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●京都教育センター通信 
復刊第39号
 (2009.12.10発行)

「韓国の旅」を通して、考えたこと
  −視野を広げ、正しい歴史認識をみんなのものに−

              京都教育センター 中須賀ツギ子


 この夏、「悪魔の飽食」を歌う全国合唱団韓国公演に参加、平和を願う韓国の方々との交流・親睦を深める事ができました。「悪魔の飽食」は、第二次大戦中、旧日本軍731部隊による中国人、朝鮮人、モンゴル人、ロシヤ人等の捕虜を化学、細菌戦の実験材料として死に至らしめた残虐非道な行為を森村誠一氏がノンフィクション小説として公表、右翼反動勢力のはげしい妨害を受けながらもベストセラーになりました。

 この作品を、長編の詩に編み直し、作曲家池辺晋一郎氏の手で合唱組曲になり、全国各地で歌い継がれて来ました。全国縦断公演20回、海外公演4回(中国2回、ポーランドとチェコ、韓国)と積み重ねられ正に「歌声は平和の力」の役割を果たしています。

 演奏(2回公演)の合間に、西大門刑務所歴史館(植民地支配下のアウシュビッツ収容所に匹敵する程の残虐なごうもん拷問や裁判の様子を再現)、タプゴル公園(3.1独立運動の様子を、レリーフで展示)、安重根記念館を訪ね、西大門刑務所前の記念公園では献花・献歌をもって追悼のつどいを行いました。

 短い期間でしたが、日本の教育やマスコミ等では殆ど取り上げられていない歴史的事実と向き合い、近くて遠い韓国・朝鮮と日本との関係について、深く考えさせられました。

 韓国への旅は三度目になりますが、特に印象深いのが安重根記念館です。ちょうど100年前の10月26日、旧満州視察中の伊藤博文を、朝鮮の主権を犯すとしてハルピン駅で射殺、彼自身も暗殺の翌年3月29日、旅順郊外の処刑場で殺害されました。32才の若さで植民地主義に反対して命を散らした安重根の生き様は、国を越えて、国を愛するとは、真の平和とは、と私達に訴えかけるものがありました。安重根はハングルを創り広げた大王世宗と共に、朝鮮の偉大な英雄として、敬愛され続けていることも、旅の中で確かなものになりました。

 来年は日韓併合から100年、今韓国では安重根のドラマが制作中との事ですが、数年前からの韓琉シネマ・ドラマブームと相まって、今まで語られなかった日露戦争後の日韓関係(日韓併合前後の植民地支配に抗する朝鮮の人々の闘いなど)が、ドラマの中で明らかにされ、真実を知らされなかった日本人の中で大きな波紋を起こすに違いないと確信しています。

 しかし、その一方で、我が日本では司馬遼太郎の人気小説「坂の上の雲」がNHKでドラマとして放映されることになり、問題になっています。多くの歴史学者や文化人、平和運動に携わる団体等が、今何故「坂の上の雲」なのかと、疑問や危惧の声をあげています。憲法改悪の動きが顕著になった2001年に、映像権を獲得して着々と準備を重ね、この11月19日から実に3年がかりでスペシャルドラマとして放映。「国民ひとりひとりが少年のような希望をもって国の近代化に取り組み、存亡をかけて日露戦争を戦った「少年の国・明治の物語」「現代の日本人に優希と示唆をあたえるドラマ」だと企画意図を発表しています。

 明治の延長線上に昭和があり、第二次世界大戦で敗れ、その反省の上に新しい憲法が作られ、戦争しないと決めた日本があることを否定するかの様なNHKのやり方に、怒りすら覚えます。 新政権になっても依然として改憲の動きが活発な今、巨大な情報の垂れ流しの中から、何が重要か、真理・真実をとらえる力、おかしいと感じる事には「何故?」と問い続ける勇気と根気を持ち続け、憲法を守り生かす草の根の取り組みを広げて行きたいと心から望むものです。

 視野をひろげ、正しい歴史認識を身につけ、国際平和に貢献できる人の輪を広げて行きましょう。



「朝のリレー」(谷川俊太郎)を授業して

     小林 美幸(京都市立近衛中学校)



 国語の教師になって二十数年、今でも授業に悩んでいる毎日です。私はサークルに所属し、学んでいますが、今年の八月、鹿児島で行われたそのサークルの全国大会で「朝のリレー」の実践発表をしましたので、その実践を紹介したいと思います。


一、なぜ「朝のリレー」か

 この作品は京都市が採用している光村の教科書には載っていない作品です。その作品を授業しようと考えたのは、「今自分たちが生きていることはただ単に自分が生きているのではない。過去・現在・未来と数知れない多くの人々がつながって、今の自分がある。また、この地球には多くの人々が住んでいて、地球上のあらゆる人々が毎日精一杯生きているんだ。」、だから自分たちも次の朝を迎え精一杯生きることができるんだということを、この詩で実感させたいと考えたからです。


二、この詩で育てたい力

 この詩は、〈〜が〜するとき/〜は〜る〉が繰り返され、眠っているときにもこの地球上ではどこかで朝を迎えているところがあること、それは過去、現在、未来と続き続いていく時間的つながりと、空間的な広がりを《類比》(同一性、相似性をとらえること)しています。 また、《関連》(互いに因果関係のないものごとをイメージと意味の上で結びつけること)という認識の方法を使うと、「地球は自転し、朝がはじまる瞬間が地球のどこかで常に存在する。日々私たちが朝、昼、夜と繰り返していくことを〈ぼくらは朝をリレーする〉とたとえている。〈リレー〉は、一人ではできない。何人もの人がバトンをつなぐのである。後連から前連を逆照射してみると、前連の日常的なありふれた現実の羅列につながりがあること」が見えてきます。

 《類比》と《関連》という認識の方法を使って、「人間の営みは一人一人毎日営々と続けられてきた。ばらばらに見えてはいるが、地球の上ではすべてつながっていて、どんな人も地球をまもりつづけていくひとりであり、大切な存在なのである。」という認識の内容に迫りたいと考えました。


三、授業の実際

1、題名読み

 まず題名〜イメージしたことを挙げさせた。すると、顔洗い、朝のジョ ギング、リレーの練習、朝から運動会などが出てきました。 2、初めての感想 題名から受けたイメージと全然違ってびっくりしたという感想が多 くありました。

2、例

 この詩を読んで見て、思っていた内容と全然違ったなと思いました。でも、読んで いるうちに確かにリレーだと思いました。日本と他の国では朝と夜が正反対の国がある んだ少し不思議な気持ちになった。私は朝のリレーと聞いて私は日本のことだけだと 思っていたけどこんな短い題名だけで世界につながることなんだなと思いました。

3、主発問

・ 時間や空間をイメージさせる言葉を見つけさせ、そこから思い浮かべることを発表さ せていきました。何となくではなく、どの言葉からそう思うのかを言うようにさせてい ます。  例1〈きりん〉というので、カムチャツカは寒いところだから、暖かいところにあこ  がれているのかなと思った。  例2 〈ニューヨークの少女がほほえみながら寝返りをうつとき〉っていっているとこ で、〈ほほえみながら〉で、たぶんいい夢を見ているんだと思います。 ・前連と後連を関連づけることによって、自分の存在の意味を考えさせようとして、呼称〈ぼくら〉〈あなた〉を〈誰か〉とにしたらどうだろうかと考えさせました。 例1 だれかの」やったら、具体的じゃないから読者にしっかりと深く感じられない。 例2 「誰か」やったら誰かちょっとわからへんけど、〈あなた〉やったら自分が送っ てんにゃという感じがわかる。

4、終わりの感想

・誰かがいるからこそ僕たちはうれしいのだと思います。うれしい朝、楽しい朝、悲し い朝などをすごせるのではないかと、僕はこの朝とのリレーを読んで思いました。だから 作者は、自分一人ではなく、みんながいるからこそ朝のリレーができるのではないかと いうことを言いたいのだと思いました。 ・私はこの詩を授業で勉強するまでただたんにねむたいとか適当にすごしていたけど、 バトンとして次の国に朝をまわして行かないとあかんのやから、しっかり良いバトンを 渡していけるように気持ちよく過ごしていこうと思いました。


四、まだまだ…反省ばかり

 後連から前連を逆照射すると、前連の事実の羅列が単なる羅列ではなく、地球上ではすべてのものがつながりをもっていて 生きているという意味がはっきりしてくることに気づかせたかったのに、言葉が出てきただけに終わってしまいました。 これはひとえに、自分の教材分析の弱さから来るものだと痛感しています。それでも、サークルの仲間とこれまで学んだことが今の自分の支えとなっています。本当に満足する授業はできませんが、生徒たちと一緒に成長できる教師を目指して、これからもぼちぼちと学び続けていこうと思っています。


谷川俊太郎「朝のリレー」

カムチャッカの若者が きりんの夢を見ているとき

メキシコの娘は 朝もやの中でバスを待っている

ニューヨークの少女が ほほえみながら寝がえりをうつとき

ローマの少年は 柱頭を染める朝陽にウインクする

この地球では いつもどこかで朝がはじまっている

ぼくらは朝をリレーするのだ

経度から経度へと そうしていわば交替で地球を守る

眠る前のひととき耳をすますと

どこか遠くで目覚まし時計のベルが鳴ってる

それはあなたの送った朝を

誰かがしっかりと受けとめた証拠なのだ







「生活指導研・公開研究会」
「小学校の子どもの“荒れ”と立ち向かう」二つの実践から学ぶ

11/29 公開研「生活指導研究会」報告



府下のNさんからは、崩壊寸前の5年生を担任して、子どもから「死ね!」と言われながらも、目標を与え褒めることから学級集団を前向きに展開する実践が、また府下のYさんからは、無規律でやりたい放題の学校に赴任して生活指導を担当し、学校長先頭に全教職員がめげずに楽しいとりくみをすすめてたて直していく実践が報告されました。

 20名の参加者(S市のケースワーカーや、教師をめざす女子高校生など)は、すさまじい実態に驚きながらも、見通しを持った実践に、感嘆と共感の感想を持ちました。

新刊紹介
教育センター室でも扱っています

『思春期のゆらぎと不登校支援 U子ども・親・教師のつながり方』

 春日井敏之 著    ミネルヴァ書房  二八〇〇円+税

 U認め合う居場所とつながりの実感を  思春期・青年期の自己形成と支援のあり方、臨床教育の視点から双方にとっての支援の意味を問う。

『水源の里 綾部で文化を紡ぐ U中学生からの 地・生・輝 づくり』

吉田武彦 著     ウィンかもがわ 一五〇〇円+税

 地域の人々が支える学校、地域のにない手が育つ学校づくり。過疎の農山村地域で取り組んだ、未来に生きる豊かな学び。

『京都山科 音羽・大塚・音羽川 二千年の歩み』

       鏡山次郎 著     つむぎ出版 二五〇〇円(税込)

 ふるさと山科の二千年/中世の山科七郷と自治の伝統/音羽地域の二千年/幕末の山科史/四ノ宮地域の二千年/山科における戦争の爪痕を訪ねて/四ノ宮におけるまちづくり住民運動 他


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