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【特集「学校完全五日制でどうなる? 子どもたちの暮らし】

完全五日制と子どもの暮らし
児童館の充実こそ急務
◆ 京都学童保育連絡協議会 松井信也
 児童館は一八歳までの子どもを対象にした地域にある唯一の公的施設です。学校週五日制の実施にともなってその存在がクローズ・アップされてきました。児童館の現状はどうでしょうか?

「中高生集合!! 焼定ひろば」?
 次に紹介するのは、私が6年前まで勤務していた西京区の桂児童館に所属する中高生らが主体のボランティアサークル「焼肉定食」が地域の中高生に呼びかけたビラです。対象に、小 学6年生(新中学1年)も含まれていて、休日に児童館を使って仲間を増やそうと企画した“集い”のようです。
 「やきそば、クレープも食べられるぞ!」「おもしろ卓球大会」「豪華景品!? ビンゴゲーム」など、楽しそうです。  ボランティアサークルといっても「奉仕活動」をするというのではなくて、自分たちの要求でいろんな活動をすすめていく場所として児童館を活用し、その児童館のさまざまな活動の中で、子どもたちのお兄さん・お姉さんとしてかかわっていこうとしています。
 この児童館では「日曜開館」や「ナイトスペース」と称した夜間開館も中学生以上を対象におこなわれており、地域の多くの子どもたちに活用してもらおうという、意気込みが伝わってきます。

放課後・夜・休日の子どもたちと児童館

 また、この4月からは、従来からあった「4年生学童」と、5〜6年生でつくる「ずっこけクラブ」を統合した「高学年クラブ」の発足を父母たちと決めています。毎日通ってくる「学童保育」の子どもたち40名余とは別に、児童館では「クッキングクラブ」などのクラブ活動や毎月の「工作教室」など教室活動、休日を利用した館外行事や野外活動などが行われており、地域の子どもたちはこうした活動に自由に参加できます。
 谷口昇館長は、「活動をすすめるには施設が狭い、中高生がふらっと来ても居場所や思い切り身体を動かして活動できない。子どもの仲間集団は放っておいて勝手にできるものではない。かかわる大人の役割が大切。しかしいまの職員の待遇は劣悪だ」と語ります。
 東京の杉並区の「ゆう杉並」、町田市の子どもセンター「ばあん」などは、中高生も視野に入れた体育施設をもち、夜9時まで開館していたり、飲食のできるロビーを備えているなどの児童館もあります。そこでは、運営に子どもたちの参加が認められていたり、意見が尊重され運営に活かされています。
 学校休業となる土曜日を、子どもたちにお仕着せの「奉仕活動」や「管理主義」の活動、また営利主義の塾・レジャー産業にゆだねるのか、主体的に活動し仲間のなかで育つことができる場を保障するのか、子どもたちの育ちをめぐって大きな分岐点に立っていますが、地域の公的施設としての児童館が果たす役割がとりわけ重要になっています。

児童館充実のための五つのハードル

 こうした児童館は、児童福祉法制定時から、第40条に「児童厚生施設」としてその設置が市町村の努力義務として明記されてきたものの、昭和38年(1963)の国庫補助開始まで公的な財源保障がなく未着手の分野であったことや、位置づけの低さなどから設置はなかなか進まず、現在全国の児童館設置数は約4200館で小学校区の5分の1程度にとどまっています。国が建設についての土地代を予算補助に入れていないことが、建設が進まない大きな要因の一つです。
 京都市においても昭和45年(1970)の第1号である桂児童館の誕生から数えて、満30年を経過したばかりのまだまだ発展途上の事業であると言えます。

1.小学校区に一つの児童館を

 児童館に関わっての課題の一つは、低学年の子どもたちが歩いていける20分以内程度の範囲、少なくとも小学校区ごとの設置を急ぐことです。京都市内には現在97の児童館がありますが、181小学校区に対し53.6%の設置率です。京都市はこれまで中学校区単位での設置を進めてきていますが、いまだに「小学校区の設置は考えていない」としています。
 こうした設置の遅れと切実な学童保育要求が結びついて、京都市内には20を超える地域で児童館をつくってほしいとの要求がだされています。

2.休日開館、夜間開館の検討を

 二つ目には、開館日・開館時間の問題です。京都市では開館日は日・祝祭日と年末年始を除く毎日の10時〜5時(学校長期休業中の学童クラブのみ9時より)とし ています。
 学校五日制の導入などで帰宅時間が遅くなる子どもたち、とくに高学年や中高生には利用できない開館時間です。夜の時間帯や休日に閉まっていては、子ども会や少 年団など地域の子どもにとっても、また、「お世話」をする青年や住民にも使わせないことが前提になっています。今年度、京都市では学童クラブの「利用料徴収」とセットで、学童クラブの6時までの延長を打ち出していますが、児童館の開館時間(一般児童の利用時間)をのばす考えはないようです。
 全国的に見れば、日曜は開館し月曜が休館日といった自治体もあり、また京都でも地域団体との信頼関係の上にたって、一定のルールのもと「貸し館」など会場提供を行っている館もありますが、まだまだ「使えない」のが実態です。前述の桂児童館の「日曜開館」や「ナイトスペース」は、子どもたちの要求に根ざし、低賃金におかれながらも児童館職員が自らの仕事として社会的な確立を図っていこうと、勤務時間の調整をおこないながら挑戦している先駆的な取り組みです。

3.設備の拡充を

 三つ目には、施設規模の拡大や設備の拡充があげられます。国庫補助基準は185平方メートル以上、東京都は独自の最低基準を設け330平方メートル以上で平均的には500平方メートルを上回っていますが、京都市の児童館は最近でこそ241平方メートルの基準をもちましたが、それ以前に建てられた児童館は国基準そこそこで、とても学童保育機能も含め児童館機能を果たせる施設規模や設備内容ではありません。また、人件費を除けば年間で180万〜200数十万という運営費は、施設管理費に毛が生えた程度で、さまざまな事業を展開していくにはたいへん不十分です。

4.子どもの主体性を尊重した運営を

 四つ目に、運営の問題があげられます。児童館内の学童クラブの子どもの数が60名を超え、70名や80名の「すし詰め」がある中で、事故やケガを防止しようとして、「あれはダメ」「これはダメ」と「禁止」や「規制」「管理」を強める傾向が強まっています。「管理」ではなく子どもの発達に信頼を寄せた「子どもの主体性」を尊重した事業の展開が求められています。

5.劣悪な職員待遇の改善を

 五つ目に、これが一番重要ですが、劣悪な職員待遇の改善があげられます。10年勤続でも17万円そこそこ、手取りにして15万円足らずという低賃金では、働き続けるというにはなかなか困難です。経験を積んで、専門的な知識や技能を取得してこそ、児童館の職員として地域で子どもたちの仲間づくりや子どもを育てる地域環境づくりの仕事ができると言えます。
 学校週五日制を迎え、児童館を地域の子どもたちの活動拠点として機能させていくための様々な課題はありますが、主体はあくまで子どもたちとその父母であり、 地域の住民です。まずは、一度児童館を実際に訪れてみてください。歓迎されるはずです。そして職員に思いや願いを伝え、一緒に児童館を活用していく方法や内容をつくっていってほしいと願っています。

(まつい・しんや)
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