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  ●京都教育センター通信 
復刊第135号
 (2020.2.10発行) 
 

 

ジェンダー平等と「家族」

高橋 明裕(京都教育センター研究委員長)

 最近、ジェンダー平等やLGBTという言葉を目にすることが多くなってきた。戦前の日本は「家」制度が存在し、戸主(家長)が家の構成員に君臨し、男性が女性を従属させていた。戦後、日本国憲法と新民法によって「家」制度は廃止され、法的に男女は対等平等とされたが、それでも社会的経済的な男女の格差が残っている。制度的な差別がなくなったはずなのに残っている社会的・文化的、ひいては経済的な差別をなくしていくためには、「男はこうあるべき」「女はこうあるべき」という意識を変革していけば、果たしてそれで問題は解決するのだろうか。
ジェンダーとは、「女性、男性、両性関係、男女の生物的差異と区別された歴史的に形成された社会的・文化的差異、あるいは生物的性差に意味を与えられた性差」(『日本女性史大辞典』)などと定義される。「男らしさ」「女らしさ」、男女の性別役割など、歴史的・社会的・文化的な性差が存在することは、単に意識改革をするだけでその差別がなくなるのではない。それを生み出している事実を捉え、変革していくことで初めて問題解決につながるだろう。
通常国会が始まり、選択的夫婦別姓制度を求める野党の代表質問のさなか、議場の自民党女性議員から「だったら結婚しなくていい!」と野次が飛んだ。本人は現時点で認めていないが、「LGBTは生産性がない」という論考で問題になった議員と見られており、ジェンダー・バッシングの典型である。LGBTも結婚も、個人の事柄であり個人的選択である。攻撃者は個人の選択に任せていたら社会が成.り立たない、夫婦同姓(同氏)こそが日本古来の家族と思い込んでいるのだろう。

人間社会のなかで、家族が一貫して生活(経営と消費)、子育て(生殖と養育)、そして幸福追求(性愛と精神的安定)の最小単位であっただろうか。性、生殖、子どもの養育、精神的安定、老人・病人など弱者の扶養が家族を単位として担われていたと見ることは歴史の事実に反している。それを家族の美風などと見るのは明治の「家」制度の信奉者に過ぎない。家族を持つことなく行き抜いた孤児、寡婦、宗教者、傭兵、老人、病人などの大量の孤絶した個人が歴史の中に存在した。彼らを支えたさまざまな社会的しくみが存在し、家族以外の場で養育された子どもも大勢いたのである。裕福な「家」に身を寄せる者、寺院・身分団体(西洋では修道院やギルド)に所属する者、遍歴する旅人のための宿泊施設など、様々な人々の活動の場、居場所があった(例えば新井孝重『中世日本を生きる―遍歴流浪の人びと―』吉川弘文館、二〇一九年)。四国に残るお遍路さんに対する「ご接待」のような、自主的な相互扶助が各地に存在した。

ジェンダー平等社会とは、個人の尊厳を互いに認め合い、その生活、教育・子育て、幸福追求を家族・血縁にのみ担わせるのではなく、国家・企業・自治体・地域社会・任意団体など多様な支えあいによって実現しうる新たな共同社会を創りあげていくことにほかならないと思う。

 

 

    憲法と子育て・教育を考えるつどい

《テーマ》憲法を生かし、平和な社会を子どもたちと 
―京都教育センター第50回研究集会・教育子育て九条の会第12回全国交流集会―

    122122日の2日間の日程で、第50回京都教育センター研究集会を開催しました。1日目は、「憲法と子育て・教育を考えるつどい」として教育子育て9条の会第12回全国交流集会と合同で開催しました。その概要を紹介します。

オープニングは、京都うたごえ協議会の方々が、うたごえ祭典で歌われた「手をつなごう」「地球星歌」を子どもたちも含めた合唱を披露してくださいました。

開会挨拶は、京都教育センター代表の高垣忠一郎さんと教育子育て9条の会の堀尾輝久さんがされました。

リレートーク 京都や全国で活動されている方々から8名の方が話されました。
 ①高校大学等の門前で3000万署名などのとりくみ  島津瑠美さん(戦争させない左京千人委員会)
   1年前から始めたとりくみを紹介してくれました。1年間で集めた署名は8000筆。
 東アジア青少年歴史体験キャンプのとりく         申燃愛(シンモエ)さん(嵯峨野高校2年生)
  アジア青少年歴史体験キャンプとは、日中韓の学生が夏に毎年三国のどこかに集まって、東アジアの歴史と未来について考えるというキャンプです。私は 去年の中国長春でのキャンプと今年の夏に行われた日本での東京キャンプに参加しました。 
 ③学ぶ権利を保障する取り組み     堀川朗子さん(LDA-YOTO事務局)
  私たちLDA京都は学費とブラックな働き方を何とかしようと京都で活動しています。この運動は長らく青年の課題とされていたものを、全世代が当事者  ということで取り組みを進めています。
 ④保育九条の会の取り組み         今西友佳理さん(北保育九条の会)
  私は保育支部で取り組んでいる「9の日宣伝」のことを報告したいと思います。 
 ⑤九条俳句の取り組み    浦本和隆さん(埼玉県小学校教員)
  憲法を生かし実行したこの勝利判決、まさにこの場にふさわしい取り組みのように思います
 ⑥不登校・登校拒否を受けとめて    林敬子さん(登校拒否・不登校を考える京都連絡会)
  私は息子が小学校低学年で学校に行けなくなったということから縁があって、京都不登校の子を持つ親の会という自助グループで、月一回お母さんたちと 語り合い、そしてさらに京都府内各地の親の会を支援してくれる先生方と交流したり、ともに学習したりしています。
 ⑦小学校での平和学習       入澤佳菜さん(奈良市小学校教員) 
  私は平和教育で大事にしていることが二つあります。一つは戦争の事実に出会わせることで、被害についても加害についても教えています。もう一つは平 和のために行動する人に出会わせるということを大事にしています。
 ⑧乙教組 青年の平和研修旅行     加藤耕太さん・菱山充恵さん(乙訓小学校教員)
 青年部の平和研修旅行の始まりは、今から7年前の2013年からです。過去の沖縄戦について、そこから今現在まで続いている沖縄の基地負担やそれに関わる問題を学びに行こうと青年8人で沖縄に行ったのが始まりです。それから、毎年続けています。

◇講演
   「子どもたちの生きづらさはどこから」   香山リカ   精神科医 教育子育て九条の会よびかけ人)
 はじめに
 教育子育て九条の会のよびかけ人をしております。私は精神科医で、いまでも臨床もしておりますが、立教大学の現代心理学部という学部の教員で、医者半分、教員半分というような日々です。その診察室から見えてくるいまどきの子ども、若者の話をしたいと思っています。
Ⅰ.小学校6年女児誘拐事件を考える
(1)接触のきっかけはSNS
 2019年11月に、こういう事件があり、みなさまのご記憶に新しいと思います。大阪の小学校6年生の女子児童(以下:女児)が行方不明になり、公開捜査となりました。それから1週間後に・栃木県で、その女児が近くの交番に駆け込んで訴え、35歳の男性の家から無事に保護されました。その男性の自宅には、15歳の別の少女も居たことが分かり、まだ全体の解明はされていませんが、複数の少女たちがこの青年の家に捕らわれていた可能性もあります。
 どうしてそんなことが起きてしまったのかということですが。スマホなどを使い、SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)と言われる相互に交流、交信ができるサービスがあります。その中の1つのツイッターを使い、女児と容疑者の男性が知り合ったらしいことがわかっています。 
 SNSではハンドルと言われるニックネームを使い、やりとりすることもありますが、この男性は「せつじろう」という名前で、住所、年齢は明かさずにSNSを利用したわけです。
  SNSは基本的には公開されて、やりとりを他の人も見ることができるのが1つの特徴ですが、メールのようにDM(ダイレクトメッセージ)と言われる個別のやりとりもできる仕組みもあります。男性はこのDMを使い、女児とやりとりをして、待ち合わせて誘拐されたということです。
 どうしてツイッターでこの男性と女児が知り合うきっかけにあったのか、そして、この女児がなぜ「せつじろう」としか名前の知らない相手の誘いに応じてしまったのか、ということが大きな問題なわけです。

(2)「#家出」「#死にたい」が狙われる
 この女児はツイッターで「家出したい」「死にたい」という言葉を発信していたのです。ハッシュタグと言われる記号「#」があり、この「#」と入れて検索すると、同じような話題で話をしている人たちをすぐに見つけることができるのです。
 「せつじろう」という名前の男性が「♯ 家出」などと検索し、この女児を見つけたわけです。
  今回の女児は小学校6年生と年も極端に若かったし、本人もそんな遠くまで連れて行かれるとは思っていなかった。そして、本人も怖くなって逃げたので誘拐という扱いにはなりました。ただ、こういったSNSを使って少女が男性の家に泊まりにいくというようなことが、ある意味、日常的に起こってしまっているわけです。(以下紙面の都合で項目だけにします。)
(3)座間市9人殺害事件も同様
(4)ドクター・キリコ事件の類似点と相違点

Ⅱ.SNSに見えるいまどきの子どもの特徴
(1)圧倒的な視覚情報優位
(2)過去や歴史は「ない」と同じ─24時間で消えるストーリー機能

Ⅲ.若者の絶望と“希望”
(1)雑誌『現代思想』の特集 「反出生主義」
(2)衝撃的な旭川の調査─「子どもはいらない」という子どもが5割超え
(3)ルポ『科学者が消える』に見る日本の教育・研究の劣化

Ⅳ.なぜ若者は自民党や安倍政権を支持するのか
(1)民主主義に希望がない

Ⅴ.おとなが子どもに示せる道はなにか

◇シンポジュウム
「希望は憲法―地域から子育てと教育をつくる草の根の共同をー」
コーディネーター 佐藤学さん(教育子育て九条の会事務局長)
シンポジスト  姫野美佐子さん(中学生の母親)   戸谷嘉之さん(中学校教員)  福山和人さん(弁護士)
 ※紙面の都合で、内容は、項目だけや、部分紹介になりました。 どれも、とても豊かな内容です

『ひろば201号(今月19日発行)』には、特集として、詳しく掲載しています。   定期購読されてない方、ぜひともご購読ください。

   
 
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