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●京都教育センター通信 
復刊第37号
 (2009.10.10発行)

そして電車は飛んでいった!

              京都教育センター 倉原 悠一



 二〇〇五年四月二五日、世界のさまざまな事故の中でも信じられないような列車事故が我が国で起きた。スピードの出し過ぎで電車がカーブを曲がりきれずに飛ぶように脱線して線路脇のマンションに激突した。犠牲者は一〇〇名を超え、現在も苦しみ続けている人々が大勢おられる。このカーブ区間の安全速度は六〇〜七〇キロメートル/時であったのが、事故列車に残されていた速度計は一〇七キロメートル/時を示していたそうである。

 その後の事故原因調査の中で、列車乗務員の日々の勤務管理が過酷で、安全を優先する余裕はほとんど無いと要っても過言ではない実態が明らかになった。列車ダイアの目標が守られない場合、乗務員に対して、再教育などの実務に関連したものではなく懲罰的な「日勤教育」というものを科していた。この実態について、事故が起こる半年前に、国会において国会議員より「重大事故を起こしかねない」として追及されている。また、日勤教育は「事故の大きな原因の一つである」と、多くのメディアで取り上げられることになった。 この事実を巡って毎日新聞特別論説委員である岸井成格氏の発言を思いだす。

 「原因の一つとして労働組合の弱体化があげられる。労働組合とは労働者の権利や生活を守っていくだけではなく、社会的弱者の権利を守るセーフティーネットの社会的システムである。経済活動の停滞や後退を余儀なくされる中で、労働組合の役割を軽視したり、時には否定的にとらえたりする風潮が強くなった。特にJRでは民営化される過程で、旧国労や動労の組合員を差別的に扱ってきた。その結果が、社会のセーフティーネットが崩された今の日本の現実では無かろうか。この事故は、その大きな象徴のように思われる。」

 岸井氏は、昨年から今年に掛けて起こったいわゆる「派遣切り」を予想していた観がある。構造改革路線の結果もたらされた「ルールの崩壊した資本主義」とまで言われる今の日本の社会構造はきわめて深刻である。その社会に教え子はやがて入っていくのである。

 しかし、今の学校の現実はJRのそれとほとんど変わらないのではないか。安全を何より優先する余裕が学校という職場にあるだろうか。職場の仲間として抱える困難を分かち合ったり、年配の教員が若い教員の成長を見守りながらサポートしたり、迷いやとまどいなどの悩みをゆっくり時間を掛けて教育論議を重ねて解決の方向を探っていく余裕が現在の学校という職場にあるだろうか。おそらく殆どの職場が「NO!」なのではないか。

 すべての教師たちは「いい先生になりたい!」と思って仕事に就いている。クラスの全ての子どもたちが学習を深め、友人達と豊かな交流を深め成長していく過程は、教師の本質的は喜びであり、だからこそ夜遅くまで仕事に頑張れるのである。その前提は管理職を含めて職場の仲間に支えられている実感から来る学校への信頼なのではないだろうか。

 一方、学校を巡る状況は益々厳しさを増している。次々と発生する課題にタイミングを逃さないように対応したり、保護者と連絡を密にしたり、場合によってはトラブルに翻弄されたり、無力感に押しつぶされそうになって教職を去ることを考えたりすることもある。だからこそ学校にもセーフティーネットが必要なのだ。

 教職員組合に入る、入らないは各自の自由である。これ以上忙しくなるのは何としてでも避けたいというのが現実かもしれない。でも、このまま推移したとき学校という場のセーフティーネットその物が崩壊してしまう危険すら伺える。全ての人が誇りを持って仕事を全うする条件を英知を尽くして探っていくこと共に考えていきたいと願っている。



六年生のマット運動--側転を含む連続技から音楽マットへ

     土肥 照典(京都市立西京極小学校)



六年三組の子どもたち

 私の担任する六年三組の子どもたちは次のような特徴を示している。

 授業では真面目に取り組むことができ、課題に対してしっかりと向き合い考えることができる。学習・行事など自分たちが中心となり進めていきたいという思いを強くもっており、課題にかける時間配分など、授業について子どもと相談する機会が増えてきた。

 しかし、発表することができない消極的な子どもも多く、男女を意識したり、グループで協力する場面では逃避的な行動を取る児童もみられる。


教材を通してこんな力を育てたい

 今回の授業では、「側方倒立回転(以下「側転」とする)」を全員の共通の課題とし、それに自分のできる技を組み合わせて連続技をつくり、グループで音楽に合わせての創作マットに発展させようと考えた。

 側転は中学年でも習得可能な運動であり比較的できるようになりやすいこと、逆さまになりながら腕で支え回転するという非日常的な動きに面白さがあること、ロンダートなどへの発展もしやすいこと、連続技へ組み込むことで演技に高さがでて出来栄えがかっこよくなることから高学年の学習であっても取り上げるべき価値があり、得意な子も苦手な子もともに学習していけると考えたからである。


アンケート結果

 授業に入る前に、アンケートを実施した。自分ができる技と、マット運動に対して思うことを自由に記述させた。

 その結果、楽しみ・おもしろい・できなかった技ができる達成感がある・やりたいなどの前向きな思いをもっている児童は十六名であった。 一方、こわい・きらい・できない・むずかしい・あまり好きではないなどの記述がみられた児童は十四名であった。

 運動が苦手で体育嫌いなFさん・問題をかかえたTさんを何とかしたい。できてうれしかった・仲間とのかかわりが楽しかったと感じさせたいと考えた。


授業のポイントと児童の変容の様子

側転への道《一時間目》

 オリエンテーションでは、グループ分け、リーダー・副リーダー決定、ねこちゃん体操を準備運動として行うことやマットの並べ方など約束事の確認をした。グループは、男女混合・能力別・マットに向かう思いなどを参考にした。教師があらかじめ決めておいたものを発表した。

《二時間目》

 グループで協力して手形と足型を使い、側転の手と足の順番と向きがどうなっているのかを調べた。各グループに一人、側転ができるメンバーがおり、その演技の手と足の跡を観察した。

  手と足の向きや着地する順番が自分が思っていたものと違った。今までぼんやりとしか意識していなかった動きがはっきりしたとワークシートに記述した児童が見られた。

 さらに自分の今の時点での側転についても調査した。手と足が直線になるようにしていくことがきれいな側転につながっていくことを理解することができた。これまで側転にチャレンジしたことのなかった児童には,友達の手と足の跡をなぞることで動きの感覚をつかませた。

 大きく踏み込み、腕で支持をする感覚をつかむためにゴムを使った練習をした。ゴムひもをマットを横切るよう友達にもってもらい、それを越えて手をついて側転をする。最初は膝くらいの高さから始めた。さらに足・腰をのばすために、腰・お腹・胸とだんだん高くしていく。低いところから始めたので多くの児童が怖がらずに挑戦した。

K「足の向きがわかりました。」
F「うまくできたところは特にない。しいていえば準備と準備運動。」
  「うまくできたところは何もありません。できなかったことは全部。」
TB「うまくできたところはありませんでした。  足を上げるのができませんでした。」

《三時間目》

 腕で支持する感覚をつかむためにマットの中央辺りに手をついて腰を上げてマットを飛び越える「川とび」を取り入れた。

 前時に引き続きゴムの練習をした。肩くらいの高さを越えられるようになったら、側転をして足でゴムをひっかける、肩・頭・最後は万歳をした手に合わせた高さでできることを目指した。この練習をすることで腰と足の伸ばしに意識が集中し、足・腰の伸びた側転ができるようになった児童がみられた。

N「こしが上がってきた。楽しかったです。最高で肩までいきました。」
TS「ゴムでやったとき,ひざの所ぐらいのゴムをとべてよかったです。」
M「足をたかくあげるとまっすぐになった。(自分の体か,手と足の跡かは?)」
F「ゴム楽しい。でもやっぱきらい。」

《四時間目》

 休憩時間等に、自分のできる技と側転を組み合わせた連続技の流れを考えさせ、ワークシートに記述させておいた。連続技の練習をした。

 グループでの練習に積極的に練習できなかった児童が女子で六人見られた。側転の居残り練習をしようと声をかけ、授業の後に集めて練習をした。その中のHは、両足をそろえて着地して倒れこんでしまっていた。「最初に着地した足で少しがまんしよう」とアドバイスをすると片足ずつ立って着地ができるようになった。Hは四回ほど繰り返していくと腰も高くなりみるみる上達した。Hの上達を見て、苦手意識をもっていた二人の女子児童TSとTBも積極的に練習し、足は伸びきらないものの腕で支持する時間の長い側転になってきた。Fは、最後に練習をした。顎を引いて腕支持の姿勢になるためにくずれてしまう。ねこちゃん体操の「ハッ」の形で目線を手の指の少し前にすることをアドバイスした。Tは練習できなかった。

H「そくてんが少しできた。」 TS「そく転ができるようになりました。」
TB「そく転ができました。ゴムの高さを上げるとできにくくなってしまいます。」
F「全部難しい。」
T「わかったことは…足をあげる??」

《五時間目》

 H・TS・TBの三人は前時をきっかけにグループでの練習に積極的になった。とくにTBは自分で一枚マットを設置して、何度も側転の練習を繰り返していた。TB・TSはそれぞれグループのリーダーと副リーダーであったが、この時間から率先して練習し、話し合いのリーダーシップをとっていった。

 連続技は三つの技をつなげるようにした。側転での着地がうまくいかないために次の動作が遅くなることや技の組み合わせに問題があることから難しいと感じている児童がみられた。

H「そくてんができた。」
TS「そく転がうまくなった。」
TB「そく転が上手くできました。」
F「全部難しい。」
T「わかったことは…足をあげる??」

[「音楽マット」の展開は略]

実践を通して

 授業の前半では、腰・足の伸びたきれいな側転ができた子どもは四人、腰は伸びているが足が曲がっているなどの側転は五人であったが,授業後は,きれいな側転が十二人に、まだ修正点のある側転は十五人になった。

 授業を始める前まではマット運動に対して苦手意識をもっていた子どもの記述に、側転ができた・おもしろかったと書かれていて、マットの面白さを味わい、自分が上手くなることを体験させることができた。Aは、家で練習をしてきたことで上達したり、TBは授業中、自分用にマットを用意し繰り返し練習する姿がみられた。また、技のつなぎ方や自分の感覚での出来ばえを思考しながら連続技に取り組むことができている子どもが増えた。グループ活動と全員が側転という課題を共有することが良かったと考えている。

 反省点は、児童がどうしたらきれいに見せることができるのかを考えさせていなかった点である。側転の早い段階から演技を見せ合い、良かった点について話し合いながら進めていけば良かったと考えている。何ができていたら側転がきれいにできているのかがぼんやりとしたままになってしまった。

 マット運動は、指導の方法で子どもの動きも表情も変えられる、すばらしい運動文化であることを改めて感じている。

 創作活動に取り組む子どもたちは生き生きしていたし、楽しい授業であった。  この経験を出発点として、次の実践に向かっていきたい。







戦後、占領下の京都・沖縄の教育の検証!

「9・13公開研究会」に50人の参加



 「戦後、1950年代における教育運動・教組運動を検証する」テーマで開催された研究会には、主催した教育センター、戦後歴史学ワーキンググループの他に退職教職員、人権連、教職員、学生など50人が参加し、熱っぽい議論が展開されました。

 野中代表、田中聡歴史WG代表の挨拶の後、生駒佳也氏(徳島高校教員)が「京都の状況」を櫻澤誠氏(日本学術振興会)が「沖縄の状況」を報告され、当時の地域での教育運動、教職員の果たした役割などについて事実を調査されたレポートとして提起されました。

 その後の議論の中では、戦後の不当なレッドパージ体験者の関谷健氏(元府立高校教員)や勤評闘争に中学生の「子供会」リーダーとして参加された駒井順治さん(人権連田中支部)が当時の様子をリアルに発言されました。また、返還前の沖縄と現状はいろんな面で様変わりしているが、屈辱から平和を求めるスタンスは「保守も革新もない」ことは継承されていることが強調されました。

 藤原ひろ子さん(元衆議院議員)は「私を変えたのは勤評闘争。19歳で教壇に立ち、疎開地の丹後で終戦を迎え、戦後、教職員組合やサークルが私を成長させくれた。当時から理論と実践を導いた教育センターの役割は今も大きい」と叱咤激励されました。

 センターとしてはこの日の議論を深め、今の新自由主義教育政策を突破していく展望を探る機会を第40回センター研究集会(1月23〜24日)などで広げる方針


◆青年教職員の感想

 「知らない歴史があったことを知り、今に至る経緯をもっと知りたいと思った。まだ当時の生き証人もおられるので、生の声を聞く機会を今後ももっと持って頂きたいです。そして、こうした教訓を今と今後にどうつないでいくのかの課題についても自分なりにしっかり考えていきたい。今の現場で50代の先生方が退職された後、どうなるのか不安です」



「ヒトは『まね』の上手なチンパンジー」

「9・26 発達問題研究会公開研で好廣眞一氏熱弁



 9月26日の午後開催された「発達問題研」主催の公開研究会には、運動会や他の研究会との重なりの厳しい日程の中、約20人が参加しました。

 講師の好廣氏(龍谷大学人類学教授)は自ら率いる「城陽生き物調査隊」での取り組みをふまえて、「発達・進化からみた野外活動の意義」と題してビデオも交えて2時間余の熱弁を披瀝されました。

 自然の中で、自然に生きるヒトの特性を進化史から見た現代生活の異常さ、異年齢集団の中、地域社会で育つ発達の価値を野外活動の実践を通して説得。宇治の父母や宮津の先生など遠方からの参加者もあり、一同うなずきながら氏の話に共感し続けました。

 詳しい報告内容など、知りたい方はセンターまで。

◆ 保育士(宇治)の感想

 「先生の熱いお話ぶりに引き込まれて聞き続けました。私は、保育士として“自然は子どもの教科書”という視点を学び実践もしてきましたが、人間の進化の視点で見ることを新鮮に学びました。今、子どもを野外に連れ出すことが大変なことで頭を悩ませていますが、是非幼児教育の対象者とも学ぶ機会を開いていきたいと思いました。」



☆秋のセンター公開研究会のご案内☆  どなたでも参加費不要


【1】● ○ 「地域で育つ子どもたち」(地域研) 
      10月12日(月祝)13:30 教文202 
      報告 西尾直子

【2】● ○ 「人類の進化と子どもの発達」(発達研) 
      10月24日(土)14:00 センター室 
      報告 関谷健

【3】● ○ 「子どもの願いに応える生活指導実践」(生指研) 
      11月29日(日)13:00 教文202



[定期刊行物]

・季刊誌「ひろば」158号〜161号の4回発行   

・「センター通信」毎月発行 ※ 京教組の取り組みに共同します

・ 民主教育推進委員会への参加:5/9 9/12 11/1

 ・京都教研への共同:11/14〜15



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