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  ●京都教育センター通信 
復刊第115号
 (2016.1.10発行) 
   

高校の先生をしてみて今思うこと
~次の扉に手をかける質問~

     羽入あい子(府高副書記長)


 

 卒業生がたまに手紙をくれます。こんなメッセージをもらいました。「…大変ですが、高校の時の楽しい思い出を思い出して、がんばっています。」

 まるで故高橋まつりさんの「大学時代の素敵な思い出を胸にがんばろう」という内容のあのツイートみたいです。何とも言えないやるせない気持ちになりました。自分が高校で先生として子どもたちに何を伝えられたのか、それは十年後に振り返る約束をしましたが、私が伝えようとしてどうしても伝えきれなかった社会の理不尽な部分や不合理な部分が、これから卒業生にひしひしと実感されてくるのかもしれません。

 「マイケルムーアの世界侵略のススメ」を観ていたら、その中で、「アメリカの教育制度では、「なりたいものになれる。だからがんばろう。」と言っても嘘を言っているような気持ちになったが、この国ではそれはない。子どもたちは、本当に自分の能力を活かしてなりたいものになれる教育を受けられていると感じる。すべての教科はよい人生のためにある。」と言っている先生方が出てくる国がありました。私は、高校生の言葉で「それな」という気持ちになりました。(その通り。それが言いたかった。の意味。)何がどうこじれてしまったのかわかりませんが、私の国の教育、そして社会は、私が小さい頃から、つまり三十年以上前から、この辺りのしくみは変わっていないようなのです。この国に生まれたら、衣食住事足りて満ち足りた環境で生息できますが、自分の人生を自分で決めているように見せかけさせられて、実は自分で決められることはあまりないのです。今ここで実例を枚挙できませんが間違いありません。選択肢は長い歴史の残滓として限られてきていて、生まれる前から決まっています。この辺りの感覚が豊かな子たちから、不登校に傾いていきます。彼らは正しくもありませんが間違ってもいません。動物のように息をして排泄するだけでいいと消費社会が言うのなら、そうしようじゃないか、と。生きることの痛みや大変さを感じたかったのにそれすらも許されないのなら、ペットみたいに生きるしかないじゃないか、と。不登校の子も、「頭だけいい」子も、根っこはいっしょです。ペットです。そんな子どもが一番腹が立つ質問はお決まりのこれです。「大きくなったら何になりたい?」まるで何にでもなれるかのようですが、この質問自体が虚構の上に成り立っているので、腹が立つのです。私はそんな残酷な質問はせず、限られた選択肢の中で楽しく有意義な生を送るためにはどうしたらいいかをいつも一緒に考えるようにしていました。家庭科はそれにおあつらえ向きの教科です。私はいつも、授業開きに際して、一年かけて考えてほしい質問を考えます。今問うべき質問はこうです。「明日世界中のあらゆる貨幣が信用を喪失し、すべての金融が機能停止しても(そういうことがないように大人はやけに必死なわけですが)、つまり!今、世界からお金が消えても生活ができる見通しと自信はありますか?」。「え?全っ然(問題なく)生きていけるけど?!」と大人から当然の如く答えられるようになって初めて、子どもも大人も一人の人間として誇り高く生きる次の世界の扉が開く気がします。 
 
第47回京都教育センター研究集会 全体会
《集会テーマ》「憲法公布70年、学問・教育に憲法を生かす」


記念講演「「憲法が生きる国・教育へ―個人が尊重される社会に―」
       佐貫 浩氏(法政大学教授/教育科学研究会委員長)
 
 

 第47回京都教育センター研究集会は、12月24日全体会を開催しました。クリスマスイブにもかかわらず、現職、退職者、研究者、父母など84人が集いました。高垣忠一郎センター代表、河口京教組委員長の挨拶の後、本田久美子事務局長の基調報告につづき佐貫浩さん(法政大学教授)の講演がありました。

 佐貫さんは「憲法が生きる国・教育へー個人が尊重される社会にー」と題して、お話されました。

 はじめに「現代をどう捉えるか」というテーマで、①新自由主義とは何か―グローバル資本の支配と権力の変質、②「国民主権」権力による経済世界のへのコントロールの変化、③「知識基盤型社会」という現在像の批判的検討、について話されました。資本主義が250年間展開し、人権が抑圧されていくがそれに対して人権と労働権を守るため国民国家の議会制民主主義が実現していく。しかしながら今、安倍さんが「企業が儲かる社会」というのは、国民の福祉を犠牲にして、企業が儲かる社会であり「新自由主義国家」である。今企業の資本力は、国家を超える力を持っているなど話され、現代を認識するということは、すでに達成された問題ではなしに、そして安倍首相のひどいやり方を、ただ並べるだけではなかなか見えない。その根本をどう理解するかといった時に、人類がまさにこれを超えないと次の時代にいけない。そういう新たな歴史的課題に直面している時代であるとまとめられました。

 次に、「道徳と憲法」というテーマで、①道徳性とは何か―道徳性の三つの段階、②道徳性と憲法ついて話されました。人類はどのようにして道徳性を身につけたかをクリスト・ボームの『モラルの起源』より紹介し、人間があゆんできた歴史に沿って、道徳性を説明し、「人間が共同的に生きていくためのもっとも重要な到達点は憲法にある。」と話されました。「実は政治というものこそが道徳性をつくってきた。そして第三段階の政治のありようというもののなかに人類が到達してきた最高の道徳性が実現されている。その中では生存権、基本的人権、みんなで富を分かち合う、困っている人を助ける連帯。人間が生存権を実現して、幸福追求権ができていくような、それに必要な価値観は基本的には憲法に入っている。そういう意味では道徳教育の根本は日本国憲法の中に、政治のありようとして到達した人間尊厳を実現していくための方法をどう検証し、行使するか。そして、それらこそが今日の社会をつくっていく方法であることを、みんながもう一度、価値をしっかり認識する。これが道徳教育の一番根本ではないかと思うわけです。」と話されました。そして、③安倍政権の道徳教育のねらいとして(1)「自己責任」で生きる構え──社会責任への認識を閉ざす(2)「人権」意識を封じるー国家という共同体のために生きるについて話されました。時間が迫ってくる中で、「声を上げる民主主義と表現」「、アクティブな学び(ラーニング)」「主権者教育と中立性の問題」について話されました。

 参加者の感想をいくつか紹介します。

〇現代社会の構造を把握すること、今が人類史上どのような時代であるのか捉えること。この問題提起に、その重要さをあらためて認識いたしました。ともすれば個別現象に目を奪われがちな自分に気づきました。(大学)

○ 子どもたちをしめつける自己責任論の冷たい視線。他者からのだけでなく自分を責める心。つらく厳しい中学生をとりまく世界のなかで、その根源がどこにあるのかを解明するお話でした。

○ 社会科の教師としては、資本主義をきちんと教えなければならないのだと理解しました。生徒たちがその本質をつかめるような授業を組み立てたい+と思います。(高校教員)

(詳しくは『ひろば189号』(2月中旬発売)
 
 
パネルトーク「もっと自由に、もっと人間らしく」 
コーディネーター
・深澤司さん(教育センター運営委員)
パネラー
・寒川 穂波さん(京都市内小学校教員)
・西田 陽子さん(乙訓高校教員) 
・神代 健彦さん(京都教育大学・教科研全国委員)
 
 

《寒川穂波さんのトーク》
                                
 20年ぶりに六年生を担任。部活動や土曜部活、「大文字駅伝」、夏から週3回登校後に走って練習。12月は小中一貫校の入学志望者の報告書づくりに追われました。

 1月の研究発表会に向けて「スタンダード」は必要だということで、研究部から学習に関わる21カ条が出されました。「反応をしながら聞く」というのがあって、「それって何やねん?」と子どもが聞くので、「『そうやねぇ』とか言いながら聞くことかな。」と言ったらすぐに反応を始め、私が話すといちいち「そうやねぇ」とか言って、「やかましい、もぅえぇ。」っていうことになりました。言えないクラスや若い先生のクラスなどでは「きちんとやらないとダメ」ということになると思います。

 私は「楽しい授業・わかる授業」を大事にしてきました。「速さ」の学習は体感を大事にしようと、算数サークルで教えていただいたプラレールを走らせて10秒間で何メートル走るかということをやって大盛り上がり。子どもが主人公になれるようにと、運動会やクラス劇も頑張りました。あと3カ月で卒業ですが、6年生が歌う歌を大切にしたいと思っています。

 私は組合活動などでいろんな人に出会い、そこで「どう思う?」って聞くと、「そりゃあ、おかしいやろ」とかいろんな話を聞かせてもらい、自分が思っていることに確信を持てたことが大きかったです。組合などの研究集会は、大事だなぁと思います。


《西田陽子さんのトーク》
                                
 英語科の主任として、教科会議でいろんな意見や愚痴も言い合い、英語科として、「習熟度ではなくて少人数授業」や定数の要望も出してきました。

 生徒会顧問では、学校生活を変えていこうとアンケートに取り組み、自動販売機を屋根のある所に置いてほしいなどの要望をまとめて生徒部長や副校長と懇談をしました。生徒総会の報告では、生徒から拍手が起こりました。向日が丘支援学校と年一回近隣の学校が集まる「交流のひろば」の取り組みでは、素の自分が出せる、支援学校の中ですごく子どもたちが大事にされているという空気の心地よさが伝わり、交流にはまった生徒もいます。

 週一回の分会ニュースは、原則的な中身ばかりではなくて、生徒指導がうまくいかないとか、同僚の愚痴なども聞きながら、それに応じた内容も載せたりしています。若手の先生の中には他の仕事をしていてもパッとニュースをとって読み始めてくれる人や「組合への認識が変わりました。」などと言ってくれる人もいます。

 私の感性の維持は組合に入っていることと、新英語教育研究会に入っていることです。時々ちがう世界に出かけていって自分をリセットしています。また、子どもの前で生き生きして、生き生き学んで自分が楽しく生きるってすごく大事。楽しく学ぶという姿勢をきっちり生徒に見てもらうことが一番大事な仕事かなと思っています。


《神代健彦さんのトーク》 
                               
 私の仕事を一言で言えば、学生たちに「よい教育って、こういうことでは?」という教師(の卵)としての自由な探求を保障すること、と表現できます。しかしこれは簡単ではありません。「よい教育」への、強固な、非常に貧しい先入観の存在です。「規律が成立している」ということと、「テスト学力が高い」ということです。

 子どもの育ちは、さまざまな寄り道、回り道、逸脱、間違い、衝突、葛藤、反抗、不合理などといったもの、つまり、「規律」の思考がまさに排除したいと願う事柄(「悪」)を拭い難く含んでいます。あまりにも強すぎる「規律」の思考は、それらを排除しようとするあまり、子どもの育ちを貧しくしてしまう危険性を持っています。このことに敏感であってほしいと思っています。

 また、「学力」が、いわゆる受験のテストで点数がとれる力という意味に矮小化されていることも問題です。子どもたちにどんな力を保障すべきか、テストで求められていることを超えて、それを探求する自由で主体的な精神は、優れた教師に欠くべからざる資質だと思います。

 他方で、大学の教育研究のあり方自体が、かなり危うい状況になりつつあるということも、指摘しておきたいと思います。

(詳しくは『ひろば189号』2月中旬発売)  
   
  学習会や集会・研究会などのお知らせ
 
第50回「建国記念の日』不承認 2・11京都府民のつどい
◆日時 2月11日(土)13時30分~17時  
◆場所 京都アスニ―3階(丸太町七本松)      
講演 「象徴天皇制の現在と日本国憲法
~「生前退位」と戦争責任を考える~」
    講師 河西 秀哉氏(神戸学院大学准教授)
ミニコンサート  鈴木君代さん(東本願寺僧侶)
特別発言     戦争体験者・青年
参加費500円(学生無料) 
 
京都まちづくりシンポジウム
学校跡地を地域の居場所に学習会
「京都小学校校舎の歴史と学区」パート2

◆日時 2月12日(日)13時30分~16時30分
◆場所 教育文化センター301号
講演 「京都市旧番組小学校
コンクリート校舎の形成過程」(仮題)
講師 大場修氏〈京都府立大学院教授〉
資料代300円
 
 
より豊かな学校給食をめざす第36回京都集会
◆日時 2月18日(土)
◆場所 京都テルサ(九条車庫南側)
全体会 10時~12時
記念講演 「食を通して社会と繋がる
普通に食べる幸せをみんなで」
講師 枝元 なほみ氏(料理研究家)
分科会 13時~16時
第1分科会 「保育所・学校給食の授実と食育」
第2分科会 「食の安全から学校給食を考える」
参加協力券500円
 
 
学校統廃合と小中一貫教育を考える第7回全国交流集会in京都
これでいいのか! 学校統廃合 小中一貫教育 地域こわし


日時2月26日(日)10・・00~16・・45
会場 キャンパスプラザ京都
(京都駅前左へ向かってすぐ)
全体会 10時~12時15分
◆基調報告
「学校統廃合、小中一貫校をめぐる全国の情勢と課題」 (山本由美さん・和光大学教授)
◆パネルディスカッション
「地域こわしと学校統廃合」
パネラー・・京都市内・京都市京北。亀岡市のみなさん
コーディネーター・・平岡 和久さん(立命館大学教授)
分科会 13時15分~16時45分
第1分科会「学校統廃合と地域の運動」
共同研究者 佐貫浩(法政大)・山本由美(和光大)・八木英二(京都橘大〉
第2分科会「教育課程と子どもの発達」
共同研究者 梅原利夫(和光大)・金馬国晴(横浜国大)
第3分科会「まちづくり・地域づくりと学校の役割」
共同研究者 平岡和久(京都教育大)・中林浩(自治体問題研究所)
第4分科会「小規模校の教育」
共同研究者 藤岡秀樹(京都教育大)・久保冨三夫(帝塚山学院大)
参加費+報告書+送料 合計1100円
 
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