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  ●京都教育センター通信 
復刊第74
 (2013.4.10発行) 
   
消えゆく妻の「記憶」から学ぶもの
〜基礎学力の重要性〜

          京都教育センター代表 野中 一也
 

 安倍内閣の虚構の宣伝にマスコミも乗せられて、日本がファッショ的方向に進んでいるようで心配しています。「教育改革」も非教育的で右翼的です。下から民主教育の対抗軸をしっかりとつくっていくしかないと思います。

 対抗軸は、人間の尊厳を基底にする教育だと思います。大変恐縮ですが、それを私的な体験から考えてみたいと思います。妻はアルツハイマーを発症して5年近くになります。最近の出来事を海馬の萎縮によって記憶できないという特徴をもった病気だと言われています。悩める学生を「ありのままに受けいれる」と自分にも言ってきた私が、「さっきも同じことを言ったでしょう」と言ってしまう自分がいました。洛南病院の森俊夫先生に「二人三脚で歩んでください」とアドバイスを受けながら、自分とのたたかいをやり、やっと「妻に学ぶ」という立場になれたように思います。そしたら、新しい「発見」たできたのです。自然を含めた「他者」から学ぶということです。妻に教えられたことを少し列挙してみます。

 まず子ども時代の楽しい経験を繰り返し語ります。縄跳びをし、替え歌を歌い、輪になって遊んだこと、指で暗算をすることなどです。遊びや心に響く歌などが妻の心に記念碑のように残っています。

 戦争などの苦しい体験の中の記憶もあります。例えば、疎開先の海で泳ぎ、貝を拾って遊んだことなどです。食糧難で母が着物を兄さんに預けて農家に買い出しに行ってもらい夕食の団欒を楽しんだと、母親の「愛」を語ります。そして、48歳で亡くなった母を「お母さんかわいそうだった」とすこし落ち込んだ気分になったりします。「死」を意識するようでもあります。そのような時は話題の転換をはかります。

 一年半前に子宮脱で切除の手術を受けました。記憶できない筈なのに、この体験は記憶しているのです。「わたし子宮取ったのね」と覚えているのです。女性として人間として大きな体験だったのでしょうか、いのちの大切さを改めて考えさせられています。

 妻の消えゆく「記憶」から心理学者ルリヤから学びながら、3つぐらいの言葉をつなげて1つの「回路」をつくり、それらの「回路」を「束」にして記憶しているようです。あそび、童謡、民話、友情、暗算などは生きる力につながる「基礎学力」として残っているようです。生きる力の基底になる基礎学力がいかに重要であるかを痛感しています。

 妻は大黒様の出雲民話が好きです。日本文化の「和」の思想と言ってもよいかもしれません。そこに安心の世界をもっています。私は、理想の世界をもつことによって安心するのではないかと推察しています。日本的「和」の世界は、戦争をしない憲法9条の世界だと思います。

 「子どもたちに学ぶ」→「妻に学ぶ」→「他者に学ぶ」と妻に教えられてきました。みんながつながりあって人間尊重の教育的価値を生かす対抗軸を築きあげていきたいものです。

 
 
「食の自立をめざして」
−おいしく味わい、感性豊かに自分を大切にできる子どもに−

                      京都市 栄養教諭 金井 多恵子
 
 
1.給食時間の様子・子どもの食生活

 本校は、ほとんど残菜はなく給食を楽しみにしている子どもが多いです。1年生も「学校の給食はおいしい!」と喜んでいますが、その反面「*好き嫌いが多い(特に野菜)*初めて食べるもの受け入れにくい*夏みかんの皮がむけない*食が細い*食べるのに時間がかかる *噛む力が弱い*飲み込むのが下手でいつまでもほおばっている」など食体験の狭さや食べる機能が未発達で、食の課題を抱えている子どもが多くいます。また、全学年を通しては「 *主食をあまり食べない*箸が上手に使えない*食べる意欲がない*集中して食べられない*あまり噛まない*好き嫌いの固定化」という個別の課題を抱える子ども達もいます。

 行事の時のお弁当には、子ども好きそうなおかずが詰まっていますが、加工品が多く野菜が少ない内容が多く、家庭の食事にも同じような傾向が見られます。忙しい生活実態や手軽な消費社会の中で、自然の恵みとしての食べ物、料理を作るという日常の営みが子ども達の目から薄れつつあります。


2.学校給食で大事にしてきたこと

 ・素材からつくる手作りを大切に、加工食品を使わない。
 ・食品添加物を使わない安全な食材の利用。・残留農薬や、放射線量の検査などの充実。
 ・国産の食材、京都産の利用を増やす。(輸入食品の使用は極力避ける)
 ・日本の食文化や行事食をとりいれ、旬の食材を使用する。(米飯給食 週4回)
 ・こども達の反応や期待に耳を傾け、新献立などを取り入れる努力をする。
 ・安全でよりおいしい給食となるよう、給食調理員と連携し調理研究を進める。

 京都市の統一献立・一括購入という制約の多いシステム中でも、自校直営の良さを生かし改善・充実の努力を重ねてきました。献立作成は、毎月京都市の全員の栄養教諭・栄養職員で行うところから始まり、担当月は市教委との共同作業になります。一人一人の意見を尊重し、みんなで練り上げる良さを今後も生かしていけたらと思います。


3.本校の給食指導、食育全体計画

 教科学習や学校行事、子どもの様々な課題に追われる忙しい学校現場では、教育としての給食の意義や役割が全教職員の共通の認識になりにくい場合があると思います。そこで、各校で設定される学校教育目標から、学校給食の目標・学校給食のあり方を明確にする必要があります。そして、給食指導や6年間を見通した食育の全体計画を立て、年度当初に職員会議で提案し全教職員で共通理解しながら指導をすすめます。

(1)給食定例部会−毎月1回、管理職(校長・教頭)・栄養教諭・給食調理員で日常的な 給食指導や、学校行事などの確認をおこなう。

(2)給食研修会−年に1回夏季休業中に開催していたが、今年度から夏季については隔年 での実施になった。過去3回では、給食充実の取り組みや、朝ごはん調べの結果から子ども の生活や健康の課題を明らかにする。また、食を取り巻く環境から学校給食の役割を再認識 するなど取り上げ、学級での給食指導の交流も行ってきた。また、学校給食の献立の調理実 習も調理員さんと行い、給食作りの工夫や苦労も理解してもらえるような内容も実施した。


4.具体的なとりくみ

 成長期の子ども達の健康と人間的な発達を保障するためには、学校給食内容の充実とともに、その給食のよさを理解し、おいしく味わう力を身につける必要があります。そのためには、咀嚼する・味わう・おいしさを言葉で表現する・みんなで楽しく食べるなど、食べる喜びと・生きる力を育てるための基本的な力を獲得することが大切です。目の前の子ども達の実際の姿から課題を明らかにし、いろいろな角度から様々な働きかけをすすめています。

 『食』についての認識を深めながら健康的な食生活について興味・関心をもち、さらに実際に料理を作る技術を身につけ、よりよい食生活の実践につながる食教育をめざしています。

(1)毎日の給食時間に届ける「きゅうしょくしつからみなさんへ」の便り

 毎日の給食にいろいろなねらいを持ち、給食室ではおいしく食べて欲しいと工夫や努力を重ねています。しかし、食べる子ども達が味わい方を知らず、作り手の姿も見えなければ“おいしさ”は体にも心にもひびかないのではないか?そんな思いから、実際の給食を教材として活用し、日々の給食指導をより効果的にするため、便りを毎日クラスに届けています。

<内 容>・味わう楽しさが実感できるよう、味の見つけ方などを丁寧に書く。

・食材にこだわった給食作りから食べ物の季節・生産や流通を知らせる。    
・その日の給食作りの様子から、給食室の工夫や苦労、願いや思いも伝える。
・給食への理解や関心を広げるため、給食クイズを出す。
・感想コーナーを作り、子どもの反応を知る。

(2)食に関する指導(ランチルームで給食を食べる日に行う)

 *授業は各1時間−1回目は学活 2回目・3回目は1年2年は生活、3年4年は総合、5年6年は家庭科

(3)食べることに課題のある子どもへの実態把握と担任・保護者との連携

 極端な偏食や少食、食べる意欲が感じられない、うまく咀嚼できていない、摂食不安など、給食時間に様々な課題を抱えている子どもが増えています。こうした子どもは、学校生活や生育歴でも課題を持っていることがあり、学級担任と連携し、食べ方の指導や食べる意欲につながる働きかけをおこないます。また、夏と冬に行われる個人懇談を利用して、保護者対象の給食相談・栄養相談をおこない、家庭と協力して課題克服にむけて連携しています。

(4)家庭科との連携 ◎学級担任やスクールサポーターと連携した家庭科の授業

・5年生
「家族とお茶をたのしもう(手作りおやつ)」3時間(事前指導1時間・実習2時間)
「旬野菜の調理実習」5時間(事前3時間・実習2時間・まとめは担任1時間)
「ごはんとみそ汁」 5時間(事前3時間・実習2時間・まとめは担任1時間)

・6年生
「大切な朝ごはん」 5時間(事前3時間・実習2時間・まとめは担任1時間)
「弁当を作ろう」 8時間(事前6時間・実習2時間・まとめは担任1時間)

(5)料理チャレンジ 「作って食べよう大作戦」  

 毎年夏や冬にレシピを配り、たくさんのこども達が料理にチャレンジしてきます。保護者の感想は、子どもとのコミュニケーションを大事にし成長を見守る内容が多いです。

5.まとめ

 子ども達が、食べる力と食べる喜びを身につけるためにも学校給食は大きな役割を担っています。その給食を通した食教育や家庭科などの教科との連携は、子どもの生きる力を育んでいます。味覚の形成は10歳前後と言われています。小学校の頃に、「安全で手作りのおいしい料理を食べていたか」「旬の食材や地産地消、伝統的な食文化について考えられたか」といった経験があるかないかは将来大きな違いとなって現れると思います。

 給食や、食に関する学習の感想を見ると、子ども達の感性に感動することがあります。どの子にもある、成長発達の可能性。自分自身で成長する力を持っている子ども達。その力を少しでも引きだす手伝いができるような食教育ができればと思います。生命や人間らしい生き方を大切にする食生活を子ども達に保障し、その素晴らしさを子ども達に伝え続けたいと思います。(2012京都教研「食教育と学校給食」分科会報告より抜粋)

   
 
「体罰」を考えるシンポジウム
スポーツの考え方について玉木正之さん大いに語る


 
 
 3月16日、ラボール京都において子どもと教育・文化を守る京都府民会議が主催した「体罰を考えるシンポジウム」に、教職員・父母・地域の方など80名が集まりました。

 はじめにスポーツ評論家の玉木正之さんの「スポーツのあり方と体罰を語る」と題しての講演を聞き、その後、塩貝光生さん(元中学校体育教師)をコーディネーターに永井友昭さん(府立峰山高校教諭・バレーボール部顧問)、南博之さん(小学校PTA役員・少年野球バレーボール指導経験者)を交えてシンポジウムが行われました。

 玉木さんは、「体育は何のためにあるのか、教育は何のためにあるのかを考えてみたい。もともとスポーツは労働や日常生活から離れて楽しむことを意味したものであり、スポーツの歴史を教えたとしても強くはならないが、物事を深く考えることになる。多くの体罰の現場を目撃してきた。多くの指導者と接していて思うのは、体罰をする人は、体罰をされて育った人が多く、連鎖すると言うことだ。フランスでは体罰などあり得ない。まさに暴力である。体育は、スポーツを利用した教育といえる。柔道は武道であるが、本質はどういうものであるか。柔術という、組み討ち=相手を殺す技術が元である。嘉納治五郎はルール化し安全を確保して柔道を創作した。武道のスポーツ化に他ならない。こうしたことを学校で教えているのかどうか?体育は、体を動かすことが重要である。教育においても同様のことが言えるのではないか」と、話されました。

 シンポジウムでは、永井友昭さんから、網野高校の今回の問題について、大学にも進学がむつかしなるという事態の中で起こったとともに、スポーツ実績を上げ、学校の名前を広げてきたという背景について指摘をしました。南博之さんは、親の教師への期待が大きいこと、子ども達にはポイントを押さえて指導してやると伸びるし、指導者には技術的な力量が大切だと発言しました。

 フロアーからの発言を受けて、塩貝光生さんが、体罰の発生状況を紹介し、教育改革の歪みとして、学校の特色づくりを強調するが故に、スポーツ部活での勝利至上主義がはびこること。また、学校管理の方法として、体罰指導がまかり通るゆがみをただすこと。抜本的なスポーツの条件整備を図ること。指導者養成、スポーツ団体の民主的な運営等々が問題になっていること。技術指導での合理性・科学性のいっそうの追求が必要であること。スポーツ部活動の主人公である子ども達が、自主的・民主的な自治的活動として部活動を展開していくように指導することの6点を指導して終わりました。
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