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  ●京都教育センター通信 
復刊第82号
 (2014.1.10発行) 
   
京都府の教育を検証する

          京都教育センター ・ 立命館大学非常勤講師   大平 勲
 

来春の京都府知事選は、人間らしい暮らしと教育などを府民と子どもの手にとりもどすたたかいであり、私たちも「民主府政の会」とともに奮闘していくことが求められています。4期目をめざす現職知事はこの12年間、新自由主義・構造改革路線による国民への新たな攻撃に追随して、府主導の市町村合併や学校統廃合の押しつけと道州制への傾斜、府職員・教職員の大幅人員削減や給与減額、京丹後に米軍レーダー基地建設容認などで京都経済、府民のくらしと教育のセイフティーネットを壊してきました。また、関西広域連合を足場にした全国知事会長として、集団的自衛権行使、原発再稼働促進、大型公共事業中心の安倍暴走内閣を地方から一体となって支える舵取り的役割を果たしてきました。しかし、こうした府民不在の府政運営は府民との矛盾と混迷を深め、新たな情勢下での共同を広げる可能性をはらんでいます。

 このような府政下での京都の教育は、主に次のような問題点と課題があります。


1.京都式少人数教育

 世論に押されて現在、国の制度として小2までの「35人学級」が実現していますが、小学3年以上は放置されたままです。府では国から配置される「少人数教育」のための教員を活用して少人数学級・少人数授業・複数指導を選択するという「京都式少人数教育」を数年前から実施しています。しかし、県単位で学級編制基準を緩和している他県と異なり編制基準は40人に据え置いているため、小3をはじめとして多くの学級で35人を超える実態があり、「30人程度学級」を求める府民の根強い願いに背を向け続けています。


2.「臨時」だのみの教職員配置と「超」長時間勤務

 全国的に「定数崩し」等による非正規教職員が多用されるもと、京都府でも人件費抑制のために多様な名称、任用形態の臨時講師を1,263人(2012年度、京都市を除く)も任用し、定数内講師も年々増え続けています。また積年の課題である「小学校専科教員」配置についても他府県より遅れをとっています。

 全教が実施した「勤務実態調査2012」でも教員の残業は過労死ラインを超す月93時間半に達し、全国平均を上回っており、教職員の職務の縮減と定数増は放置できない実態にあります。


3.「土曜日活用」問題

 学校五日制が完全実施され10余年が経過した今日、その定着が見られる一方で府立学校での「土曜補習」や中高校での部活動実施、新学習指導要領に対処した授業時間数の確保等を根拠として、今年度から府内の約7割の小中学校で土曜授業を本格実施し、東京都に次ぐ規模となっています。府教委は「土曜活用のあり方検討会議」での拙速な「まとめ案」に基づき、週休日の振替等に関しても京教組との十分な協議を経ないままに実施拡大を強行してきました。


4.高校教育制度と入試制度の改変

 来春の高校入試から京都市・乙訓通学圏でも「類型制廃止・1通学圏・総合選抜制廃止」を柱とする制度改変が強行実施され、「特色で生徒が選べる高校」の名において「高校に選ばれる生徒」の実態が広がり、結果的に高校間での「合格点格差」が拡大することが危惧されます。府教委は民主府政時代に「全国の宝物」として評価された高校三原則を30数年の年月をかけてなし崩し的に潰し、「戦後京都の高校教育の総決算」と称した改悪を府民的議論も反映させない「有識者あり方検討会議」での「はじめに結論ありき」の形式的な議論を経て強行しました。 また、入試制度についいても、三段階の入試日設定での前期選抜でふるい分けを強めるなど中3生を新たな競争と不安に巻き込もうとしています。既に2004年から「1通学圏・単独選抜」となった山城通学圏では、それまではおおまかな「格差」でしかなかった9高校が年々、「輪切り入試」により9序列のついた高校に「再編」され、入学後の夢を持ちにくい生徒が増えてきていることが指摘されています。市内・乙訓通学圏でもこうした状況が近いうちに生まれることが必至であり、すべての高校生に豊かな学びと生き方を保障する制度への再転換が求められています。

 こうした京都府の教育施策は国のすすめる教育の構造改革を推進する立場を明確にするものですが、府教委独自の見識でのまともな施策も部分的にあり、教育長が変わって以降どのような方向に進むのか注視しなければなりません。


 
京都教育センター 公開研究会 講演
発達障害のある子どもの内面をさぐる
−通常学級の集団作りとの関連で−(その2)

                 別府 哲(岐阜大学)

 

T.共感的理解を行なうために−高機能自閉症のお子さんが「困っている」内容

A.指示や場面理解の困難さ

 話し言葉よりも視覚刺激の方がわかりやすいこと、これは一般的に広く知られています。高機能やアスペルガーの方は最初に触れたようによくしゃべります。喋るんだけれども、ユニークな言葉の理解をします。

 アスペルガーの人の成人のお祝いの会で、「僕は大のタイガースファンです。ですから今年は、僕のあらたなスタートラインです」と自己紹介しました。これをどうとらえるか。「野球が好きで阪神ファンだ。」ではないのです。お母さんの説明では、彼は野球の話をしたのではなくギャグを言ったそうです。「僕はトラです。だから今年は、僕の新たなスタートラインです。」トラとスタートラインのトラがダブっていてギャグなのです。彼の話を笑いながら聞いていた同席の青年に聞くと即座に「やっぱりトラでしょ。」と答えました。

 最近出会った二十歳すぎの大学生は、「先生の話は難しい」と言わずに「先生の話は常に魑魅魍魎だ。」と言います。「魑魅魍魎」が気にいっていて、お母さんに聞くと「魑魅魍魎はカッコいいよね。」ほんとほれぼれしているそうです。

 私たちは言葉と言えば意味を考えますが、彼らは意味より音の響き、音のつながりに魅入られるのです。これは、支援の手段にもなります。

 小学校5年生の男の子です。嫌なことがあると、隣にいる子に手が出る。それを止められると、校門から外に飛び出す。体育館の屋根にのぼるなどいろんなことがありました。先生は毎回怒り出したら、それはしないと言って止めていたけれどもそれでは教育にならない。お母さんの話から、彼の楽しい世界、今一番好きなのはテレビの「水戸黄門」(再放送)とわかりました。そこで先生は、水戸黄門と言えば印籠と言うことで、夏休みに本物そっくりの印籠を作り、どこかで使ってみようと考えました。2学期の最初の日、午後の運動会の応援練習が、雨が降りそうだったので午前に変更になりました。彼は予定の変更は許せないので、「なんでお昼からじゃないのや。」と暴れだしました。先生はここだと思い「これが目に入らぬか」と印籠を差し出しました。「うるさい、なんや。」と言っていたのですが、印籠とわかった瞬間、思わず「ははあ」と平伏しました。2学期の最初なので学級目標も、「人生苦もありゃ楽もある。」水戸黄門のテーマソングにしました。勝負に負けると彼は「俺の人生真っ暗なんや」と怒りだします。先生は学級目標を指さしながらCDを流します。うるさいと叫ぶのですが2番になると一緒に歌いだします。好きな言葉には、分かりやすいだけではない、好きな言葉を一緒に使ってくれる、分かってくれることで、すとんと落ちる、ことばの力もそこには含まれるのではないのかと思います。一緒に共有できる、共感できる、言葉の中にも、そんな力がいっぱいあります。


B.感覚の過敏さと鈍感さ

 ここで大事なことは、トラウマになるほどの不快経験(聴覚、触覚、身体感覚、視覚・・)と言うことです。すごく嫌なのに嫌な顔をできずににこにこしている。でも内心はすごく辛い。そのギャップをつかまなければいけません。こういうことが、自伝の本が出ることで分かってきました。(「自閉っ子、こういう風にできてます」ニキ・リンコ 藤家寛子 花風社)

 感覚支援で困っている方に、私が大事な支援だと思うのは、まずは、不快を取り除き、安心できる世界を保障することです。例を挙げます。

 四歳の保育園の子どもです。彼は高機能自閉とのちに診断を受けました。睡眠障害もありましたが、1番困ったのは偏食でした。(お菓子+唐揚げ、混ざらないご飯それも炊きあがってから30分以内だけ◎)給食やおやつは生活のふつう楽しい山場です。ところが、彼にとっては一番苦しい山場です。毎日ある苦しい山場、それがわかってくると、放送でなく朝調理室の前を通るだけで、暴れだすようになりました。彼への支援を考えるための職員会議を開きました。「そもそも、なぜ給食を取らなければ?」と言う問いから、「食事は文化。食のおいしさを伝えることではないか。」と考え、給食の目標を、「食べられる量や食材が増やす」から、「おいしいと思える体験を増やす」に変えました。そして「給食は、好きなものを選んで食べる。嫌いなものは初めから外す。おやつは、家で食べられるお菓子を職員室に用意しておいて、園長先生とやり取りをしながら2つ選ぶ。」と決めました。給食は嫌いなものは食べなくてもいいという安心感。おやつは楽しい。3か月続けたら、すごく落ち着きました。食べるということがこんなに大きな意味があるのだと教えられました。教育的配慮として、彼の回りに給食大好きの子たちを座らせました。彼はいやなものは食べなくてもいいから安心しています。周りの子は、今日のスープうまいねとか、味が染みるとか言いながら食べます。2か月ぐらい経ったある日、ある子が「今日のポテトうまいよ、先生。」と言ったのを聞いて、一つとって食べ、にんまりして「うまいですね。」とつぶやき、その日を境にポテトを食べられるようになりました。卒園の時には、約30種類の食材が食べられるようになりました。お母さんは、「園で食べられるようになったものは、一生食べられるんですよね。」「実は父親が食べさせて食べられるものがあと2つあったのですが、父親がいないときには食べてくれなかった。食べさせられない自分を責めたこともあった。でも保育園で食べられるようになったものは、私や祖母が作っても食べられるのです。本当にうれしかった。彼もうれしかったけど母親の私がとてもうれしかった。」と話されました。

 感覚過敏に対しては、その子の感覚をまず認めることからはじめることが大切だと思います。

 中学生ぐらいになると、自分だけが聴覚過敏があることを意外と知っています。ほかの子はどうでもいいくしゃみの音がすごく気になる。そんな自分は変なやつだおかしいと自分を責めている子が多い。それを変える方向は一緒に考えるけれども、前提として「そんな君はおかしくないよ。大丈夫だ。」と安心感を与えることです。しかし、安心感を与えたらそこに安住するのでは?と思われがちですが、多くの子はそうはなりません。逆に自閉症の子はとてもまじめです。あたらしい世界、挑戦したくなる世界を丁寧に横に置いてあげれば、必ず何らかの形でリアクションを返してくれます。


C.社会的認知の弱さ

 場の流れ(文脈)、雰囲気、相手の気持ちをうまく考えられません。相手の気持ちを「さっと」理解するのが苦手なのです。心理学では心の理論の障害と言います。例を挙げます。15年ほど前の小学校の入学式、アスペルガーの男の子です。入学式いきなり連れていったので、すっかりテンションが上がり、聴覚障害がありましたから式が始まると同時に立ち上がりうろうろし始めました。座ろうと声掛けするけど無理やり座らせることはしないで、式を進めてもらいました。校長先生が壇上で「新入生のみなさん入学おめでとう」と挨拶したら、それまでうろうろと歩き回っていた彼は、立ち止まって校長先生を指さして大きな声で「あ、あの人 かつら」と言いました。校長先生は「○○君。正解。」と言われました。お母さんは、笑いながら目に涙を浮かべておられました。ほかの子もわかっていました。私の前の3年生の子も隣の子に耳打ちして「やっぱりね。」とつぶやいていました。わかっているのに言わない。「それを言うとまずいぞ。」と思うからです。誰にも教えられていないことだけれども、その場の雰囲気でさっと理解する。多くの子は理解できるのに、アスペルガーの子は苦手です。「かつら」と言ったら相手が悲しいわけですから、相手が悲しむことを伝えていくことは大切です。しかし「かつら」と言った瞬間に、頭ごなしに「何言っての、そんなこと言ったらあかんでしょ。」と言われたら、頭ごなしに否定された怒りかもしれません。すごく怖い顔で言いますので、その顔がすごく怖くなるかもしれません。いずれにしてもテンションが上がって、先生の言うことは全然入っていかないという状況になることもあります。

 私はそういうことを伝える前に、ワンクッション置く支援を大事にしたいと思います。「○○くんは□□と思ったんだね」共感的な代弁です。違うかもしれませんが、叱るだけでなく、自分がなぜそういったのか考えてくれる、それによってテンションがスーと下がります。そのあと別室に連れて行って「○○の場合、相手は□□と思う」とコミック会話などを使って分かり合える通路を広げていけると思います。これはSST(コミック会話、ソーシャルストーリー)として広がっています。一部の人は、あれ大嫌いと言われます。ですから、当事者の気持ちを代弁することを必ず入れる。なぜあなたはそういうことをしたのか、本当に一生懸命に考える事です。共感的に受入れることです。そこがぴったりくるとほかの部分で違和感があっても、納得して受け入れてくれます。

(続きは2月号に記載します。)


   
 
第44回京都教育センター研究集会に二日間で170名が参加

少人数学級・学校の大切さが明確になった

 第44京都教育センター研究集会は、12月21・22日教育文化センターで開催されました。研究者、現場教職員、退職者、父母など1日目の全体会には64人、2日目の分科会には100名余りの方が参加しました。全体会では野中センター代表、河口京教組委員長の挨拶の後、岡田知宏氏(京都大学大学院教授)の講演がありました。岡田氏は「構造改革は地域・学校に何をもたらしたかー住民・子どもが主人公の地域・学校のあり方を考えるー」と題して、グローバル化・構造改革のなかで、日本の地域がどうなっているか明らかにし、その中でも「小さくても輝く自治体フォーラム」運動など住民と協同による地域づくりの実践を紹介されました。またすでに合併したところでも元の小学校が地域づくりの拠点となり、小学校の同窓会ネットワークが地域づくりの主体を形成しているところや、次代を担う子どもたちも「地域の未来は住民が投票で選ぶ」住民投票条例制定の直接請求運動に参加している事例も紹介されました。全体会後半のパネルトークでは、少人数教育のよさを小さな学校・学級で教員をされている岩崎さんが語られ、統廃合せず教育費無償化に取り組んでいる山梨県早川町に実際行かれ、生き生きと活動している子どもたちの姿をDVDで報告された得丸さん、南丹市の小学校統廃合反対に取り組んだ地元住民の原田さん、保護者の森野さん、どなたの発言も先の講演内容を深めるトークになりました。

 二日目の分科会は、今年はすべての研究会が開くことができました。24本のレポート報告があり、内容の濃い討論がおこなわれました。


《感想文から》 −全体会―

○ 具体的なさまざまな地域での取り組みを紹介していただいて想像力がふくらんで、すっきりしました。やはり人間としての地域住民の要求、幸せに生きるとはどういうことか考えることがエネルギーや想像力につながると痛感しました。(市民)
○ 地域と住民の豊かな暮らしを守る岡田先生の研究に触れ、舞鶴においても現状の問題点を踏まえて、改善のために努力するエネルギーをいただきました。日本海から参加してよかったです。教育センターの研究、運動をこれからも学びがんばります。(退職教職員)
○ 教育の問題を教育以外のいろいろな側面からみることで、その背景にある社会の問題や経団連などの組織の問題が見えてくるということを強く実感しました。(学生)
○ 全体講演とパネルつながった。特に少人数の学級・学校の大切さが明確になった。今日の学力体制教育の点数競争が学力向上につながる宣伝を打ち破ることは今日の教育課題だ。非行やいじめ問題も少人数が大切。(研究者)

―分科会―

○ 「大山崎チャレンジクラブ」のとりくみは大変参考になりました。子どもたちを中心にすえたとりくみを考えていきたいと思いました。(地域:宇治田原サマースクール事務局)
○ 行事論議、子どもの見方、授業づくりの交流することなしに学校は動かない。だから、そこに教師の専門性が問われ、同僚性が見えてくると思いました。(学力:教員)
○ 高校教育の本質を改めて考えてみたいと思いました。三原則時代の京都の高校教育のよさをもっと知りたいと思いました。(高校問題:保護者)
○ 職場では聞けない視点での話が聞けて大変参考になりました。障害児教育にたずさわって1年目ですが、仕事が楽しくなる元気になることができ来てよかったです。ありがとうございました。(障害児:支援学校)




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