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●京都教育センター通信 
復刊第45号
 (2010.6.10発行)

教育の国家統制に抗して--京都教育センター前史

                     同志社大学名誉教授 井ヶ田良治



 私が京都教職員組合(京教組)の教育研究運動に参加するようになったのは、1954年に同志社教職員組合連合の書記長になった時です。京都府下各地の教研集会や全国教研に参加し、京都教育センターにも顔をだすようになりました。

 戦後の教育改革は明治以来の国家教育の画一主義を批判し、民主主義教育を推進するポーズをとっていましたが、朝鮮戦争が勃発し、東西対立が激しくなると、教育の国家統制を強化し始めました。1953年の池田・ロバートソン会談がその画期でした。その共同声明は、日本の再軍備を加速し、国民の愛国心を養成するために教育の軍国主義化を進めることで合意したことをうたっています。その翌年の1954年にアメリカはマーシャル列島のビキニ環礁で水爆実験を強行し、日本の漁船第五福龍丸が被爆し、久保山愛吉さんが亡くなるという痛ましい事件が起こりました。同じ年、日米相互防衛援助MSA協定が結ばれ、防衛庁が設置され、警察予備隊は、保安隊から自衛隊と改称され、軍隊であることを公然と宣伝するにいたりました。

 当時「教え子を再び戦場に送らない」を合言葉に、平和の大切さを子どもたちに自覚させる「平和教育」が全国的に論議されていましたが、「平和教育」か、「偏向教育」かをめぐる中学校区のPTAの中の対立が教員の懲戒免職にまで発展したのが京都市の「旭丘中学事件」で、1954年のことでした。その前年に山口で起こった「山口日記事件」と同じく、保守派は偏向教育を是正すると称していましたが、実際は日本の軍備増強・対米従属深化の教育版とでもいうべき教組への弾圧でした。全国的には、「教育の政治的中立性」の名で教員の政治活動を禁止する「教育二法」が公布されたのも同年のことです。その後1960年に向けて教育の反動化が進みます。勤務評定で教員を統制し、学力テストで子どもを過度に競争させ、教科書検定を強化して特定の国粋主義的歴史観や反動的な社会認識を生徒児童に植え付け、やがて「日の丸」の掲揚・「君が代」の斉唱を強制するにいたります。その間に、発足当初公選制だった教育委員会制度は任命制となり、府県教育行政の要となる教育長の任命は文科相の承認を必要とすることにされてしまいました。これら一連の国家統制の強化は、国家に役立つ国民を作り出すためでありました。1954年鳩山一郎自由党内閣が憲法を改悪しようとしましたが、当時両院の保守派党の議席は3分の2を超えていましたので、危うく憲法が改悪されるところでした。幸い、翌1955年の選挙で保守派の議席は3分の2を割ったので、改憲の危機は辛うじて解消しました。

 教育実践の成果を理論化するのが教職員組合の教育研究です。反動化する教育の論理を検討しし、その誤りを正し、克服する新たな理論を創造してきました。大切な事は、子どもたちを主人公とする教育実践を積み重ねてきた現場での教育運動の成果を大事にしなければならないと言うことです。京都教育センターの「全面発達・科学的認識・集団主義」の三つの視点に見事に集約された運動の成果は京都の宝です。

 全国教研集会の合宿の議論の熱っぽかったことを今懐かしく思い出します。当時は無着成恭の『やまびこ学校』が国民の感動を誘っていた時代でした。酒を酌み交わしながら夜の更けるまで教育の理念を熱っぽく語っていた多くの方々、細野さん・安永さんをはじめ、奥田さん、藤原富造さん等沢山の方が今は鬼籍に入られましたが、平和で豊かな日本の未来を担う子どもたちの成長を助ける教育運動が多くの人に深い感動を与えて一層発展することを期待します。


学校図書館の充実を求めて
   学校図書館の貧しい現状と課題について

           山口栄子(京都府立綾部高等学校東分校 学校図書館司書)



 ここ数年、「朝読書」などの一斉読書、「ブックトーク」「読み聞かせ」などの読書教育に関わる取組を実践する学校が増えています。2001年成立した「子どもの読書活動の推進に関する法律」により国や各自治体は「子どもの読書活動の推進に関する基本計画」を策定しました。この計画によって一斉読書などの読書教育が推し進められてきました。文科省の2008年「学校図書館の現状に関する調査」によると一斉読書の実施は小学校では96.6%、中学校では86.9%にものぼっています。

 しかし一方で読書活動の中心を担うべき学校図書館の充実はあまり進んでいません。「本」が少ない・「人」がいないという学校図書館の貧しさは改善されないまま読書教育の推奨だけが現場に押しつけられてきているのです。


【「本」が少ない】

 国は学校図書館図書整備5カ年計画として2002年度からの5年間で義務制学校に毎年130億円、総額650億円、引き続き2007年からの5年間で毎年200億円、総額1000億円を予算措置しました。しかし文科省の調査によれば学校図書館図書標準(小中学校の学校図書館の蔵書について文部科学省が定めた整備目標)の達成率は、約4割前後に止まっています。学校図書館図書整備5カ年計画は一般財源措置であり、市町村ごとの予算編成に委ねられているため平成19年度について言えば図書費として執行された割合は78%に止まっています。また財政難から82%もの自治体や教育委員会が図書購入費を流用していたことが明らかになっています。「本」はまだまだ子どもたちのもとには届いていません。


【「人」がいない】

 1997年の学校図書館法の改正によって12学級以上の学校には司書教諭の発令が義務づけられました。現在12学級以上ではほぼ100%、11学級以下を含めると約6割の学校に司書教諭が発令されています。しかし授業や担任業務などで多忙な司書教諭が果たしてどこまで図書館業務を担うことができるでしょうか?専任でない充て職の現在の司書教諭だけでは学校図書館の開館でさえままならないのが現実ではないでしょうか?だからこそ学校図書館には専門の資格をもった専任の職員=「学校司書」が必要なのです。文科省が2007年に設置した「子どもの読書サポーターズ会議」は学校図書館の機能を発揮するためには専門の職員が必要であるとして「学校司書」の配置にふれています。

 文科省の調査によれば「学校司書」が配置されている学校の割合は、高校では7割ですが、小中学校で4割に止まっています。また全国学校図書館協議会と学校図書館整備推進会議が行った2008年度の「学校図書館図書費の予算化及び子どもの読書活動の推進に関するアンケート」結果によると、「学校司書」が未配置の市区町村は55%にのぼります。また現在配置されている「学校司書」の職名や身分、勤務条件は自治体によってばらばらです。小中においては臨時や嘱託などの非常勤職員が圧倒的に多く、兼務や複数校勤務も少なくありません。高校においても定数の削減や兼務かがおしすすめられようとしています。


【京都府の現状】

 今年1月27日の京都新聞夕刊に「半数あかずの図書室。府内公立中。人手不足」という記事が掲載されました。京都府の「学校司書」の配置状況は、公立小学校で63校(15.3%)公立中学校で19校(11.7%)と全国平均の4割を大きく下回っています。学校図書館図書標準を見ても京都府の達成率は小学校で20%、中学校で12%と、こちらも全国平均の4割を大きく下回っています。こうした貧しい学校図書館の実態を京都府はどう受け止めているのでしょうか?今年発表された第二次推進計画において、学校図書館の開館についてこう記されています。「…そのために、ボランティアとの連携をより一層推進していく取組や、児童生徒が委員会活動等によって図書館の開館により一層積極的に関わっていく取組が重要となります。…」これが京都府の考える学校図書館の姿だとすれば残念でなりません。  しかしうれしいニュースも聞こえてきました。久御山町の町立小中4校に専任司書配置、八幡市の小学校8校全てに司書配置、宇治市もこれまで5名だった嘱託司書が7名に増員されるなど、府南部の自治体での司書配置の知らせが相次いでいます。


【「学校司書」の法制化を】

 今、日高教学校図書館職員部では、すべての児童生徒・教職員が平等に「学校司書」がいる学校図書館を享受できるよう、「学校司書」の法制化を求める運動に取り組んでいます。全国都市教育長協議会も平成21年度文教に関する国の施策並びに予算についての陳情の中で「学校図書館司書の創設とそのための予算措置」を要望しています。財政難の今、新たに「人」を置くことは確かに困難です。しかし「学校司書」が配置された学校では児童生徒の貸出冊数や来館者数が大幅に伸びるなど大きな効果が報告されています。「学校司書」の配置は児童生徒だけでなく先生たちにとっても大きな力となります。「学校司書」の配置で学校図書館は変わります。「学校司書」のいる学校図書館を利用できることが当たり前になるように、一日も早い「学校司書」の法制化実現に向け、父母教職員とともに力を合わせてがんばっていきたいと思います。

(詳細は、京都教育センター通信45号をごらんください。)




行事紹介

京都教育センター公開研究会
発達問題研究会公開研


日時 6月26日(土) 14:30〜     

会場 京都教育センター室(別館2F)

テーマ 「地域で育つ子どもの発達」 ――丹後での自然教室の実践を通して――

報告      堀井 篤さん(元立命館高校)

         中山善行さん(京都学童保連)

運営 発達問題研究会


京都教育センター公開研究会
高校問題研究会公開研


日時 7月18日(日) 13:00〜

会場 京都教育文化センター 301号

テーマ 「京都の高校教育を考える」――類・類型制の破綻をどう捉えるか――

報告     長尾 修さん(京都府高教文部長)

        高校・中学校現場、保護者から


運営 高校問題研究会:高校教育懇談会




京都教育センター公開研究会
民主カウンセリング・ワークショップ
−−生き生きとした温かい人間関係をつくるために−−


 競争と格差の教育が進行する中で、また、人間らしい働き方や生き方が阻害されがちな事態が広がる中で、子どものみならず大人の生きづらい社会になっています。

 私たちは、毎週金曜日にカウンセリング相談や研修を続けていますが、年2回(夏と冬)は公開研究会としてワークショップを開催しています。この間、私たちは、子どもも大人も人から共感され信頼されることによって、生きていく勇気をもらい、成長していくことが出来るのだと実感しています。

 今回も、多くの人や自分自身の声に耳を傾けながら、自由で自発的なふれあいを体験する機会としての、カウンセリング・ワークショップを企画しました。

 是非ご参加下さい。どなたでも参加できます。参加費は無料です。


日時 7月24日(土)10:00〜16:00(受付9:30)

会場 京都教育文化センター 203号室

内容 グループ・エンカウンター  

 人間中心の出会い・ふれあいのグループ経験によって、人間信頼・受容的態度・共感的理解などの集中的体験を行う。

運営 京都教育センター「家庭教育・民主カウンセリング研究会」



行事報告


5・23 京教組・教育センター合同学習会(民教委総会)

京都市の大規模学校統廃合は全国のモデル? 山本由美講演

 第一回民主教育推進委員会総会は5月23日開催され、共同研究者21名を含めて約70名が参加しました。午前中は野中センター代表の挨拶に続いて東辰也京教組教文部長から「教育をめぐる情勢や京都教研開催について」の提案がありました。その要旨は次のとおりです。

〇全国一斉学力テストは3割程度の抽出にもかかわらず、「希望枠」含め73%が参加。京都も85%参加で、100%実施が「強要」の京都市など(小)13市町、(中)16市町で。

〇迷走と混迷の教員免許更新制:見直しの動きが見えない中、今年も該当者が申し込みに右往左往。

〇教職員定数は文科省で7年ぶりの改善(300人増)が提示、京都府の「30人程度学級完了」から「中学校への拡充」の公約は検証が必要。

〇改訂学習指導要領と教科書採択(6/18〜30各教育局、アスニーで展示)、学習評価と学習指導要録の動向を注視しよう。

◎ 京都教研:11/13〜14   民教委員会:9/11、11/6


 午後からは、「検証 学力テスト体制・小中一貫教育」と題した山本由美さん(和光大)の講演がありました。その要旨は次のとおりです。


〇新自由主義教育改革のめざすものは、平等な公教育サービスではなく序列的な公教育への再編成

〇学テは改革の「要」事業、「学力向上」を前面に出せば無理な「教育改革」も保護者の支持を得る

〇構造改革特区による小中一貫教育(京都市、品川区などが先鞭)が学校統廃合の手段として拡大

〇世界的に見ても初等教育と中等教育を同一学校として9年齢も違う生徒を一緒にする制度はほとんどない。(小中一貫教育と小中一貫校は全く異なったモノ)

〇京都市の教育改革は典型的な新自由主義教育改革でコスト削減を打ち出す大阪より巧妙である。

〇地域、保護者などの"要請"による小中一貫の統廃合は民主党の"学校理事会"のモデルになる。

〇教組対策も徹底し、学校自治的な部分を骨抜きにして保護者と教職員、教職員同士の分断を推進。

〇東山のように小中一貫教育特区を利用した多くの校数の大規模統廃合の手法は全国のモデルに。

〇宇治での工夫された「考える会」ニュースなどで一貫校デメリットのオープンな批判は教訓的。

〇対抗軸を考える:@学校統廃合によって子どもが計り知れないダメージを受けることを検証する
            A産業構造の転換を見据えた高校教育を展望して
            B教職員組合がまちづくりに参加することの重要性
            C貧困問題などを契機とした教職員と保護者の新しい共同の模索 など


新刊紹介
教育センター室でも扱っています

『思春期のゆらぎと不登校支援 U子ども・親・教師のつながり方』

 春日井敏之 著    ミネルヴァ書房  二八〇〇円+税

 U認め合う居場所とつながりの実感を  思春期・青年期の自己形成と支援のあり方、臨床教育の視点から双方にとっての支援の意味を問う。

『水源の里 綾部で文化を紡ぐ U中学生からの 地・生・輝 づくり』

吉田武彦 著     ウィンかもがわ 一五〇〇円+税

 地域の人々が支える学校、地域のにない手が育つ学校づくり。過疎の農山村地域で取り組んだ、未来に生きる豊かな学び。

『京都山科 音羽・大塚・音羽川 二千年の歩み』

       鏡山次郎 著     つむぎ出版 二五〇〇円(税込)

 ふるさと山科の二千年/中世の山科七郷と自治の伝統/音羽地域の二千年/幕末の山科史/四ノ宮地域の二千年/山科における戦争の爪痕を訪ねて/四ノ宮におけるまちづくり住民運動 他


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