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  ●京都教育センター通信 
復刊第100号
 (2015.9.10発行) 
   
「戦後70年」の現実から歴史を問う

        富山 仁貴 (関西学院大学大学院生)

 

ごあいさつ

 センター通信をお読みの皆さん、はじめまして。私は今年の4月からセンターの運営委員に就任しました。再刊100号を迎えた「センター通信」の巻頭を飾ることとなり、恐縮の限りです。私は関西学院大学の大学院に所属して、戦後日本の教育運動について研究をしています。運営委員としては就任したばかりで右も左も分かりませんが、学校現場や様々な実践について皆さんに教えて頂ければと思います。


戦後70年の「首相談話」をどう見るか

 さて、「終戦の日」に先だって安倍首相は戦後70年の「内閣総理大臣談話」を発表しました。この談話の問題点は色々ありますが、ごく簡潔に述べると、@近代日本の近代化を評価し、帝国主義としての面を無視している、A「侵略」「植民地支配」「反省」「お詫び」などの言葉の主語をぼかして首相としての言葉を曖昧にしている、B今後の謝罪と和解に後ろ向きな姿勢を「積極的平和主義」でごまかしている――以上の3点が指摘できます。こうして、首相は戦前・戦中・戦後の歴史を塗り替えようとしているのです。

 首相は記者会見で「具体的にどのような行為が侵略に当たるか否かについては歴史家の議論に委ねるべき」と、「侵略」について具体的に認めることを避けようとしました。なので、歴史学研究者としてはっきり述べます。日本の行った戦争は「侵略」を伴った犯罪行為であると。

 世界的に見て、第二次世界大戦はファシズムと反ファシズムの戦争であると理解されています。「ファシズム」とは、歴史的には1920年代のイタリアに生まれ、世界に広まった権威主義的な独裁政治の運動・思想・体制のことです。その特徴は、@経済的には帝国主義(日本は市場を求めて中国を、資源を求めて東南アジアを侵略した)、A思想的には極端な民族主義(ドイツでは反ユダヤ主義、日本では天皇制の国体論)、B政治的には反自由主義・反共主義、C体制的には総力戦(戦場・後方問わず巨大な犠牲者を生み出した――死者数は日本で300万人以上、世界で6000万人以上)が挙げられます。このように、ファシズムとは人類に対する犯罪行為に他なりません。


いま立ち上がって問う

 同時に見逃してはならないのは、過去の誤りと侵略を認めた「村山談話」を葬り去ろうとしていた安倍首相が、「反省」や「お詫び」などの言葉を使って一定の妥協をしたことです。これは安全保障法制をめぐって政権への批判が高まっていることが背景にあります。この世論の盛り上がりのなかで数多くの若者や女性や学者が立ち上がっています。

 原発再稼働のためには政府寄りの「専門家」の意見を聞くくせに、憲法や歴史の問題では良心的な「専門家」の意見を聞かない、そんな安倍政権の反知性主義に対して多くの学者は憤りを感じています。こうしたなかで、研究者の社会的責任が切実に問われています。私も、目の前にある「戦後70年」の現実から歴史を問うてゆく、そんな研究を通じて歴史の現実と教育現場に結びついた研究を行っていきたいと思います。

※第53回部落問題研究者全国集会のご案内(10月31日(土)〜11月1日(日)、於京都・同志社女子大):1日目全体会は吉田裕氏(一橋大学教授・日本近現代史)に「戦争体験をいかに継承するか」など。2日目分科会では富山も丹後の教育運動と地域社会について報告します
 
 
教育研究全国集会in宮城  国語分科会
作文を書き、読み合うこと(前半)

                        京都公立小学校 伊藤 正信
 
 

はじめに

 私は,クラス替えのない、1,2年生の担任をしました。その二年間の子どもたちの作文を中心に見ていくことで、子どもたちの成長に作文がどのように関わっていたのかということを考えていきます。


1.つぶやきの中に伝えたい思いがある

「せんせい5かいもよんだー!」

と言ったのは,毎朝一番に教室にやって来る元気いっぱいのAくん。音読の宿題が出始めた4月、教室に入って来るや否や、とても自慢げに話してくれました。やる気に燃えている彼の気持ちが表れています

「せんせい、きょうのひらがな『ん』やろ〜。いえでかんがえてきてん。だってひともじのやから。」

これも朝休み、ランドセルを片付けているときに、その日学習するひらがなを尋ねてきたのです。画数順でひらがなの学習を進めていることに自分で気づき、家で翌日学習する文字を考えて来る。この場面だけでも,分析的でとても意欲の高いことが伝わってきます。クラスの中でもお姉ちゃん的な存在でしっかり者、Bちゃんです。

「ぼくべんきょうだーいすき。でもあそびのほうがすきやねん。」

こういったいろいろなつぶやきをおたよりに載せ、今その瞬間だからこそ出てきた言葉を大切にして,みんなで読み合い、表現することの楽しさの土台を育てます。


2.口頭作文

りょこうにいって、
かえりにあそびにいったところ。
うみがな、のぼっていって、
じゃっぽーん!
ってした。
はなちゃんがいちばんまえやって、わたしがにばんめやって、ぱぱがいちばんさいごやった。

 今、自分が一番お話したいこと、聞いてほしいことを思いのままに絵に描きます。

 作者のDちゃんは、家族のことが大好きで、面倒見のいい明るい女の子です。

 口頭作文はひらがなの学習と平行して進めるので、絵を描けたら何をしているところなのかをお話してもらいます。

 ひらがなの学習が進んでいき、自分でお話が書けるようになった子は、自分で言葉を選び綴っていきます。

ぼくはまえ、くみんうんどうかいにいって、3いか4いをとりました。
100こぐらい(どんぐりも)とりました。
おもしろかった。
どこにあるか ひみつだよ。

 遊ぶことが大好きで、友達の先頭に立って運動場にかけていくEくんのこの作文。運動会に行ってどんぐりを100個もとったことがとても誇らしく楽しい出来事であったことが書かれています。でも、それだけで終わらずに「どこにあるか ひみつだよ。」と最後につけるところが素敵です。この作文を読み終えると、
 「どこにそんないっぱいどんぐりがあったん。」
 「がっこうのなか?」 「あそこちゃう?」
 「ぼくしってる〜。」
というように、友達が次々とEくんに尋ねだり自分の知っていることをお話したりしました。最後には、「じゃあきょうのちゅうかんやすみ、いきたいひと、つれていってあげるわ。」とEくん。中間休みが終わると、子どもたちの両手やポケットには大量のどんぐりが。その表情は「おたから」でも見つけたときのようでした。

 みんなと仲良くなりたい、という思いは誰しも持っています。でも、知らない人もいるクラスの中で「友達できるかな…。」と不安な気持ちを抱える子どもたちもいることでしょう。その中で、このように作文を読み合うことで、クラスメイトのことを知ることができ、そこから生まれる遊びや子どもたち同士のつながりがあるのです。

 「子どもたちは作文で友達のことを知り、作文は子どもたちをつないでいく。」ということに気づかされた作品でした。


3.のびのびと自分の思いを書くために

 おたよりに子どもたちの作文を掲載する上で、気を配ることがあります。それは、子どもたち同士と保護者の方の作文の見方です。子どもたちがのびのびと自分の思いを書くためにとても大切なことで、これを保護者にお願いしないことには作文を始められません。

 口頭作文から、題名をつけて自分で文を綴っていく「作文」へ移行する前に保護者の方へ作文の見方を、再度お願いします。(おたよりの写しは略)


4.ありのままの自分を受け止めてくれる安心感

(構成の都合で省略)


5.みんなで共感すること

  Aのくせ        A(2年5月)

Aのくっせーは、いじめちゃうー、くせでっすー。いろんな人にいじめちゃいます。
じぶんでもこまっています。でも、じぶんへんとおもいます。
でも、なぜかするんですよー。でも、なぜかいじめちゃうんです。

 Aくんは、とても元気で活発で、休み時間はいろいろな遊びを思いつき、友達と一緒に楽しく遊んでいます。授業中は、鋭い発言をして積極的に取り組めていました。しかし,友達との関わりで、冗談のつもりが言い過ぎてしまったりやり過ぎてしまったりすることが多く、トラブルが後を絶ちませんでした。

 その度に個別に話をして、友達に「やめて。」と言われたらすぐやめる、という約束をしてもなかなかその通りにできないAくんに対して、不満を募らせる友達も少なくはありませんでした。

 二年生の目標の一つに、「友達と仲良くなれますように。」と書いていたAくん。本当は誰よりも友達と仲よくしたいと思っていたのです。そんなAくんが書いたのがこの作文です。始めは照れもあってか、少しおどけて書いていますが、その内容は間違いなく彼の切実な思いです。Aくんの心の叫びを感じました。この作文は、時間をとってみんなで読み合い、思ったことをそれぞれに書いてもらいました。

・Aくん、ひろみもくせあるでー。みんなくせあるとおもうし、だいじょうぶやでー。

・Aくんだいじょうぶだよ。みんなくせはあるから、ゆうきをだしていっしょにくせをなおそうね。

・Aくんへ
 だいじょうぶだよ。ちょっとずつなおしていけばいいんだからね!みんなそれぞれくせがあるから。みんなとがんばっていけばいいから。
 わたしもいもうとにきついことばとかいっちゃうことがあるから、おたがいがんばろうね。ファイト!

・かいもついついAくんのいじわるなこと先生にいってしまうけど、かいもAくんと同じクラスでいいなと思っているよ。

・Aくんへ
 Aくんみたいでわたしも,はなちゃんといつもけんかしています。これからもいっしょにがんばろうね。Aくん、くせなおせるようにがんばってね。わたしもてつだうことがあったら言ってね!

 いじめというよりもいじわるや少し身勝手なことをしてしまう彼のくせに共感しながら、自分やみんなも同じようにくせがあるから大丈夫、と励ます子どもたち。

 こうやってAくんの心の内を知り合ったからこそ,次にトラブルが起きたときに、「自分でも困っているんだよね。」という友達の理解が彼を救い、彼の居場所がしっかりと教室の中にできていきました。

 人間のくせは、なかなか簡単には直らないものですが、いじわるを続けてしまう彼に「どうして?」「本当に困っているの?」「本当のAくんはもっとやさしいのに、どうしたん?」と問い質すしっかり者のBちゃんの存在がありました。その気持ちももちろんです。

 そこで、

 まあ,ぼちぼちやっていきましょう。くせなんてそんなにすぐなおるものじゃないですからね〜。

ちょっとずつなおしていけばいいんですよ〜。

と言った男の子がいました。その言葉で,クラスのみんなも「そうだな。」という雰囲気になり、Bちゃんを含めてみんなでまた応援していこう、ということになりました。その直後,友達に「本をかして。」と言われたAくん。いつもなら「無理−。」と意地悪に言ってしまうところを、「いいよ。」とやさしく手渡してあげている姿がありました。

 やはり、人を前向きにさせる大きな力というのは、周りの人の応援や信じる気持ちなど、温かい心、言うなれば愛というものなんだろうな,と感じました。

         (以下次号に続く)
 
   
 

「みんなで21世紀の未来をひらく教育のつどいー教育研究全国集会2015」in仙台
「戦後70年、手をつなごう、子どもたちに平和な未来を手わたすために」
 
 

 8月16日から18日まで宮城県仙台市で開催された、「教育のつどい」は開会全体集会に教職員、父母、研究者など1400人が参加しました。実行委員会を代表して挨拶した梅原利夫さん(民主教育研究所)は、「戦後70年のいま、東日本大震災の被災地につどう意味は大きい。教え子を再び戦場に送るなという不滅の決意をいま発揮すべきとき」と、強調しました。

 記念講演の金平茂樹さんは「テーマは、世界の取材現場から〜子どもと戦争〜となっているが、安倍首相の戦後70年談話を読み、急遽内容を変えました。」と開口一番に言われ、今の政権は「国民主権」から「国家主義」へと偏狭なナショナリズムと国家によるメディア統制によりすすめようとしている。しかし戦争法案に反対する国民は若い世代にも広がりつつある。渋谷の高校生による安保法案反対デモなどすごい。またこの被災地においても文化の力で復興のエネルギーになる。坂本龍一さんなど楽器の修理活動などとりくんでいる。できることをやっていこうと呼びかけました。最後にこれから何をどうすべきかで5点述べられたのが印象的でした。

@外とつながる。
A横とつながる 
Bいつも心にユーモアを! 
Cかっこよさ、創意、あそび、おしゃれ
D知ることの喜びー学びは生きてゆく価値そのもの。

 現地報告では、「被災地の子どもと教育をめぐる現状と課題」と題して、宮城県石巻市の徳水さんが被災地の子どもの様子ととりくみを話されました。

京都から、レポーターなど合わせて66名が参加し、学び合いました。
 
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