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125号
【特集「学校のあり方を問う」/日本の学校はどこへいく?(2)】

学力は大丈夫か?!

京都教職員組合副委員長

辻 健司

学力低下と意欲の低下が心配

「『総合的な学習の時間』や『選択』が増える一方、教科の時間が減少することになる。これにより『生きる力』を育てるというが、義務教育の段階ではすべての生徒に生きる力の底辺を支える、しっかりした学力をつけることが大切だと感じる」(京都市南区の中学校の先生)

「『総合的な学習の時間』が今年は年間35時間だが、行事と関連させるので比較的やりやすい。しかし今後、時間数が増えるなかでの学力保障が心配である」(相楽郡の小学校の先生)

 このような声は、現場の先生方の率直な思いを代表しているといえます。2002年から完全5日制となり、授業時間が週二時間減ります。それだけではなく「総合的な学習の時間」の導入にともない、「道徳」以外のすべての教科の授業時間が削られ、学習内容が三割削減されます。これでは深刻な学力低下をもたらすのではないかとの懸念が、教育関係者、父母、マスコミ、財界、はては文部省官僚の中からも出てくる事態となっています。
 これに対し、文部省政策課長の寺脇研氏は次のような言い訳をつづけています。
 「全員が共通して学ぶ部分が三割減るだけで、学びたい子どもは先へ進めるようになっている。三割減らせば全員がわかるようになりますから、その先もやってみようという気持ちがもっと起こる。だから日本の子どもの学力は落ちない」こんな話、信じられますか。たとえば、小学校では授業時間が6年間で244時間も減るのに、覚える漢字の数(1006字)はまったく減りません。教える量は減らなくて時間数が減れば、いっそう詰め込み教育にならざるをえません。
 一方で、算数の削減が目立ちます。
 「かけ算は2桁同士や3桁×1桁まで」「少数の計算は小数点第1位まで」「円周率は3.14ではなくおよそ3でよい」などまだまだあって、基礎中の基礎さえなくなってしまうのに応用力などつけられるのかと、心配になるのは当然のことです。しかもことはすでに始まっていて、河合塾が高校生の学力変化を見るために毎年同じ問題でテストを実施していますが、数学の平均点を調べるとこの7年間に6点近くも低下しているのです。そうした傾向に拍車がかかるおそれが出ているといわなければなりません。

子どもたちはわかる授業を求めている

 偏差値教育はダメだと「ゆとり教育」が打ち出された1977年以来、子どもたちにどんな変化が起こっているのでしょうか。それは、家での学習時間の減少であり、その一方でメデイア(テレビ、ゲーム、コミック雑誌など)を楽しむ時間の増加です。子どもたちが大量に「学びからの逃走」を始めており、「メデイア漬け」ともいえるような状況が広がっているのです。
 こんななかで子どもたち自身はどう思っているのでしょうか。小・中学生を対象にしたどの調査でも、「校則をゆるめてほしい」とか「もっと生徒の意見を聞いてほしい」などの願いとならんで、あるいはそれ以上に多いのは「もっとゆっくりわかるように教えてほしい」という願いです。高校生でも同じで、普通科でも特進コースでも、わかる授業を求める声が、かなりの割合を占めることが明らかになっています。

30人学級はみんなの願い

 教える教師にしても、冒頭に紹介したとおり、思いは一緒です。教職員の願いの一位は「30人学級」、二位は「教職員の増員」、三位は「持ち時間数の軽減」です。
 ところがいま教職員はたいへんな状況に追い込まれているのです。ごく最近京都教職員組合が調べたアンケートで、「とても疲れる」と回答した人が50.6%、「やや疲れる」が44.0%、合わせると94%をこす教職員が、疲れの取れないまま子どもたちと接していることがわかってきました。
 教育条件の改善が進まず、つまらぬ雑務と管理職からのチェックが増え、残業と持ち帰り仕事は当たり前となり、定年までもたずに退職する教師が増えているのが実態です。そこへ最近は文部省や教育委員会の一方的な情報による「不適格教員」「指導力不足教員」キャンペーンが加わり、教職員の苦悩はいっそう深刻になっています。

 文部省は来年度からいくつかの教科で少人数授業ができるように講師の配置を考えているようですが、40人学級は変えないままなので、学習集団と生活集団がちがうとか、能力別の授業にしないといけないとかいうような、かつて小学校で経験したことのない影響が子どもたちの間に出てくるおそれもあるのです。
 いま学校教育に求められているのは、一人ひとりの子どもたちに基礎的な学力をしっかり身につけさせることであって、「奉仕活動」を押しつけることではありません。教職員はそのための専門的力量を向上させなければなりません。
 政治家や教育行政にたずさわる人々がやらなければならないのは、むだな公共事業や軍事予算を削減して教育予算を増やし、30人学級や教職員の増員をはじめとする教育条件の改善に力を入れ、すべての教職員がいきいきと働ける環境を作ることです。子どもと教育の困難を克服する展望は、教育基本法をいかしてこそ開けるのです。

(つじけんじ)
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