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京都子ども勉強会からの発信
 「子どもたちを鍛える」

                   澤田 稔



男の子たちの育ちが心配


 四月の年度当初、ある中一の父母会で 『クラスの子どもたちに願うこと』とい うテーマで話し合っていただきました。 すると、ふだん感じておられることが次 から次へと出されてきました。そのいく つかを書きますと次のようになります。

◎頼りない。なんでも人のせいにする。 自分のことは自分で責任を持って欲しい。
◎身の回りのことができる力をつけてほ しい。
◎自己主張ができる、人を説得できる力、 進路に対する目的をもてるようになって ほしい。
◎やらなければならない課題があれば、 自分で段取りを考え、そして取組む力を つけてほしい。
◎進路に困らない学力をつけてほしい。

 ここは、男子ばかり七人のクラス。お母さん方の願いを聞いていると、男の子 たちの、ある子ども像が見えてきました。 それは、子どもたちの願いの背景にある 子どもたちの姿です。・・・精神的に幼く、 いつも人に責任転嫁し無責任で、生活にだらしなく、受身的で手順を考えて行動できず、意志が弱く自分の意見を言うこ とができない。まあ、このようになるのでしょうね。一人ひとりの子どもに全てが当てはまるわけではありませんが、何 か最悪の人格像ができあがってしまいます。でも、確かに現実の姿がとらえられているように感じます。では、なぜそう した男の子たちの実体が浮かび上がって くるのでしょうか。


生活背景にあるもの


 お母さん方との話し合いの中で、そう した男の子たちに、ある生活背景が共通 して見えてきました。第一に家庭の中で お父さんと子どもたちとの関わりが希薄 な状況にあること。すると、当然、お母 さんとの関わりが強くなります。お母さんは、子育てのなかで娘に対しては絶対に譲らない (妥協しない)ある面での厳 しさをもっています。しかし、そうした 厳しさを男の子には求めにくいと感じて おられることです。実際、男の子には 「甘く」なっておられるようです。第二 に、男の子を取り巻く文化に現実感が乏 しく、希薄さが濃厚に見られること。ゲ ームにしてもコミックにしても空想的な 傾向が強く、そうでなければ極端に誇張されたスポーツ・やくざものが多いこ と。そして、そうした世界にけっこうどっぷり入り込んでいること。第三に、男の子たちは同世代の集団のなかで起こる人間関係の矛盾や困難に立ち向かうこと なく、避けようとする傾向が強いこと。本音でぶつかり合わないことが多いため に、言葉が無用の長物となり会話が少なくなっていること。また、問題解決のために頭と言葉をあまり使わないので、物事の判断が短絡的になりやすい傾向が見 られること。

 男の子たちのそのような生活環境を考えていくと「本当に大変だなあ」と感じます。もちろん、こうした生活背景が先ほどの男の子たちの人間像とどのように 繋がっていくのかは不明な点も多いですが、傾向としてはその繋がりを読み取れ るのではないでしょうか。

 いずれにしても、その傾向は、小学生 だけでなく中学生、高校生、大学生になっても身近に見ることができます。勉強会は、父母を除いて九九%はそうした世代で構成されていますから、男の子たち の「頼りなさ」は日常的に見ることができます。ただ、だからと言って愚痴をい っても嘆いても始まらないわけで、また、子どもたちの生活を一八〇度変えること もできませんから、身近なところで対策 を検討していくことが求められます。


勉強会として


 このクラスを担当して、今年で三年目を迎えます。いよいよ正念場と感じています。基本方針は、二点です。第一は、 基礎学力を徹底して鍛えること。第二は、 自然の中で豊かな生活体験を子ども集団 として持たせること。そして、自分自身 にしっかり向き合い、進路・性・人間関係について具体的に考えていく機会や話 し合いの場をつくつていくことと考えています。これは男子に限らず重要なこと と考えています。

 この二年間、算数の計算カを鍛える練習、漢字の徹底練習で、不十分さはあるものの中学の学習に立ち向かえる素地はできてきたのではないかと思います。また、子ども たちの集団つくりの面では、勉強会のキャ ンプ・合宿、ゴムボートでの川下り、ボウ リング、劇・映画の鑑賞などの取組を合わせて行ってきました。

 基礎学力をつけるために徹底した練習 をさせることと豊かな生活体験を総合学習的に進めることは統一させなければなりません。どちらかに偏るような指導は、避けなければならないと思います。これまで、どちらが大切なのかといった議論 をよく見聞きしてきましたが、ともに重要なのです。ですから、統一的に進める ことが子どもたちの成長と発達にとても 大きな意味を持つという認識が広がって いくことを願っています。


ユニークな春合宿


 勉強会では、毎年、学年末に二泊三日で 小学生から中三生を対象に春合宿を行っ ています。今年で九年目になります。これも先ほどの考えに基づいて実施しています。

 合宿の目標は三点あります。第一は、生活を自分たちで作る。合宿での食事は仝て自分たちで作ります。第二は、進級するに当たって必要だと思われる学力の内容 を一教科、しかも単元を絞り込み、できるまで追及する。そして学習面で自信をつけさせること。第三は、『おもしろ学習』と 呼んでいる総合的な学習を実験・実習を 通して学ぶことです。これまで、『高温の世界』『極低温の世界』『真空の世界』など、 そして今年は、@『摩擦0の世界』A『パフェ対決』B『Fishing・解剖』をテーマに取りくみました。徐々にレベルの高い、密度の濃い合宿になつてきています。

 最後に、『Fishing・解剖』に参加した子どもたち・青年の感想をお読みください。

●解剖するのに、朝早くからおきて、釣 りに行ったのに全く釣れなかったので大変だった。基本的に、魚を解剖するだけでも楽しかったので、わざわざ釣りに行 かなくてもいいと思う。魚を解剖するのと魚をさばいて食べるのは、大差はないと思う。しかし解剖する魚だけが、かわいそうと思うのは、勝手な思いこみで、 生物を殺すことは、目的がどうあれみな 同じだと思う。生き物の命はみな等しく大切だと思う。今、アメリカが正義と言って戦争をしています。今私たちはテレ ビで、イラクの町にミサイルが落とされたり、アメリカがイラクの戦車に向かっ て大砲を撃ったりする映像を見ていますが、そのミサイルを落とされた町にも、 大砲を撃たれた戦車の中にも、一つの人生を持っている人がいること、わすれな いでほしい。(十四歳)

●おもしろ学習は、釣り、解剖だった。 僕は釣りには行けへんかったけど、解剖は僕にとって考えさせられる内容になり ました。初めてやったし。フナの心臓、 腎臓、胃、腸、卵巣(メスやった)、浮袋、えら、たんのう?を初めて見てうきうきしながら解剖をしていた。でも最後に澤田さんにフナをしめた(殺すこと) 後もはねたり、ピクピクけっこう動いていたことを「あれが命やねん」と言われ、 ちょつと自分で考えるところがあった。 いい経験ができたと思います。(十七歳)

●解剖は、これもまたやったことなく、子どもたちと一緒に驚きの連続の時間でした。背骨の神経を切断してもまだバチ ャバチヤはねてることに驚き、さらに皮をはいでいっても動いていたし、心臓を 取り出しても、その心臓はまだ動いていました。浮き袋の大きさも驚きました。 非常に内容の濃い時間になったと思いますが、僕は指導する側の立場でありながら、あまりお手伝いできずにごめんなさ い。(二十一歳)

         (さわだ みのる)
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