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【エッセー・私と京都】

京都に習った私の生活スタイル

Tulgat Mainbayer
チュター・チンルクサー
(京都大学大学院経済学研究所・タイ)

 私は1999年4月、留学のために初めて日本に来た。それまでに2回日本へ来たことのある私は、日本に対して、一所懸命働く人たちと混んでいる駅というイメージしかもっていなかった。それで日本に留学するのはたいへんだと思っていた。
 しかし日本人の友だちから、京都で勉強することはうらやましいことであり、歴史のとても古い町で、観光でも人気のある美しい京都は、誰もが行きたいところであると聞き、京都では良い研究ができるかもしれないと楽しみに思うようになった。
 日本とタイの違いの一つは季節である。バンコクはいつも夏のような天気。年間の平均気温は、二八度である。盆地の京都で有名なのは、たいへん暑い夏と厳しい冬の気候である。温度差の激しい京都に、1年通して住んだ私は、全然たいへんではなく、むしろとても楽しかった。厳しい日もあるけれど、快晴の春と秋もいっぱいだ。そのうえ年中、伝統的なおもしろい行事がある。

春、はじめてのお花見

 日本人は新しい生活を4月からはじめる。新入生と卒業したばかりの社会人は、ともに新しい道へ出ていく。どうして春からはじめるのかわからないけれど、私は、春は新生の意味を持つからだと思う。1999年4月、京都に来たばかりの私は、どきどきして、日本での生活を心配していた。ちょうどそのとき、日本人の友だちに初めてお花見に連れていってもらった。まだ寒いのに小さい桜の花が咲いていた。有名な哲学の道できれいな桜を見ながら、いくらたいへんでも桜のように明るくがんばらなければ、と思った。春の桜は初心者の気持ちを応援してくれる。
 京都市内にはお花見の名所がいろいろあるが、一番おすすめなのは、市の中心にある京都御所である。御所は年2回、各10日間しか公開されていない。4月中旬のお花見の際と10月下旬の紅葉のころである。すばらしい公園と聞いた私は、日本人観光客とともに昔の天皇の住まいを訪問した。何回行っても、そこから京都の山を見ると、別の世界にいるような感じがする。外がいくら賑やかになっても、御所の広くて穏やかな空間に立てば、自分の心もなだめられる。
 春の食べ物は、竹の子である。4月下旬から5月が竹の子の季節である。どこのスーパーでも新鮮な竹の子が登場する。おもしろいのは、自分でも竹の子を掘れることである。去年友だちに誘われて初めて新田辺へ竹の子掘りに行った。山の中は竹がいっぱいで、小さいのもあるし、大きいのもある。みんな好きなところに座って一所懸命竹の子を掘っている。家族づれも多い。掘った竹の子を使って私たちは畑でタイカレーを作った。新鮮なので、とても美味しかった。日本の竹の子はタイのものより柔らかくて、カレーを作るのに適していると思う。新田辺の辺りは竹の子だけでなく、季節の野菜と果物がいっぱいだ。今度はイチゴか柿を採りに行くつもりだ。

夏、祇園祭りと大文字送り火

 7月に入ると、どんどん気温が上がってくる。山に囲まれている京都は、たいへん暑くなる。一番暑い日は40度近くにもなる。暑い国から来た私にとっても「暑い暑い」と言わずにおられない。暑いけれども、夏は行事が一番多い。お祭りと花火大会があちこちで行われる。雨が降らない日に戸外で遊ぶのはいい気持ちだ。
 京都の三大祭りの一つは祇園祭である。7月中に行われるが17日に山鉾巡行がある。人力で巨大な山と鉾を進めるのはたいへん珍しいことだと思う。その2日前の宵々山と前日の宵山に完成した山と鉾を見に行ったり、四条通に出店した屋台で買い物を楽しんだりできる。日本人の女性と一緒に浴衣を着た私も、暑さを忘れて混んでいる四条通で楽しく遊んだ。
 もう一つの夏の大事な行事は大文字五山の送り火である。毎年8月16日に行われるお盆の行事で、京都の五山にそれぞれ大きく書いてある「大」「妙法」「船形」「鳥居形」に点灯される。「大」は二つあって、「大文字」と「左大文字」と言われている。日本人の友だちによると、この行事は祖先崇拝のため、天国へ帰る祖先がこの世を見るように五山に点火する。大文字山の近くにある京都大学で勉強している私は、よく大文字が見えて、感動した。

秋、素晴らしい紅葉

 10月から京都は秋になる。昼間はまだ暖かいが夜は寒くなる。少しずつ葉っぱが紅くなってくる。それは紅葉の季節だ。秋も京都は観光客が多い。1年中気温があまり変わらないタイには紅葉がない。だから、秋を楽しみにしていた私は紅葉の名所を探して見に行った。おもしろいのは、駅でどのくらい葉が紅くなったか知らせてくれることである。観光客とハイキングの人たちにとって、とても便利だと思う。自然がいっぱいの京都はハイキングがおすすめだ。おばあさんもおじいさんも元気に集まる。よい運動ができてたくさん友だちもできる。楽しくない点はどの名所に行っても人がいっぱいであることだ。京都は美しくて全国で大人気だから、混んでいるのはしょうがない。
 ところで、静かな紅葉の名所はまだある。京都市の北にある修学院離宮だ。一般の人は誰でも入れるが、ただし、宮内庁京都事務所へ申し込まなければならない。そういうわけで、ほかの名所と比べると、そんなに人で混んでいない。そのうえ、修学院離宮のなかでは宮内庁職員のガイドさんが案内してくれる。
 秋といえば、栗と柿である。タイでは柿がないので、ほとんど中国から輸入されている。まあまあ美味しいといえるが高価だ。でも京都には柿の木はどこにもあって、柿は珍しいものではない。大きくて美味しくて値段もびっくりするくらい安い。ほかにはミカン。春と夏はとても高いのに10月下旬から安くなる。甘くて種もなく食べやすいし、私は大好きだ。

もう冬だ!

 秋の青空は、私にとって、いつも短い。紅葉が終わったら、だんだん気温が下がって12月に入ると、たいへん寒くなる。京都は夏がとても暑いのに冬はマイナスまで下がる。雪も降る。暑い国のタイ人にとって、何年日本にいてもそんな寒さには慣れることはできない。寒いうえに風の強い日には自転車に乗るのも危ない。外で遊ぶのが大好きな私も、ずっと暖かいこたつにこもる。昼間は短くて夜が長くなる。冬はあまり行事がないけれども、冬の名所は京都にいくつかある。雪の朝、金閣寺などは金色に輝いてたいへん見事である。
 この季節の食べ物で「鍋」に勝るものはない。熱く煮えるスープを飲んだら、いっぺんに体が暖かくなる。友だちが集まって一緒に食べるのは最高だ。この「鍋」はタイにもある。「スキー」である。タイの「鍋」は辛いタレをつけて食べる。日本のと同じで白菜をはじめいろいろな肉と野菜がたくさん入っている。それは健康のためだと思う。
 寒い外にあまり出たくない私も、12月31日には八坂神社へお参りに行った。びっくりすることには深夜なのにたくさんの人たちが集まってきていた。八坂神社前から四条大橋くらいまで人が並んでいた。みんなはお正月に神様に挨拶して、いい年をお願いするに違いない。
 翌日のお正月も、寺と神社は正式な着物を着た初詣での人であふれる。私は学生としてよく勉強できるように毎年北野天満宮へ初詣に行く。この神社は学業の神様なので、受験生がよく行く。本当に神様がいるかどうかわからないけれど、祈ったら自分の気持ちが強くなって、がんばって勉強ができる。
 私の京都に対する印象は、みんなが自然と季節を大切にすることである。季節の花を見に行ったり、季節のいろいろ野菜や果物を食べたり、行事に行ったりする京都の人は自分の町を愛し楽しむ。それは、私が京都から習った生活スタイルである。 

(チュター・チンルクサー/タイ人留学生)
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