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●京都教育センター通信 
復刊第50号
 (2010.12.10発行)

センター設立50周年 センター通信復刊50号に寄せて
「疎外から共生へ」の流れを本流に!


                     京都教育センター代表  野中一也



 貧困と格差のなかで人間関係がギスギスする冷たい「現代」とは、いったいどんな時代なのでしょうか。自殺者が3万人を超えています。「首がこぼれた」と悩む学生と共に歩んで考えてきました。現代の支配的「時代精神」はどのようなものでしょうかをマルクスに学びながら考えてみました。

 現代の本質的な流れは、人間であって人間でない「人間疎外」ではないでしょうか。それは市場原理経済に支配される資本主義の基本的特徴といえるでしょう。人間性が奪われていくわけですから、それは必然的に「つながり」あって生きる方向を模索するしか選択の道はないと思います。「共生」の道といってよいでしょう。

 では共生の道を具体的にどう考えて言ったらよいでしょうか。私は、「地域・日本・世界を串刺し」(上原専禄)をベースにおいて「対抗軸」を考えていきたいと思います。人々に本来生きるエネルギーを与えてくれる「地域」から自由に競争原理に乗って飛び立つような仕組みが進んでいます。新自由主義という仕組みです。これに対抗する軸は、「地域に根ざす教育」ではないでしょうか。地域に根ざす教育に現代的意義を加味して考えていきたいと思います。

 菅内閣を含めて支配層は、保守主義を背景にして、新自由主義政策をおし進めてきました。その中で強い流れを支えてきた集団に、京都と密接なつながりをもつ「京都座会」「松下政経塾」があります。京都座会で理論提起をし、それを実行するのが松下政経塾といってよいでしょう。菅内閣には松下政経塾出身者の前原外相、野田財務相、玄葉国家戦略相、福山官房副長官らが中枢にいます。

 京都座会の思想的背景に京都学派(西田哲学)の右派の思想があります。1945年の敗戦を「無視」して、「力の支配」を内包する「日本らしさ」を強調します。「国民実践要領」(天野勅語)の天野貞裕、「期待される人間像」の高坂正顕、息子の高坂正尭、中西輝政氏らを想起して考えてほしいと思います。

 京都の地域は「日本の心のふるさと」といわれています。それだけに「ふるさと」をどう考えるかは思想的論争をはらむ厳しい対決が必要であると考えています。

 1960年に細野武男氏を代表にして京都教育センターが設立されました。そして、全面発達(どの子も伸びる)、集団主義(つながりあって生きる)、科学的認識(ほんとうのことがわかる力)という3本柱を提起してきました。いま「地域に根ざしつながりあって生きる力」を育てることが真の教育になると思います。

 地域に根ざすには「地域に学ぶ」姿勢がまず求められるでしょう。過疎・過密を生みだし、息苦しい生活に追い込んだ「地域破壊」政策に対峙するには、暮らしやすい地域の復権以外にはないのではないでしょうか。「地域に学ぶ」と言うより「地域に学べ!」と言った方がよいかもしれません。

 京都という地域には「宝」がいっぱいあります。あったかい人々との「つながり」と「革新の伝統」があります。個人的には「京都でお会いする人 みな美しきかな」という夢を見つつ、また「峠のむこうに 春がある」(蜷川虎三)を胸にいだきつつ人生を終えたいとも思っています。

 12月25日、26日に京都教育センター50周年記念集会が、ルビノ堀川、教育文化センターでもたれます。『風雨強けれど光り輝く』を出版します。仲間と「つながり」あって学びましょう、と呼びかけたいと思います。



小学校での法教育実践の可能性
―学力実態を踏まえ、クラス集団での弁証法的展開の試み

           八幡市立八幡小学校  葉狩 宅也



はじめに

 社会科の授業づくりにかかわる「実践・研究」をすすめてきたつもりの私が、この数年間、様々な状況から「停滞」しているという感覚を大きくしているときに、「法教育に興味ない?」という誘い文句にのってしまって、この「領域」に入り込みつつあります。

 加えて、八幡市教委が2008年度から「シティズンシップ教育」+「モジュール学習」という文部科学省の指定をもらい受けたこともあって、ウイングをさらに広げなくてはいけないという状況にもあります。この新設教科「シティズンシップ教育(やわた版市民の時間)」と「総合的な学習の時間」を組み合わせた昨年の実践を紹介します。


1.子どもの実態や、発達課題から「法教育」を考える

 5年生の子どもたちとすすめた実践、「ルールって何だろう」のねらいは、3つにしました。

@ルールについて考え、その必要性がわかる
Aルールをどのようにつくるかを理解し、それにかかわる仕事についてわかる。
B「正しいルール」とは何かを考え、みんなで作ったルールはみんなで変えられることがわかる

 これは、子どもたちの実態を、「5年生も後半の時期となり、思春期の入り口にさしかかった言動が少なからずでるようになってきた。反面、『幼さ』を引きずり、低中学年のように話したり、行動することも少なくない。

 また、『軽度発達障害』的な行動を繰り返す児童も複数いる。そうした中での学習は、イメージしやすい『言葉』や『具体物』を通して考えることは入りやすいが、概念的な「言葉」や「抽象世界」には入りにくいことが多い。

 生活面でも、『利害がはっきりすること』や『ペナルティが見え隠れすること』には取り組もうとするが、自分や集団のために『必要』であったり『意味』を見いだして主体的に取り組んでいこうとする児童は少ない。

 また、『クラスあそび』をはじめとした交流や活動は、積極的に取り組んでいるが、様々な『トラブル』や『不満』をかかえており、その改善をどのように進めていくべきかに、とまどっている子どもたちがいる。

 そこで、この学習では、子どもたちが考えを出しやすい教材や活動を組み込みながらすすめることを大切にし、『ルール』にかかわる『言葉』や『意味』を自分たちの生活世界とつなげながら理解していくようにすすめたい。」と考えて構想したのです。


2.学習過程と子どもの反応

 わたしたちの社会には、道徳や慣習、合意にもとづいた様々なルールがあります。それがなんのためにあるのかを、子どもが実感をもって理解していくことは大切な学習です。また、そうしたルールが、社会の中ではどのように作られ、運用され、改変されるものであるかということを、小学生の認識の発達レベルに合わせて学習させたいと思います。


【指導計画(全5時間)】  

第1時 図書館のルールは? 絵本『としょかんライオン』を読みながら、図書館のルールについて考える。
第2時 ルールがなくなったら… ルールのもとは「慣習」「道徳」「合意」。ルールは平和で安全な社会をまもるためにある。
第3時 ルールはどうやってつくるの? だれがルールを作るべきかを考える。ルールにかかわる仕事は「立法」「行政」「司法」。
第4時 市長になりたい! 市長はどんな仕事をするのか。市長にふさわしい人はどんな人か考える。
第5時 そんなルールまちがってるよ! ルールが作られた方法〜その内容を検討する視点。そのルールが必要かどうか?変えることもできる。


【子どもの感想】

  「ルールは守らなければいけないが、きん急のとき、もしもやぶってしまったら、この本では『しかたない。ゆるそう。』となっているけど、本当に現実だったらゆるせるのだろうか?」 (第1時)

 「ルールがなかったら、世界どこでもぐちゃぐちゃになってしまってたいへんになってしまう。ルールがあれば安全な生活ができると思う。」 (第2時)

 「ルールを作るのは、簡単そうでむずかしいことが分かりました。ルールを作るのは、みんなに納得してもらわないとできないものだと分かりました。」(第3時)

 「6班のHさんの演説が良いと思いました。自分の性格やどんなことをしたいかなど、内容がすごく分かりやすかったからです。あと、1班のMさんもどんなルールを作るかなど、内容が多くて分かりやすかったので、いいと思いました。」(第4時)

 「ルールで本当に大切なことが分かった。絶対にルールを決めるときは、平等、目的、必要性を考えなければならない!あと、みんなが納得することや困る事があったら、変えることも必要だとも分かった。」(第5時)

 手探りですすめた実践ではあったが、「ルールは与えられて守るもの」と言う認識から、一つひとつとらえ直して「ルールについての認識」を豊かにしていくことができたと思います。


3.法教育の可能性

 現代〜子ども達の未来に、「社会的な課題」として向き合い、考え合い、解決・発展させていく必要のあることは何か?

@子ども達の生活の中に見え隠れしていて、協力・共同して考えていくことに子ども達自身が「ねうち」を見いだすことができること。   
A歴史的な発展や現在「大人社会」の中で課題とされ、子どもには認識されていないが、未来に向かって解決していくことが必要になってくること。   
Bそのために必要となってくる「認識」「技」「感性」…。


 私はこの間、さまざまな課題について討論を設定しました。討論学習の中で「主張」することができる子ども、「受容」することができる子どもに育てることを追究したいと考えたからです。

 まずは直感的に、それまでの個々の子どもの経験の範囲で発言できる子と、そうでない子がいます。発言できない子も友達の意見を聞く中で自分の考えを「主張」できるように「調べ」たり、小グループで整理しあったりする機会を作る必要があります。その中で、「言いたい」と思えるように変化することを追求したいと考えたのです。

 同時に、聞く立場としての能力…同じ意見を共感的に受けとめたり、反対の意見を「反発」的だけではなく「受容」的に受けとめたりする能力。さまざまな人のさまざまな視点からの考えがあることを知り、自分たちの考えを豊かにしながら育っていく能力も育てたいと思います。

 討論で、人間性が耕されることをめざしたいと考えています。 そうしたことを位置づけられる法教育は、その可能性を開いていくものになりうると感じています。

(詳細は、京都教育センター通信50号をごらんください。)





民主府政「落城」後、30余年の「京都の教育」を検証
★京都教育センター編『風雨強けれど 光り輝く 検証!京都の民主教育1978〜2010』

 「風雨強けれど 光り輝く」は、民主府政「落城」の1978年以来30余年間の京都の教育の変遷をまとめたもの。厳しい攻撃が相次いでいたが、「やられっぱなしではない!」この間のたたかいをまとめました。8人の編集委員〔野中一也・大平勲・小野英喜・中西潔・磯崎三郎・高橋明裕・松尾隆司・西條昭男〕が昨年の9月以来合宿を含め14回の編集会議を重ねて刊行しました。この間のたたかいの中にみなさん方の足跡が反映されています。是非、手にとってお読み下さい。



季刊『ひろば』の人気連載から37編を厳選・加筆
★早川幸生著『京都歴史たまてばこ


 「京都歴史たまてばこ」は早川幸生さんがこの間『ひろば』に連載された中から37編を加筆編纂されたものを集めたものです。調べ歩いた京都の風物詩に引き込まれること請け合いです。


*2011年1月から、京教組各支部書記局で求めることができます。
*また、申し込み用紙(PDF版)にご記入いただいて、ファックスでお申し込みいただくこともできます。
行事案内


【全体集会】

日時 2010年12月25日(土)13:00〜17:00  

会場 ルビノ堀川「加茂の間」    

参加費 500円 

全体会内容

○ 記念鼎談「戦後民主教育と今日の教育課題」(仮題)
     堀尾輝久氏(前民研代表)&野中一也氏(センター代表)


○ 3人の現職教職員によるトーク「教職員の成長を促すもの」


【分科会】

日時 2010年12月26日(日)10:00〜16:00  

会場 教育文化センター全館

 センター9研究会による:「地方教育行政」「生活指導」「学力問題」「発達問題」「地域と子ども」「カウンセリング」「高校問題」「国語教育」「障害児教育」など各分科会


【設立50周年記念のつどい】

日時 2010年12月25日(土)17:30〜

会場 ルビノ堀川

会費 5,000円 (事前申し込み必要)



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