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  ●京都教育センター通信 
復刊第127号
 (2018.10.10発行) 
 
新自由主義の大波に激しく揺れる奈良の教育

     
深澤 司(京都教育センター運営委員)

 

京都と奈良の教育を対比して

 定年退職して三年半がたちます。「奈良には寝に帰るだけだった」では申し訳ないという思いから、この間、奈良の保育や教育の運動に微力ながら関わってきました。

 私が綴喜教組で専従書記長をしていた20年ほど前、教職員の定数問題で京都と奈良を対比して京都の問題を告発しました。「週案」の提出強要もなく、指導主事「計画」訪問もなく…と、教職員の締めつけや教育課程管理が「ゆるい」奈良の状況をうらやましく思ったものでした。

奈良の公的な保育や教育を壊す新自由主義による施策

 奈良の教育が、いま、新自由主義の大波の中で激しく揺れています。

 2015年から奈良市立の学童保育所で京都市の学習塾「成基」が有料の学習プログラム事業をスタートしました。

 「小学校全学年で30人学級の実現」を目玉公約に初当選した現奈良市長は当初奈良市独自の少人数学級を展開しましたが2期目から施策の縮小・後退を始め、今年度の3年~6年は40人学級に逆戻り。

奈良市のすべての公立幼稚園と保育所を統廃合して、中学校区毎に幼保連携型認定こども園にするという計画を強行(2013年度~)し、さらに市立幼保施設の民間移管も進められています。これと連動して奈良市立の小・中学校の統合・再編の動きも急です。

 奈良県内では、王寺町や五條市をはじめ「小中一貫」を軸とした統廃合計画が多くの自治体でいっきに展開しています。

前代未聞の県立高校削減

 10年前に県立高校の四分の一にあたる10校の削減を強行した奈良県は、新たに3校を削減する計画をすすめています。平城高校を廃校にして、耐震補強工事を放置してきた奈良高校を移転するという前代未聞のやり方に県民の怒りが沸騰しました。

教育産業が公教育を「乗っ取る」

 極めつけは、今年度は奈良市立の全小学校の4・5年を対象に算数の学習支援システムとして導入されている「学びなら」。市教委が民間企業の「大日本印刷」と協働開発した全国初の事業です(学習塾のワオ・コーポレーションも関与)。単元毎の確認テスト(年14回)と学期末テストの答案を教員が採点し、そのデータを大日本印刷に送り、クラウド上でAIを活用して誤答分析をし、子どもたち個々の「習熟度」に合った3枚の復習シートを作成して子どもに提供するというシステムです。校長会や市教組が独自に教員にアンケートをとりましたが、混乱と疑問の声が噴出しました。

 学習指導要領と教科書、市販テストに縛られている現行の公教育を、さらに教育産業が「乗っ取る」という構図が見えます。

何に使う「ビッグデータ」?

 こうした学力に関わるデータや子どもの生活態度、保護者情報などを一括管理するシステム構築のために文科省と総務省がすすめる「次世代学校支援モデル構築事業」に奈良市は自ら応募し、大阪市などと共にモデル研究に参画しています。

新たな教育共同の前進に確信

 「公教育」のタガを外す一連の攻勢に抗う奈良の運動の一端も紹介しましょう。

 今夏の猛暑の下、全国で下から2番目の小・中学校の普通教室エアコン設置率(7・4%)に怒ったお母さんたちの署名と要請活動が県と市を動かしました。また、平城高校の存続を願う卒業生や保護者は、2週間で2万筆を超える署名運動を展開して県と県議会を震撼させました。
これらの運動の背景に、子どものしあわせを願う奈良の父母・市民・教職員組合による新たな共同の前進があります。(別の機会にその報告をしたいと思います。)


 
 

みんなで21世紀の未来をひらく教育のつどい 教育研究集会2018IN長野

「組体操にもう出なくていいんだよ」
共感が生み出す子どもの成長 
~障害児教育分科会の報告から~


       松岡  寛 (京都市教職員組合障害児教育部)


 
 「みんなで21世紀の未来をひらく教育のつどい」(教育研究全国集会二〇一八)は、長野市内で、8月17日(金)に全体会と教育フォーラム、18日(土)・19日(日)に分科会が行なわれました。本稿では、「障害児教育」分科会の、京都からの代表レポーター、長岡向日さん(仮名)の提案と討論から学んだことを報告します。

 今年度の「障害児教育」分科会には、全国から42本のレポートが寄せられ、18日午前の全体会の後、6つの小分科会((A)子ども期の教育Ⅰ(幼稚部・小学部・小学校)、(B)子ども期の教育Ⅱ(小学校)、(C)思春期の教育(中学部・中学校)、(D)青年期の教育(高等部)、(E)障害の重い子どもの教育、(F)制度・運動・権利保障)に分かれました。長岡さんのレポート「特別支援学級の児童たちから学ぶ」は(A)の小分科会で、報告・討論が行なわれました。長岡さんは、小学校の特別支援学級を担任して3年目の青年です。

 長岡さんのレポートには3人の子どもが登場しますが、ここではその内の、B児(男子)についての報告と討論について記します。

 B児は、自閉症スペクトラムの診断が出ており、プライドが高く、できないことや負けることに強い抵抗感を持っていた、とのことです。B児が5年生になり、秋の運動会で5・6年生の通常学級の子どもたちとともに組体操に取り組みました。この様子を長岡さんは以下のようにレポートに記しています(下線は松岡による。)(註:青字部分・・・・編集部)。

 B児は今まで毎年、クラスのお兄さんたちが組体操に取り組んでいる様子を見ており、自分も組体操に参加することを心待ちにしていた。取り組みの初めは個人技だった。個人技はV宇腹筋やブリッジに苦戦しながらも、何とかみんなについていくことができていた。B児も「○○できるようになったんやで~」「○○先生に頑張ってるねって褒められちゃった」と得意そうに報告してくれることがあった。

 そして練習は複数人数技になっていった。隊形移動は周りの子たちのフォローもあり、何とか覚えて動けるようになった。しかし、大技であるピラミッドやタワーはなかなか思い通りにできなかった。B児がどうこうではなく、5・6年生全体でなかなか苦戦していた。一般的に怪我も多いこの大技の練習では、指導する教員たちも熱が入る。今までの練習よりも大きな声で声掛けを行い、子どもたちに集中力を促していく。B児は担任の私から見ても非常に真面目で、指導している先生の言葉に応えようと必死で練習に取り組んでいた。しかし、全体技はB児一人が必死に頑張っていてもなかなか成功しなかった。

 一週間程経ったある日、B児は登校した後に泣き始める出来事があった。ランドセルを片付け、すぐに教室にあるマットでうつ伏せになりながら「ちょっと疲れちゃった」と言葉を漏らした。今にしてみれば、組体操でうまくできない自分を不甲斐無く思い、落ち込んでいたのだと思う。しかし、まだこの週は体育の時間になると、B児は自分から着替えをして組体操の練習に向かっていた。私は、運動会の練習が続いていたため、B児がクラスにいる時間が減ったことによってナーバスになっているのかなくらいに考えていた。
事態が大きく変わったのは翌週の月曜日からだった。B児は泣きながら登校してきて、すぐにマットの上でずっと泣き続けた。慌てて理由を聞くと「組体操がやりたくない」とのことだった。週末が明けて、いきなりの心境の変化に驚き、中間休みにすぐ保護者へ連絡を取った。理由を尋ねると、家庭では先週末頃から「組体操がしんどい」と漏らしていたということが分かった。母親は「Bちゃんの頑張っている格好良いところみたいなあ。頑張ってほしいなあ。」と優しく声掛けしてくれていた。B児にとっては大好きなママからの要望に応えたかったのだろう。しかし、今までも指導してくれる先生の期待に応えようと努力したが、どうしても成功させることができなかった。周りの期待には応えたいが、どれだけ頑張ってもできないという葛藤にB児は苦しんでいたのだった。

 今の状態ではとても練習などできないと思い、本番リハーサルとリハーサル前の練習を一度だけ残して、三日間練習を休ませるという判断をした。B児には「こんなに頑張ることができたんだから、もう本番も出なくて良いんだよ。先生たちもお家の人たちもBさんの味方だよ。」と声をかけ続けた。B児は「本当に出なくて良いの?」と確認したり「音楽聞こえるけど、僕はもう出なくて良いんだ」と自分に言って聞かせたりしていた。その日からの二日間も、B児は家と教室で泣き続けていた。出なくて良いと言われたものの、期待に応えたいという思いがあったのだと思う。

 本番リハーサル前日の練習日、私は組体操の音響を頼まれているから手伝ってぼしいとB児に伝えた。B児は手伝うと言って付いてきてくれた。B児は音響ブースから5・6年生の演技を見ていた。「あ,これは僕もできるねん。」「僕はあそこのグループに入ってたよ」と私にいろいろ教えてくれた。演技を見終わった後、「みんな格好良かったね」と聞いてみると「うん。格好良かった。」と答えた。5・6年生が一生懸命演技している様子を見て、少し感動した様子だった。「今ならギリギリ間に合うと思うけど、もう一度入ってみる?」と尋ねると,「ちょっと本気出してみようかな。」と前向きな返答があった。

 結局B児は、この出来事から前向きに取り組み始め、当日も周りの5・6年生と共に素晴らしい演技を披露することができたのだった。彼の場合は、視覚的に自分たちの演技を見ることが大きな追い風になったのだ。この運動会の組体操をやり遂げたという達成感は、B児に大きな自信をつけることになった。彼は運動会の後にある行事で度々「組体操ができたんだからできるはず。僕は強い心を手に入れたんだ。」と話している。まさにB児は「人は困難を乗り越えると強くなる」という言葉を体現してみせたのだと思う。

 自閉症スペクトラムの障害のある人の多くは、決められた課題に真面目に一所懸命に向き合ってとりくもうとします。そしてB児のように、「できないことや負けることに強い抵抗感を持つ」ことがしばしば見られます。また「うまくできない自分を不甲斐無く思い、落ち込む」「周りの期待には応えたいが、どれだけ頑張ってもできないという葛藤に苦しむ」という困難をかかえがちです。さらに、家族にも「『組体操がしんどい』と漏らし」ながらも、「自分から着替えをして組体操の練習に向かって」いくという悪循環に陥ることもあります。

 このB児の困難に対して長岡さんは、組体操の練習を3日間休ませ、「こんなに頑張ることができたんだから,もう本番も出なくて良いんだよ。先生たちもお家の人たちもBさんの味方だよ」とB児に語りかけています。

 これはなかなか言えないことです。運動会当日に組体操に出られないという「最悪」の結果をまねくことを、多くの担任は恐れて、本番も出なくていい、とまで言うことには躊躇します。

 こう言いきれたのは、長岡さんが過度に周囲の評価に左右されることなく、B児のこれまでのがんばりに対する、強い共感とリスペクトの姿勢を持ち続けたからだ、と言えます。自分の一番つらい部分を本当に分かってもらえたという安心感が、ふたたびB児を組体操に向かわせたのでしょう。これらの子どもへの深い理解に貫かれた長岡さんの姿勢に対して、共感する多くの意見が、討論の中で分科会参加者から相次いで出されました。

 また、共同研究者の三木裕和さん(鳥取大)はコメントの中で、自閉症スペクトラムの人が陥りやすい「二分的評価」(「いい」←→「わるい」、「勝つ」←→「負ける」などの「ゼロか百か」の極端な評価をしてしまう)について説明し、そこから脱して「形成的自己評価」(だんだんよくなっていく自分を評価)ができるようなること、そのためには、やらされる活動ではなく「本当に自分がやりたい」と思える経験をつむこと、「未来はもうちょっとよくなっていくんじゃないか」という手ごたえの感じられる活動をかさねていくことの大切さなどを指摘しました。

 「ちょっと本気出してみようかな」という言葉はまさに、「できる」←→「できない」の「二分的評価」から、長岡さんの理解を支えに受けたB児が、「ちょっと本気を出せば、もう少しできそうだ」という「形成的評価」の世界に踏み出し始めたことを示しています。

 さらにレポートの作成・報告を通じて、長岡さん自身が、子どもへの理解・洞察をより深めていく姿に感銘を受けました。そして、こうした青年教職員の成長につながる、日常的な教育研究活動の充実が、いまいっそう求められていることを、あらためて痛感しました。

(長岡向日さんのレポートを読みたいと思われる方は京都教育センターまで連絡ください。)


   
 
2018年 京都教育センター地方行政研・京教組 拡大学習会


テーマ 「『子どもの貧困』と子どもの権利


◆日時 10月13日(土)13時30分~16時30分
◆場所 教文センター 会議室 205号室
◆内容 
講演「子どもの貧困と子どもの権利
―学校現場でどう取り組むべきなのか?―
 講師 仙田 富久氏
(社会福祉士・スクールソーシャルワーカー)
報告 「保健室から見た子どもの貧困」  京教組養護教員部

 
 
学力・教育課程研究会公開研究会

テーマ  新学習指導要領のもとで、多様で豊かな学びを実現するには


◆日時 12月2日(日)13時30分~16時30分 (13時開場)
◆場所 教文センター 会議室 102号室
◆内容
1. 基調報告:鋒山 泰弘 先生(本研究部会代表・追手門学院大学)
2.実践報告1:相模光弘先生(向日市・小学校)
3.実践報告2:(京都市内中学校・数学)


 
 
第49回京都教育センター研究集会+民研第27回全国教育研究交流集会in京都

《集会テーマ》「憲法を生かし教育研究・実践の自由を
―すべての子ども・若者に 学ぶ喜びと生きる希望を―
12月22日(土)・23日(日)  京都教育文化センター


◆ 22日(土) 全体会13:30~17:30   教文ホール
基調報告  
問題提起 
「憲法を知り、考え、実践する」
        中嶋 哲彦 さん (名古屋大学)
実践報告 
1 道徳の教科化に抗して―道徳の使い方ー
2 中学校での性教育の実践
 全体会終了後 懇親交流会

◆23日(日) 分科会 9:30~16:00教文センター全館
   予定されている分科会
① 「学校における働き方改革」と教育条件整備
② 「支配」に対抗する生活指導と子ども支援  
③ 学力保障と新学習指導要領  ④ 高校教育問題
⑤ 子どもの発達と地域    ⑥ 障害児教育
⑦  地域と学校を守る―統廃合・小中一貫教育ー
⑧  環境・公害問題と教育  ⑨ ジェンダーと教育
⑩  道徳性の教育と教科書
⑪  ワークショップ・暮らしに生きるカウンセリングを


 
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