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特集1

総論 現代の子どもの課題と集団づくり
――子どもの孤立と人間的つながり――




           倉本 頼一(京都橘大学非常勤講師)


 格差社会、雇用不安と経済不況の進む中で、教育格差、子どもの貧困が深刻になっています。少子化が進み、児童・生徒の人数が減少しているのにもかかわらず過度な競争教育が進められ、子ども達は「自己責任」「孤立化」に苦しんでいます。今を生きる子どもの特徴と課題、その背景を明らかにする中で、今日の集団づくりと教師の役割について考えてみます。


一、今を生きる子どもの姿

(1)友達関係に気づかう子ども達


けっこう疲れる友だちづきあい
                 小川 和子(仮)

私は、一人のんびりするのが好き。
他の人に命令されたり、
・・・・しなさいとか
言われるのは 大きらい。
学校で疲れるのは、
友だち関係かもしれない。
A子とかB子とかにつきあっていると、
けっこう うるさいことも言われる。
したくないことも つきあったりする。
たとえば、A子の便所のつきあいとかも めんどうだった。
B子も気まぐれで思いどおりに ならないとすぐおこる。すぐ泣く。
こういうことが続くと続くと、 さすがに私も疲れます。
勉強は ほんとうはきらいじゃない。
勉強で疲れることといえば、 体育で思い切り運動した時だけど、
それは 気持ちがいい。
本当は 苦手な漢字や算数もあるけど
授業は あまりきらいでもない。
それでも 学校の勉強も やっぱり ちょっと疲れます。
                 (滋賀・Ka氏実践より)

 新指導要領は「ゆとり教育」の教育的総括もないままに「学力の充実」の名で、授業時間数を全学年で増加させ、その「前倒し」を始めると言うので「学校五日制」の中で「0時間目」や「七時間目」も登場して過密な授業時間に入ろうとしています。しかし、そんな「授業、勉強の疲れ」より「友達関係に疲れる」と表現していることは、きわめて現代的で子どもの今を現しています。


(2)今日も夜はお父さんもお母さんもいない


生活ノートより
                  4年 H

なんでうちは びんぼうなんだろう
お父さんも お母さんも ひっしに夜もはたらいているのに
なんでうちは びんぼうなんだろう
今日もよるは お父さんもお母さんもいない。
妹と二人、ずっと 
だまって テレビを見ている。
        「現代と教育76」千葉・M氏実践より

 M氏の実践報告は語っています。「H君の父親はトラック運転手。母親は少しでも生活を豊かにするためパン工場に勤め夜勤を週4回行っている」と。そんな中で、作者は「なんで うちは びんぼうなんだろう」と考え「今日も夜は」「妹と二人、ずっとだまって、テレビを見ている」と、寂しい兄と妹の夜を過ごしているのです。


(3)小中高生の暴力 最多 −−攻撃性の表れ

 08年11月21日の新聞は、文科省「問題行動調査」結果を「小中高生の暴力 最多」「ネットいじめ5900件」と報道しました。社会面では関連記事として「子供、コミュニケーション力低下?「顔面いきなり殴る 言えぬ『ごめんね』と題して全国都道府県別件数と分析をしています。前年度比は小学生30%増中学生20%増高校生5%増加と報道しています。分析として「ちょっとした口論で顔を殴ってしまう。いきなり顔なんて昔はなかった」「言葉でコミュニケーションをとる力が不足していて、すぐに手が出てしまう」「かつては荒れているグループがはっきりしていたが今は一人ひとりの突発的な暴力が目立ち 対応が難しくなった」「昔は子ども同志の遊びなどで身につけたはずの社会性が乏しく、ルールなき学校社会が現れている」等と書いています。これは(1)の「友達関係に気づかう」と矛盾しているように見えますが、その「気づかい」が「ストレスため」と「なんか むかつく A子の態度、しゃべり方!」と、攻撃性に転化することとして考えると、この両面が現代の子ども達の中に存在していると考えられるのです。

 今日、小学校高学年と中学一、二年の指導がたいへん困難になっているといわれています。「新しい荒れ」といわれたものとは、異なった「子どもの生き苦しさからの荒れ」起こっています。


(4)孤独を感じる15才が最高

 07年ユニセフ調査結果で「孤独を感じる」と答えた日本の15才の子どもは29,8%あって経済先進国24カ国の中で、第1位でした。二位はアイスランドの10,3%で日本はその約3倍でした。最下位はオランダの2,9%だったというのです。(尾木直樹「教育破綻が日本を滅ぼす!」より)他の国は5%〜10%で、いかに日本の15才の子どもが孤独を感じているかと示しています。

 現代の日本の子どもや「友達関係に気づかい」「家庭生活で寂しさ」を感じる子が増え「暴力事例が最多」になり「孤独を感じる」子どもが世界でも最も多い特徴を持っているといえるのです。


(二)格差、競争、新たな貧困の中の教育

 現代の日本の子どもの「孤立、孤独感」「寂しさ、苦悩」「友達、人間関係に対する感情的な攻撃性、暴言、暴力」は、問題行動や「非行」「いじめ」の増員と「不登校」「引きこもり」「学級崩壊」等の要因となっています。それでは、これらの背景にはどんな問題があるのでしょう。 「一言で表すならば『生きづらさをかかえる子どもたち』である。この『生きづらさ』は「個人が自ら責任をとらえざる環境に立たされ、自分の価値や今後への見直しが否応なしにあぶりだされる状況である」(折出健二 生活指導 学文社 P36) 「象徴的にいえば『早くから自分に見切りをつけて投げやりになっている子ども、親』と『危機感をあおり立てられ競争に乗りながら不安を募らせている子ども、親』の増加である。共通点は『だめな自分』や、『できる自分』を含めて『自分が自分であって大丈夫と感じる自己肯定感』の乏しさにある」(春日井敏之 新生活指導 学文社 p43)

 私は、今日の子どもをどうとらえるか、特徴を次のように考えます。

@子どもの言語表現能力、言葉で事実と自分の考えを論理的に主張、批判する力が弱くなっている。そのため、自分の苦悩を充分言語化出来ず、孤立して閉じこもったり、感情的暴力に訴えようとする傾向が増えている。感情をコントロールするのは「性格」というより根底に「言語の力」の弱さにあるのです。

A子どもの人との交わる力が弱まっている。 少年期に地域、異年令集団、自然の中での遊び集団が消えて、本当の自由な自主的な子ども集団での交わりが少なくなっている。

B子どもの減少にもかかわらず、教育システムは過度な競争システム体制は一層弧化され、新たな貧困問題の中で、教育格差は一層強められ、「能力主義」「学力競争」の攻撃の中で、子どもは「孤立化」を深め、深く傷つき「孤独」に耐えている。

C原因が「格差社会」「貧困化」にあるのにもかかわらず「自己責任論」に悩み、苦しめられ、自己信頼、自己肯定感を持てずに自分を責め続け、苦悩している。

 根本原因が個々の子どもや親にあるのではなく、「自己責任論」を生みだす「新自由主義」体制に起因しているのです。 「新自由主義とは」「福祉国家の解体と新しい国家づくりを基礎付ける政治的な考え方」「教育に適用されると、一つは福祉国家の中でつくられてきた平等な教育制度の破壊、もう一つは、エリートとノンエリートの選別をできるだけ効率よくおこなうための国家による教育内容強制」(世取山洋介 クレスコ96)  と、いわれています。


三、現代の集団づくりの意義と課題

 現代の集団づくりの意義と課題は、子どもの現状をどうとられるのかということと結びつけて考えることが大切です。

 「"自分の気分、思い、感情の源は何か"を意識化すること、それは何重もの不安と抑圧感の中にいる子どもたちの心を解放し、安心を与えていくことでもある。また、己の過程は、自分にとってもつかみかねている内的感情にことばをあたえていくことであり、自らを問い返す『内言』の機能をつくっていくことになる。」(日本作文の会方針「作文と教育」738号)「仲間との連帯こそが一人ひとりの自主的判断や現実の矛盾の共感的理解をうながす。それゆえに、民主的な集団づくりをとおして確かな連帯を育てあげること」(折出健二「生活指導」)「集団づくりは集団と個人、自己と他者との関係性を民主的なものに組み換えていくことをつうじて、他者とともに社会をつくって生きるとはどういうことかを子どもに学ばせるものであったといっていいだろう。」(竹内常一 生活指導656P44) 「子どもたち地震が集団のなかにある矛盾や対立を認識、意識化し、集団を自治的、民主的なものへと変革していくことをはげます指導論であり、『班づくり』『リーダーの指導』『対話・議論・討論の指導』の三つの側面から個人および集団の現実に対する認識の深まりを追求する」(全生研、50回大会提案)

 私は、先の子どもの現状と関連して、今日集団づくりの意義と課題を次のように考えます。

@子どもの集団づくりに重要な「対話・討論づくり」の基礎になる、子どもの思い、考え、主張を文に書く言語の力をつけることが今日とくに大切です。この言葉の力は、自分の感情をコントロールする力にもつながります。また、子どもと子どもをつなぐ対話にとっても表面的なものを深める上においても重要になります。

A今日の集団づくりにとって「班、学級、学年、全校集団」と結びつけていくと共に「学童保育」や「地域の子ども集団」など多様な集団や社会とのかかわりに発展させ、集団の発展をはかる。

B今日の集団づくりにとって教師の「個別接近」が重要になっています。「いじめ」「不登校」「非行」「発達障害・特別支援」「虐待」「子どもの貧困問題」等、教師の個別の対応をぬきにして今日の集団づくりは一歩もすすみません。また、逆にそのような課題を持つ子供がその「生きづらさ」を生きぬくのに子ども同志の強い結びつき、つながり、集団の力をぬきにして考えられません。

C子どもの今日かかえている「孤立」「寂しさ」「絶望」「荒れ」は、深刻です。今日に生きる教師は「カウンセリングマインド」(受容と共感)を身につけ、一人ひとりの子どもが「自己信頼」「自己肯定」を持てるように、現代の格差、貧困社会の中で悩み苦しむ父母と結んで、集団づくりをすすめる。

D集団づくりを、生活集団づくりと「学び」「学習集団づくり」と結びつけ「競争と能力主義選別」の学習を共に学び高めあう学習に変えていくこと

E改訂指導要領で、強められる児童会、生徒会活動など今こそ自治活動を通して自主的な個人と集団に高める取り組みと学級集団づくりを結びつけて重視する。また、徳目主義的な「道徳教育」が教化される傾向に対して「いじめ問題」等、生きた人権教育の実践を、集団づくりと結びつけて取り組む。

 以上「今日の子どもの4つの特徴」「その背景となる格差、競争、子どもの貧困問題」そしてそんな中 での「今日の集団づくりの意義と課題」について考えました。これらのことを実践に移すには、あまり に困難な条件が現在の現場にはありますが、今日弱まっている「教師の同僚性」「職場教師集団づくり」 を大切にしたねばり強い取り組みが必要になっています。

(注:「ひろば159号に掲載されている「資料」は省略しています)


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