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  ●京都教育センター通信 
復刊第81号
 (2013.12.10発行) 
   
府政を変えて子どもといのちを大切にする教育へ

          京都教職員組合  河口 隆洋
 

 来年4月に京都府知事選挙が行われます。

 11月11日に小児科医で京都民医連会長の尾崎望さんが立候補表明されました。尾崎望さんは立候補表明にあたり、「小児科医として日々、子どもに向き合う中で、家庭や社会の問題が見えてきます。泣き続けているのに抱っこしてもらえない子、大声でしかられたたかれる子、何日もお風呂に入れてもらえない子・・・。共通して貧困が横たわっています。生まれながらにハンディを背負わせ、可能性をつみ取ってしまう『貧困の再生産』、これを断ち切るために、地方自治体ができることは少なからずあると考え府知事選への立候補を決意しました。」と力強く語っておられます。


 山田府政の3期12年は、京都の教育と子どもに何をもたらしているでしょうか?

 山田府政は、小泉政権とほぼ同時期に誕生し、京都に「構造改革」路線を持ち込み、貧困と格差を拡大させました。事業所の減少率は全国ワースト1位、非正規雇用者の比率は全国ワースト3位、「貧困率」は全国平均の1.3倍となっています。このような府民のくらし・営業の深刻さは、京都の子どもたちにも暗い陰を落としています。

 学校教育においても、山田府政は安倍政権の悪政を地方から支え、さらにこれを先取りする姿勢を示しています。府独自の学力テストは、国の全国一斉学力テストよりずっと以前から実施されています。京都の教育行政も「学力テスト体制」によって学校・教職員・子どもを競わせて管理を強めています。また、府主導で市町村合併をおしつけ、小中学校の統廃合を促進するなど、子ども・地域と学校との「距離」を大きくしています。


 公立高校京都市乙訓通学圏の改編をすすめています。全国的には公立高校の学区拡大のあとには必ずと言っていいほど、公立高校の統廃合計画が出てきます。学校現場で本来正規教職員を配置しなければならないところに臨時教職員を多用する実態と重ね合わせると、教育には金をかけない路線を推進している府・府教委の姿勢が見えてきます。また、安倍「教育再生」の先取りとして、「土曜日活用」を打ち出し、府内の小中学校で約7割が何らかの形で「土曜日活用」を行っている状況は全国的に見ても異常な高さを誇っています。

 京都教職員組合は、「府政を変えてどの子も大切にされる教育を」の府政転換にむけた教育パンフを発行しました。これには、父母・府民とともに「貧困・格差・競争を拡大する教育から子どもといのちを大切にする教育へ」と転換をはかっていくための具体的な提案・政策を打ち出しています。京教組は、このパンフを活用して、広範な父母・府民との教育問題での対話・懇談・交流を広げ、府政転換に全力をあげることを呼びかけています。

 子どもと教育に接点のある「行動する医師」尾崎望さんを先頭に、府内の子どもと教育にかかわる要求を総結集して府政転換にむけて歩みをすすめていきましょう。




 
京都教育センター 公開研究会 講演
発達障害のある子どもの内面をさぐる
−通常学級の集団作りとの関連で−(その1)

                 別府 哲(岐阜大学)

 

  発達障害のある子どもたちについて、今日は、高機能自閉症、アスペルガー症候群の子どもを中心に話します。この障害が発達障害の中でも、一番理解のされにくく、指導の困難さをひきおこしやすいと思うからです。

 この2つは診断名が違います。一番大きな違いは、3歳までの言語発達、これに遅れのある場合が高機能自閉症、3歳までの言語発達に遅れがないのがアスペルガーです。しかし、高機能自閉症の子も、幼稚園・保育園の年中年長で、言葉の力がぐんぐん伸びて、逆に大人顔負けのことばを使うことができるといわれて就学することが少なくない。ですから学齢期はこの2つを分けてとらえる必要はないといわれています。障害の中心は自閉症ですから、自閉症をどう理解するのかが重要です。自閉症について、「結局空気の読めない子ですね。」「ちょっとわがままなやつなんですね。」というとらえ方があります。これは誤解です。性格の問題ではありません。

 自閉症の障害の中心は社会性の障害と言われます。社会性とは、人とやりとりする能力の総称です。そこがうまくいかない。相手がこれを言うと怒る、経験的に知っているはずなのに、めがねをかけている子を見ると近寄っていって「メガネザル、メガネザル」といじってしまう。その結果、相手とのやり取りがうまくいかなくなってもそれでも繰り返す。こういった社会性の障害を普通言葉で話します。しかし、言葉では十二分に伝えられないものなのだといわれます。ある部分が抜け落ちます。それよりも映像の方が、社会性の有様、あるいは障害、そのものを十二分に伝えられるのです。自閉症の方は、そのキャラクタ−がとても魅力的で、この20年間で、自閉症の方を扱った映画とかドラマがいくつか作られています。ある精神科のお医者さんは、「「レインマン」(20年前の映画、自閉症のある中年の男性と障害を持たない弟との兄弟愛を描いたドラマです。)では自閉症の行動をとてもよく演じている。一方「海洋天堂」(3年ほど前の中国の映画、主人公は二十歳を超えた自閉症の青年。父親と二人暮らしの父子家庭。その父親がある日突然病気で、余命半年と宣告を受けます。半年後に一人ぼっちになってしまう息子に何が残せるか、何が伝えられるか、半年必死で生き抜くその姿を描いたドラマです。)では自閉症の行動だけでなく心もちゃんと演じている。」と評価しておられます。実践の検討でも映像は有効です。

 人とやり取りする能力の中に「相手の気持ちを理解する」があります。たとえば「エレベーターで、知らない異性と二人きりになったら・・」いう場面で、みなさんはどうしますか。私は、まず離れて立ちます。それから視線を合わしません。階を表す文字盤のあたりを見ています。そして話しません。こうすることで、相手に変な人と思われないようにという、相手の心の推理の理解が前提にあるのです。海外では違います。アメリカだったら相手の目を見てハローと言わないと、逆に目線をそらして黙っていたら、こいつ変なやつだと思われます。私たちは相手が変な人と思わせないために社会性をルールにしています。しかしこれは原則であって、たとえば突然相手の女性が僕の方を見て笑顔で「そう言えば今日ちょっと暑いですね。」言われたとすると、黙って文字盤を見たままではなく、振り返って、「そうですね。」と答えるのがいいかもしれません。するとここでルールが1つ付け加わります。相手がこうしゃべったらこう言う方がいい。けれどこれは相手の話の内容によっても違います。相手が同年齢か、小さい子どもかによっても違います。実は、「エレベーターの中で相手に変な人と思われないためのルール」をいちいち書き出したら、本が一冊あっても足りないぐらいあります。けれどそれを全部記憶して、今はこれのこれだからこうしようと、しているわけではなく、基本は押さえながらも、あとはだいたいその場で適当になんとなくやっているのです。社会性の中には、ルール化できるものもいっぱいあります。人にものをもらったら「ありがとう」と言おうね、などです。それと同じくらい大切なのは「なんとなく」、直観的に感じてやっていることです。「理由はわからないけど、今これをするとやばいのではないか。」「こうした方がいいのでは」などその場の雰囲気でやっていることがたくさんあります。実は社会性と言うのは、この「なんとなく」が重要なのです。

 自閉症の方への支援を考えると、ルール化する部分は、ある程度発達が遂げられるとよくわかります。だから、教えれば伝わります。しかし大人になっても難しいのは、このなんとなくと言う部分です。そこが誤解をされたり、「あの難しいルールがわかるのになんでこれがわからないんだ。」と叱られたりするのです。彼らに伝えたいことは、ヘルプを出せる力だと思います。「わからないことあっていいよ。」「なんでここで相手の人が怒っているのか」「困ることがあっても当然」。でもその時はパニックになるんじゃなくて「わかりません。なぜあなたは怒っているのですか。」あるいは第3者に「こういう場合はどういうふうにしたらいいでしょう。」パニックではなくて「困りました。助けてほしい。」そういうサインを出せる力を、学校教育の中でちゃんとつけて社会に出していく、それがとても必要だと思います。そのためには、ヘルプを出した時に、「よく言えたね。」「こんな授業わからん」「わからんとよく言えたな。」「どうやって一緒にわかれるか考えよう。」そういう体験をどれだけ積み上げられるかにあるかと思います。

 13年前にともさかりえさんが高機能自閉症と言う設定で役作りをされた日本で最初のテレビドラマ「君が教えてくれたこと」がありました。通常の高校を出て気象予報の会社に勤める、でも日常生活の「そこのごみを捨てといて」の「そこ」がわからずにパニックになる。そんな役です。番組のホームページの書き込みを見ると、最初は批判が強かった。「ともさかさんのように知的に高い人を自閉症と思ってもらっては困る。うちの子は言葉をほとんどしゃべらない。問題行動はもっと激しいんだ。」という家族からのメール。しかし、しばらくすると反論もきます。「そうかもしれないけど、私は、ともさかさんの物の感じ方とらえ方がよくわかります。」たぶんアスペルガーの当事者からのメール。いずれのメールもいろいろ考えさせられました。しかし現在はどちらか一方が正しいわけではなく両方含めて自閉症ととらえよう。それが世界的な流れです。これを自閉症スペクトラムと言います。日本語にすると連続体です。非常に幅のある連続体で、同じ障害をもっていてもその強い弱い、あるいは知的に高い低い、現象としては幅がとても多様だということです。ただ支援を考える時、大事なのは、自閉症の中の幅もありますが、実はこの連続体は、定型発達(これは障害のない人)ともつながっている。このことがとても大事です。高機能自閉症の方は感覚過敏があります。聴覚過敏の子は、同じクラスでコホンと咳をするだけで、うるさいと殴りそうになったり、授業の前のチャイムが入る前の電源の入る低周波の音が気になり耳をふさぎながら怒ったりする子など、いろいろあります。一見するととても変わった子です。しかし、私たちもとっても疲れた時や精神的に追い詰められた時に聴覚過敏になることがあります。私はとっても仕事がたまって精神的に追い詰められているときは、時計のカチカチと言う音が気になり、時計をたたいて壊してしまったことがあります。自閉症の人の感覚過敏は、四六時中いつでも起こりうる。これが大きな違いです。違いもあるのですが、そうとらえると共感の手がかりも生まれると思います。耳を押さえ、ワーと怒っている子に対してなんか変な変わった子だな、ではなく、もしかすると私が時計のカチカチが気になっているあれぐらいイライラする感情が、彼はしょっ中不意に起こってしまう、そしたらとってもつらいのではないのか。と共感することです。自閉症の方の支援方法がありますが、その根底に共感する態度があるかないかで、そのやり方の効果が大きく変わってくる。これはだいぶわかってきています。共感されてある支援を差し伸べられることとそうでないことの違いを敏感につかまえているわけです。

 現場では、そういう共感的理解を「困った」子は「困っている」子という言葉で広まっています。困った行動をいっぱいしますが、だれから見た視点かというと大人から見て、子ども自身は困っているのではないか、その中身をつかむことが、遠回りのようで近道なのだ、ということです。共感的理解と言うと誤解があるので、ここで触れておきます。共感的と言うと、すべてその子のやっていることを受け入れるんですね、それはありえません。危ないことは止めないといけません。やってほしくないことはやっぱりやめようというときもあります。行動はやはり止めたり許したりここには多様な違いがあります。共感とは何かというと行動ではなくて思いだと思っています。友達をたたこうとする、たたいちゃいけないと止める。けれどそれをさっきすごいいやな音がいっぱいあって、もう君はすごくテンパっていて思わず手が出ちゃったんだな。その苦しさをわかりながらでも殴っちゃいけないと止める場合と、また殴るのかあかんぞとただ止める場合とこの違いは自閉症の子どもは気持ちがわからないというのですが、実はそのちがいにはすごく敏感です。ことばのない子でもすごくわかっています。ですからこの思いを受けとめるというところをぜひ大事にしたいと思います。

(続きは1月号に記載します。)


   
 
第44回京都教育センター 研究集会のご案内
どなたでも参加できます。(参加費無料)

集会テーマ》子どもが育つ地域・学校への探究

12月21日(土)・22日(日)  教育文化センター
左京区聖護院川原町4−13 рV71−4221 
京阪電車「神宮丸太町」5番出口より徒歩3分

◆ 21日(土) 全体会 13:00〜17:00   教文302号室
記念講演      岡田 知弘氏
(京都大学公共政策大学院、京都大学大学院経済学科研究科教授)
「構造改革は地域・学校に何をもたらしたか
―住民・子どもが主人公の地域・学校のあり方を考える」

パネルトーク 「地域と学校で育つ子どもたち」
・南丹市の学校統廃合に反対するとりくみ
         原田 久(地元住民)・森野 明子(保護者)
・町ぐるみで学校を守り子育て世代を支える行政の在り方―山梨県早川町に学ぶ―
 徳丸 浩一(前全教教文部長)
・少人数学級のとりくみ・地域に学ぶとりくみ
岩崎 孝次(京都市内・小学校)

◆ 22日(日) 分科会 10:00〜16:00  教文センター全館
   〜教育センターの各研究会が企画運営します。
@ 「地方教育行政」(301)  
A 「生活指導」(302A)  
B 「学力・教育課程」(203)
C 「発達問題」(204)  
D 「地域」(202)  
E 「家庭教育・民主カウンセリング」(205)
F 「高校問題」(302B)
G 「教科教育国語部会」(地階公益事業室) 
H 「障害児教育」(101)
※ 参加費(資料代) 500円[学生無料]
京都教育センター 左京区聖護院川原町4 旧教育会館2F
 п浮e075−752−1081


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