トップ ひろば 130号目次
【エッセー・私と京都】

夢が現実に家族でアクティブに京都を満喫

Victor Cervntes Barrera
ビクトル・セルバンテス・バレッラ
(Victor Cervntes Barrera)
(テコンドー教師・メキシコ)

衝撃的な寒さのなかを京都に

 いつの日か日本に来たいというメキシコの一家族の夢と計画が、2000年10月3日に現実のものとなりました。教育省がグラシエラ・ペーニャ・トレホ、すなわち私の妻を、日本の国費留学生として派遣したのです。文部省は家族同伴で受け入れてくれました。
 空手が好きな私たちは、沖縄に行けるよう要請しましたが、京都になりました。しかし京都の地理と歴史、関西地方におけるその重要な地位を知り、喜んでこの街に来ました。
 私たち家族はそれぞれ大きな動機を持ってここにやってきました。妻のグラシエラは70人の選抜教員の中に入り、最終的に12人が選ばれて日本に来ました。私は26年前、メキシコ武道チームと 一緒に日本の7都市に行きましたが、そのとき、私たちがともに練習し競技した学校の先生たちのうちに見 られる規律性、神秘さ、克己心とともに京都の歴史や神社仏閣にも印象づけられました。ですからこの地に再び家族とともに帰ってくることができ、まさに夢が現実となったのです。
 冬に向う季節に着いたので、気候が衝撃的でした。来たばかりの週に風邪をひいてしまい、私たちの日本における使命や希望を妨げるような寒さではあるまいかと一心に考えつめたほどでした。しかしすぐに慣れ、来日当時よりも格段に寒い2月に、7歳になる娘のビクトリアを徒歩や自転車で伏見桃山の小学校につれて行きました。
母親のペーニャは、京都大学で6か月の日本語コースをとったあと、この地の京都教育大学でメキシコと日本における算数教育の比較研究をおこなっています。

知的好奇心で隅々を歩き回る

写真
宇治の街を背景に家族で

 私たちが今回の旅を実現したことで受ける最大の利益は、娘が日本の文化、とくに言語についての知識でしょう。生徒が英語を学習していることもあり学校側の関心もここにあると私達は見ています。さらに冬山の散歩、音楽教室 、運動会などのレクリエーション活動があります。
 私たちはスポーツ、とくにテコンドーが好きで、長年稽古をし、教えていますが、このおかげで、この都市の四隅、嵐山から比叡山まで、鞍馬から平等院までを、知的好奇心に燃え、力強さと調和、神秘と美の神社仏閣をめぐって、疲れ知らずに歩きつづけることができます。
 忘れられない美しい光景は、庭に厚く降り積もった雪、花々と池の魚の多様な色彩、五重の塔に降りかかる軽やかな雪片。さらに街を囲む山の高所から見た雪景色、琵琶湖、また宇治川の眺望です。
 なつかしく思い起こすのは、ある学校からの帰り道に降ってきた初めての雪のことです。その学校ではメキシコ文化についての会議とテコンドーのエキシビションがありました。
 京都の通りを1日めぐり歩くのは、なんともすばらしいです。鹿苑寺から京都御所を通って銀閣寺まで、さらに平安神宮へ。知恩院を訪ねたあと清水寺へ。祇園に戻って西へ先斗町から烏丸通りへ出て、京都駅まで歩くのです。このようにして8、9度も歩いたでしょうか。私たちはどの通りからも、多面的で国際性豊かな、また偉大な歴史と技術進歩の調和のある都市の姿を楽しむことができ、新たな発見も得られます。

自転車のある生活

 タクシーやバス、電車など交通システムにおける時間の正確さに良い印象をもちました。それに対して我が国メキシコではなぜうまくいっていないのか、分析する値打ちがあるでしょう。また狭い道路にもかかわらず、人々と大量の自転車やバイク、車がうまく折り合っています。けんかや事故も見ましたが、歩行者に対する配慮があると思います。
 メキシコでもたいてい子どものころに自転車に乗るのを覚えますが、私たちはここ京都で新しく習ったことで問題が起こりました。娘が事故に遭ったのです。彼女と学校からの帰りに、車輪に足を入れ、大ケガをしてしまいました。またある日、朝食に出かけているとき、警官が駐車違反で自転車を持ち去ってし まいました。
 でも、これは私たちが、家族で琵琶湖居住者協会主催の国際サイクリング大会に参加する妨げとはなりませんでした。8カ国の人々の参加で、2日間をかけ琵琶湖一周165キロです。参加を決めたときは60か70キロと考えていましたが、完走したことは忘れられない思い出です。また富士山の火口への二度の登攀遂行も言っておくべきことでしょう。

京都とテコンドー

 スポーツが私の専門であり、テコンドーの全国選抜チームの前コーチなので 、スポーツ活動についていろいろ思い描いてこの地にやってきました。とくに多くの人々の武道への参加について考えていました。
 新しいトレーニングや試合の方式をみましたが、それらはスポーツ教育のための模範演技として有用だと思われます。どのような型も剣道や空手、合気道、柔道──この50年を通じてメキシコ最初の武道──などの練習に役立ちます。またシドニーにおける最強の日本チーム、オリンピックのメダリストたちの最高レベルの試合を見るのは大きな喜びです。オリンピック新種目のテコンドーの教育と訓練は、次期大会には一層発展しているものと思います。日本の競技者たちはシドニーや昨年の11月、韓国の済州島で開かれた世界選手権で銅メダルを得ました。そして私たちは、学校や体育館、フェスティバルなどにおけるエキシビションを通じて、この国のテコンドーの発展にささやかな貢献をしました。また伏見区の京都教育大学国際交流会館でテコンドー教室を開きました。

日本人へ

 私は写真が趣味で、京都の生活や、メキシコの料理(タコス)や代表的な踊り、テコンドーのエキシビションなどで参加した市民フェスティバルを撮るために約80本のフィルムを使用しました。
 私たちは家族で、また友だちと四条から出町柳まで、鴨川の水や魚、ユリカモメ、サギと遊びながら散歩しました。メキシコへの手紙に、高齢者たちの楽しい印象について書きました。
 この人たちはグループで川や寺、山へハイキングに行きます。私は日本を大国に導いた日本人の仕事への意欲や特色あるチーム精神、ある いは私に対する道案内やその他の親切、友愛精神について考えます。
 私たちは日本の当局の好意と配慮、また日本の友人たちや先生方の親切と人情味にお礼を申し上げます。その貴重な援助は私たちのプログラムの実行によい結果をもたらし、メキシコへ帰るに当たって私たちを勇気づけてくれるでしょう。

(ビクトル・セルバンテス・バレッラ/テコンドー教師)
トップ ひろば 130号目次