原子力(=核エネルギー)と放射性物質の正確な知識と情報はこれまで一般の人々にはほとんど届かず、学校教育でもごく一部の生徒・学生しか学ぶ機会がなかった。逆に、最近では、小・中学校を中心にこれらについての“安全神話”が大手を振って持ち込まれていた。
そこへ3月11日福島で、4基同時という史上類のない原発事故が起こり、原発をどうするかという社会的判断が必要になった。しかし、情報隠しも横行する中、情報の正否を見定めながら賢明な判断をするには、一定の科学的知識が不可欠である。原発のしくみとその危険性や問題点を正確に知って、正当に怖がり、適切に対処し、子どもたちにも正しく伝えよう。
1.原発の全ての災いの元は「核分裂」に伴う3つの特徴からくる |
(1)原子炉は湯を沸かすために使っている
原子炉の役目は高温水蒸気をつくることであるが、100万個以上の部品を含む巨大で複雑なシステムであるため、地震動を受けるとどこかで壊れる危険性をはらむ。

(2)原発の災いの全てのもとは次の3つ
★湯を沸かすための熱を核分裂エネルギーから得るために、他の手段にはない災厄を抱え込む。
@核エネルギーの巨大さ
ウラン原子核に中性子を当てて2つに割る核分裂反応を「ウランを燃やす」と言っているが、これは化学反応の約100万倍のエネルギー(熱)を発生する。だから、コントロールが難しく、少しでも間違うと重大事故につながる。

A核分裂で放射能がどんどん増える。
核分裂するとできる物質はすべて放射性物質であり、死の灰と呼ばれる。ウラン燃料を使い切ると放射能が元のウランの数億倍に増え、放射線を出しきるまで何万年もかかるものもある。100万kWの原発は、1日で広島原爆(燃えたウラン約800g)の4個分の核分裂を行い、死の灰も毎日広島の4倍分作る。これを全国で1970年から続けてきたのである。
※放射能とは放射線を出す能力を意味するが、放射線や放射性物質の意味にも流用される。
B使用済みなのにいつまでも熱を出す
放射線を出すと、そのエネルギーで発熱する。これを「崩壊熱」という。核分裂による熱は止められるが、崩壊熱は放射線を出す限り止められない。ひたすら冷却しなければ、すぐに過熱して福島のような事故につながる。
★このような物理的危険性をもつ原子炉なのに、軍事利用(プルトニウム生産)から始まったために安全面の研究をなおざりにしたまま、発電に転用して商業ベースにのせられた
(1)放射線とは何か、その実体と特徴
放射線は20世紀直前にベクレルやキュリー夫妻によって発見され、当初α線、β線、γ線の3つを示したが、後に中性子線やX線なども放射線の仲間に加えられた。
@放射線の実体
・α線:ヘリウムの原子核。正の電気を持つ。
・β線:たいへん速い電子。負の電気を持つ。
・γ線:振動数の大きい電磁波。光の仲間であるが大変エネルギーが大きい。振動数が小さくなるとエックス線になる。
・中性子線:電気的に中性な微粒子。核分裂の際に中性子が2,3個飛び出す。
A放射線の透過能力
放射線の種類によって物を突き抜ける能力には差がある。体外からの被ばくを防ぐ上でこの知識が必要。ただし、突き抜ける能力の高さが生物への被害の大きさを示すわけではない。

B電離作用―これが被害を与える原因
放射線は原子に当たるとその中の電子をとったり、跳ね飛ばしたりする。これを電離作用と言う。生体の細胞を構成していた原子が電離させられると、細胞は被害を受ける。中でもα線は電離能力が高く、β線、γ線に比べて20倍の被害を人体に与える。
(2)放射線被ばくの被害には2種類ある!
@確定的影響:被ばく量が一定量(しきい値)以下であれば生じないが、しきい値以上浴びると必ず現れる健康障害をいう。例は、脱毛、下痢、白血病、死亡など。
A確率的影響―宝くじ的被害:これは、被ばく量が少なくても、ガンや遺伝的影響を生じる可能性(確率)のこと。被ばく量が多いほど確率は高くなる。宝くじと同じで、買った枚数が少なくても当たることがある。放射線当たりくじの賞品はガンで、受取有効期限は一生。
?当初盛んに言われた「ただちに健康への影響はない」は確率的影響を隠ぺいしてきた。
?その後、確率が少ないから大したことないという言い方が横行。ガンになった人には悲劇。
▼線量限度は安全量ではなく、やむを得ず浴びる場合の「がまん量、あきらめ量」である。「少ないから食べろ」は無茶。個人が選ぶこと。
(3)細胞分裂が盛んである程、被害が大きい
細胞分裂の活発な器官やる胎児、赤ん坊は放射線感受性が高い。DNAは細胞中で最も大きい分子であるから放射線が当たりやすい。DNA(細胞製造の設計図)を壊された細胞は、分裂を止めて死ぬものもあれば、異常細胞となって増殖してガンになるものもある。
(4)放射線被害を避けるには
★死ぬほど強い放射線を浴びても、五感ではとらえられない。被害を避けるには、正しい知識と迅速な情報入手が重要になる。
@被害を避ける大原則=できるだけ被ばくせず
確率的被害も考慮すると、被ばくしないことが一番。さらに、体内には放射性物質を極力入れないこと。体内被ばくでは、放射線がすべて内臓に当たり、ガンの確率が高くなる。
A「広がって薄まる」のウソ=生物濃縮がある!
放射性物質にもその化学的性質にもとづいて生物がわざわざ選んで体内に取り入れるものがある。そのため、ごく微量でも食物連鎖を通して濃縮され、やがて思いがけぬ災厄につながる。

(5)特に知っておきたい放射性物質
▼ヨウ素131(半減期8日):ヨウ素は成長を促す甲状腺ホルモンに必要なので、放射性ヨウ素も甲状腺に取り込まれる。幼児に甲状腺ガンの可能性が高まる。半減期が短いので、ヨウ素剤を飲んで普通のヨウ素で甲状腺を満杯にしておき、放射性ヨウ素がなくなるのを待つ。
▼セシウム137(半減期30年):人体に必須の元素であるカリウムに性質が似ており、体内に入ると筋肉に蓄積される。セシウム137は生物濃縮され、小魚を食べる大型魚により多く濃縮される。
▼ストロンチウム90(半減期29年):もっとも危険な放射性物質の一つ。性質がカルシウムに似ているので骨に濃縮・沈着して、骨のガンや白血病を誘発する。生物濃縮される。
▼ プルトニウム(半減期2万4千年):自然には存在しない物質で、1gの100万分の1の量を体内に入れてもほぼ確実にガンになる。原子爆弾の材料でもあり、今日本に長崎原爆の5500発分ある。
【この続き〔U〕は次号に掲載します】
※センターでは市川先生による学習会を企画中(詳細は次号でお知らせします)
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