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■態度評価に振り回される■
綴喜における「評価・通知表」問題 をめぐつて
                               綴喜教職員組合  村山 知


今回の「評価・通知表」問題の前史

 一〇年前、綴喜の小・中学校でも「関心・意欲・態度」 を学力の筆頭要素とする観点別評価と相対評価を主とし た「評定」 (時代や全国の流れに逆行して小学校高学年で は五段階評定を採用)を合体させた「新学力観型」の「京都府バージョン」ともいえる通知表の押しっけが強行さ れました。

 それに先立つ一九八五年には、当時の到達度実践の先進校だった草内小学校の到達度評価に基づく通知表つぶ しが行われ、雪崩をうつようにして「週案」提出強要、 指導主事「計画訪問」、電話帳よりも分厚い年間指導計画 づくり、綴喜地方小教研を校長会主導のものへとクーデ ター的に規約改変を強行するなどの教育課程をめぐる管理統制の流れが強化されました。

 京都府が全国に先がけて推しすすめてきた到達度評価 の取り組みの「抹殺」への忠誠競争とその後の新学力観攻勢の中、京都府における「評価・通知表」問題は行政権力にとっても特別の意義と決意を持つものだったとい えます。

京田辺市の通知表改訂をめぐつて

 私が勤務する京田辺市の小学校では、各校の教務主任で構成された評価検討委員会で通知表改訂のアウトラインが決まり、その中のいくつかの「評価・評定案」から 各校の一定の裁量で特定の案が採用されて通知表が作ら れていきました。そのいくつかの「評価・評定」につい ての考え方を以下に紹介します。

ア.観点別評価を点数化して各観点の「重み」ポイン トをかけ合わせ…という「数式」に当てはめて「4」「3」 「2」を振り分け。そして、「4」や「2」の中から特に 顕著な子どもを「5」や「1」にするという考え方を採 用したA小学校。
 この方法で数式に当てはめると、当然ながら 「関心・ 意欲・態度」 の評価が評定に混入します。一見、科学的 かのように見える「数式」ですが、教育評価の理論に照 らしての妥当性を説明するのは無理です。各観点の「重 み」ポイントについても、その妥当性が問われるもので す。
 A小学校の場合、当初管理職は「『関心・意欲・態度』 の重みポイントは他の観点よりも大きくし、『知識・理 解』の重みポイントは小さくするのが、新学力観の考え方である」などと発言していたほどです。(参考1)


イ.総括評価のテストでオール一〇〇点の子どもを 「5」にするという考え方を採用したB小学校。「関心・ 意欲・態度」の評価が評定に混入することをブロックす るという苦肉の策ですが、「5」はたいへんに稀なものに なります。

ウ.「評価の資料とする活動や態度、テスト、作品など をすべてポイント化(点数化) し、累積して平均化。た だし、各覿点の総得点に占める割合を考慮する」という 考え方を採用したC小学校。各観点の割合の妥当性(新 学力観をもとに、「知識・理解」の比重が低いなど)の問題とともに、「関心・意欲・態度」 の評価が評定に混入す ることの問題は免れていません。(参考2)


エ.「『5』や『1』を平均点の基準から評価するので はなく、『4』や『2』 の中から『著しく達成していたり』『著しく達成していない』と考えられる児童に対して 評価する」という考え方を採用したD小学校。この場合 の「著しく」の主要な内容として「関心・意欲・態度」 の観点が位置づいてくるものです。したがって、オール 一〇〇点の子どもでも、「関心・意欲・能伽度」で秀でるも のがないと「4」の評定になり、一学期の終業式で通知表を渡した際に泣き出した5年生の女子がいたという事例も報告されています。(参考3)

京田辺市の小学校の通知表をめぐるその他の問題点

(1)形成評価と総括評価を混同している評価行為の混乱が見られます。例えば、形成評価であるべき漢字小テ ストの点数の合計点(あるいは平均点)を総括評価と同 列視して評価する事例が散見されるという事態です。

(2) 「行動の記録」の項目を指導要録の項目と関連づ けてスライドさせようとすることからくる「無理」とわ かりにくさが増したという通知表も見られます。また、 これまで「○」(概ねできている)と「・」 (努力を要する)の2段階評価をしてきたも のを「◎」「○」「空欄」という3段階評価に ゴリ押ししょうとした管理職もいます。

(3) 「総合的な学習の時間」の評価につい ては文章記述の形式が採られていますが、こ の記述欄の大きさが拡大される傾向に対してその内実が乏しいものであったり、「総合」 の実践の足かせになるなどの問蔑点も指摘さ れています。

八幡市の小学校における「八〇点以上は◎」 「六〇点以下は△」の押しっけをめぐつて

 《発端と経過》
 新設校であるE小学校の教務主任が各テスト業者に「市販 テストは『◎』(十分満足できる)、『○』(おおむね満足でき る)、『△』(努力を要する)は何点を目やすに作成されているか」について電話で調査をしたことが発端にあります。
 その結果、「八〇点以上は◎」「六〇点以下は△」とい う回答を得、八幡市の小学校枚長会としてもE小学校の校長の発案で「評価をめぐる八幡市の学校同格差をなくす」という主旨から「八〇点以上は◎」「六〇点以下は △」が確認されました。
 しかし、実際には各枚長は現場教師の反発を予想して この基準を職場に提案できないでいたようですが、この事実を知ったE小学校の校長は七月の初めの校長会でそ の実行を迫りました。こうして一学期の成績処理の渦中 に「八〇点以上は◎」「六〇点以下は△」案が提案され、各職場とも多くの教師から猛反発が起こりました。この通りの基準で観点別評価を行ったのは結局のところ少数 にとどまり、その他の小学校では「◎は九〇点以上に」 あるいは事実上「各学年に任せる」等に落ち着いていき ましたが、いずれにしても「八〇点以上は◎」「六〇点以下は△」をベースとする考え方の影響は大きく、「『◎』 の大盤振る舞い」といった状況が報告されています。
 したがって、中・高学年の評定についても「すごく甘 い評定」になっているという事態も。逆に、「『△』がついた子どもについては、家庭訪問をして保護者に謝って くること」などという校長の発言も出ています。

市販テストと「評価・評定」問題

  一九九一年の指導要録改訂に伴う「新学力観」攻勢は、 当然のようにして作成していた「自作テスト」による総括評価を過去のものとし、業者が作成した「市販テスト」 に総括評価を委ねる風潮を私たちの職場に浸透させるも のでした。学習活動の総括評価を四観点に分割するとい う評価行為を主体的に具体化することに労力を費やすこ とはできません。私たちは新学力観に基づく評価理論の 欺まんにうんざりしていましたが、多忙化政策の中で観点別評価を視野に入れない評価活動にエネルギーを集中 させることも現実性を欠くものとして消極的であったという弱点を率直に反省するものです。この「市販テスト」 に教育活動の総括評価を委ねる途は、学習要領体制に教育内容を方向づけ、縛るものでした。
 八幡市では市販テストの使用について補助金を出していますが、こうした例は全国的にも特異な例であると考 えられます。
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