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T.家庭・家族における対人関係の特徴 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
(1)児童の発達的特徴について @親に対する好みと愛着
「愛着(アタッチメント)」は、生後一年までの間に、その基本が形成され、子どもが親との信頼関係を形成する上で、重要なものである。また、親と子間で形成された信頼関係(基本的信頼関係)が、その後の対人関係における社会性の発達にきわめて重要な役割を果たすと考えられる。一般的に子どもは,父親よりも母親を、寛大で、補導的で、援助的であるとみなし、父親よりも母親をいっそう好む傾向のあることが伺われる。
今回の調査では、@「男女とも親に好意をもち愛着をもつが、とくに母親に対してこの傾向を強く示す。」点については、従来の研究と同様の結果が得られている。また、A「女子では、母親に対する好みが圧倒的に多く、女児は男児よりも母親に対して依存的である」点では、女子は、母親だけでなく父親に対しても「好き」と答える率が高く、男子より依存的であるという結果であった。また、B「「相談相手になってほしい」などの受動的要求は、全体として小学4・5学年のころが強く、その後は弱くなっている。」という点については、同様の結果が得られている。C「女子は、(受動的要求は)父親に対しては弱くなっていくが、母親に対しては中学2・3学年になってもなお強い状態が続いている。」という点でも、同様の結果が得られている。
A依存からの離脱
児童期を通して,子どもは,両親に対して好意と愛着を示し、とくに母親に対してこの傾向を強く示す。しかし、従来の研究では、親に対する「自分の世話をしてほしい」「相談相手になってほしい」「自分を可愛がってほしい」などの受動的要求は、年齢と共に弱くなっていき、親に依存する傾向が減少すると指摘されている。
児童期に入って、行動範囲が拡大するにつれて、子どもが対人関係を結ぶ対象は急速に増加する。そして、それまで主として親だけに依存していた子どもは、依存の対象を拡大し、依存の様式を変化させていく。依存対象の拡大や依存様式の変化は、子ども自身の能力の増大によるだけでなく、年齢と性にふさわしい依存行動についての社会的規準による影響も大きいので、依存行動における年齢差と性差が顕著になってくる。
児童期における両親、とくに母親への依存からの離脱は、母親への依存から自立へと進むというよりも、依存対象が拡大し、その対象がどんな種類の依存要求を満たしてくれるかが吟味され、多くの対象間においてその充足程度が明確にされていき、結果として相対的に親への依存が減少していく過程であると考えられる。また、われわれの社会においては、親への依存は男児には好ましくなく、女児には好ましいとみなされがちであるので、男児は女児よりも早く、親以外の対象へ依存を移し換えていく傾向がある。したがって、児童期における親への依存からの離脱は、特定人物のみに依存する状態からの脱中心化の過程とみなされうる。
(2)調査項目から見られる特徴
(質問番号2)「あなたがいっしょに住んでいる家族について、いる人に○をしてください。また□の中には人数を書いてください。」の結果は、次の通りである。
(小学生)
全体の約85%の子どもが「父母・兄弟を含む家族」の中で生活しているが、母子家庭が8%、父子家庭が2%、一人っ子6%が存在している。今回の調査では「一人っ子」が意外と少なかった。
(質問番号3)「あなたのことについて、あてはまるものに○をしてください。」の結果は、次の通りである。
「小さい頃からよく外遊びをしていた」という子どもが全体の2/3近くにのぼる。しか し逆に言えば1/3の子どもは幼児期〜小学校低学年の間にかけてあまり「外遊び」をしていないということになる。こうした子どもたちが心身の健全な発達に何かしらの課題を抱えていることは推測される。「動物の世話」については、約半数の子どもたちが経験をしている。これは「命」をどう学ぶかと言うことに大いに関係があると思うが、その「世話の仕方」については、この調査では明らかにはなっていない。また「家のお手伝いをよくするほうだ」は全体の1/3程度であって、自分自身が家庭の中で「役に立っているかどうか」=存在感というものが不明確なままになっているのではないかと感じる。また、少年時代に自然の「もの」にこだわり、関わる子どもたちの姿は、その後のアイデンティティーの形成に大切なものである。(この点については、「自己形成(自己肯定感)」の項でもふれる。)また、男女別に見た結果は、次の通りである。これを見ると、「外遊び」は男子が多く、「手伝い」や「植物の世話」は女子が多いことが伺われる。 (質問番号4)「あなたは、家の人で好きな人がいますか。」の結果は、次の通りである。
8割〜9割の子どもが、「家族の中で好きな人がいる」と答えており、全体としては 良好な家族関係が伺える。しかし1〜2割の子ど
もについて、心配な家関係となっている。5年生の場合を除いて全体としては高学年になるに従って、家の中での関係が希薄になっていくのは、子どもたちの意識が「友達関係」に向いていくことに関係があるのではないかと思われる。
「家の人で好きな人」は、母親が一番多く、
続いて父親となっている。しかし良く見ると高学年になるに従って低下傾向が見られる。この年代の子どもたちは、まだまだ父母への依存関係が強いことの表れであると考えられる。兄弟関係の率が少ないのは、「兄弟が少ない」という面の反映もあるかもしれない。しかし、同時に、父母に比較して、兄弟への愛着が低いことが伺われる。これは、兄弟があっても、一人一人が「一人っ子」的な育ち方をしているのではないかと考えられる。 (質問番号16)「あなたになやみごとや困っていることがあったら、だれかにそうだんしますか?」の結果は、次の通りである。
結果は学年においてあまり差は見られない。約3/4の子どもが相談すると答えている。1/4の子どもたちは「いいえ」と答えている。この背景には「信頼し、相談する相手を持っていない」という孤立した状態が子どもにあるのではないかと思われる。
(質問番号16−2)「「はい、だれかにそうだんする」とこたえた人に聞きます。それはだれですか?」の結果は、次の通りである。
「悩み事の相談相手」のベスト3は、1位 母親、2位 友だち、3位 父親である。しかし
学年があがるに従って、父母への相談が 減り、代わって友だちが増えている。
相談相手としての父親は、母親に比べてその半数にも達していない。多忙等の理由により、必ずしも子どもとは日常的に「親密ではない」状態があると考えられる。また、学校の先生や習い事の先生に対しては、悩み事の相談相手としてほとんど、期待されていないことがわかる。「相談相手」は、日常的なつきあいの中での「親密さ」が反映しているものと考えられる。
(3) クロス集計から見える特徴的な事柄
「父母に対する愛着」と「父母を相談相手とするか」について、(質問番号4と16との関連について)考察を試みた。その結果は、次の通りである。
はじめに、「父母が好き」のあ子ども群から「相談するか」を調べる と、父に対しては「好き」でも必ずしも相談相手ではないことが伺われる。
これは、家族の中で父親に愛着を持っていても、しかし同時に「相談できるほど身近な存在ではない」ことを表していると考えられる。母親に対しては、「好きで相談する」というのは、約55%と、父親よりは多いが、しかし、必ずしも「好き→相談相手」とは直接的には結びついていないことを示している。
反対に、「相談する」と答えた子どもの中で、「父母が好きか」を調べた所、その中での「好き」の割合がきわめて大きいことがわかる。同時に、少数ではあるが、好きと答えていなくても相談相手として選んでいる子もおり、これは、父母に対する保護者としての「信頼感」を示していると考えられる。 |
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