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  ●京都教育センター通信 
復刊第120号
 (2017.9.10発行) 
 
大学生の学びと新自由主義的な「大学改革」

     
富山 仁貴 (京都教育センター運営委員)

 

 「進む大学生の「受け身」志向」――八月九日付の『日経新聞』は、このような見出しを掲げてベネッセ総合教育研究所が行った第三回「大学生の学習・生活実態調査」の結果を報じました。同調査によると、授業への参加や意見表明は熱心であるものの、普段の学習では「自分で工夫する」よりも「授業で指導を受ける」と回答する者が多いことが判ります。また、学生生活についても、「学生の自主性に任せる」より「教員が指導・支援する」方がよいと考える学生が急上昇してます。記事は、「学生の依存的な傾向が強まっている」との分析を紹介しています。

 なぜ、大学生の依存的な傾向が強まっているのでしょうか。調査や記事はこの点を曖昧に済ませています。第一に考えるべきは、小中高でも同じようなことが起こっているのではないか、という問題です。この点は現場の先生方のご意見を聞いてみたいところです。

 第二に考えるべきは、大学生の経済的背景です。ご承知のように、日本の学費の高さは今や〝常識〟となりつつあります。しかも、ここ一、二年はさらなる値上がりの動きも生じています。また、生活費の方もとても苦しく、京滋私大教連の調査によると、下宿生の一日当たりの生活費はついに一〇〇〇円を割り込みました。日本学生支援機構の奨学金はほとんどが貸与制ですから、事実上の借金です。この五年くらいで奨学金の〝機構離れ〟さえ進んでいます。このような状態では、今年度から始まった給付制奨学金も焼け石に水となるでしょう。

 仕送りもダメ、奨学金もダメとなると、アルバイトに頼るほかありません。実際に、大学生のアルバイト収入と労働時間は伸びる傾向にあります。先の調査で「あまり興味がなくても、単位を楽に取れる授業がよい」と答える割合が急増していることも、アルバイト優先の状況のなかで理解できるでしょう。最近、「サークルに入る人が減った」、「ゼミ飲み会が設けづらい」との大学生や大学教員の声をよく耳にします。つまり、自由でのびのびとした学生生活そのものが崩壊しつつあるのです。

 第三に新自由主義的な「大学改革」の問題を考える必要があります。ここ二十年ほどのカリキュラム改革のなかで、「グローバル○○学部」とか「総合××学科」のような学部や学科が新設され、学生集めが行われています。しかし、その結果、史学科や政治学科のような、学問分野に基づいたカリキュラムが解体されています。同調査の結果について、大学生は自分の関心がある分野の専門的知識については重視するものの、自ら問いを立てて考えるよりも、既にある「知識」を習得することを重視する風潮が強まっているのではないかと私は分析しています。

 学問を通じた大学の学びとは、断片的な専門的「知識」を身に着けることではなく、ものごとの科学的・学術的な調べ方や考え方を身に着けることのはずです。大学の学びの根本にある学問を解体しておいて、矛盾を現場に押し付ける現在の「大学改革」は、大学生の学びを依存的なものへと陥れる結果に繋がっているのではないでしょうか。逆に言えば、大学の学びの質を問うことこそ、「大学改革」への抵抗の拠点になるのではないか――私はそのように考えるのです。
 

みんなで21世紀の未来をひらく教育のつどい 教育研究集会2017in岡山

数学分科会「学び直しと青年期にふさわしい発達、人格の完成をめざして」

       堀 徹也 (京都市立西京高等学校定時制)


 

はじめに

 小学校や中学校で不登校を経験していたり、学習障害を抱えていたり、様々な背景と学習上の課題を抱えた生徒たちが集まってくる定時制高校です。

 学力がおしなべて低い生徒もいますが、不調をきたしていた期間の学力が抜け落ち、それが原因で授業について行けないケースも少なくありません。成績の低さ(「能力」とは別問題)は自己肯定感をますます低いものにし、さらに勉強から離れる悪循環を生んでいます。

 定時制では、従来から少人数編成によるHRや講座編成によって様々な問題を抱える生徒に対応できる体制を取ってきました。しかし、多様な発達の仕方やハンディーについての認識が深まるとともに、より効果的に人的な資源を配置する方法を考案することが求められてきました。学力差のある教室への処方箋として、「習熟度別編成」という道もあります。しかし、昨年度より1年生にTTによる指導を導入しました。

 指導の陣容が整っても、学力診断テストのスコアが低いからといって、100マス計算のような訓練に終始することは不適切です。重要なのは、整数での10進構造と補数のイメージ化です。また、職員室では「分数や小数の計算が出来ない」ことが常に話題になります。たしかに、他教科や生活上で困る場面もあります。

 しかし記数法と半端な量を測る技術や因数分解は、小学校中学校の積み残しとしてではなく、数Aの主要なテーマの一つと見ることも出来ます。また、式の計算の指導では、数式も文法を持つ文章であり、日常語でも当たり前に存在する「同音」(同記号)異義語を含むことを押さえ、日常語への変換が出来ることが課題となります。


1.西京定時制全体の教育活動の中での数学科TTの位置づけ

①少人数講座の実現と新しい定時制高校

 近年、定時制高校は、経済状況、家庭環境、生育歴に様々なハンディーを負う子どもたちの居場所としての役割を果たしてきました。堀川、洛北、山城の定時制が募集停止となった事を契機に、定時制高校の経済格差、教育格差を補正するという社会的な役割に対する認知度が高まりました。この社会情勢を受け、英数国の分割講座が許容され、さらにHR編成そのものを20名程度とする措置が執られました。

 従来から生徒に寄り添う指導を行ってきた定時制教職員ですが、少人数での指導環境の下で、今まで見過ごしてきた、あるいは見えなかった生徒のより深い内面に目を届けられるようになりました。

 さらに、近年になって教職員集団として生徒の多様な発達の仕方に、より注意が払われるようになりました。

 市立定時制新設構想では、「学び直し」を保障することの意義が重要な問題として取り上げられました。

 学び直しを通じて自己肯定感を高め、人生へのより多くの選択肢を保障していく教育実践は、今通っている生徒たちに対しても求められています。

②個人指導と学習集団

 入学直後の中学校との情報交換や診断テストなどを通じて、特別な支援、学び直しの必要な生徒に始業前の補習講座を呼びかけています。しかし、来てほしいと思う生徒が補習になかなか来てくれないという問題があります。教科としての問題点把握にとどまらず、家庭生活、家庭状況と生育歴にまで踏み込んだ粘り強い対応が必要です。したがって、個々の対象生徒が補習に行こうという気持ちにさせることそのものが教科担当だけでは無く、学級担任、SC、SSW、全教職員のとりくみとなります。

 学力不振の生徒は、多くの場合いくつかの概念が身についてないことが原因で「低学力」状態で入学してきます。付いている学力と出来ないことが「斑状」にあり、結果として総合的な学力が低位に位置づけられます。一回の診断テストの合計点など、一つの尺度で学力を一列に並べることは適切ではありません。

 教室には、生活の乱れから寝てしまう子、アルバイトの疲れから集中できない子、基本的な学力の欠落と苦手観が先行し授業に臨めず、禁止されている携帯に手を伸ばす子がいます。こうした生徒への対応をしながら一斉授業を行うことは極めて困難です。

 授業中であってもマンツーマンによる指導が必要であり、有効です。とりわけ、数学の場合、一つの概念が正しくとらえられていないために以降の学習が不可能というケースも少なくなく、そのような場合ポイントとなる部分をTT体制でサポートすることはきわめて有効です。生徒によっては、数概念の形成に問題かあるようなケースも無いわけではありません。授業の進行状況によっては、TTで一人の教員が付きっきりとなることも可能です。

 学力別の習熟度別講座として展開した場合、母集団が過密な全日制の場合のような少人数によるメリットは、十数名のクラスを母体とする定時制では発生しません。また、学習意欲や自信を持たずに入学してくる生徒の自己肯定感につなげることが難しくなります。

 逆に、学習意欲や学力が比較的良好な生徒を抽出した場合、その授業は成立し効果が見込まれます。ただし、ほとんどの生徒が何らかの負い目を持ち、競争に負け続けた経験をしていることを考えると、その意欲を維持していくことは簡単ではありません。また、残りの低学力層の問題は放置されたままとなります。

③ 学ぶ気持ちを育む

 定時制1年生の一学期は嵐の時期です。入学前の環境を引きずったまま定時制の「培養土」に入り込むことが出来ず、流され進路変更する生徒が少なくありません。

 夏休みを境に離れていった生徒や危うく留まっている生徒でも、大抵の場合、一学期中の授業の中で何回か「ちょっとはやってみようかな」という瞬間があります。

 2人で担当している場合、こうした場面を見逃さず、その生徒に密着して指導を行うことが出来ます。こうした「面倒を見てもらえた」、「少し分かった気になった」体験をどれだけ積めるかがその生徒のその後に大きく影響することは間違いありません。

④学習意欲の維持と向上

 たしかに、全体の学習到達点を引き上げることは大変困難な課題です。しかし、学習内容が100マス計算のようなものに終始するようでは、学力低位の生徒とはいえ、心と体の発達段階に応じた学習とはなりません。

 一方で、講座全体での学習の進行より、一歩先の内容を提示してやることが学習意欲を維持していく上でも大切な生徒もいます。TTはこのような場合にも有効に指導を分業することが出来ます。

 夏休みには成績低位者の強制補習だけでなく、「成績には関係ない、進んだ勉強補習」を希望者に対して行いました。このような企画が実行できたのもTT体制の下で学習意欲の維持向上に成功した結果です。

 2学期にはクラスの状況も1学期に比べかなり穏やかになります。教師がマンツーマンで教える形態から、生徒同士の教え合いも発生し始めています。このような風景も習熟度別に分割した講座では難しいものとなります。

 年度末、不履修1名を除き、夏休み明けを乗り切った生徒はすべて認定することが出来、TTによる数学の体制を今年度も続けることとなりました。


2.青年期にふさわしい文化と学力を

 全日制高校の特色化が進められましたが、全日制の中途退学、不登校などの困りを抱えた生徒の数は依然として多い状態です。また、入学生徒の家庭環境から読み取れるように、経済環境や家庭環境に困難を抱えるケースが多数あります。

 この状態の解消のためには、社会経済状況の改善や、義務制学校の少人数学級等を拡充する抜本的な政策を行い、「未学習」「誤学習」対策、発達に課題のある生徒に対する早期の手厚い指導を可能にしなければなりません。

しかし、こうした改善が直ちに望めない下で、定時制単独校構想にあたって開かれた有識者会議での竹田敬一氏が指摘したように、定時制、正確には午後から始まる定時制における「未学習」「誤学習」の生徒の発達保障が重要な課題となってきています。
「未学習」「誤学習」の生徒に、社会に出るための基礎基本としての学力を身につけさせることはもちろん重要です。そこにとどまらず、文化としての知識を継承させるという高校教育の目標を下ろさない指導は困難ですが大切です。

(紙面の都合で、具体的な実践は掲載出きませんでした。希望される方は、京都教育センターまで連絡ください。レポートを送ります。)

 
   
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