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X.情報の入手(メディアとの関わり)
(1)電子メディアの影響について

 
 急激に変容する社会の中で、電子メディアはどのような影響を与えるのだろうか。
 「携帯電話」「iメール」「インターネット」「Eメール」などは、「非同期コミュニケーション」と呼ばれる。非同期コミュニケーションとは、会話し合う同士がそれぞれ別々の時間に発言しながら成立するコミュニケーションのことである。

 こうしたメディアは、児童のコミュニケーションのあり方に大きな変更をもたらしているものと考えられる。それは、自分の周囲にいる人以外の人とのコミュニケーションを可能にするからである。ただでさえ、地域社会の消失、塾通いの増加などにより、児童が接することのできる人間は限られ、コミュニケーションの時間はますます減少している。しかし、同時に「出会い系サイト」を利用した売買春行為や、携帯電話を利用した「ヤミ金融」などの落とし穴が潜んでいることを忘れてはならない。

 これからも電子メディアは児童とさまざまな形で関わり、その可能性を広げてはいくが、児童自身が自らの道具として取捨選択しながら使いこなしていけるように環境を整え、能力育てていかなければならない。

 
(2)調査項目から見られる特徴

 
(質問番号17)「あなたが日頃よく見たりきいたり読んだりすることが多いものに○をしてください。」の結果は、次の通りである。

日頃見聞きするもの 小3 小4 小5 小6 中1 中2 中3 合計(人)
テレビ 44 47 60 83 122 98 145 599
ビデオ 25 22 27 49 55 49 81 308
ラジオ 5 2 5 10 16 23 49 110
テレビゲーム 33 34 29 46 68 44 48 302
23 13 16 19 28 20 30 149
音楽 12 15 28 55 90 79 129 408
新聞 5 0 12 15 16 12 28 88
雑誌 7 7 18 38 59 56 90 275
マンガ 31 42 44 63 98 70 105 453
インターネット 5 8 11 9 17 15 31 96
合計 59 56 65 90 133 105 158 666
 
  子どもたちの情報の入手手段としての第1位は テレビ、第二位は マンガ、第三位はテレビゲームである。全体として高学年になるに従って、流行的青少年文化を流布する傾向を持つメディア からの情報量が増えて、その影響が表れてくると考えられる。

  「音楽」「雑誌」などは、学年が上がるに連れて増えている。まだ小学校段階では、「ラジオ」「インターネット」は少数である。

  「本」は高学年になるにしたがって減ってきて いる。これは、勉強や習い事などで忙しくなり 全体的に子どもの自由時間が減ってきている影響ではないかと思う。

 西浦秀通は、こうした点を「帰宅時間後のかなりの時間が、テレビや音楽鑑賞、あるいはゲーム・携帯電話などに費やされている。子どもたちの生活時間は、消費文化に奪われてしまって、時間自体を消費する生活となっている。そのため、家庭学習や読書・思考のための時間、そしてコミュニケーション能力を発揮させるための他者と関わる時間を確保できなくなっている。」(2002,11)と指摘する。

 この情報の入手について、男女別に比較してみると、男子では「テレビゲーム「マンガ」などが多いのに対して、女子では「雑誌」「音楽」などが圧倒的に多いことがわかる。小学校の高学年では、比較的に女子の精神的発達が早く、流行的な青少年文化への関心が、男子よりも早い段階で高まると考えられる。また、男女とも「本」「新聞」などの率が低いことから、「活字離れ」が生活の中で起こっていると思われる。「雑誌」は、「読む」というよりも「見る」ということに重点が置かれているのであろう。

(質問番号18)「あなたが友だちと遊んだり話したりするとき、どんなものをよく使いますか?」の結果は、次の通りである。

よく使うもの 小3 小4 小5 小6 中1 中2 中3 合計(人)
テレビゲーム 29 28 31 45 74 48 56 311
電話 12 10 15 33 48 43 71 232
携帯電話 5 2 3 0 23 22 44 99
Eメール 5 2 4 2 29 22 45 109
ボール 25 28 38 36 41 22 34 224
カード 26 20 21 40 46 31 48 232
交換ノート 6 18 15 30 19 10 8 106
手紙 6 7 12 16 39 34 44 158
雑誌 7 7 12 40 52 35 61 214
自転車 19 16 27 25 33 17 21 158
お金 6 7 15 32 40 33 37 170
合計 53 54 65 88 132 99 151 642
 
 外遊びとしての「ボール」、内遊びとしての「テレビゲーム」「カードゲーム」は、全体として高い傾向を見せている。また「雑誌」「お金」などは高学年になるに従って増加する傾向がある。小学校においては、「携帯電話」「Eメール(インターネット)」などは、まだ高価であるために、多くの子どもの中には普及していないと思われる。しかし、中学校では、急速に増えており、こうした傾向が小学校高学年に広まるのは、時間の問題と思われる。





 質問番号18の男女別比較では、下記のようになる。この設問に関する回答は、質問番号17と同様に男女差が著しいのが一つの特徴である。

 遊びに関する点では、男子は「テレビゲーム」「ボール」が高く、「カード」「自転車」には大きな差が見られない。女子は「お金」が数値として高い。(「ショッピング」が推測される。)

 直接的なコミュニケーションの手段としては「交換ノート」「電話」「手紙」などで、この点は男子に比べて女子の方がはるかに数値が高い。これは女子の方が精神的は発達が早い時期であると共に、男子が「直接的な対話」によるコミュニケーションが主体であるのに比較して、女子は上記のような「媒介物」を介してコミュニケーションを成立させようとするためであろう。しかし、携帯電話やEメールは、小学校段階ではまだ少数である。

 テレビゲームについては、全体として圧倒的に男子の方が高い値を示している。男子が全体の4/5の子どもが遊んでいるのに対して、女子は全体の1/4程度である。

 今回の調査では、ゲーム内容にまで踏み込んではないが、「対戦的」「暴力的」な内容は子どもたちに大きな影響を与えていると思われる。

 反対に電話に関しては、女子の方が圧倒的に高い値を示している。男子が全体の1/6程度であるのに対し、女子は1/2程度の子どもが使っていて、高学年になるに従って増加の傾向が見られる。

 女子のとってのコミュニケーション手段として定着していることが伺える。

 「携帯電話」に関しては、小学校では一部の利用が見られるが、全体としては少数で、中学生になって増加していくものと思われる。(しかし、調査後の2000年〜2002年にかけて、小学校高学年の女子の間で、クラスによっては50%に達するなど、急速に普及していることが報告されている。)



















 Eメールについて言えば、小学校段階では、そう広まっている状況ではない。しかし、中学校になって、携帯電話を持つことによって、急速に普及していることがわかる。全体として、女子の方が率が高く、「手紙・交換ノート」「電話・携帯電話」等と共に、「Eメール」が重要なコミュニケーション手段として活用されていることが伺える。

 
 ボールについては、他の項目に比べて数値が高い。男子は小学校4年生がピークであるが、女子は小学校5年生がピークとなっている。これは、学校においては男子がドッジボールが主流であるのに対して、女子は高学年からバレーボールを使用するためではないかと思われる。

 「カードやプリクラ」という調査であったため、やや二つのものが重なっている可能性があるが、全体として男子が減少傾向に示すのに対して、小学校6年生頃より女子が増えてきているのは、「プリクラ」による増加傾向と考えられる。そういう点では流行を取りいれるのは女子が早いと言える。

 交換ノートは、男子がほとんど無く、女子の率が高い。特に小学校5年生頃から、友達とのコミュニケーションの重要な手段となっていることが伺える。

 また次の「手紙」についても、教室などで「手紙の交換」がよく行われるが、これについても「交換ノート」と同質の傾向であると思われる。





















 また特に注目すべき点は、「お金」の問題である。この点について泉真理子は次のように指摘する。「「お金でおかしやおもちゃを買う」と答えた女子の学年別推移と、男子の学年別推移を比べると、ちょうど1年のずれで、女子の推移経過を男子がたどっていることがわかる。

つまり、女子では、小4から小5で大きく増加し、小6でピークをむかえてその後は減少するといった形なのであるが、男子は、ちょうど1年遅れて、小5から小6でピークをむかえ、その後減少するという形をとっているのである。」・・・・「男子よりも女子の方が商業スタイルに近い生活を送っていることが分かる。つまり、女子は早期からファッションなどに敏感で、社会の情報化の影響を大きく受けていると言える。これは情報量や商品量が男女で大きく違うためであると思われる.

男子向けのあそび道具といえば、テレビゲーム、漫画、ボール(スポーツ用具)などが考えられるが、これらは一つ一つの値段も子どもたちにすれば高額で、気軽に買えるものではない。またボールなどは一度買えば長持ちするし、いくつも必要なものではない。

それに対して女子向けの遊び道具には、カード、交換ノート、雑誌、人形などが考えられるが、それに加え、鉛筆(シャープペンシル)、ノート、消しゴム、シールなどを買い集めてコレクションにするのも小学生の女子のあそびのひとつである.それらは比較的手ごろな値段で売られており、集めるのも容易である。また中学生になると、好きな芸能人(アイドル)のポスターなどのグッズを集める女子も多い。

加えて最近では子ども向けの化粧品も多く市場に出回っており、大人の女性に憧れる早熟な女子の間では、それらも立派な遊び道具であると言えるのではないだろうか。このことから、日頃のあそびに「お金を使う」と答えた女子が男子を大きく上回ったことも説明がつくと思う。」と分析している。

 
(3) クロス集計から見える特徴的な事柄

 

 メディアと交友関係における同調圧力との関係(質問番号11と18の関連)の結果は、次の通りである。

 
 特徴的な点では、同調圧力が少ない子どもたちは、「テレビゲーム」で遊ぶ率が高いという点である。その分、「電話」が少ない。学校が終わってからの生活の中で、テレビゲームで遊ぶ分を友達に電話をかけコミュニケーションを図っている子どもたちの姿が伺える。

そうした子が仲間集団に同調的であるのに対して、そうしたことをせず、(その時間を)テレビゲームに当てている子どもたちは、したがって情報も入りにくく、学校生活の中で同調できないという面もみられるのではないかと推測される。

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