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V.学級集団への帰属意識の特徴
(1)児童の発達的特徴について
 
 子どもは、他人の行動・態度・思考・感情を正確に認知し、予測し、そしてそれらに自信を持つとき,複雑な対人関係を展開し、高度の構造の集団を形成することが可能となる。それゆえに、学級集団や仲間集団における適応的な対人関係の展開は、自分を含む集団成員の相対的・階層的地位を、どれほど正確に認知できるかということにかなり依存すると言われている。
 学級集団の学年的発達に関する従来の研究は、小学校低学年では子ども同士の結びつきは弱いが、中学年ごろには少人数の結合による下位集団が分立し、高学年にはいるとともに学級全体が組織化され統合されていくことを明らかにしている。
 小学校入学当初の児童は,学級という集団に所属しているが、各自孤立しており、教師が各児童を結びつける役割を果たしている。いわば単に集合している段階にある。1学年の後半には、学級内にいくつかの集団が形成されるが、この集団は2,3人の児童からなり、開放的で成員の出入りが容易であり、遊びの際に一時的に形成される場合が多い。この集団の数は少なく、どの集団にも属さない児童が多く、学級全体としては級友間の結びつきは弱い。2学年に入ると、学級内の下位集団はやや永続的となり、その成員数もいくらか多くなって、学級における孤立児はやや少なくなる。
 3年生になると、学級内に形成された下位集団は、昼休みや下校途中に集団活動をしはじめる。集団活動をする際、成員は共通の目標に対してある程度持続的に行動するけれども、目標の実現はなお個人的興味によって動かされ、成員間に明確な相互依存の関係はみられない。学級全体としては、まだ下位集団が分立している時期でまとまりはない。したがって、児童だけの話し合いで、学級全体としての集団活動を行なうことは困難である。
 小学校3学年ごろは,学級におけ児童間の人間関係のひとつの転換期である。それ以前の学級は比較的単純な構造を呈し、個々の児童と教師との結びつきが強いが、3年生ごろから、比較的多くの子どもから結合を求められる中心的児童が何人か出現し、下位集団の分立がめだってくる。
 4年生ごろには、学級の下位集団は、成員の出入りがやや容易になり、集団の分立がくずれはじめ、学級全体が統合の方向へ向かう。しかし校外では、凝集度の高い閉鎖的集団が形成され、さかんに集団活動が行なわれる。学級においては、種々の領域で、リーダー行動をとる者と服従行動をとる者との分化が明確になり、その地位が安定してくる。しかしそのリーダー行動は、学級全体を意識しての行動であるよりは、個人的関心によって動かされている傾向がまだ強い。 5・6年生ごろになると、児童は学級の共同目標を意識し、その実現に向かって互いに協力するようになり、学級全体としてまとまりある活動ができるようになる。学級内に下位集団は存在しているが、下位集団はその独立性を失わずに全体としての学級と力学的依存関係に立つようになる。この時期に、はっきりした学級全体のリーダーが定まってくる、とされている。
 しかし、このような従来の研究にもかかわらず、現代では「学級集団の学年的発達に関する従来の研究」の結果とは、大きな変化を見ないわけにはいかない。
 今回の調査によれば、小学校5・6年生であっても、「学級の中で自分は好かれていない」と感じる子どもが2割に達するなど、学級の中で少なくない「孤立」した成員が存在している。また、「学級の成員からの注意を聞かない。言い返す。」が1割に達するなど、学級の共同目標が意識されず、下位集団が依然として形成されたままである。学級集団は分裂し、グループ決めなでも「話し合い」を選択する児童が4年生をピークに減少を示すなど、話し合い等を通じての「まとまりのある行動」ができなくなってきている点が見られる。また、従来、校外で見られた「凝集度の高い閉鎖的集団」が、学級の中で形成され、それが学級全体の集団形成にとっての課題を生み題している場合も少なくない。


(2)調査項目から見られる特徴
 
(質問番号10)「あなたは、クラスの中でみんなからどう思われていると思いますか?」の結果は、次の通りである。
好かれているか 小3 小4 小5 小6 中1 中2 中3 合計(人)
はい 6 2 1 9 5 11 8 42
半分 39 41 54 59 97 70 121 481
いいえ 14 13 9 22 29 18 26 131
合計 59 56 64 90 131 99 155 654
各学年とも「好かれている」と感じていいる子 どもは少なく、多くは「半々」であり、仲間集団の中での自分自身の位置づけがむずかしいのではないかと 考えられる。また2割近くの子どもは「好かれていない」と答えており、自分の何らかの言動や性格が否定的み見られていると思っているのではないだろうか。全体として所属している「集団」に対しては懐疑的で、自分自身の位置づけがわからないのではないかと考えられる。
 
(質問番号11)「あなたは、友だちのみんなに合わせるほうですか?」の結果は、次の通りである。
友達に合わせ
る方か
小3
 
小4
 
小5
 
小6
 
中1
 
中2
 
中3
 
合計(人)
 
はい 10 10 14 20 32 23 37 146
半分 42 42 50 63 94 76 11 378
いいえ 6 3 1 5 8 7 8 38
合計 58 55 65 88 134 106 155 661
 わずかではあるが、高学年になるに従って「はい」と答えている子どもが増えている。これは自己主張ができないということではなくて、集団とのつきあい方で「友達に合わす」ことによって、友達関係の摩擦をより少なくしようとする「智恵」なのではないかと思われる。全体として多数の子どもたちは「半分」というのは、「ケースバイケースでの同調」という姿勢を持っているのではないかと考えられる。友達がどうであっても自己の立場を貫く子どもは全体として1割にも満たない。

(質問番号12)「あなたは、クラスの友だちの注意をよくきくほうですか?」の結果は、次の通りである。
注意を聞くか 小3 小4 小5 小6 中1 中2 中3 合計(人)
聞く 14 12 22 15 24 29 36 152
どちらも 37 43 35 59 93 62 102 431
聞かない 5 1 6 6 10 11 10 49
言い返す 2 0 1 6 3 3 5 20
合計 58 56 64 86 130 105 153 652
 
 
 「聞く」と答えた子どもは、全体として1/4程度と少ない。また5年生を別として高学年になるに従って減少する傾向が見られる。「注意される」時というのは、自分に非がある場合が多いが、それを認めたくないという心理が強く働くのではないか。「どちらでもない」と答えた子どもがほとんどではあるが、これは「仲の良い友達なら注意を聞く」とか「力の強い者には従う」というようなことも含んでいるためではないかと考えられる。全体から見ると少数ではあるが、「聞かない」「言い返す」という子どもが高学年になるに従って増えているのは、「正義」の軸ではなく「力の軸」で子どもたちが判断をしていることを示しているように思う。

 
(質問番号13)「あなたはクラスでグループや班を決めるとき、どんな方法が良いと思いますか。」の結果は、次の通りである。
グループ決め 小3 小4 小5 小6 中1 中2 中3 合計(人)
好きな人 33 13 33 43 44 61 79 306
くじ引き 20 22 24 48 69 40 72 295
先生 7 5 10 11 11 3 1 48
話し合い 8 20 16 15 34 23 22 138
合計 58 54 64 86 127 105 154 648
 
 「グループ決め」は、子どもにとっては重要な関心事である。「好きな友達・気のあった友達と同じグループになりたい」という思いは、どの子どもにもあるが、それと同時に「不公平感」「合理性」などの意識との対立の中で方法が選択される。結果から見て、「話し合い」が少ないのは、その方法への未習熟さと共に、「話し合い」による集団の利益よりも自己の利益を優先しているのではないかと思われる。また、「先生が決める」ことも少ないが、「自分たちのことは自分たちで決めたい」という気持ちと、(こうした問題には)必ずしも先生に信頼を置いているわけではないことを示している。全体として高学年になるに従って「くじびき」が増えているのは、「不公平感」をなくし「文句が出ない」ようにと集団に配慮しているのではないかと思われる。


(3) クロス集計から見える特徴的な事柄

 クラスから自分がどう思われているか、という点と、同調意識との関係(質問番号10と11との関連について)についての結果は、次の通りである。
 これによれば、「合わせない」という子どもの中で「友達から好かれていない」と意識している子どもの率が高いことがわかる。反対に、「友達から好かれている」という子どもの中では「友達に合わせる」子どもの率が高い。このことから、仲間と同調することと、「好かれている」という意識との間には一定の関係(合わせる子ほど好かれている。 好かれている子ほど合わせる。)が存在していると考えられる。


















 次に、「みんなからどう思われいているのか」という点と「友達の注意に対して、どのように対応するか」の関係(質問番号10と12との関連について)の結果は、次の通りである。
 特徴的なことは、「友達の注意を聞かない」「言い返す」子どもたちに中には、5割〜7割にわたって「友達から好かれていない」と意識している子どもがいるという点である。このように、友達との関わり方が、集団への帰属意識に大きな影響を与えていると考えられるのである。



















 次に、同調圧力と「友達の注意に対して、どう対応するか」との関係(質問番号11と12との関連について)の結果は、次の通りである。
 これによれば、「友達の注意を聞く子ほど同調圧力が強い。」という傾向がでていることがわかる。また反対に、「言い返す」子どもの中では、「友達と合わせない」傾向の子どもが多いこともみられる。こうした点から、集団への帰属意識は、同時に集団からの指示に対して、肯定的に反応するという傾向をあらわしているのではないかと思われる。





































 次に、「友達の注意に対して、どう対応するのか」という点と「グループ分け」との関係(質問番号12と13との関連について)の結果は、次の通りである。
 この点では、「注意をよく聞く子は「話し合い」を求め、反対に、注意に言い返す子は「先生」に決めてほしい。」と考えていることがわかる。集団の注意を受け止められる子は、比較的集団にも受け入れられており、集団への信頼も高いと考えられるが、反対に、注意を聞かなかったり、反対に言い返している子どもは、集団への信頼も低く、「話し合いで決めるよりも、先生が決めてほしい」という、外圧による統治を求めている姿勢が伺える。

 
 
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