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特集1 子どもの貧困
総論 子どもの貧困について



              吉田 雄大(弁護士)


 子どもは日々成長発達する存在で、かけがえのない子ども期は、二度と戻ってきません。貧困の中にいる子どもたちは、安心した生活や成長発達が阻害され、健康、人とのふれあい、意欲、信頼、愛情、学力、ソーシャルスキル、職業意識など、子ども期において本来得るべきものが得られないという不利益を蓄積しまいがちです。さらに子どもの貧困は、その子が大人になってからも、貧困から抜け出せない子どもを生み、貧困が世代を超えて継承していくという「貧困の連鎖」をも招きかねません。

 「給食のない夏休み、成長期にもかかわらず体重が減少する小学生がいる」という小児科医からの衝撃的な報告が寄せられたのは2008年のことでした。「子どもの貧困」はこの年のマスコミ報道を賑わし、全国で約3万3000人いるという「無保険の子」を救うべく、改正国民健康保険法もいち早く成立します。そして翌2009年には、子ども手当の支給や高校無償化を公約にした民主党が歴史的な政権交代を果たしました。

 しかし、その後も子どもの貧困率(相対的貧困率、等価可処分所得(世帯の手取り収入を世帯人員の平方根で割って調整した所得)の中央値の半分に達していない人の割合を指す)は悪化の一途を辿っています。すなわち、日本の子どもの相対的貧困率は2005年には14.2%、2009年には15.7%ですが、2012年には過去最悪の16.3%に達しました。子どもの貧困率が国民全体の貧困率(16.1%)を超えたのも、史上初のことです。とりわけひとり親家庭の貧困率は深刻で、実に54.6%にも上っています。この国では6人に1人の子どもが貧困の中で生まれ、育っているのです。先進国の中で最悪レベルです。なお忘れてはならないことは、一世帯あたりの平均所得金額も、1994年の664万2000円をピークに年々減少傾向が続き、2012年には537万2000円(2012年)と、前年比でも2%もの減少がみられることです。日本社会全体がじり貧の状態にあり、貧困ライン自体も下がっている中で、子どもの貧困は深刻さを増す一方なのです。

 2013年6月、待ち望まれていた「子どもの貧困対策法」が超党派によってようやく成立し、2014年1月から施行されました。そしてこのたび、2014年8月29日、「子供の貧困対策大綱」(閣議決定)が公表されました。

 子どもの貧困問題はまさに、待ったなしの状況にあり、子どもの貧困対策のためには、十分な予算の確保と具体的かつ実効的なビジョンが不可欠です。しかしながら、今回の大綱やこれを踏まえた平成27年度予算の概算要求をみても、全体でも3300億円あまり、うち3000億円以上が所得連動型奨学金制度のための予算になるなど、甚だ不十分なものに留まっています。また、「なくそう! 子どもの貧困」全国ネットワークをはじめ、子どもに関わる多くの人々が求めていた子どもの貧困の改善目標の設定や子どもの貧困対策推進室の設置なども、残念ながら盛り込まれませんでした。

 ここ京都でも、2008年以降、ケースワーカーや児相の相談員、小児科医、教職員、弁護士、研究者、学童や保育園、児童養護施設職員など多くの方々が集まり、子どもの貧困問題を中心に、今この社会を生きる子どもたちにとって最も切実な問題は何かということを継続的に議論し続けています。「いのち・そだち・まなび」というキーワードを軸に、2010年5月には「子どもの権利手帳」を発行し、近々第2弾の発行も予定しています。
子どもの貧困問題は、今日の社会の矛盾のもっともするどい断面です。子どもは生まれてくる家庭を選べません。貧困を自己責任の問題に押し込めず、社会の宝である子どもたちが健やかに育つ環境を社会全体で用意するためには、私たち一人一人に何ができるか、何を意識し、何に取り組み、どうやって発信していき共感を広げるかが、今まさに問われています。
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