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【連載0─学校教育と「特別な教育的ニーズ」─学習障害や多動の子どもたち】

連載にあたって
はじまったばかりの教育的対応


滋賀大学教育学部教育実践総合センター

窪島 務

教室のやりにくい子

 人の話を聞いていない、忘れ物をする、机の上ばかりでなく周囲も散らかしっ放し、字は拾い読みで計算は指を使う、友だちとトラブルを起こす、授業中もたち歩き勝手なことばかりする。かといって、知的に遅れているようには見えないし、テストをすればそこそこ点数をとることがある。こういう子どもがいま学校や保育所、幼稚園で極端にやりにくい子どもとして話題になっています。
 実は、多動と学習障害の関係は複雑で、さまざまな見解があります。学校を見ていると、多動は授業の邪魔になったり大きなトラブルを起こすので教師が悩むことが多いのですが、学習障害の場合、よく観察していないと単なる学習の遅れ、変わった子、情緒的な問題、ときには不登校になったら親子関係の問題として処理されてしまいがちです。
 アメリカやヨーロッパでは早くから公的な教育的対応がとられていますが、日本ではやっと取り組まれはじめたところです。そのため、小学校、中学校で完全に見過ごされて高校生になり、そこで大きな問題が顕在化することも少なくありません。
 もともと学習困難に関する問題は量的に見て学齢期の最大の問題であり、「そのままを受け入れて待っていれば時間が解決する」というたぐいのものではありません。目で見てはっきりわかる障害でもなく、かといって「信頼して待っていればいつか良くなる」という問題や親の子育てや社会環境の問題でもない、というように、すぐにはわかりにくいところがあります。しかしまた、教師なら誰でも直面するはずの問題であり、教育専門職の基礎的知識としてある程度 だれでも知っていてよいものです。

「特別な教育的ニーズ」とは

 何らかの特別な配慮を必要としている子どもを「特別な教育的ニーズ」のある子どもといっていますが、最近の日本ではたとえば、不登校・登校拒否児、学習障害児、多動児、情緒不安や緘黙、すぐかっとなってキレる、日本語が十分使えない在日外国人など次々とあげることができそうです。
 実は、国際的には「特別な教育的ニーズ」のある子どもは10〜20%はいるということになっています。北欧では、一時的に特別な配慮を要する子どもを含めていますので、30〜40%になるといわれています。つまり、5人に1人から3人に1人ぐらいの割合で、特別な教育的配慮を必要とする子どもが存在しているわけです。

子どもの本音を読みとる

 この場合の「特別なニーズ」は、一人ひとりの個別的ニーズと言い換えてもいいでしょう。問題の核心は、子どもたちがそこからくるさまざまな困難から、学習や友だち関係などで深刻に苦しみ悩んでいる、ということです。子どもはわからない、伝わらない、思っているようにできない、わかってもらえない、ということをさけるため、はしゃいだり、ちゃかしたり、暴れたり、学校に行くことをいやがる、という行動をとることがあります。その表面的な現れにとらわれることなく、行動に込められた子どもの悩みや苦しみ、発達要求を読みとってあげなければなりません。ここをしっかりとらえることが重要です。
 しかしまた、この問題は教師だけでは十分な対応をすることができません。教育相談、医療など学校外の専門機関との連携をしっかり作っていくことが大切です。
 この連載では、学習障害(LD)の中で中心的な読み書き障害について、行動の問題、多動(ADHD)などとの関連も含めて考えていきたいと思います。

(くぼしま・つとむ)
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