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  ●京都教育センター通信 
復刊第98号
 (2015.6.10発行) 
   
「ほんとに悔しいです。」 〜27年前のこと〜

        安嵜 正 (京都府立高等学校教職員組合委員長)

 

 「(卒業式の形式について)学年でも承認して、学校も承認しました。それをたった数日のうちで、いとも簡単に崩してしまったことには…、ほんとに残念です。…3年間のHR活動の総決算であった卒業式、ぼく個人のこれまでのしんどい思いもこれで水に流すのかと卒業式では考えていました。それでもこんな間違ったやり方で、強制的なやり方で、こういう不本意な形になってしまったことは、決してぼくも建前ではないし、立場上言ってるんではなく、ほんとに悔しいです。府教委の人も僕らにとったら目上の人で、指導者です。それやのに。生徒の気持ちを踏みにじったことを恥だと思ってください。まだ18歳で若さの未熟から目上の人に対してこんなことを言ったのかも知れないけれど、やっぱり間違ったことはおかしいです。」

 私が、乙訓地域の府立高校に採用されて3年目、担任として初めて持ったのが、当時、京都の「高校三原則」が崩され、T・U・V類という、いわゆる「類系制」が始まった「新制度」最初の学年でした。「類系制」が導入されという中でクラス間の格差をつくらないようにしようとの思いから、その時の学年団は、生徒会とは別に、学年としての生徒HR運営委員会をつくり、リーダーを育てながら、様々なとりくみを行ってきました。冒頭のことばは、3年HR運営委員長として運営委員会の最後のとりくみとして卒業式に関わった生徒のスピーチ(答辞)の一節です。

 3年HR運営委員会は、卒業生が主体となれるような卒業式にするために話し合い、卒業生5人でスピーチ(答辞)をすること、式歌に代えて卒業生の歌をいれること、そして、これまでのような壇上からの卒業証書授与ではなくフロアで、卒業生と、教職員および保護者が対面で向かいあって卒業式を行うこと、みんなで卒業を祝えるようにしようと決めました。学年団でも相談し、学校長を含め職員会議の承認を経ながら、生徒の意見を卒業式に反映させて要項を決めました。

 ところが、職員会議でフロア形式の卒業式を認めた学校長が、急に壇上での授与式に戻して欲しいという「お願い」をしてきたのです。いったん自ら認めたことを覆すことの苦渋も訴えながらでの「お願い」でした。緊急に招集された職員会議では、夜遅くまで、喧々諤々の話し合いが行われ、結局、卒業式の形式をフロアから壇上へと戻すことに同意せざるを得ませんでした。

 スピーチを述べたHR運営委員長の生徒は、切々と、一つひとつのことばを詰まらせながらも、しっかりと自分の思いを述べました。スピーチを聞いている教職員や生徒、保護者の中には鼻をすする音があちこちで聞こえました。

 壇上での卒業証書授与でいったん卒業式を終了させ、そのあと卒業生が長椅子の上で反転して、そのあとはフロア形式で進行していくのですが、職員会議で合議の上決めたとはいえ、その決断は果たして正しかったのだろうかと、生徒のスピーチを聞きながら思ったものです。蜷川民主府政が倒れてから10年目、新制度が始まって3年目、管理運営規則が一方的に実施されてから1年目のことでした。以後、学校現場では校長権限が強化され、教職員・生徒の声に耳をかさずに校長判断ですべてを決めるというスタイルが広がっていくようになりました。今から約27年前のことです。

 
 
5月17日学習会「戦争する国」への人づくり〜戦後70年、教科書はどうなる!?〜
講演「『安倍教育再生』と今夏の中学校教科書採択」

                 石山 久男 氏(前・歴史教育者協議会委員長)より
 
 

1.今年の教科書問題の位置

 安倍政権のもとでの憲法破壊の新段階 集団的自衛権行使と戦争法づくり。その背後にある日米軍事同盟の強化とガイドライン改定。戦争する国づくりのための「教育再生」政策の全面展開。その重要な一環、今年の焦点としての戦争美化教科書の採択問題 それをめぐるせめぎあいが、集団的自衛権行使反対の過半数の世論と運動の高まりの中で進行している。


2.2014年以来の検定制度改悪

1)検定基準と検定審査要項を改定

@近現代の歴史的事象のうち、通説的な見解がない数字などの事項について記述する場合には、通説的な見解がないことが明示されているとともに、児童又は生徒が誤解するおそれのある表現がないこと。特定の事柄を強調しすぎていたり、一面的な見解を十分な配慮なく取り上げていたりするところはないこと。

A閣議決定その他の方法により示された政府の統一的な見解又は最高裁判所の判例が存在する場合には、それらに基づいた記述がされていること。

B教育基本法の目標等に照らして重大な欠陥がある場合を検定不合格要件として明記する。

結局、近隣諸国条項の無効化、事実上の撤廃、河野談話村山談話も事実上否定されかねない。

2)「学習指導要領解説」の一部改定

 小中学校社会と高校地歴・公民の「学習指導要領解説」の一部改定された。建前は、法的拘束力はないが、実際は「解説」の趣旨の通り書かないと検定で修正させられる。

 領土問題「北方領土や竹島について、…我が国の固有の領土であるが、それぞれ現在ロシア連邦と韓国によって不法に占拠されているため、北方領土についてはロシア連邦にその返還を求めていること、竹島については韓国に対して累次にわたり抗議を行っていることなどについて的確に扱い、我が国の領土・領域について理解を深めさせることも必要である。なお、尖閣諸島については、我が国の固有の領土であり、また現に我が国がこれを有効に支配しており、解決すべき領有権の問題は存在していないことを、その位置や範囲とともに理解させることが必要である。」

 自然災害における関係機関の役割中学地理「消防、警察、海上保安庁、自衛隊をはじめとする国や地方公共団体の諸機関や担当部局、地域の人々やボランティアなどが連携して対応していることなどに触れること明記した。」


3.今年から使われる小学校教科書の変化(2014年4月検定合格、2015年度から使用)

 次の4点で、内容が書き換えられた。(詳細は略)

1)領土問題についての検定

2)領土問題の記述全体について

3)災害と自衛隊・米軍

4)侵略戦争と植民地支配を肯定的にとらえさせる記述への自主的修正


4.今年の中学校教科書の検定結果

1)新検定基準にもとづき政府見解を書かせる検定

a.日本軍「慰安婦」問題(学び舎歴史)

b.戦後補償問題(教育出版公民)

2)検定以前に政府見解を書いた(書かされた)領土問題の記述

 前述の「学習指導要領解説」の改訂による出版社側の自主規制が大きく働いている。

 地理や公民では領土問題の記述を軒並み増やし、政府見解通りに、北方領土・竹島・尖閣諸島は「日本の固有の領土」、北方領土はロシアが、竹島は韓国が「不法に占拠」と横並びに書き、尖閣諸島には領有権問題は存在しないと政府見解を丸写ししている。韓国や中国の主張にもふれたものはない。

 政府が政治問題・外交問題で一定の見解をもつのは当然としても、政府の決定には誤りがある可能性が常に存在する。民主主義社会の主権者たる国民は、政府とは異なる見解をも学びながら自主的判断力を備えていくことが求められる。憲法26条1項と教育基本法16条(「不当な支配」の禁止)に違反しないためには、子どもが自由かつ独立の人格として成長することを妨げるような内容を含まないこと、一方的な観念や見解を教え込むように強制するものではないこと等の条件を満たす必要がある(旭川学力テスト事件最高裁大法廷判決)。政府見解を一方的に教科書に書き込ませるのは子どもの学習権に対する重大な侵害になり、子どもの権利条約にも違反するといえる。

3)「通説」にかかわる新検定基準にもとづく検定

 清水書院の関東大震災における朝鮮人虐殺事件が書き換えられた。


5.育鵬社版・自由社版の歴史と公民教科書

1)《歴史》について

 日露戦争 日本の朝鮮支配を確立するための戦争であり、実際5年後には韓国を併合した。しかし育鵬社版では、次のように書かれている。

 満州事変と日中戦争 「満州国」での工業の発展と人口増加を強調して日本の満州支配を美化し、そのうえ日本の満蒙開拓団入植も全く無批判に書いている(育鵬)。日中戦争については、中国側の排日運動が原因であるかのように書く。自由社版はついに南京事件の記述をすべて削除した。

 アジア太平洋戦争 名称は、アジア解放の戦争という意味をこめて当時の日本政府がつけた名前を使い「大東亜戦争(太平洋戦争)」(自由)、「太平洋戦争(大東亜戦争)」(育鵬)を使っている。アジア諸国を欧米の植民地から解放するための戦争だったと教えることに力をそそぐ。戦争初期「日本軍の勝利に、東南アジアやインドの人々は独立への希望を強くいだきました」と書き、インド国民軍、ビルマ独立義勇軍、インドネシア義勇軍などが日本軍に協力して戦ったことを強調する(育鵬)。「アジアの解放をかかげた日本は敗れたがアジアは植民地から解放され、独立を達成した。」と書き、「アジアの人々を奮い立たせた日本の行動」「日本を解放軍としてむかえたインドネシアの人々」というコラムものせている(自由)。これらは日本の行った戦争の本質を誤解させるものである。他社にはこのような記述はなく、アジア諸国民に与えた苦しみをとりあげている。他社では日本の兵士や国民が支配者によって正義の戦争と信じこまされていたことを書いているが、育鵬社・自由社は、国民がだまされていたことは書かずに、国民が積極的に国家に協力しがんばったことだけを強調している。

 沖縄戦 「集団自決に追いこまれた人々もいました」(育鵬社)と書いているが、他社のように「日本軍によって」という言葉はなく、日本軍による住民虐殺にはまったくふれていない。自由社は「集団自決」の記述を今回全面削除した。住民虐殺の記述はない。「日本軍はよく戦い、沖縄住民もよく協力した」と記述し、沖縄戦を戦争の悲劇としてではなく住民の戦争協力の姿として描き、戦争を最大限美化している。

 神武天皇(架空の人物) 大きくとりあげる。

 昭和天皇 人柄を描いたコラムをもうけて、天皇への尊敬の念を養おうとしている。他社にはこうした記述はない。民衆の動き 全時代を通して徹底して軽視している。

 明治憲法 問題点にはふれず、「アジアで初めての本格的な近代憲法として内外ともに高く評価されました」と記述

 日本国憲法 アメリカから押しつけられたことを強調し、その積極的意義や国民が憲法を支持したことにはふれない(育鵬)。自由社版も明治憲法について「憲法を称賛した内外の声」をくわしく紹介するが、日本国憲法は同様に押しつけられたことを強調する。他社とは正反対である。

2)《公民》について

 国民主権 「国民主権と天皇」(育鵬)、「天皇の役割と国民主権」(自由)のように天皇とセットで扱っている。両社とも国民主権の説明が約三分の一、天皇の説明が二分の一程度で、育鵬社版は「国民としての自覚」の項をつけた。さらに現在の天皇制を「現代の立憲君主制のモデル」と持ち上げている。

 基本的人権 人権保障についておよそ三分の一、人権の制限と国民の義務にそれより多い三分の二程度をあてている。しかも人権の制限の原理として憲法に規定されている「公共の福祉」を説明するときに、他社のように他人の人権を侵すことになる場合に人権が制限されるとするのではなく、国家・社会の秩序を守るために人権が制限されると書き、歯止めのない人権の制限を容認している。

 平和主義 平和主義そのものは4分の1、あとの4分の3は自衛隊の説明にあてている。そして憲法で国防の義務を課している国もあるとの資料を掲げている。そして日米安保体制のもと軍事力で国を守る必要性を強調している。そのうえ世界各国の憲法を引用しながら、国防の義務を国民に課すのが当然のように書いている。他社では憲法9条の歴史的意義や、最近の国際紛争解決のための努力を紹介し(清水書院など)、9条を生かし平和をどうつくるかを考えさせようとしている。

 新しく「平和主義と防衛」の項を設け、「国防という自衛隊本来の任務をじゅうぶんに果たすためには、現在の法律では有効な対応がむずかしい」という議論をあえて紹介している。また、自衛隊が「積極的に海外で活動できるよう法律を整備することが議論されています」と書き、「憲法改正」の項でも「政府内で集団的自衛権に関する議論が行われています」と書く。「沖縄と基地」というコラムでは、政府は負担軽減を行っているとして「普天間飛行場の辺野古への移設などを進めています」とまで書いている。全体として安倍政権の政策をそのままを正しいものとして宣伝しているような教科書である。まさに「戦争する国づくり」のための教科書といえる。

 憲法改正 2ページの独立の項を立て、各国の憲法改正の回数の一覧表まで掲げ、改憲が必要という政治的主張を打ち出している。他社では数行をあてているに過ぎない。

※ 実際に教科書を使って教える先生が、教科書を手にして考え、意見を表明することが重要です。

 
   
 

教科書展示会に行って、意見を書きましょう。

 みなさんが書いた意見はそのまま、教科書を採択する教育委員会議に、資料として出されます。
   
 
〈京都教育センター学力・教育課程部会 公開研究会〉


テーマ 「困った子ども」に寄り添う教育と学力形成を考える
日時 2015年6月21日(日)13:30〜16:30
会場 京都教育文化センター 302号室
基調報告:「クラスの『困った子ども』に寄り添う学力形成を考える」
報告者 鉾山 泰弘 先生(本研究会代表・追手門学院大学)


実践報告
@「Nくんの居場所があるクラスを目指して」(公立小学校)
A「通常学級で『困っている子』とともに学ぶ」(公立小学校)

*関心のある方ならどなたでもご参加いただけます。

  
 
〈京都教育センター公開学習会〉

日時 2015年6月27日(土)13:30〜16:30
会場 京都教育文化センター101号室
テーマ:「子どもが人間らしく育っているのか−地域・学校・生活の中での人格形成を−」
講演:「ヒトは群れの中で人となる」
講師 山本健慈氏(前和歌山大学学長)
報告:「子どもたちにゆっくり大きくなる安心と自由を」
報告者:得丸 浩一 氏


*関心のある方ならどなたでもご参加いただけます。
 
 
〈子どもの発達と地域研究会 公開研究会〉


日時 2015年7月4日(水)13:30〜15:30
会場 左京西部いきいき市民活動センター会議室3(2階)
     *京阪電車出町柳駅から徒歩7分
テーマ:「学校は、今・・・・」
     〜本当に、子どもたちが育ち合える場になっている!?〜
参加費:無料

*関心のある方ならどなたでもご参加いただけます。
*問い合わせ先 京都教育センター(075-752-1081)子どもの発達と地域研究会
  
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