トップ 事務局 京都教育センター通信
●京都教育センター通信 
復刊第54号
 (2011.6.10発行)

2011年度教科書採択問題の焦点

           大八木賢治(子どもと教科書京都ネット21)



 つくる会などは自分たちの教科書こそが「新教育基本法と新学習指導要領に最も適した教科書である」ということを宣伝文句にして、議会や議員を通じて教育委員会に採択の圧力をかけてきています。「新教育基本法」というのは2006年、安部政権により多くの国民の反対を無視して国会の強行採決で改悪されたものです。第二条に「教育の目標」が新設され、憲法に基づき最も大切にされてきた個人の尊重の理念を国家に従属させ、あるべき規範を法定したもので、愛国心、道徳心、奉仕や公共の精神、伝統文化など20の徳目が盛り込まれています。それに応じて学習指導要領と教科書検定制度も改悪され、すべての教科書で道徳や愛国心、伝統文化などが無理やりに教材に盛り込まれました。すでに今年の4月からの小学校の国語の教科書に「神話」が登場し、歴史でも「神話」が歴史上の事実のごとく書かれた教科書になっています。「領土」でも政府の方針が、そのまま記述されています。

 今回の教科書採択の焦点は、この新教育基本法や新学習指導要領に最も忠実な自由社や育鵬社の歴史、公民教科書の採択を許してはならないことにあります。彼らの教科書の採択を許すということは、小学校で刷り込まれた神話や国家意識をもとに、「新皇国史観」を中学生たちに刷り込もうとするもので、その先には9条や25条などの日本国憲法の改悪があることは明白です。

 自由社、育鵬社版の教科書とは一言でいえば、まさに現代版皇国史観で貫かれています。「日本」というのは歴史を貫いて存在し、「美しい日本語の土台と温和な日本人の文化的DNAはこの1万年の暮らしの中でつちかわれた」(自由社)ものであり、日本人の宗教観を「多神教」であり、そこに寛容の精神の源泉であると断定した上で、天皇家の行事と他の伝統行事と関連させ、天皇制がその寛容の精神の中心であると誘導しています。(育鵬社)そして古代以来現代まで日本は周辺諸国に脅かされながら、天皇を中心として独立を維持してきた、という独特の偏狭な歴史観に貫かれています。

日清日露戦争も朝鮮を属国としていた清から独立を求めたもので、ロシアの南下政策に対抗したものと断定しています。これは山県有朋の外交戦略であり、歴史事実ではありません。また、たとえ朝鮮がロシアの植民地にされたとしても、当時ロシアによって日本が植民地化される根拠は何もなかったことは証明されています。このような見方は彼らの独特の地政学的な認識であって、世界を勢力均衡で描く帝国主義的な認識であり、19世紀の歴史的遺物です。満州事変の記述でも中国の排日運動が原因であり、逆に満州国の建国によっては産業が発達したという、歴史の事実を逆転させ、歴史を偽る日本中心史観になっています。

今この教科書を学校現場に入れてしまえば、大きな被害を子どもの中につくってしまいます。それは日本とアジア、世界の平和に重大な汚点を残すことになります。戦後日本は戦前の戦争責任を清算しきれないまま、今日に至ってしまいました。そのため今なお「慰安婦」の苦しみを癒されぬままの女性たちや多くの戦争被害者がいることを忘れるべきではありません。今日、新たな皇国史観の亡霊を生み出してしまったとすれば、二重の禍根を負うことになります。

つくる会などの謀略を許さず、過去の亡霊の根を断ち切ることは日本の過去の清算を大きく前進させ、アジアと世界に平和と連帯に貢献することになります。歴史は一直線ではないが、世界は対立と戦争の時代から平和と連帯へ進んでいます。日本の若者が偏狭なナショナリズムのくびきから解放され、新しい時代の創造者に育てるのは教育の責任です。



原子力(=核エネルギー)と放射能の正確な知識と情報

市川 章一(朱雀高校・桂高校非常勤講師)


原子力(=核エネルギー)と放射性物質の正確な知識と情報はこれまで一般の人々にはほとんど届かず、学校教育でもごく一部の生徒・学生しか学ぶ機会がなかった。逆に、最近では、小・中学校を中心にこれらについての“安全神話”が大手を振って持ち込まれていた。

そこへ311日福島で、4基同時という史上類のない原発事故が起こり、原発をどうするかという社会的判断が必要になった。しかし、情報隠しも横行する中、情報の正否を見定めながら賢明な判断をするには、一定の科学的知識が不可欠である。原発のしくみとその危険性や問題点を正確に知って、正当に怖がり、適切に対処し、子どもたちにも正しく伝えよう。

 1.原発の全ての災いの元は「核分裂」に伴う3つの特徴からくる


(1)原子炉は湯を沸かすために使っている

原子炉の役目は高温水蒸気をつくることであるが、100万個以上の部品を含む巨大で複雑なシステムであるため、地震動を受けるとどこかで壊れる危険性をはらむ。

(2)原発の災いの全てのもとは次の3

★湯を沸かすための熱を核分裂エネルギーから得るために、他の手段にはない災厄を抱え込む。

@核エネルギーの巨大さ

ウラン原子核に中性子を当てて2つに割る核分裂反応を「ウランを燃やす」と言っているが、これは化学反応の約100倍のエネルギー(熱)を発生する。だから、コントロールが難しく、少しでも間違うと重大事故につながる。

A核分裂で放射能がどんどん増える。

核分裂するとできる物質はすべて放射性物質であり、死の灰と呼ばれる。ウラン燃料を使い切ると放射能が元のウランの数億倍に増え、放射線を出しきるまで何万年もかかるものもある。100kWの原発は、1日で広島原爆(燃えたウラン約800g)の4個分の核分裂を行い、死の灰も毎日広島の4倍分作る。これを全国で1970年から続けてきたのである。

放射能とは放射線を出す能力を意味するが、放射線や放射性物質の意味にも流用される。

B使用済みなのにいつまでも熱を出す

放射線を出すと、そのエネルギーで発熱する。これを「崩壊熱」という。核分裂による熱は止められるが、崩壊熱は放射線を出す限り止められない。ひたすら冷却しなければ、すぐに過熱して福島のような事故につながる。

★このような物理的危険性をもつ原子炉なのに、軍事利用(プルトニウム生産)から始まったために安全面の研究をなおざりにしたまま、発電に転用して商業ベースにのせられた

 2.放射線による被害を正しくとらえよう

(1)放射線とは何か、その実体と特徴

放射線は20世紀直前にベクレルやキュリー夫妻によって発見され、当初α線、β線、γ線の3つを示したが、後に中性子線やX線なども放射線の仲間に加えられた。

@放射線の実体

α線:ヘリウムの原子核。正の電気を持つ。

β線:たいへん速い電子。負の電気を持つ。

γ線:振動数の大きい電磁波。光の仲間であるが大変エネルギーが大きい。振動数が小さくなるとエックス線になる。
中性子線:電気的に中性な微粒子。核分裂の際に中性子が23個飛び出す。

A放射線の透過能力

放射線の種類によって物を突き抜ける能力には差がある。体外からの被ばくを防ぐ上でこの知識が必要。ただし、突き抜ける能力の高さが生物への被害の大きさを示すわけではない。

B電離作用これが被害を与える原因

放射線は原子に当たるとその中の電子をとったり、跳ね飛ばしたりする。これを電離作用と言う。生体の細胞を構成していた原子が電離させられると、細胞は被害を受ける。中でもα線は電離能力が高く、β線、γ線に比べて20倍の被害を人体に与える。

(2)放射線被ばくの被害には2種類ある!

@確定的影響:被ばく量が一定量しきい値)以下であれば生じないが、しきい値以上浴びると必ず現れる健康障害をいう。例は、脱毛、下痢、白血病、死亡など。

A確率的影響宝くじ的被害:これは、被ばく量が少なくても、ガンや遺伝的影響を生じる可能性(確率)のこと。被ばく量が多いほど確率は高くなる。宝くじと同じで、買った枚数が少なくても当たることがある。放射線当たりくじの賞品はガンで、受取有効期限は一生

?当初盛んに言われた「ただちに健康への影響はない」は確率的影響を隠ぺいしてきた。

?その後、確率が少ないから大したことないという言い方が横行。ガンになった人には悲劇。

線量限度は安全量ではなく、やむを得ず浴びる場合の「がまん量、あきらめ量」である。「少ないから食べろ」は無茶。個人が選ぶこと。

(3)細胞分裂が盛んである程、被害が大きい

細胞分裂の活発な器官やる胎児、赤ん坊は放射線感受性が高い。DNAは細胞中で最も大きい分子であるから放射線が当たりやすい。DNA(細胞製造の設計図)を壊された細胞は、分裂を止めて死ぬものもあれば、異常細胞となって増殖してガンになるものもある。

(4)放射線被害を避けるには

★死ぬほど強い放射線を浴びても、五感ではとらえられない。被害を避けるには、正しい知識迅速な情報入手が重要になる。

@被害を避ける大原則=できるだけ被ばくせず

確率的被害も考慮すると、被ばくしないことが一番。さらに、体内には放射性物質を極力入れないこと。体内被ばくでは、放射線がすべて内臓に当たり、ガンの確率が高くなる。

A「広がって薄まる」のウソ=生物濃縮がある!

放射性物質にもその化学的性質にもとづいて生物がわざわざ選んで体内に取り入れるものがある。そのため、ごく微量でも食物連鎖を通して濃縮され、やがて思いがけぬ災厄につながる。

(5)特に知っておきたい放射性物質

ヨウ素131(半減期8日):ヨウ素は成長を促す甲状腺ホルモンに必要なので、放射性ヨウ素も甲状腺に取り込まれる。幼児に甲状腺ガンの可能性が高まる。半減期が短いので、ヨウ素剤を飲んで普通のヨウ素で甲状腺を満杯にしておき、放射性ヨウ素がなくなるのを待つ。

セシウム137(半減期30年):人体に必須の元素であるカリウムに性質が似ており、体内に入ると筋肉に蓄積されるセシウム137生物濃縮され、小魚を食べる大型魚により多く濃縮される。
ストロンチウム90(半減期29年):もっとも危険な放射性物質の一つ。性質がカルシウムに似ているのでに濃縮・沈着して、骨のガン白血病を誘発する。生物濃縮される。

  プルトニウム(半減期24千年):自然には存在しない物質で、1g100万分の1の量を体内に入れてもほぼ確実にガンになる。原子爆弾の材料でもあり、今日本に長崎原爆の5500発分ある。

【この続き〔U〕は次号に掲載します】

※センターでは市川先生による学習会を企画中(詳細は次号でお知らせします)

(詳細は、京都教育センター通信54号をごらんください。)




6月〜7月の公開研究会 案内
--誰でも参加できます! 無料です!--
 

発達問題研究会

 「中学生からの『地・生・輝』づくり」  ―地域が輝く地域学習の実践―

    吉田武彦氏(福知山市立川口中学校) 中学生と地域住民共同の教育実践

   6月25日(土)14:00     教育文化センター 301号
 

[地方教育行政研究会]

 「大震災復興にむけて〜自治体・学校・政治の役割を考える」(仮)

     森 裕之氏(立命館大学)      被災地の現状、京都の学校耐震化

   7月2日(土)13:30         教育文化センター 101号
 

[学力・教育課程研究会]

 「義務教育段階における国語の基礎・基本的な学力とは」

     西條昭男氏(京都教育センター)   新しい教科書での国語教育現場実践報告      

   7月3日(日)13:30         教育文化センター 301号
 

[高校問題研究会]

「学費の無償化で京都の高校教育はどうなった」(仮)

   長尾 修氏(京都府高)      公立・私立の現状と課題

7月18日(月・祝)13:30    教育文化センター 301号
 

 [民主カウンセリング研究会]

〜生き生きとした温かい人間関係をつくるために〜  「グループ・エンカウンター」

     人間中心の出会い・ふれあいのグループ経験によって、人間信頼・受容的態度

・共感的理解などの集中的体験学習を行います

   7月24日(日)10:00〜16:00  教育文化センター 205号

【事務局通信】

4月から月2回の事務局会議の内一回は、学習会にあてています。4月は「季刊誌『ひろば』の検討」で、特集テーマと読者普及について、5月は「京都市内の学校現場」の一日のリアルタイムな報告にもとづき議論を深めました。6月25日は「教育センター設立のころ」(山本正行氏)、7月23日は「原発と教育」についての学習を深めます。事務局以外の方も参加可能です。10時からセンター室にて。






民主府政「落城」後、30余年の「京都の教育」を検証
★京都教育センター編『風雨強けれど 光り輝く 検証!京都の民主教育1978〜2010』

 「風雨強けれど 光り輝く」は、民主府政「落城」の1978年以来30余年間の京都の教育の変遷をまとめたもの。厳しい攻撃が相次いでいたが、「やられっぱなしではない!」この間のたたかいをまとめました。8人の編集委員〔野中一也・大平勲・小野英喜・中西潔・磯崎三郎・高橋明裕・松尾隆司・西條昭男〕が昨年の9月以来合宿を含め14回の編集会議を重ねて刊行しました。この間のたたかいの中にみなさん方の足跡が反映されています。是非、手にとってお読み下さい。



季刊『ひろば』の人気連載から37編を厳選・加筆
★早川幸生著『京都歴史たまてばこ


 「京都歴史たまてばこ」は早川幸生さんがこの間『ひろば』に連載された中から37編を加筆編纂されたものを集めたものです。調べ歩いた京都の風物詩に引き込まれること請け合いです。


*2011年1月から、京教組各支部書記局で求めることができます。
*また、申し込み用紙(PDF版)にご記入いただいて、ファックスでお申し込みいただくこともできます。


京都教育センターホームページにアクセスを


  http://www.kyoto-kyoiku.com  検索「京都教育センター」

 京都教育センター事務局や公開研究会の活動をはじめ、センター通信、季刊「ひろば・京都の教育」、教育センター年報、研究集会、教育基本法に関する様々な資料など、多彩な情報を提供しています。


「京都教育センター通信」「ひろば京都の教育」をご希望の方は、電話またはファックスにてご連絡ください。
トップ 事務局 京都教育センター通信