−− 小・中・高と学校のなかで、京都でも平和教育活動が
積極的にとりくまれています。まず、中学校からの報告レ
ポートをご紹介しましょう。
戦争と平和、政治を授業で語ること
韓国の歴史教師たち三十数人を宇治平等院に案内したと
きのことである。女子中学生轢死事件をきっかけに韓国全土で盛り上がった反米闘争について見聞きしていた私は、
「韓国の中高生の政治意識が高いのはなぜか」と聞いた。
それに対して、ある男性教師は「社会科の授業では毎時間政治の話になるんだ。大統領選挙のときは教師と生徒との激しいディスカッションになった。なまの情報が授業で
ぶつかるんだ」と答えた。
日本の教師たちもまた戦争や平和、政治について語ってきた。だが、目前で起こつている政治的問題に対して、私たちは授業で語ることを躊躇していないだろうかという思いはある。戦争とは政治の延長であり、戦争を語ることは
政治を語ることにつながる。
二〇〇一年「九・一一事件」とその後のアメリカによる
アフガン報復戦争について、中学三年生の授業でとりあげ、
それが十二月に新聞報道されたとき、「公立中学校でもこ
んな平和教育実践ができるということに励まされました」
という声を多数いただいた。一方で、「教育の管理統制が強まっている状況下では実名でのマスコミへの登場は自重すべきだ」という教師仲間の「善意の忠告」もあった。
いま京都の公立学校では「校長を中心とする」上意下達
体制が広がり、自主的な実践が圧殺されるという閉塞状況下にある。それを突破していくのは私たち一人ひとりの旺盛な教育実践とその交流ではないか。「善意の忠告」に違和感を持ちつつ、私が考えたのはそのことだった。
現行の教育基本法第八条(政治教育) には「良識ある公民たるに必要な政治的教養は、教育上これを尊重しなければならない」と書かれているが、「戦争に反対すること」
「平和を求めること」を言うにはばかるという雰囲気が今日の日本の学校にはある。それを問題視せねばならないと考える。
イラク攻撃前夜の中学生たち
さて、ブッシュ米大統領が国連憲章を無視して「四八時間後のイラクヘの先制攻撃」を宣言した翌日の二〇〇三年三月十九日、私は中学二年生に「いま戦争と平和について考えていること」をたずねた。歴史学習が終わったばかりの生徒たちは、次のように書いた。
●アメリカは国連にさからってまで、なぜ戦争をするのか。こんなにたくさんの国が止めているのに。ふだんから
アメリカに好きかってやらせているからやん。京都議定書
もそうや。それ以上に、日本など協力する国がいるのがあかん。(香里)
●インターネットで調べたけど、イラクは湾岸戦争の時と比べてすごく戦力が落ちている。一〇〇万人いた陸軍も
三五万人になったし、戦闘機は半分、軍艦は三分の一になった。査察で武装解除させておいて攻撃するのは、あまりにも卑劣だ。(信二)
●アメリカはフセイン政権を倒すことがブッシュ政権の重要目標とか言ってるし、そのためやったらどんな手段でも使うって言っていた。日本は戦争をしないという平和主義っていうのがある。小泉さんは法律を変えると言っているけど、私は戦争をしてほしくないし、アメリカを支持してほしくもない。(麻美)
●攻撃がはじまると、開戦三ケ月間で約四万八〇〇〇人
から二六万人が死んでしまうという。なんで何も悪いこと
していないのに、「戦争」がはじまるだけで、これだけの人が死んでしまうんやろうか。日本は憲法で攻撃はあかんことになっているけど、アメリカの言いなりで、戦争に関
わることになる。日本が協力することは、わたしも協力す
ることになる。(静香)
アメリカの戦争と日本の責任
あるクラスの授業ではインターネットで以下のことを調べさせた。
1 イラク攻撃がおこなわれれば、どのような被害が予想されていますか。
2 アメリカのイラク攻撃は国際連合憲章違反と言われています。なぜですか。
3 アメリカは世界最大の大量破壊兵器保有国。アメリカの持つ最大の大量破壊兵器は「核兵器」です。原爆を日本に投下したアメリカは、どんなことを言っていますか。また原爆投下について、アメリカは謝罪したでしょうか。
4 日本政府はアメリカの原爆投下に対してどういう態度をとってきましたか。 |
二度にわたる世界大戦の惨禍を体験した世界各国は、戦争をふせぐために知恵を出し合い、二つのことを決めた。
一つ目は、戦争を違法化し、やむなく起こる戦争にもルール(国際法)を適用するようにしたことである。先制攻撃や非戦闘員の殺りく、毒ガスなどは違法化されている。
この点からすると、日本軍による南京大虐殺や重慶空爆、
七三一部隊の細菌戦だけではなく、アメリカによる広島・
長崎への原爆投下もまた明確な国際法違反だ。
二つ目は、戦争違法化を定めた国際法を守るために、国際機関を設置したことである。戦前の国際連盟や現在の国際連合設立の最大の目的は、戦争の阻止なのだ。
米国ブッシュ政権は国際法と国際機関という人類がおび
ただしい血の犠牲で築いたルールと組織を無視し、勝手気ままにふるまう存在になろうとしている。アメリカの圧倒的な軍事力を前にして、次のように無力感をもつ生徒もい
る。
●みんなで戦争反対と言ったら止められるかもしれん
と、いろいろ考えたりする。とにかく戦争が起こつても何
もできない自分がむなしい。プッシュ、最悪! (里沙)
これからの平和教育
「どうしたらアメリカのイラクヘの攻撃を阻止できるのか」という生徒たちの真剣な問いかけに対して、私はうまく話をすることができなかった。米国ブッシュ政権のあまりの横暴ぶりに、生徒たちとともに無力感をおぼえたのも
事実だ。
ただ言えるのは、私たちは日本の政府に働きかけていく
しかないということだ。日本政府はブッシュドクトリンに無批判に追随するだけの存在になつているが、その政府を選んだのは私たち有権者なのだから。
日本は「大国」である。その経済力はアメリカにつぎ世界第二位。アメリカによるイラク攻撃反対の急先鋒にいた
フランスは、日本の東北地方と同じくらいの経済力しかな
い。東京一つで、世界第二位の人口を有する大インドに並
ぶ経済力を持つ国が日本なのだ。日本がアメリカ追随を抜け出し、自主的な外交を展開することは、日本の未来にと
ってだけではなく、世界の平和な未来に貢献することにつ
ながるだろう。
戦後の日本政府は原爆を投下されたことに対して、一度
も正式にはアメリカに抗議していない。原爆という大量破壊兵器の使用により、アメリカは国際法を守るという立場ではなく、国際法や国連を利用できるときには利用すると
いう手法を身につけてしまった。その後、ベトナム戦争で
枯葉剤を撒き、湾岸戦争や旧ユーゴでは劣化ウラン弾を実戦に使用し、そしてアフガンではデージーカッターという
小型原爆並みの殺傷力を持つ大量破壊兵器や、子どもたちを感知し傷つけるクラスター爆弾を実戦に使ったのだ。も
し、日本に非戦・反戦の政府ができており、国際法違反の原爆投下に対してアメリカへの抗議を続けていたなら、アメリカの大量破壊兵器や残虐兵器の実戦使用に歯止めをか
けられただろう。
これからの平和教育は、国際法と国際機関の役割について学ぶとともに、憲法第九条を持つ日本がどのようにして
世界平和について発言し、行動していくかを生徒たちが考えるものでなければならないのではないか。
(ほんじょう ゆたか)
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