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●京都教育センター通信 
復刊第47号
 (2010.9.10発行)

新自由主義と現代の教育

                     関西大学名誉教授 鰺坂 真



 新自由主義ということが言われるようになって、もうかなりの年月がたちましたが、ここにいたって、その政治・経済の面での弊害が明らかになり、特に小泉政権以後、新自由主義的な政策により、格差と貧困の広がりが、深刻になり、国民的な批判が広がりました。これに対して、当時の野党・民主党が最初は新自由主義的政策の応援、あるいはもっとやれといった対応をしていたのが、やがて国民的批判の広がりを見て、方向転換を始めて、「コンクリートから人へ」といい、子ども手当てや農家戸別保証、あるいは高校授業料無料化などの政策転換を図り、これが国民の支持を得て、昨年の政権交替が起こりました。その後の民主党政権の行方を見ておりますと、迷走を繰り返していて、自公政権時代の新自由主義的政策の転換が公約どおりには進んでいない状況ですから、今後注意深く監視する必要があるのは勿論ですが、ここ数年の国民世論の動向は、明らかに新自由主義経済政策への警戒を強めているといえましょう。そして政府もこの世論を無視できない状況が生まれつつあるともいえましょう。

 ところが、しかし教育の分野では、状況が異なり、いまだに新自由主義的なイデオロギーが大手を振ってまかり通るという状況があり、むしろこの傾向は強化されようとしているとさえ、感じられます。このようなイデオロギー状況は早期に打ち破らなければならないと思います。文部省策定の学習指導要領を基準にして、一斉学力テストを押し付ける、これによって学校間競争・自治体間競争をあおりたて、学校も教育委員会も点数を取るための競争の中に巻き込まれる、それによってエリートと非エリートとを早期に選別しようとし、これに子どもも親も巻き込まれる、などのことが強まっています。政府も教育委員会も、平等な公教育の充実ではなく、序列的な公教育の再編成を行い、それによって財界の要望する新しい人材の要請が優先されていくのではないかという危惧を抱かざるを得ません。

 新自由主義が強調するのが自由競争ですが、競争がすべて悪であり、競争をすべて排除すべきだというつもりはありません。運動会で競争し、競い合うというのは、排除せねばならないものではないでしょう。自由競争が人類社会の発展にいい影響を持ったという時代もありました。封建時代の末期に市民たちが自由な経済活動を求めて活発に運動したことが、近代社会への歴史の発展をもたらしました。しかし19世紀末からは事情が全く変わりました。特に独占資本の時代には、もはや自由競争は不可能となりました。そうゆう時代を経過して20世紀の後半から言われだした新自由主義は、近代初頭の自由主義とは全く性格の異なるものです。現代の新自由主義のいう自由は、人びとの自由ではなく、資本家の自由であり、金持ちだけの自由です。自由緩和といって、労働法制の規制緩和を政府にやらせる、非正規雇用を広げて、いつでも自由に解雇できるようにする、規制緩和で大型店舗をやたらに作り、商店街を破壊するなど、近年の財界の遣りたい放題は目に余るものがあり、これに対していま国民の反撃が始まっているわけですが、こんな新自由主義的なイデオロギー攻撃が教育分野では強まっていこうとしているのは黙視できません。教育特有の困難(親が子どもの学力向上をたえず願っていることから来る困難)があるのだと思いますが、新自由主義の批判を強めていかねばならないと痛感しています。



概念形成を大切にした算数の授業
―到達度評価と特別支援教育から学んで―

           宇治市 桑村 明憲



(1)はじめに

 私は「到達度評価のめがね」で教科書やその他の実践プランを捉えなおすようにしています。基本的な概念の形成過程を大切にし、評価と回復指導を組み込んだ「わかりできる授業」をすすめます。また、特別支援教育の研究から学んで、子どもたちのつまずきを配慮した授業を工夫します。この2つの観点で、従来の実践を見直していくと、以外にシンプルでわかりやすい授業になると思っています。


(2)加減計算でいつまでも指を使う子どもたち

 特別支援教育で、子どもたちとの個別指導にかかわりました。ほとんどの子どもたちが、加減計算で指を使っていました。やる前に「指を使っていい?」と恐る恐るたずねる子がいます。「指はダメ」と言われたことがあるのでしょう。それでも指を使ってしまうのはなぜなのでしょうか。

  1年生の数の学習では、「量として数」を捉える」認識、それを土台にして「10を固まりとして捉える力」を育てていくことが中心課題です。この認識が弱い子は、計算はできるが「時計、かけ算の意味、位取り、文章問題など」でつまずいています。「数える」レベルにとどまっている子にとっては、計算のときにも数えないと不安なのでしょう。「数の訓練」をして「できる」ようにしても、「答、やり方の暗記」であり、認識を育てることはできません。


(数認識を育てる指導計画)

@5までの数 ― 多様な具体物から数を導入、2〜5までのくっつけたブロックを作り、手にもてること、2と2で、2と3でなどと直感的な合成分解に習熟させる。

A6〜9の数 ― 6以上の数を直感的にわかる2つの数でとらえられることがポイントである。

 そして、6以上の数を5といくつで捉えられるように、ゲーム、カードなどで習熟をはかる。数だけを扱わないで、いつも絵、ブロックなどで確かめられるようにしておく。

 子供たちの習得の様子を把握しつつ、習熟をはかります。

 早くに加減を導入するやり方もあるが、答を求める時に、数えてしまう子があるので要注意です。

B10の構成 ― 10の合成、分解 C40までの数 ― 具体物、ブロックでの十作り、位取り

 2年生のNちゃんは、2学期から十の補数を使ったくり上がりのある足し算に取り組みました。その時間ではできるが、次の週になると迷ってしまうことの繰り返しでした。具体物、ブロックを十の固まりにして数えたり、位の部屋に入れたりすることがスムーズにできるようになった3学期のある日、たし算がスラスラとできて「簡単や」とうれしそうでした。その後、ひき算もよくできるようになりました。数概念が育ち、やり方の意味がわかったので定着したのだと思います。 1年生1学期の学習で、上のような数概念形成にポイントをおき、子どもの実態を細かくチェックしながら学習をすすめることで成果をあげた実践が、地域のサークルでもだされました。

(3)基本概念を大切にした「割合」学習

  『クラスの35%の14人がかぜで休みました。クラスは全部で何人なのでしょう。』懇談会で質問しますが、おとなでも迷います。文科省などの調査で、割合の基本問題が60%前後という正答率。5年生で学習したばかりなのに、なぜできないのでしょう。

・3用法の判別が難しい 

・短い学習時間数

・やり方の暗記に終わっていることが考えられます。

 一番の問題は、「割合の基本概念とそれに見合った解き方」を身につけていないことだと思います。

 実践の様子を、概念の形成―概念の習得―習熟の順に報告します。


@割合概念の形成(第1用法)

 『4歳のときのトム‐70cmと、20才のときのトム‐210cmを比べます。 4さいの時と比べたらどうなったでしょうか?』 (事物大の絵を掲示する。)子どもたちは、・ひき算で差 ・70cm×3 ・3倍・210cm÷70cmなどと考えました。それぞれを確認して、今日からは、かけ算で比べます、「70cmの3倍で210cm」(言葉のまとめ)、3倍を割合(倍)ということと、「70cm×3=210cm」の式は、「割合の式」とおさえました。輪ゴムを伸ばす実験や問題を、言葉・式にまとめ、2量の大きさを意識しながら面積図で考えました。 割合は、わり算(2量の商)によって生み出されるものですが、生活経験としてある直感的な「倍」の考えに依拠しながら、かけ算を立式しました。形成評価では、一応良くできていました。

A概念の習得(第2用法・第3用法・消費税など)

 『100キログラムの宇治錦は、25キログラムのぼくの何倍ですか。』という割合を求める問題です。「25キログラムをもとにして測る(わり算の包含除の考え)」という子ども達の考えも出てきました。大切にしたい考え方なので、確かめました。しかし、ここで教えたいのは、かけ算の式を使うやり方です。まず、「25キログラムの?倍が、100キログラムです。」と言葉でまとめ、次に「25キログラム×□=100キログラム」と立式。後は、式変形をして、わり算で解決。

 倍をみつけたら「何の3倍?」といつも考えさせます。つまり、かけ算で考えさせるのです。 ところが、第1用と第2の用法が出てくる練習になると、混乱する子が出ます。授業や個別指導で、割合の式の立式から再学習をする中でどうにかできてきました。他の教材でも、基本概念からすすんで少し違った次の学習では、つまずきがよく出てきます。基本概念があいまいな子ども達なのでしょう。しかし、そこをのりこえると、概念がより確かなモノになっていくことが確かめられました。次に、第3用法です。第2用法で「解き方」が分かってきているので、大きな困難はありませんでした。3つの用法を、練習する中でさらに概念形成がたしかなモノになっていたようです。さらに、・つけ足し(消費税など)、・割引(商品など)の問題はかなり楽に解決できていました。

B概念の習熟

3つの用法や割引問題などの練習を数多くの練習。電卓を使っていいので、計算が苦手な子も数多く問題を解けます。授業の始めから、具体物や商店の広告などの実際に割合が使われる場面を持ち込みましたが、身のまわりから割合を見つける宿題、「世界がもし100人の村だったら」の本から問題集、最後の授業として、人体の中の割合や世界の乳幼児死亡率の問題を宇治市の人口と合わせて考える学習もしました。「割合のめがね」で世の中を見つめなおすすばらしさを感じてほしいと思っています。


 この実践は、私個人の7年間といくつかの学校での4年間の実践をもとに改善をしてきました。子どもたちからは「塾よりもよくわかった」「割合は便利だ」などの感想をたくさんもらっています。実践した若い先生も「始めて楽しい算数ができた。」の感想をくれました。


(詳細は、京都教育センター通信46号をごらんください。)




行事紹介

京都教育センター公開研究会
高校問題研究会公開研


日時 7月18日(日) 13:00〜

会場 京都教育文化センター 301号

テーマ 「京都の高校教育を考える」――類・類型制の破綻をどう捉えるか――

報告     長尾 修さん(京都府高教文部長)

        高校・中学校現場、保護者から


運営 高校問題研究会:高校教育懇談会




京都教育センター公開研究会
民主カウンセリング・ワークショップ
−−生き生きとした温かい人間関係をつくるために−−


 競争と格差の教育が進行する中で、また、人間らしい働き方や生き方が阻害されがちな事態が広がる中で、子どものみならず大人の生きづらい社会になっています。

 私たちは、毎週金曜日にカウンセリング相談や研修を続けていますが、年2回(夏と冬)は公開研究会としてワークショップを開催しています。この間、私たちは、子どもも大人も人から共感され信頼されることによって、生きていく勇気をもらい、成長していくことが出来るのだと実感しています。

 今回も、多くの人や自分自身の声に耳を傾けながら、自由で自発的なふれあいを体験する機会としての、カウンセリング・ワークショップを企画しました。

 是非ご参加下さい。どなたでも参加できます。参加費は無料です。


日時 7月24日(土)10:00〜16:00(受付9:30)

会場 京都教育文化センター 203号室

内容 グループ・エンカウンター  

 人間中心の出会い・ふれあいのグループ経験によって、人間信頼・受容的態度・共感的理解などの集中的体験を行う。

運営 京都教育センター「家庭教育・民主カウンセリング研究会」



行事報告

【京都教育センター 発達問題研究会 公開研究会】

子どもの発達と自然との関わり
地域で育つ子どもの発達−−自然教室の実践を通して

              堀井 篤さん(元立命館高校)の報告から

 京都教育センター発達問題研究会は、6月26日(土)に「子どもの発達と自然との関わり」をテーマに公開研究会を行いました。その中での堀井篤さんのレポートを中心に報告します。


公開研究会開催にいたる経過

 発達問題研究会では「子ども達と今日の学校・社会環境の間に介在する困難とその可能性」という視点から、「子ども達の文化や地域と自然環境を捉え直す」議論を試みてきています。

 06年より連続して「子ども達の発達課題と地域環境」をテーマに、研究会を公開研究会や月例研究例会として開催。現場からさまざまな活動を報告していただき、実態に基づいた学習・研究討議を行ってきています。また、例会や教育センター研究集会分科会においても「人間と自然との相互性」「子どもの発達と自然との関わり」に関する研究を継続しています。

 08年の公開研究会では、学習活動をより広い文化的−歴史的なコンテクストの中に捉え、人間活動の創造的可能性を発見し現実化しながら、自分たちの制度や行為を転換する、集団的転換への実践的な参加へと向けられている「拡張による学習」と子どもたちを取り巻く環境について検討しました。

 そして、09年は「ダーウィン生誕200年」に絡め、「人類の進化と子どもの発達」の視点から、「子ども観」について議論してきました。

 10年の今回は、3月例会において行われた堀井篤さんの「岩石・鉱物・化石展を開催して−−地域の人々とどう交流したか−−」のレポート報告を深め、「子どもの発達」についての学習・討議を深める目的で開催されました。


「地域で育つ子どもの発達   −−自然教室の実践を通して」 報告者 堀井篤さん(元立命館高校)

 堀井さんは、自然教室(久美浜地域学校自然教室)の中で、子ども達と共に取り組んだ「古代たたらによる製鉄」の取り組みを中心に報告されました。

 堀井さんの自然教室は、久美浜を中心に14年間続けられた実践です。「古代たたら」による製鉄づくりには子ども達24人が取り組みました。地域のおじいさん方、林業をやっている方々等から粘土を持ってきてもらって窯の材料を集め、木炭100キロ、砂鉄31キロを子ども達と共に集めました。こうした中で「たたら製鉄」を行い、12.9キログラムの鉄がとれたということです。「たたら製鉄」による鉄づくりは04年11月に行われましたが、現在、普通のカナクソ(鉄滓)はさびてしまっていますが、タマガネ(玉鋼)は今でも全くさびていません。たたら製鉄を経験して、自然教室を卒業していった子ども達は、現在高校生や大学生になっていますが、先日集まってくれて「ひとつのことでもいっしょうけんめいにやることが大事ということを学んだ」と言ってくれたそうです。

 自然教室には、小さい子どもから高校生までが参加し、毎年だいたい30人前後になるといいます。2年生以下は保護者同伴、3年生以上は個人で参加ですが、集合場所まで保護者送迎で、この送迎に関わる中で親たちも取り組みに協力するようになってきました。月2回で1年間続け、とりわけ異年令集団の中で子ども達の教え合いが生まれるなど、たいへん良かったといいます。

 そして、こうした取り組みの中で、子ども達の自然認識が次のような点で深まったのではないかと報告をまとめられました。


【子ども達の自然認識について】

1)自然についての考え方。うまいことできている。

2)自然と人間の関係はどうあるべきか。人間のことだけ考えてはいけない。

3)ものごとは変化、発展するということ。

4)生命の存在について、種の生い立ちから生き物であるということ。

5)ヒトは自然界の中で一番新しい動物であるということ。

6)環境問題

                        (文責 京都教育センター 浅井定雄)

新刊紹介
教育センター室でも扱っています

『思春期のゆらぎと不登校支援 U子ども・親・教師のつながり方』

 春日井敏之 著    ミネルヴァ書房  二八〇〇円+税

 U認め合う居場所とつながりの実感を  思春期・青年期の自己形成と支援のあり方、臨床教育の視点から双方にとっての支援の意味を問う。

『水源の里 綾部で文化を紡ぐ U中学生からの 地・生・輝 づくり』

吉田武彦 著     ウィンかもがわ 一五〇〇円+税

 地域の人々が支える学校、地域のにない手が育つ学校づくり。過疎の農山村地域で取り組んだ、未来に生きる豊かな学び。

『京都山科 音羽・大塚・音羽川 二千年の歩み』

       鏡山次郎 著     つむぎ出版 二五〇〇円(税込)

 ふるさと山科の二千年/中世の山科七郷と自治の伝統/音羽地域の二千年/幕末の山科史/四ノ宮地域の二千年/山科における戦争の爪痕を訪ねて/四ノ宮におけるまちづくり住民運動 他


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