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【特集「学校完全五日制でどうなる? 子どもたちの暮らし】
完全五日制と障害者家族の声
障害のある子どもたちにも楽しく過ごせる休日を

◆ 向日が丘養護学校 金子佳弘
 学校の休日の増加は、障害をもつ子どもたちとその家族にとってとりわけ深刻な問題。学校の友人とも離れ思うように遊べず、地域に共に過ごせるような仲間はなかなかいません。親やボランティアが用意するイベントにも限界があります。

 学校五日制の完全実施をもっとも深刻に受け止めているのは、障害のある子どもとその家族です。「増える土曜休みを、どのように過ごさせたらいいのか」という障害者家族の心配は切実です。
 子どもたちが地域や家庭ですごす休日は1年のうち170日近く、学校登校日195日余りとあまりかわらない割合になります。生活時間に換算すれば、学校に子どもがいる日は年間40日分ほどにしかなりません。家庭や地域の生活比重がいかに重いのかを思い知らされます。
 ある養護学校の保護者アンケートによると、放課後・休日を「1人で過ごす」「父母・兄弟と過ごす」と答えた人が全体の8割近くにもなっています。障害のある子どもの放課後・休日の生活は豊かなものとはいえない実態が浮き彫りにされています。
 障害があるがゆえに家に閉じこもってしまう実状はたいへん深刻です。保護者は、常に介護をともなう子育てのしんどさから解放されず、疲れきっています。地域における障害のある子どもの社会参加を保障する社会教育や福祉の施策がきわめて貧弱だからです。
 障害のある子どもの親たちは、わが子のことを思い、行政施策が不十分な中でもその拡充に向けて、さまざまな自主運営の放課後活動を続けています。そうした自己努力の負担も大変なものがあります。学校五日制完全実施は障害者家族に大きな不安を与えているのです。
 「京都障害児者の生活と教育を豊かにする会」がまとめた、障害のある子どもの家族の声を紹介します。

「休日も友だちと遊べたら……」

 子どもの体がだんだん大きくなり、親と過ごすだけでは満足しなくなってきました。一方、親は年を重ね、子どもを抱きかかえるのが困難なほどに、負担が大きくなっています。乙訓では学齢の障害児が利用できるヘルパーは1時間1,000円と有料です。生活にゆとりのない人は、なかなか利用できません。亀岡や城陽まで行かなければ、緊急のときに利用できる施設もほとんどありません。困ったときにすぐ利用できる施設と制度の充実を希望します。障害児学童も運営費や指導員集めで親の苦労は絶えません。行政の補助を増やして安心して障害児を育てられる京都にしてください。(向日が丘養護学校・保護者)

 第2土曜日の取り組みであるフレンドスクールはいまのところ親が主体で動いて計画、搬入、昼食の用意などを行っています。2002年4月から土曜日が全部休みになっても、これ以上親が取り組みを増やすことは障害の重い子をもつ親にはかなりしんどいです。市主催の取り組みをぜひ実現してほしい。(桃山養護学校・保護者)

 長男は中学校2年の聾学校児です。映画「どんぐりの家」そのままの毎日です。親から離れて友だちと遊べたらどんなにいいでしょう!
 来年度からの土曜日の休み、夏休みは悩みの種です。スイミーの会は子どもたちが生き生きと生活でき卒業後のより良い進路が保障されるように活動することをめざしています。(聾学校・保護者)

 気軽に利用できる施設があるとうれしいですね。室内プール、体育館、ボウリング場、プレイルーム、おもちゃ図書館、パソコンも使えて、レストランもある……障害のある人のための工夫がいっぱいの楽しいところ。京都にもあったらいいな。(桃山養護学校・保護者)

 障害児学童に関わって11年になります。全国的にどんどん補助金制度等が充実していく中、京都は90年の季節療育事業の35万円からほとんど前進がありません。最近の不況で物品販売等の売り上げが落ち込み、親の負担はとても大きくなってます。抜本的な制度改革求めて、関係者の皆様と頑張っていきます。(向日が丘養護学校・ボランティア)

 ほかの妹や弟を見ていると、大きくなればなるほど、将来の夢に胸はずませることができます。しかし、障害のある子どもだと、不安に向き合うことが増えてしまうのが、いまの日本の福祉の状況だと思います。PTA活動を行いつつ、毎年、繰り返される進路や「開かれた学校作り」に関わっての取り組みが、現実的に子どもたちの卒業後の道しるべになり得ているのか、常に見極めて内容を考えていくことが大切だと思っています。(南山城養護学校・保護者)

 今年も養護学校生の季節療育支援事業で行政にお世話になり、親たちはありがたく思っています。しかし、昨年から場所、中身と変わりとまどっています。親たちは、長い休み中、元気で過ごせることを願っています。それなのに、夏は暑く冬は寒い場所で我慢している。どうかきちんとした部屋を提供してください。人間らしく生活したい。(与謝の海養護学校・保護者)

 いまの学校生活や余暇の過ごし方を豊かにするために、みんなでできることはみんなでしていったらいいと思うし、親しかできないことは私がしたらいいと思う今日このごろです。そして、いつまでも子どもの生活の質を高めるための努力をしつづけていきたいですね。でも、寄る年波には勝てないかも。(丹波養護学校・保護者)

 地域に根ざしていない子どもはどこに行って遊ぶのがよいのでしょうか。友だちに会いたくても、親が車で連れて行くところにしか同じクラスの友だちがいないのが現実です。車を使えない親は子どもと共に狭い世界に閉じこめられます。歩いていける、くつろげる空間があれば母親も、子どもも心にゆとりがもてるのになあ。(桃山養護学校 ・保護者)

 将来に何の見通しもないなかに、小泉内閣の痛みを国民に分かち合えなんて言われても、これ以上どうなるの?って不安が増すばかり。わが家はこの子を中心に、大事に育てているのに……。本気で、私たち夫婦に何かがあったら、連れて行くしかないって思う近ごろです。(中丹養護学校・保護者)

 来年から週休2日が始まりますが、障害児を抱える家庭の負担が少しでも軽くなるのならいいのですが、いま周りを見ても、地域に帰っていくことができない現状では何もゆとりではない。苦しみが多くなるだけです。休日に子どもたちが少しでも楽しい日を過ごせるようにしてください。(丹波養護学校・保護者)

五つの緊急課題

 20世紀後半は障害のある子どもの全員就学運動が大きく前進して、1979年の養護学校義務制実施を契機として学校教育についてはそれなりに充実がはかられてきました。しかし、学校教育外の、地域と家庭における障害のある子どもの生活保障については、行政施策としてきわめて遅れたままの状態になっています。
 21世紀初頭は障害がある子どもの社会教育と余暇活動、地域におけるさまざまな社会参加、介護や移動の条件確保など、行政施策として着実に前進させるなかで放課後・休日の豊かな生活を保障していくことが課題になります。
 当面、障害がある子どもの放課後・休日活動を充実させるための課題として、以下の点が急がれます。 養護学校に常設の学童保育所を設置します。そのために、埼玉県などで実施されている「養護学校等児童生徒放課後対策事業」を京都府でも新規に制度化する必要があります。 これまで実施されていた障害のある子どもの「学校五日制推進事業」を見直し、障害者家族の負担が少なく、安心して地域の社会教育事業に参加できるように、市町村の受け皿をつくります。京都府が新規事業で行なう「地域ふれあい交流事業」については、障害のある子どもが地域で安心して参加できるように、京都府下全市町村で具体化をはかるとともに、障害がある子どもと保護者の願いが生かされるような施策を求めていく必要があります。 市町村の学童保育所を充実させ、盲聾養護学校の子どもの受け入れを進めます。障害児加配や施設の条件整備を整えるとともに、学年制限や保護者就労などの入所基準の緩和を求めます。 障害児者のショートステイ・レスパイト・ガイドヘルパーなど地域生活支援事業のいっそうの充実をはかります。 障害のある子どもの放課後・休日活動を豊かにしていくために、地域ごとに保護者と教育委員会・盲聾養護学校・地域福祉行政・地域ボランティア組織などのネットワークを深める連絡協議会などを設置する必要があります。
 学校外の身近な地域で、子どもたちの豊かな人間的成長を保障する場と機会を提供することがたいへん重要になっています。障害のある子どもの場合には、とくに身近な地域で安心して遊んだり、交流したりすることに、特別の手立てと「場」の保障が必要になると考えます。
 「子どもの権利条約」にあるように、子どもたちに「休息・余暇」の権利を保障する施策の充実を国に求めていくとともに、京都府として障害がある子どもの放課後・休日活動の積極的な施策が実現されるよう、私たち教職員と父母が共同していっそう障害児教育運動を発展させることが求められます。

(かねこ・よしひろ)
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