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特集テーマ2 障害児教育の今

京都の障害児教育の現状と課題



  京都教職員組合障害児教育部

 

1.障害児学校の教育条件と教育課程の課題

 
京都府初の養護学校として向日が丘や与謝の海が開校して50年になります。京都府立高等学校教職員組合障害児教育部(府高障教部)は、障害児の教育と福祉の充実を願う保護者や関係者、地域の人々と共同し、さまざまな要求運動を重ね、現在の支援学校の教育内容と教育条件をつくってきました。また、京都市内では、呉竹養護学校(現・呉竹総合支援学校)がまもなく創立60周年を迎えます。京都市教職員組合障害児教育部も、多くの父母・市民と手を携え、様々な困難の中でも少しずつ教育条件を改善させ、子ども一人ひとりの発達段階やねがいによりそった教育実践をすすめてきました。


 (1)京都の障害児学校の教育条件

 近年では障害児学校の教職員定数問題(1991年頃より)や健康問題の運動(1995年頃)とあいまって、2000年頃より地域毎に新しい養護学校をつくる父母や教職員の運動が進められました。その成果が実を結び、舞鶴、八幡、宇治に新しい学校が新設され、重症児から発達障害といわれる子どもたちの教育を地域毎の学校で保障する体制が前進しました。しかし、南部地域を中心に障害児学校を必要とする児童生徒数が激増し、この教育運動の流れの中で綴喜・井手町の新設支援学校建設が進められています。

 京都の支援学校は多くの障害種別の小学部、中学部、高等部の生徒が一つの学校で学習します。ここには人数の多さだけではない困難な課題があります。学級数に応じた基礎教室数や運動場、プレイルーム、職業棟などの数が不足している学校がほとんどです。校舎の老朽化と合わせて、長い間プレハブ校舎や教室転用でしのいでいるのが実情で正常な学校生活が確保されず人権侵害状態です。さらに、教職員の正規採用数が抑制されているため、毎年多数の身分不安定な臨時教職員が学校で働いています。向日が丘や与謝の海では50年を経過した老朽校舎の建て替えが子どもたちの教育条件改善の大きな課題になっています。

 一方、京都市内では、障害のある子ども・保護者のねがいに応え、1976年に東養護学校(現・東総合支援学校)が、1986年に西養護学校が開校しました。さらに、長時間のバス通学の解消をもとめる運動が広がる中、2004年に北養護学校(現・北総合支援学校)が開校しましたが、5階建て校舎での災害時対応の困難さが懸念されています。北・東・西・呉竹の4校での、民間業者による、前日調理・作り置きの「クックチル給食」も強行実施されたままです。その後も養護学校(総合支援学校)の児童・生徒数は増え続けており、老朽校舎の建て替えとともに、市内中心部へもう1校、支援学校を増設してほしい、とのねがいが広がっています。

 文科省は全教障教部の要請で「各校の実情に応じて柔軟な対応をするため設置基準を設けないが、設置者が適切な対応をする。」と回答しました。教室の不足や不十分な教員配置という権利侵害の実態を国の責任においていち早く改善するための特別支援学校の「学校設置基準」の策定は急務であり、安易な学校や寄宿舎の統廃合を許さず、老朽校舎の改善や子どもの生活圏や通学条件を考慮した、適正規模での学校設置が引き続き求められています。


 (2)京都の障害児学校の教育課程

 もう一つの大切な課題は、教育条件整備とともに車の両輪として進められてきた京都の教育研究運動です。舞鶴支援が新設されたとき「これまでの教育は引き継がない」と、個別の指導計画や通知表などの徹底した検閲・書き直しが行われ、京都府教委による教育内容管理統制が進められました。さらに、宇治支援が新設されると同時に「京都府内のすべての養護学校の学校経営と教育内容を変更する」と、学習指導要領通りの教育内容を実施するための教員人事政策と管理強化を進めています。

 府内、各校では経験のある教職員の大量退職が終わり、学校運営や教育実践の中心となった若い世代の教職員の育成が課題とされています。このことと関わって、府教委・特支課では各校の教育実践を「共通言語(学習指導要領)」で整理するとして、「合わせた指導」の研究が毎年進められています。

 今年4月、特別支援学校学習指導要領(小・中)が官報告示されました。今回の改訂は「指導・学習方法の明確化をはかる」として、人材育成の立場から教育目標を見直し、内容、方法、評価が一体化された縛りのきついものとなっています。「指導要領にもとづくスクールマネージメント(学校・教職員管理)」、「キャリア教育実践の例示」、「職業学科設置」、「観点別の評価への変更」、「通常学校の教科を基軸に支援学校の教科の目標・内容の整理を行う」など、これまで以上に学校運営と教育内容の管理を強めたものとなっています。

 これまで京都の障害児教育研究は、子どもの学習や生活を「発達の観点で理解する」ことと、友だちと学び合い・育ち合うための「学習集団の保障」を大切にし、「子どもに合わせた授業」を各校で検討してきました。今後の各校の研究活動のあり方や京都障害児教育研究センター(障教研センター)の研究活動が「子どもに合わせた教育課程」作成や新採指導・研修の内容に深く関係しています。

 「障教研センター」は今年7月の夏季研究集会で「京都の障害児教育が大切にしていること」という研究誌を配布しました。これは「科障研」を引き継いでから5年間の活動内容と研究会が目指したことをまとめたものです。今後論議になる学習指導要領改訂のことや障害者権利条約の論点を始め、ワンコイン学習会や支部教研などで積み上げてきた障害重度の教育、発達を学ぶ、自閉症、青年期、通常学校の具体的な実践を掲載しています。子どもたちの願いや生活の姿をまるごととらえて、その思いに寄り添いながら「人間としての成長や発達」を励まし、育んでいく実践を発展させることが今後も求められています。


2.京都の特別支援学級の課題

(1)激増する特別支援学級在籍児童生徒の総数と1学級あたりの人数

 京都府下の全児童生徒数が減少及び横ばい状態にあるにもかかわらず、特別支援学級児童生徒数は増え続けています。(表1)



また、特別支援学級の定員は8名で、1つの障害種別(知的、自閉・情緒など)の在籍者が9名にならないと学級増設にはならないため、多人数学級が激増しています。(表2)



 特別支援学級は、4学年、5学年にまたがる児童生徒が在籍していることが珍しくありません。発達の状況も言葉の無い状態の児童から、通常学級の学年相応の学習をする児童まで幅広く在籍している学級が増え、個々の児童に合わせた授業が難しくなってきています。また、自閉・情緒学級には、発達障害や虐待による情緒障害の児童生徒の在籍が増え、ストレスが増大し、トラブル、パニックが増えて、指導困難になっている状況も報告されています。

 特別支援学級の定数の引き下げは喫緊の課題です。

 さらに京都府では、「知的」「情緒・自閉」以外の種別の特別支援学級(「肢体不自由」「難聴」「病弱」「弱視」)の設置が、近畿の各府県に比べて大きく遅れており、個々の児童生徒に合った種別の学級の設置が早急に求められます。

(2)特別支援学級の実践での課題

 従来の京都の特別支援学級では、子どもの発達段階にあわせた体験的な活動に取り組みながら仲間の中での学び合いを大切にした実践、子どもの発達や障害を科学的にとらえ、特別支援学級を居場所にして安心して学習できる環境、仲間作りをすすめてきました。

 しかし、発達障害の児童生徒への通常学級の授業に合わせた指導が要求されたり、官制研などでの個別の指導が強調されたりする中で、机上のプリント学習などの個別の指導が中心の学級も増えてきています。また、特別支援学級が増える中、その担任に障害児教育の経験の浅い教員を当てていることも少なくなく、実践や指導の継続性、専門性の維持が難しくなってきています。


3.支援の必要な、通常学級の子どもたち

 全国学力テストをはじめ、多くのテストに子どもたちが追い立てられています。テンポの速い進度の中で授業についていけない児童も多数います。また、一律のきまりになじめない子どもが増えています。外国籍の児童生徒、保護者が鬱などの精神疾患をもつ家庭、虐待の疑われるケースなど、特別な支援のニーズは膨れ上がっています。

 京都府は特別支援教育の施策として、100名の非常勤講師(週27時間)を配置してきましたが、600を超える学校数から見て極めて少ない人数です。国の地方交付税積算を財源とする「支援員」は、各市町の財政状況や人員確保の難しさなどにより、配当時間や勤務条件などの地域格差が大きくあります。各小中学校で指名されている「特別支援教育コーディネーター」は、担任を持ちながらの兼務であることが多く、実際に対象の児童生徒の様子を見に行くこともできにくい状況です。

 通常学級に在籍する児童生徒を対象に、障害に応じて特別な指導を行う「通級指導教室」は、担当教員1人あたりの指導人数が20名から30名を超える状態になっている教室がたくさんあります。京都府全体で小学校と中学校を合わせて約120教室設置されていますが、地域ごとの設置数の格差が大きくなっています。

 文科省は、通級指導教室を定数化(1教室あたりの子どもの人数が13人になるように教員配置)する2017年度予算を計上しました。しかし、1校の子ども13人に1人教員を配置するのではなく、地域で平均すると13人に1人になるようにする、という計画で、10年かけて都道府県の財政負担も含めて行う、という不十分なものです。


4.「インクルーシブ」な学校を作るために 

 国連障害者権利条約の「インクルーシブ教育システム」とは、教育制度全体をインクルーシブ(排除されない)にするというのが趣旨であり、障害児教育だけでなく、通常学校の教育を含めた全体の改革が必要です。しかし、条件整備の不十分さにより、多くの子どもが結果的に学習から事実上「排除」されている現実があります。

 憲法や子どもの権利条約が述べている「学習する権利、発達する権利」をすべての子どもに保障するために、

@ 特別支援学級の学級定数8名を、6名に引き下げる。

A すべての通常学級を30人以下学級にする。

B 通級指導教室をすべての学校に設置する。

C 障害児学校の施設・設備、通学条件の改善と必要な教職員の配置

などを、早急に実現することを求めていかなければなりません。


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