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ひろば140号
 
障害児学校の現場から
−−第53次京都高校・障害児学校教育研究集会
「生徒や学校の現状と課題を探るシンポジウム」報告より


養護学校で出会う子どもたち

 
 この夏、組合の学習会や合宿で高校の先生と話をすることがたくさんありました。それを聞かせてもらって、高校の皆さんと障害児学校の皆さんが連帯意識を結んでいくということが本当に大事だなということを改めて思ったわけです。司会の先生や高校の先生方からたっぷり話を聞かせてもらって、高校も難しい現状がたくさんあるなと思っています。普段は一緒にいる機会がないのですけれども、このように一緒に集まれたことは大事かなと思っています。

 私自身が思っていることを三点ほどお話しさせていただきます。私自身は養護学校に勤めており、去年から自閉症の子どもたちも担任することになって、今年はその自閉症の子どもたちだけのクラスで、小学生の子どもたち五人を担任しています。その五人のうちの四人が新しく入ってきた子どもで、一年生が三人、二年生が一人です。途中から転校して入ってきた二年生の子どもは、小学校の障害児学級に一年問いて、いわゆる能力的にはすごく高いのです。話し言葉は十分なやりとりができますし、ひらがなやカタカナも書いたり、算数もできて、ドラエモンなどのストーリーも全部しゃべることができる。しかし対人関係がなかなか結べなくて、同じ障害児学級の子どもを押したり叩いたりすることが随分強くありました。二年生なのに体重が五二キロもあります。ドラエモンに出てくるジャイアンにそっくりなぐらい体も大きくて、非常に楽しい子どもではあるのです。

 しかし、お母さんがストレスを溜められてこのままではしんどい、事件にならないかと心配されたということもあって、うちの学校に来られました。

 私たちも、いままで半年間ずいぶん苦労もしています。養護学校ということで、お医者さんとのつながりもあるし専門家とのつながりもあります。もちろん学校をあげてみんなでやれるということで、いままでだけでもずいぶん成果がみがっていると思っています。お母さんもそういう点では喜んでもらっていて、私たちもうれしいと思います。

 あとの三人については、この子たちも発達的には高いというか、障害は軽いというふうに思っています。今は野球が盛んで、子ども同士でピッチャーとバッターになり、二人とか三人で遊べるのです。そういう力もありますし、算数でも一桁の繰り上がりの足し算をちゃんと答えたり、漢字が読めたり、ひらがなの読み書きもできて、昔でいえば障害児学級だなと思えるような子どもです。

 けれどもうちの学校に来ています。お母さんに聞くと、行動的に気になることがあるので、三人のうち二人のお母さんは、「そういう力があったとしても最初から養護学校に決めていました」というふうに言われました。
 もう一人の子どもは、ずいぶん迷ったけれども、うちの学校に見学に来られて、子どもも楽しそうにしていたのでよかったかなと思って入学させてもらったと言われました。

 そこから思うことは、そういう比較的軽度の子どもたちも養護学校に来ているというケースがこの間、増えていますし、そういう流れがあるのかなと思っています。

                                        
 「養護学校は大事」という確信

 
 文部科学省がこの三月に「今後の特別支援教育のあり方(最終報告)」を出しましたが、その資料を見ているだけでも、一九九一年(平成三年)までは養護学校、障害児学級、通級指導教室など、いわゆる障害児教育にかかわる子どもは一定の減少傾向にありましたが、それ以降は一三年連続でそこでの教育を受ける子どもが増えているという指摘がされていて、なるほどなと思いました。

 昔は養護学校なんて隔離だとか、養護学校なんかなくしたらいいのではないかという、その逆の流れもありましたけれども、やはり養護学校が存在してきて、そこの教育がされてきて、これは大事な学校である、また障害児学級も通級指導教室も大事な教育であるということが国民的に確信されてきて、だから少子・高齢化の中でも、障害児教育関係では子どもの数が増えているということが言えるのではないかと思います。

 数年前のことを思い出します。お母さんは自分の子を養護学校に入れたい、けれどもおばあちゃんが反対してということで、その家を私が訪ねるのでも、「養護学校の先生なんかうちに来てもらったら困ります」と言って、外で話をしましょうということがありました。しかし、そういうこともだんだん払拭されつつあるかなと思っています。

 同時に医学がずいぶん進歩してきて、医療的ケアというか、病弱で命との境目の子どもも、命がきちんと守られて、保障され、そして学校にいられる条件が整ってきました。今年からは組合の要求でそれぞれの学枚に看護師さんが二〇時間ずつ配置されることになったということも、子どもの数が増えている大事な要因かと思います。だからこそ障害児学校をこれからも大事にしていくことが求められていると思います。

 
 一人ひとりをていねいに

 
 二つ目は、障害児学校にいて障害児学校のことだけ考えているのはダメだと思っています。組合活動をして、自分たちのことだけではなくてみんなのことを考えて、よりよい教育をつくつていきたいと思ってやってきているわけですから、そういう意味では、普通校にもっと目を向けていくということが今、私たちに求められていると思います。

 私自身は新採から二年間、小学枚で三年生と四年生を受け持っていました。クラスの子どもは三七人いて、その中に一人鍼黙の子どもがいて、いまだにその子のことを覚えています。同時に障害児学級の子どもが二名、図工と体育と音楽の授業に来ていたことを思いだします。

 最近、小学校の先生方と話をする機会があったのですが、自閉症だと言われた子ども、アスペルガーと言われた子ども、知的障害が明らかにあると思われる子どもが普通学級にかなりいて、本当にどうしていったらいいのか四苦八苦されていることを開きました。自分の普通校での思い出を振り返って言いますと、障害児学級の子どもが来たら三九人になったわけです。ですから机を八列に並べていましたし、子どもが分からないことがあってちょっと教えてほしいような顔をしていても、注意しに行くにも席をかき分けて行かなければそこまで辿り着けないということがあったりして、三九人いて一人ひとりの子どもにていねいに教えるということ、おまけに特別なニーズを持っている子どもを同時にやるというのは、不可能に近いことであったなと、いまから思っています。

 その新採一年目、二年目のときはよく頭が痛くなりました。すごいストレスをいっぱい持っていて、精一杯なことをやっていたからしんどかったんだなあと思いました。やはり普通学級で四〇人というのは全然ダメだなということを思っています。

 ただ救われたのは、そこにも障害児学級があって、先生が非常に熱心に一生懸命取り組まれていたので、障害児学級の子どものことだけではなくて、普通学級にいる障害がある子どもや特別なニーズがある子どもについてアドバイスをたくさんしてもらいました。それは非常によかったです。だからそういう専門的な覿点を持っている人が身近にいるのかどうか。もちろんその人が組織的な対応ができるのかどうかというのが決定的に重要なことであったと思っています。そういう意味では、普通学級にいても当然いいような障害のある子ども、特別なニ−ズのある子どもがいますけれども、それに見合うような条件をいかにつくつていくかということが、大事ではないかと思っております。

 
 文科省の「まとめ」が出された背景とねらい

 
 三つ目には、先ほど言いましたように文部科学省が特別支援教育の最終まとめをこの三月に出していますが、端的にいえば二つのことがあると思っています。

 一つは、いままで障害児教育の対象にしてこなかったADHDやLDの子ども、高機能自閉症、アスペルガーの子どもに対して、無視はしない、放ってはおかないよと。それも国民的な大きな声の中でそう言わざるを得なかったというのがあると思います。小泉構造改革の中で、何かいい格好をして打ち出していかなければ自分たちの政権が崩れてしまうという中で、文部科学省も既得権を守るという中で言わざるを得ない、そういうことが複雑に絡み合って出てきていると思うのですが、しかし普通学級にいる特別なニーズを持つ子どもに対して、いまのままではだめだということははっきりしていると思います。

 もう一つは、その子どもたちの教育にかかわっては、既存の物的・人的資源の再配分ということが言われています。つまり養護学校にはたくさん教職員がいるので、それを引き抜いて普通学校・普通学級に持っていって、そこで特別な支援をする教職員にすることが必要なのだと。また障害児学級をつぶして、その教員を教育相談などに回していくということ、その二つが大きな特徴かと思っています。

 ですから基本的には、決められた器の中で我慢したり、仕方がないなと言ってあきらめるのではなくて、一人ひとりの子どもに応じた教育をいかにつくつていくか。そのためにどんな条件整備が必要で、そのための運動をどうすすめるかというのが基本方針だと思っています。この困難な状況の中でも、南部で二つの新しい養護学校ができる方向になってきているということで、やはり学んで力を合わせていくことが決定的に大事であろうと思っています。

 
 障害児教育についてみんなでとりくもう

 
 最後に、昨日、職場の分会で、特別支援教育にかかわって学習会をしました。いま京教組へ専従で出ている先生に来てもらって諸々の話をしてもらったのですが、昨日は三〇人もの人が集まって、おまけに組合に入っておられない人も一〇人近く来られていました。やはりみんな注目しているからだと思います。その中で二人の先生が発言されました。「私たちも養護学校のことだけではダメだ。普通枚で苦しんでいる子どもはたくさんいる。そこに対して組合が頑張っていかなければいけない」という話をされました。

 もう一人は高等部の先生です。「いまの特別支援教育の中で、小・中学校は障害児学級があっ灯り特別支援教育コーディネーターというのをこれからつくつていくということで、けっこう、いろんな支援がされているけれども、高校はカヤの外である。だからその辺をどのようにするか」という話がありました。そのように思っている先生がいますので、ここでやっている話は単にここだけではなくて、多くの人が思っていることなのです。いまのしんどい状況の中でもちょっと努力していこうという気持ちがあるわけですから、ぜひ今日の話も職場に持ち帰って皆さんに返したいと思っています。

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