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  ●京都教育センター通信 
復刊第76
 (2013.6.10発行) 
   
「全国一斉学力テスト」と子ども・学校・教育

          京都綴方の会 得丸 浩一
 

 多くの批判を押し切って、4月24日、日本中のすべての公立・国立の小中学校で、全国一斉学力テストが実施されました。私立の学校での実施率は半分以下です。改めてこの「学力テスト」を概観します。

 1961年から1964年まで4年間実施された全国学力テスト(全国学テ)にかかわる裁判闘争では、地裁レベルでその本質的な問題点を指摘する判決が出され、最高裁も「教師の真に自由で創造的な教育活動を畏縮させるおそれ」「教育政策上はたして適当な措置であるかどうかについては問題があり」と指摘しました。以来、43年間、全国学テは実施されませんでした。

 43年ぶりに、大きな反対の声を押し切って悉皆調査として全国学テを実施したのは当時の安倍内閣でした。そして第二次安倍内閣も、毎年悉皆調査で全国学テを行うことを強調しています。

今年2月16日付の朝日新聞は「学力調査前に過去問特訓」との見出しで「福岡県教委の複数の教育事務所が…過去問題集を作って学校に配っていたりしていたことがわかった」と報じました。県教委は「点数を上げる目的はない」と説明したと言うのですが、他に目的があるとは思えません。同記事は「ある小学校」で、2月〜3月に計3回、4月の本番と同時間割で過去3年間の問題を解く「校内学力検査」が行われ、「得点を向上させるための対策指導」として「難易度の低い問題から解く」「時間配分についての指導」など、進学塾なみの「対策指導」が行われていることを明らかにしています。しかし現場では、「どこでもやってるんじゃないの」というのがリアルな認識です。

1963年、学テの県別集計結果において第一位は愛媛県でした。愛媛県では「全国一斉学力テスト第一位獲得祝賀会」が開催され、文部次官が祝辞を述べています。半世紀後の今年1月、中国新聞の地域版に「好成績のご褒美 紅白まんじゅう」の見出しで報じられた内容は次のようなものでした。「府中市は市内の全小中学生3194人に、一対の紅白まんじゅうを配った。昨年4月の全国学力テストで、市平均が全ての教科で全国平均と県平均を初めて上回ったのを祝った。…6年生の教室では『補習をよくがんばりました』などと、直径9aのまんじゅうセットを一人一人に手渡した」点数・平均点のみが重視され、全国学テ用の補習が行われるなど、半世紀前と同じです。

東日本大震災と東電福島第一原発事故は、多大な悲しみと痛みとともに、学校や教育のあり方について改めて見つめ直す機会となりました。そこで確かめられたのは、学校では何よりも子どもたちのいのちと安全が大切にされなければならないということ。二番目に、学校では競争ではなく、助け合いや学び合いが大切にされなければならないということ。そして最後に、学校は地域の人々のつながりの拠点でなければならない、ということではなかったでしょうか。

村上春樹さんの新刊がものすごく売れているそうです。大震災後の「喪失・再生」をテーマにしたとも読めるこの著作には「記憶に蓋をすることはできる。でも歴史を隠すことはできない」という表現が二カ所に出てきます。安倍首相に聞かせたい言葉です。

日々の勤務実態はなかなか改善されず、自民党の支持率も一定の高さを保っています。そんな中で、疲れを感じることもあります。でも、村上春樹さんの新著の最後にある言葉は、遠回しにですが、私たちを励ましてくれます。

「僕らはあのころ何かを強く信じていたし、何かを強く信じることのできる自分を持っていた。そんな思いが、そのままどこかに虚しく消えてしまうことはない」

日々、子どもたちと、そしてその親たちと、時には攻撃的なやりとりもありながら、それでも民主教育の最前線で奮闘している私たちのふんばりは、いつか確かな歴史となります。そのために、力を合わせましょう。

 
 
2012年京都教研「社会科」分科会報告
東日本大震災1年後、2012年3月12日から7日間連続の授業記録
−東日本大震災・津波・原子力発電を小学4年生が社会科の授業として考える(前半)−

                      上田 正文(京都市 光徳小)
 
 

1.はじめに

2011.3.11のあの日から大変心を痛めていました。自分にとって、あまりにもショックで、テレビや新聞のニュースを唖然としてみていました。事故で亡くなった方や学校の子どもたちは、どうしているのだろうか?自分にできることはいったいなんだろうか?と思い悩んでいました。勤務校で復興支援の取組をしました。児童会の子どもたちは、釜石小学校に、送るものを聞いて集め始めました。教職員も不足しているような物資を集めて送りました。児童会でアルミ缶回収はずっと続けていましたので、東北へ送ることになりました。一方、PTAでも、義捐金を集めて、教職員も協力して赤十字を通じて送ることができました。

でも、小学校の教師として何ができるか悶々と考える日々が刻々と過ぎていく中で、12月、6年生の子どもたちを9か月追いかけたドキュメント番組を見ました。福島県の子どもたちの厳しい現実の中の、悲しみと生きていこうとする力が描かれたものでした。

そこで、自分の学級の子どもたちに東北の子どもたちの現実と、原子力発電の怖さを考える授業をすることが今、自分のすることではないかと思い立ったのです。震災から1年立った日から授業に入ろうと決めました。年末から、資料集めに取り掛かりました。本屋を何軒かまわり、資料を探し始めました。大人の読む物はあるのですが、子どもたちに合うものはなかなか見つかりません。3月に入ってから何とか絞り込むことができました。また、新聞の記事やテレビも1年を迎えるにあたって特集を組むことがふえてきました。そのおかげで、こちらのほしい資料や新しい情報を知ることが出来ました。指導計画を考えるにあたって本時の学習課題や、資料は何を使うのか、時間は何時間扱いにするのかなど迷うことばかりでした。3月12日(月)から毎日1時間ずつ、合計7時間扱いにすることや、指導計画や資料は何を使うかが、前の週にようやく決まりました。12日までに準備を済ませ授業に入ることにこぎつけることができました。東日本大震災、『子どもたちと地震・津波・原子力発電』の単元名を付けました。


2.授業の記録

【第1時】

死亡者の数、行方不明者の数、東北3県の避難・転居した人の数、東北3県の震災1年間の人口変化の数、津波の起こった時の新聞の白黒の写真の拡大図資料と被災沿岸37市町村の人口5万5千人減の新聞記事を見せ、NHKスペシャル、地震から津波へのドキュメントのビデオを8分見ました。それから、ビデオの記録を消さないために3・11の津波の様子を写真に拡大して、黒板に8枚掲示しました。学習課題は、「2011・3・11のテレビニュースや新聞記事を読んで、思ったことを書きましょう。また、今、現在、思っていることを書きましょう。」

『ぼくが、その日に思ったことは、ニュースばかりでつまらないなぁ。と思っていたけれど、そのあとで、映像が流れた時に、地震のゆれの映像や津波などで、家が流されたりしてとてもかわいそうだと思いました。そんなことは2度と起こらないでほしいと思いました。今思っていることは、原子力発電でのこともかわいそうだなぁと思ってきました。原子力発電は、ぼくは、反対です。そのわけは、1回そういうことがあってからでは、遅いと思ったからです。どうしてもというならば、最近、放射能をとうさないものが調べられたらしいので、それを囲いのように上と周りにしたらいいと思うからです。1年まえも、思っていたことだけど2度とこういうことになってほしくはないです。』(H君)

『1年前に思ったこと。その時は、3年生で、最後の社会見学に行っていたので全然何も感じませんでしたが、少し遅れて帰ると、お母さんが、「大丈夫やった?」と心配そうに聞くので、少し違和感を持ちました。そして、テレビを見ようとして、つけると全てのチャンネルが、東日本大震災のニュースだったので、びっくりして、お母さんに「何があったん?」と聞くと「あんたがヤクルト工場に行っている間に東北で大きな地震があって、大きな津波がきた。」ということを教えてくれて、大丈夫かなと思うだけでした。今思っていること。1年前とちがい、すごく心配しています。地元の人は、どれだけ苦労されたか分かりませんが、とても、頑張って今を生きているんだな。と思いました。もし、1年前の3月11日にもどれるなら、津波、地震が、起きる前に皆に知らせて、避難をさせてあげ、できるだけ、多くの人に生きていてほしかったです。』(Mさん)

【第2時】

『3/11キッズフォトジャーナル 岩手、宮城、福島の小中学生33人が撮影した「希望」』(講談社)を使っての1回目。学習課題は、「岩手県大槌町の吉里吉里小3男子と小3女子の幼なじみ2人組。避難所の人たちの元気な姿や山田線の線路をとり続けていきます。2人の文章を読んだ感想を書きましょう。」

『わたしは、3年生という小さな人たちが、避難所で5か月も生活をしていたなんて知りませんでした。最初は満足に、ご飯も食べられなくて、電気も水道も1か月ぐらい使えなかった。東日本大震災が終わった後も水汲みをするとか、ろうそくで生活するとか、今までの生活では考えられないことをいっぱいして、苦労は、すごいと思います。健斗さんも、留以さんも、家族が1人 減ってしまったのは悲しいと思います。でも、前を向いて、いろいろなことをしているのは、すごく尊敬しています。避難所にいる吉里吉里の人たちや他に東日本大震災にあった人も苦労していると思うと、私たちも頑張らないといけないと思いました。家族が全員居ることや食べ物がいっぱいあることが、幸せであるなと改めて思いました。』(Kさん)

 『被災地の人たちが、こんな苦労や笑顔づくりに頑張っているとは知りませんでした。写真1つ見ただけで努力しているのが伝わってきました。川原君の場合だと自分が無事に避難できても、まだ全員が、集まれてないので、全然、安心ができず、すごく心配で眠れなかったと思います。小川さんの場合だとひいばあちゃんが、津波に流されて相当ショックを受けたと思います。そして、赤ちゃんが生まれて、一つの命が,増えました。でも、かなり、忙しかったと思います。東北の人に一言言います。笑顔づくりは、絶対にやめることなく、続けてください。』(Y君)

【第3時】

『3/11キッズフォトジャーナル 岩手、宮城、福島の小中学生33人が撮影した「希望」』の2回目。 学習課題は、「宮城県名取市のなかよし姉妹チームふるさとの海が、大好きな小5・小1の姉妹。町全体が津波にのみこまれた閖上(ゆりあげ)の幼稚園や学校の様子を撮り、朝市を取材している。2人の文章を読んだ感想を書きましょう。」

『妹の幼稚園は、津波で大きな被害を受けて、卒園式をしていたホールの舞台みたいな場所は、木でむきだしになっていて、その向こうの壁は、津波に流されて、外と中は貫通していたので、園長先生なども悲しまれたと思います。姉の小学校は、地震が起きた時にランドセルや机などが次々に倒れていくのは怖いと思いました。理由は、日本でも経験したことのない地震が起きたら、物が倒れたり地割れするのは間違いないと思います。後から予想もしなかった大津波が来ても、人が死んでしまっても何もおかしくないです。阪神淡路大震災でも、たくさんの人が死んでしまっても残った人や全国の支援を受けて、また、震災前の生活に戻っているのです。東日本大震災でもいっしょのことになるだろうと思ったのですが、津波が家や大切な物や何もかもを奪ってしまった。復興がおそくなっても、震災前に戻ることを願っています。』(Fさん)

『ぼくは、地震の時、ランドセルや机が、倒れたり、津波の時には小学校に津波が押し寄せてきて、小学校が、流されてしまって、とても、子どもたちは悲しいと思います。子どもたちが世界中の人に伝えたいことは、地震と津波だと書いてありました。ぼくも怖いですけど、精いっぱい生きるために、頑張らなければいけないことが、わかりました。寒くて寝られなかった次の日、大好きだった、おじいちゃん、おばあちゃんが亡くなっていたことがわかりました。亡くなっても、精いっぱい生きていってほしいと思います。悲しい顔をしないで、笑顔で生きていってほしいです。』(0君)

『5年生の礼菜さん、おじさんやおばさんが、亡くなったけど、おじさんとおばさんの分まで、頑張ってほしいです。最初、画用紙1枚で過ごした時は、笑顔も出なかったと思います。これからは笑顔で頑張ってください。応援しています。妹の真菜さんは、生まれてから、ずっと、ゆりあげがふるさとです。けれど、3.11に大きな津波が来て、ふるさとは、ものすごいことに、なっていました。それが早く復興するといいです。わたしも応援しています。復興を願っているのは、私だけではありません。日本中が、早く復興することを願っています。2人に、家族が無事でも姉の方は、他の人のことを思い、妹は、当時、卒園式で、いい思い出ができたのに、次に嫌な思い出ができて、つらかったと思います。学級の皆は、2人の悲しさをわかっています。今は、頑張って生きていくことだけを考えてください。』(Aさん)

(前半終了、後半は次号に掲載します。)

 
   
 
京都教育センター地方教育行政研・京教組合同学習会
―教育委員会は不要なのか!?―


 
 

 5月18日行われた京都教育センター地方教育行政研・京教組合同学習会では、神戸大学名誉教授の土屋基規さんが「教育委員会制度論の系譜と改革の課題」と題して講演されました。

 講演の要旨を紹介します。

  安倍政権下の「教育再生実行会議」の制度改革の提言では、首長が任免を行う教育長が責任者として教育事務を行うよう現行制度を見直すとなっています。また教育委員会は、政治的中立性などの確保のため、地域の教育に関する基本方針や教育内容に関する事項を決定する際には、委員会で審議、教育長による教育事務執行状況をチェックする機能に性格を改めるとしています。

 教育委員会制度論の歴史的展開を整理しながら、制度改革を展望する際の論点として、

1、まず教育委員会制度原則の現代的意義の確認が大事で、戦後教育行政改革の3原則(教育の民主化、地方分権、教育の自主性確保)、すなわち教育は国民のものであり、その地域の教育のあり方は、その地域の住民が決めるという形で教育行政の民主化を図っていくことが大事。地方分権はどこまでおよぼしたらいいのか、さらに教育委員会の自主性・自立性を確保するために教育委員会と首長との関係をどういうふうにしたらいいのか、一般行政との連携、調和をどうとるかを考えていかなければなりません。

2、新たな公選制をどう展望したらいいのか。教育委員が「住民代表性」を持って教育委員会に参加する。設置単位としてはすべての地方自治体が設置すること。委員の選任方法としては「教育選挙」にふさわしい選出方法の選定ー@住民の直接選挙による教育委員の選挙(住民自治)、A長の候補者選定の過程における住民参加による「候補者選び」(準公選)、B地域の教育・福祉・医療・法曹・地方自治など関係団体による候補者の推薦(一種の団体自治)など、候補者を選ぶのに住民の参加が大切です。

 また教育長は専門職であり、免許取得者がすべきで、当然教育委員会の「公開性」は確保されるべきです。

  京都教育センター・子どもと教科書を考える連絡会合同学習会
安倍政権「教育改革」のゆくえ

6月16日(日)13:30〜16:30 京都教育文化センター103号室    
講演「安倍政権の教育改革は学校をどう変えようとしているのか」   
                     石井拓児さん(愛知教育大学准教授) 
報告「大阪維新の会のもとでの府・市の教育行政に抗して」 山口隆さん
   「今後の教科書検定・採択制度の改変の危険性」 高橋明裕さん  
                                              参加費 500円


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