1 はじめに
今年度、11月に与謝地方で教育研究集会が行われた。健康教育の分科会では、レポートをもとに養護教諭として、保健室として何を大切にして実践しているかを話し合った。このレポートは、分科会で学んだことをまとめたものである。
2 健康教育は健康実態から
健康教育の出発点は子どもの健康実態である。そこで、子どもたちの健康実態をみると、大きく三つの特徴が明らかになった。
一つ目は子どもたちがからだや生活の主体者になっていない、自分のからだを自分で守っていこうとする意識が低いことである。例えば、保健指導をしても、歯垢や歯肉炎の児童が減少しにくいことやむし歯の治療をしても、すぐむし歯になること、生活アンケートの課題が変わらず、同じ課題を引きずっている児童がいることなどから感じる。からだを大事にできないのは、からだのことを知らない認識の低さによるものとも考えられる。
二つ目は相手との調整力や感情をコントロールする力、自己決定できる自我の育ちが弱いため、子ども同士のトラブルやけんかによるけがが多いことである。そのため、じっくり話を聴き取り、自分の感情に気付かせることで、自制心も育てるようにかかわっていくことが求められる。
三つ目は心の安定が築きにくいことである。家庭の貧困により、じっくりかかわってもらえるゆとりと親子関係が奪われている。そのため、けがや発熱も、家庭で言えず、家庭でのけがを学校へ持ち込むことが増えていることやけがやからだのしんどさに対して、「大丈夫。」という励ましだけでは納得できず、共感的対応が必要なことなどから感じる。
3 子どもの健康実態に基づくとりくみの例
(1)
体重測定前のミニ保健指導
授業中の姿勢が保てない児童が多いこと、下校後、ゲームで遊んでいる姿をよく見ることが気になっていた。保健指導では、児童との応答性を大切にし、自分のからだを実感させ、からだの素晴らしさを感じてほしいと思って、実践をしてきた。
体重測定は毎月あるので、月ごとにテーマを変えて、保健指導を実施した。【9月】からだにあった机・椅子の高さ、スポーツ障害の予防(高学年)、【10月】まばたきと涙、【11月】脳の働き(ゲーム脳の話も含む。)、【12月】態癖からくるからだのゆがみ、【1月】インフルエンザと胃腸かぜの予防、【2月】手の洗い方を復習、【3月】「からだのきろく」の見方、音の伝わり方という内容である。
指導に使った教具は保健室前に掲示し、いつでも見て、触れられるようにした。また、保健だよりでも知らせ、保護者への啓発につなげた。このように体重測定時に保健指導を行うことにより、学級で保健指導の話が出たり、指導したことが教室に掲示してある学級があったり、担任が保健指導に関する資料や読み聞かせをしたりするなど、健康教育の広がりを感じた。
(2)
生活リズムの保健指導
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子どもの生活課題
6年生では11時以降の就寝が45%にもなり、低学年から就寝時刻が遅くなっている。また、目覚めてから登校までの時間が短く、朝の生活習慣(朝食、排便、洗顔、歯みがき)が未確立である。そのうえ、目覚めが悪く、倦怠感を感じている児童は1年生でも54%、6年生では72%にもなる。保健室でも不定愁訴を出している。このようなことから、朝の目覚めをすっきりさせ、脳を活発に働かせるために、朝の生活を充実させることを目指して、生活がんばりカードに取り組んだ。
このような生活課題については保健指導と合わせてとりくみ、認識を深めるようにしている。学習をすることで気付き、考えるプロセスを通して、からだを意識できると考えている。
A 生活がんばりカードのとりくみ
生活がんばりカードでは、前回の結果から課題を明らかにして、めあてを設定しとりくませた。よい生活ができると、からだの調子が良いことに気付いた児童の振り返りや児童ががんばっている姿を保護者が認めているコメントを大切にし、保健だよりや学校だより、保健室前の掲示板でも全校に広げた。
さらに、生活がんばりカードの結果、改善点と課題について、夏休み前の地区懇談会で保護者に提起した。
(3) 保護者とつながるとりくみ
@ 入学説明会・親のための応援塾
親同士の、横のつながりの希薄さを感じたので、親同士をつなぐこと、初めて学校の話を聞く保護者に、教職員と話をしてみてもいいなと心を開いてもらいつながれること、また、体験を通して子どもの心に寄りそうとは、どういうことかを感じてもらうことを目的にワークショップをとりいれた。
まず、保護者同士がペアになり、肩ほぐしをする。する方は、凝っている様子を伝え、相手に「お疲れですか?」など、相手の立場にたった声かけをする。ここで、触れ合う心地よさ(子どもであればスキンシップ)やいたわりあう心地よさを実感し、相手に伝える。これだけで、空気が変わり、和やかになり、笑い声がこぼれる。
それから、「子育ての宝物」という内容で、子育てに関わって「よかったこと探し」をし、3分で書き記す。その内容をお互い順番に、目を見て、頷きながら聴き合い、いいなと思うところは共感の言葉で伝える。受容と共感の感覚を味わってもらい、そこでも、その心地よさを実感し、子どもにとってもそうであることに気付いてもらう。
先輩保護者からの話を聞いたり、保護者同士が交流する中で、自分もしてみようかなという気持ちになったり、できることがみつかる参考になるとよい。
その中で、基本的生活習慣の大切さなど、健康認識を高めるためのアプローチをすると、より効果的なように思う。
4 まとめ
養護教諭として、保健室として大事にしていることの根底は「つながり」である。養護教諭が子どもと、保護者と、職場の先生たちと、地域の養護教諭とつながることで実践が広がる。さらに、子ども同士、保護者同士、教師同士をつないでいくことも大切である。誰もが安心して、自分の思いを出せること、学び合えること、それが人として大事にされなければならないことだと思う。
健康教育は、子どもの健康実態を中心にとらえ、そこから、子どもと保護者と先生たちと話し合い、学び合い、協力しながら実践していくものである。つまり、健康教育の実践は子どもと子どもを取り巻くさまざまな人々をつないでいくことであり、そのことは、今、求められていることではないかと感じる。私たちは、これからも、子どもや保護者の実態から出発した健康教育の実践ができるように養護教諭として、保健室として実態をみる視点の目と心のアンテナを広くはって、実践していきたい。
ただし、これら三つの特徴は独立したものではなく、重なり合って子どもの健康実態として現れている。子どもの健康課題の背景には、いつも家庭があり、それは時代を映していると感じる。
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