、納得できないことをやらされている。評価についても習熟度別学級についても、確信を持って父母に説明できる内容でない。意味のない文書を「説明責任」という名目のためにつくらされている。週案作成には2時間以上かかる。実際には誰も読まない膨大な電話帳のような年間計画の文書を作成させられている等々、子どもの教育にも自分の教育実践にも全く役に立たない膨大な事務作業に追われる現状がある。

 子どもの様子が大きく変わってきた。2年生の子どもが「クソジジー」と叫びながらエスケープする。どうかすると管理的指導に走ってしまう。よかれと思って一生懸命やった指導を180度反対にとって怒鳴り込んでくる保護者。保護者の中に階層格差が広がり、子どもの生活にまで大きな影響が及んでいる。自分の持っていた学級の子どもたちは、まだ本音で生きていたので、救われた思いがする。教科書の内容にしても、国語であれ算数であれ、こんな内容でいいのかと疑問に思う。「ごんぎつね」の内容にしても、まともにやれるのは4時間ぐらいで、あとは6時間も8時間も死んだあとを想像してみましょうとか、紙芝居作りとか、「ごんぎつね」でない「ごんぎつね」を押しつけられている・・・。新学力観の下でこんな風に学校現場はおかしくさせられてきている。教職員みんなでいい授業をしていこうと論議することが今日ほど重要になっているときはないと思う。

○ 中学校の現状:今高校2年生になってる学年の生徒たちが中学生だったときの経験。小学校の時には、学級崩壊を経験したり、いじめが横行して不登校になった生徒が多数いたり、大変な学年であった。入学してきた時には学力未定着、軽度学習障害の生徒、いじめによる不登校生徒の続出と大変だった。しかし、この学年は、教師自身が自分たちの意見を充分言い合えたり、学校長も含めて、生徒にとってこれがよいと思えることは一致して指導できたという恵まれた状況のもとで、生徒の現状を保護者に知らせ、教職員も親も共通した認識を持って指導できた。このような中で、学年が上がるにつれて、文化祭・体育祭などの学校行事を通して大きく成長しとてもよい卒業式を迎えることができた。教師が主体性を持って、教育実践できる。これが元気に働きつづけられる大きな要因だと思う。そのためには、困難があっても教職員を一致点で組織する努力が決定的に重要であると思う。


 B 教師の自主性・主体性、保護者との連携、小中高の連携、学力問題

司会:後半は、教師の自主性・主体性(これが元気の素)をどう作り出すのか、 保護者との連携、小中高の連携の課題、学力をどうつけるか、などを主な柱に論議を深めたい。

○ しんどさの中身、原因も分かってきたが、10年前、20年前もしんどかった。日本刀振りかざす親と対峙したこともあった。が、同時にたたかいがあった。非行克服5原則の取り組みもあった。今たたかいは無いのか。全国教研集会の分科会でもたたかい無いのか発言したら東京での攻撃がリアルに出された。大阪の地域でのたたかいが進んでいる様子も出されて論議が深まった。

○ 生徒の学習がわかったという喜びが、元気の素だった。高校の定時制に勤務して、数学の学習にパッチワークを取り入れて、生徒がわかったということが教師の大きな喜びになった。生徒と一緒に遊んだ。北山にも一緒に登山した。

○ 全国教研に参加しても個人レポートがほとんどで、社会的な状況の中で、教師集団としての取り組みができないと言う最悪の状況にあるのではないか。 司会:たたかい、再生、課題はたくさんある。親が変わってきたという実感もある。学力問題もある。幅広い連携をつくっていく上で大切なことは何か、論議したい。

○ 教師の思想性と戦術の違いというものをもう一度考え直さなければいけない。戦術を考えるときに、ただ戦えというだけではダメ。高度に発達した資本主義と新自由主義が絡み合って、彼らの政策はますます複雑・多様になってきている。自己責任ということもここから出てきている。だから、個々バラバラにさせられてくる中で、教師の力量が問われるという錯覚がもたらされ、なかなか横の連携がとりにくくさせられてきている。 だから、教師の思想性は、この攻撃の本質をつかむということに尽きると思う。だからこそ学習会が大切になるが、多忙で疲れていて参加できにくいという状況がある。だから、教職員の思想性をどう高めるかということと、戦術をどうつくっていくのかということを切り離さないで、両側面を深めていくことが重要。

○ 地域に根ざす教育の今日的なあり方。職員会議のあり方と今日的意味と定義づけについて野中センター代表から問題提起。

○ 石川先生から、かって、全生徒の家庭訪問ができた田辺高校の様子の紹介。東京での地域と深く結びついた教育運動の紹介と有明コロシアムの教育大集会の紹介があった。

○ 学年教師集団ではじめて取り組めた経験の紹介。みんなで分担。コミュニケーションが学校作りの第一歩。議論の中で知恵が出てくる。自己規制でなくコミュニケーションの中で自主性が発揮される。

○ 今の学校現場の状況をきくと、自主性・自発性がなくなってきている。これは、民主主義が保障されない状況があるということである。教育の論理でなく、資本の論理で動いている。こうした状況の中で、民主主義を守るためにたたかうことで自主性が守れるのではないか。一方、このような厳しい大変な状況があって、しんどいにもかかわらず、それでも教師になりたいと思っている学生がたくさんいるが、どうなのか。またそれは希望でもあるのではないか。50年前にも「デモシカ先生」はいたが、今日もっとも力量を発揮すべき年輩の先生が疲れている。そんな中でも教育に情熱を持って教師になりたいと思っている人がたくさんいる。教師の喜びは何か、この喜びを阻害しているものは何か、もっと追求が必要ではないか。教員めざす若い人の意見も聞きたい。

○ 大学では教職課程をとる人が多い。バブル崩壊後に育ったものにすれば、人間味のある職場につきたい、教師になりたいと思っている人が多い。自主性を育てるのが学校だと思っているが、教育実習などで感じたことは、現実はそうではないようだ。競争の中で自主性が育たない社会に問題の本質があると思う。タテではなくヨコの関係を大切にすることが重要。

○ 自主性・自発性をとったら教育はない。工夫も自発性も生まれず、実践は成り立たなくなると思うが、言われるままにすれば結果責任をとらなくてもいいということになる。 司会:自主性は、情熱がないと発揮されないが、個人的なものと共に、地域との連携や小中高の連携などによって支えられる。しかし現実は困難になっているがどう取り組んだらいいのか。

○ 石川先生:入試問題についての交流は、小中高の交流が全国的にすすんできている。高校統廃合の問題が、自分たちの高校がなくなるということで大きな声を高校生自身があげ、運動が地域に広がっていくという経験も各地に生まれてきている。自分たちの通学の足、鉄道を守ろうという取り組みを生徒会が積極的に取り組み、学校では学べないことを学んだり、行政に高校生が交渉に行くなどの動きもある。生徒間のネットでのつながりは広がっているが、難しいのは学校の中で自主性を育てていくことである。

○ ちょっと弱いという人もいい力を発揮する。力を認め合うことが大きな力を発揮し連帯することになる。 ○ いい授業をするために、インターネットで自分の授業ノートを公開している。ノウハウも公開している。批判も自分を磨くことになるし、連帯を生み出すことになる。


 <まとめ>


 時間の関係で、学力問題については討論を深めることはできなかったが、自主性が発揮できること、このことが元気に働き続けられる大きな要因になることが指摘された。そのことは何も教師の仕事、教師のみのことではなく、学級PTAの活動でも同様。いま、学校評価に校長の提案で、106の評価項目にもとづく点検をするというような学校も生まれてきているが、親は子どもたちのリアルな学校での姿を知りたいという要望が強い。自主的な学級PTA活動をもつ努力をした結果、土曜日にケーキを焼いて持ってきて、親同士で語りあう活動は生まれ、本当に自主的な大きな力が発揮されるようになった事例も出された。そしてその力は習熟度別授業の反対の署名に70%以上の親の署名を集めて、校長や教育長の所に持っていくというような凄いエネルギーにもなった。親を信じること、親の自主性が発揮されるよう努力することの重要性を痛感。また、何よりも子どもの自主性を育てることの重要性が指摘された。高校の進学のための補習づけの問題も指摘された。

 最後に、野中代表から、今のような攻撃の厳しい状況下で、苦しくて多くの教職員はニヒリズムに陥ってしまう。その苦しみからのがれるのに昔はニーチェがあったが、今は悶々として、趣味のなかに逃避してしまっているのではないか。この苦しみは多くの教職員の共通の悩みであり、そこに連帯し、結びついていくダイナミックな思想転換こそが展望を開くことになるのではないか。今後の課題として提起された。意見は多岐に及んだが、あらためて教育の原点とは何か、元気に働き続けられる学校づくりには何が必要かを考えさせられる分散会となった。


 
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