トップ 事務局 京都教育センター通信

   
  ●京都教育センター通信 
復刊第118号
 (2016.5.10発行) 
 
支え合い、集まり、語り合うことを大切に

     山元 幸一(京教組み書記長)


 

 新入学や新しいクラスが発表される4月は子どもたちにとって出会いの時です。同じクラスに気のあう仲間がいるのか?担任はしっかり話しを聞いてくれるのか?管理的なのか?子どもたちは期待と不安でいっぱいです。

 私は中学校の教員です。子どもたちとの初めての出会いであるクラス開きに「ひとりひとりが大切にされ、みんなが安心して生活できるクラス」にしたいと宣言します。そして、「これからの1年間、学習や生活をしていくクラスの仲間は家族と同じ。ひとりひとり顔が違うように、考え方や個性が違うのは当然です。ひとりひとりの考え方や個性を大事にし、お互いの良い所を認めあい尊重しあう。失敗したときは温かく見守り、悪いことは悪いと批判しあえる。ひとりひとりが大切にされ、みんなが仲間のことを考える。そんな温かい『我が家』や『家族』のようなクラス。いじめや差別・暴力のない、お互いが安心して生活できるクラスにしたい」と話します。そして、「一番弱い立場の仲間が気持よく生活できるクラス」になるよう「自分にできることは何かを考える」ことを追求しま
す。子どもたちが将来社会にでたとき、みんなが気持よく生活できる社会、みんながくらしやすい社会にするために、自分にできることは何かを主体的に考えて行動できるおとなになるよう願っています。

 毎日、学習や生活をする学級は「ホームルーム」といわれています。「ホーム」は「我が家」、「学級」は「家庭」です。「ホームルーム」での毎日の生活、行事などのとりくみを通して子どもたちはさまざまなことを学びます。学校は社会に出る前の学びの場、学校生活は社会に出ていく準備期間です。失敗するのは当たり前、良いこと悪いことと頭で理解していても行動できないのが子どもです。失敗したときにふり返る。そんな場が学校であり、支えるのが仲間です。

 今の子どもたちは自己肯定感・自己有用感が低いと言われています。在学時には「子どもたち一人ひとりの自己肯定感・自己有用感を高める指導を」と言いますが、一歩社会に出れば厳しい現実が待っています。非正規、長時間過密労働、ブラックな働かせ方、パワハラ、低賃金、成果主義、自己責任。それは学校現場も同様です。教壇に立てばもう「一人前」何を教えたらいいのか。どう教えたらいいのか。子どもたちや同僚教職員や管理職、父母・保護者とどう接したらいいのか。私も初めて教壇に立った30年前、毎日が失敗の連続でした。恥ずかしくて、今では人に言えない失敗もたくさんありました。そんな私を温かく見守り、支え、教えてくれたのは、子どもたち、父母・保護者であり同僚・仲間でした。教員になって初めて組合の学習会に参加したとき、初めは何を話しているか理解できませんでしたが、子どもたちや教育のことを熱心に論議していることはわかりました。学校でも頼りになるベテランの先輩や愚痴が言える分会会議や懇親会(飲み会)、日常のたわいのない会話やちょっとした声かけで心が和みました。今でも教師を続けられているのは、何でも愚痴が言えた組合の仲間、ベテランの先輩がいたからだと思います。
 
 
支え合いながら、自立へ向かって
~絵里子と歩んだ二年間~(前半)

       京生研 市内サークル 兼田 幸


 

■はじめに

 幼・小ともに不登校。教育を受けていない絵里子。家はゴミ屋敷と化しており、二人の兄と鬱病を患う母に代わり、洗濯・食事・簡単な掃除などの家事をしている。

 最も集団から離れている絵里子へ、みんなで呼びかけ取り組むことが、一人一人の自立を促し、今の閉塞した社会を変えることだと意識し、実践構想を立てた。

 彼女の居場所づくりとして、リーダーを中心に、学級はもちろん、学年へと仲間の輪を広げ、学年教職員に支えられながら、自立へ向かうための繋がりを創り出していった。

■絵里子との出逢い

 学級開き初日の夕方、当時二年生だった絵里子はみんなが帰った時間に、学年主任の送迎付きで私服登校してきた。「絵里子、学校いかへんし。制服も嫌、今日みたいに車で送ってくれな嫌。」などと、甘えと反抗の入り交じった口調でこぼしていた。私は一枚目の学級通信を見せて、一人一人の名前を読みあげて紹介し、「この人は知ってる?」と尋ねていった。

 学校や社会から、切り離された生活を強いられている絵里子には、仲間の呼びかけが必要だと考えた。そこで、家庭訪問を繰り返し、まずは私から学級の様子を伝えるようにした。同時に学年では評議会を発足させ、レク企画を立てた。当時の絵里子は楽しい企画であれば、仲間との関わりを求めて飛び込んでくることができた。

 小学校が同じだったレイラや翔子・ユキノが中心となり、家まで誘いに行って、絵里子は学年レクに参加。「猛獣狩り」や「しっぽ取り・人間知恵の輪」などを楽しんでいた。二度目の学年レクや芝生ランチにも参加した。学校に来ると、放課後も長く居ようとするところから、友だちの存在を求めているのだと思った。

■クレープの会発足とフリースクールへの入級

 絵里子の家には月と木の夕方に、ハウスキーパーさんが掃除に来てくれる。私も一緒に掃除をし、ゴミ袋六つ分ほどのゴミを出したが、それでも全く歯が立たない散らかりようだ。母親は一切動かず、絵里子が洗濯物などを運ぶ様子が甲斐甲斐しかった。

 翌週、絵里子の家へ行くと、毛布をマット代わりにして、そこに机を置き、筆箱を用意して嬉しそうに座っていた。「きれいにしてるね。すごい。勉強の用意もしてる」と声を掛けると無邪気に微笑んだ。一緒に百マス計算をして、雑談した。

 ひょんなことから料理の話になった。絵里子は料理が好きで、これまで作ったお菓子の写メを見せてくれた。

 そこで、絵里子と仲間との絆を深め、楽しい時間を過ごすことを目的とした『クレープの会』を企画することにした。絵里子は買い出しリストを作り、楽しみな様子がよく伝わってきた。学校で豊かな生活体験を積み、仲間とのつながりを創り、深めたい。そのためにも、まずクレープの会は絶対成功させたかった。学校に戻って学年の教員に家庭訪問での出来事を語った。

 クレープの会ではクラスの女子八名と、絵里子とつながりがある男子三名の十一名で最終下校後に家庭科室に集合し、つまみ食いしながら、ワイワイと調理したクレープを囲み、和やかな時間を過ごした。事前に要項を出し管理職や教職員、保護者の許可を得て、支えて頂いたことが成功の秘訣だった。

 その同時期(五月末)にフリースクールへの入級が決まった。私も足を運び、学習開始までの十五分程度一緒にUNOや卓球をした。

■ゴロゴロカレー作りの実現

 絵里子に夕食は何かと尋ねると、足下に転がったレトルトのカレーを指さし、別の日には一玉十五円のうどんにつゆだけかけて食べているという。「カレーは好き、でもな、野菜ゴロゴロのカレーが食べたい」とこぼし、レトルトパックの中のじゃがいもを指で押し潰した。ゴロゴロカレー作りは、学年で夏の課外活動を担当しているH先生が、絵里子のこのエピソードにホロリとし、「ぜひ絵里子にゴロゴロ野菜カレーをお腹いっぱい食べさせよう!」と企画して下さった。

 しかし当日、絵里子は約束の時間・場所に現れない。おかしいなと思い、急遽家庭訪問へ。絵里子は部屋のベッドでうつぶせになっている。声をかけるが反応がない。服装や髪型は寝起きとは思えない。無理をさせても仕方ないと思いつつ、「絵里子の好きなカレーやのにな。しかもゴロゴロ野菜カレーやで」と声をかける。絵里子は、「絵里子、昨日カレーやったもん。絵里子カレー嫌い」などと答えた。しばらくして、「絵里子、お金ない。」と言った。参加費千円を母親が置いて行ってくれず、困っていたことが分かった。「そうか。参加費は先生が何とかする。お兄だって働いてるから、絵里子のためなら何とかしてくれるよ。」と言った。

 すると「先生、外で五分待って。準備する。」と絵里子が動き出した。二人で遅刻して、みんなを追いかけて電車に乗って向かった。みんなに追いつくとサキがすぐに絵里子を見つけ「久々~。」と飛び付いてきた。クレープの会のメンバー以外にも、新たな仲間を発見できた野外炊飯だった。

■絵里子のチャレンジ体験

 絵里子は動物が好きで、トリマーになりたいと言っていたので、学年の先生が近所のペットカフェを見つけて下さった。一緒に行くことになったのは賢一とF子。F子は春に一度別室へテストを受けに来ただけで、全て欠席している。絵里子にF子もなんとか一緒にチャレンジ体験へ行けると良いのになぁと話すと、絵里子がF子に手紙を書いてくれた。

 内容は、「チャレンジ一緒の事業所やで。一緒に行こう。」というものだった。F子は手紙を読み、呼びかけに応じ、事前学習時の学校に来た。しかし、その日絵里子は休みだった。F子のがっかりした様子をはっきり伝えると、絵里子は「ごめんって手紙を書く。事前訪問と本番と事後訪問は絵里子絶対参加するからってもう一回約束する。」というので、F子にもう一度手紙を届けた。チャレンジ体験は、絵里子・F子・賢一の三人で休まず参加し、働くことを経験することができた。チャレンジ体験後はF子と休日に遊びに行く様子も見られるようになった。

■二年生の締めくくり

 十二月はクリスマス会を企画し、ゴロゴロカレー作りで増えた仲間であるH男やR太も、F子も一緒にケーキ作りを行った。十三名のメンバーで、ケーキとココアを囲んで和やかに過ごした

 絵里子はフリースクールに居場所を見つけ、大きな集団からは足が遠のいていった。二年生最後の学級じまいの日、「行きたいけどムリ・いけへん。」と涙を流した。思春期に突入し、「周囲からどう見られているか」と強く意識し始めた絵里子は、お菓子作りの会に参加するメンバーを減らしたいと言うようになった。三月のチョコレート作りの会では、H男を中心とする少数の仲間と共に一年を締めくくった。

■もう一度、出逢い直す春

 三年生、今年も担任だと告げると、絵里子は照れくさそうに「どーも。」と握手してきた。母親は大層喜んでくれた。フリースクール入級手続きを望んでいたので、とにかくすばやく対応していった。また、絵里子の取り組みとして、「絵里子日誌」を作成し、毎日の記録を届けることを、私が学級に提案し、翌日から取り組みをスタートさせた。

 その際、絵里子にも確認し、「学校には行きたいと思っていること・集団が怖くて来られないこと・勉強をがんばるなど、目標をもって取り組んでいること」を簡潔に話した。日誌は誰一人忘れることなく、とても温かいページを作ってくれ、それを通じて私も毎日一人一人に「ありがとう」と声がかけられた。

 絵里子には、小集団での関わりが必要だと考え、学校への呼びかけの際は何があるかを伝え、「参加するかは絵里子が決めていいんやで。」というように、判断は自分でさせるような声かけと、来ない時にもその決断を認めていくようにした。

(以下三年生の取組は次号に回します。楽しみにしてください。)

 
   
  憲法改悪を許さず子ども・教職員が人間らしく生きていける学校と教育を
―2017年度の京都教育センターの活動方向―
 

1.(1)基本方向

・憲法改悪を許さず、憲法を学校・教育・社会にいかす取り組みを推進する。
・新自由主義と特別な教科「道徳」に象徴される安倍の教育政策に抗して、子ども・教職員が人間らしく生きていける学校と教育はどうあるべきか探究する。

(2)活動の重点

・安倍内閣の教育再生に抗し、憲法と子どもの権利条約の理念にもとづいた教育のあり方を探究し、広める。―大学改革・道徳教育などー
・改悪教育基本法の具体化である新学習指導要領のねらいと問題点を学習し、自主的・自律的な教育実践の創造を普及する。
・子どもの現状を把握し、子どもの人格形成上の課題を探求する。―子どもの貧困問題―
・高校制度改定に伴う課題・問題点を明らかにし、高校教育のあり方について探究する。
・地域における学校・教育のあり方を父母・教職員・住民とともに考え、共同を広げ・課題を探る。-学校統廃合・小中一貫校などの問題―
・学校・教職員とはどうあるべきか、教職員の働き方も含めて課題を探る。
・原発再稼働・核兵器の危険性と教育のありようを検証し、平和教育を広める。

2.センター体制

・顧問:野中一也
・代表:高垣忠一郎
・研究委員長:高橋明裕
・事務局長:本田久美子
・事務局 下田正義
・運営委員(上記含めて17人)大平勲、川地亜弥子、倉本頼一、西條昭男、築山崇、富山仁貴、中西潔、原田久、深澤 司、團野三千代、得丸浩一、西田陽子
・「ひろば」編集委員:西條(編集長)、大平、倉本、本田、下田  ・HP管理 浅井
◎ 各研究会事務局 地方(我妻) 生指(横内) 学力(市川) 発達(大平) 地域(姫野) 
高校(原田) カウンセリング(原木) 国語(西條) 障害児(西城) 

3.とりくみ

 ・第48回教育研究集会 2016年12月23日(土)、24日(日)教文センター
 ・学習会:テーマ「学校・教師の今、苦悩と希望を考える」
  6/10(土)13:30~ 職員会館「かもがわ」2階大会議室
   
 ・「センター通信」の発行:隔月10日 教育実践の紹介
 ・季刊誌「ひろば」の発行:5月、8月、11月、2月 定期読者募集中 
 
新学習指導要領を問う!第2弾
      どうなる?こどもと教育 ~ 特別な教科「道徳は、どんな子どもを育てようとするのか?~

      5月27日(土)PM1:30~4:30    京都教育文化センター  302号  
講演 新しい学習指導要領、特別の教科「道徳」と「教育勅語」を考える
            ~検定で、教科書は どう変えられるのか?~
講師 石山 久男さん(子どもと教科書全国ネット21常任委員・元歴史教育協議会委員長)
 主催:京都教科書問題連絡会・京都教育センター・京都教職員組合・新日本婦人の会京都府本部 
京都教育センター学習会   テーマ:「学校・教師の今、苦悩と希望を考える」
6月10日(土)13:30~16:30   職員会館「かもがわ」2階大会議室  
講演 「日本の教師 困難から希望の途を求めて」 久冨善之さん(一橋大名誉教授)
鼎談 久冨善之さん・ 小学校教諭・中学校教諭・高校教諭 
 
トップ 事務局 京都教育センター通信