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●京都教育センター通信 
復刊第35号
 (2009.7.10発行)

「キャリア教育」への疑問

              築山 崇(京都教育センター研究委員長)



納得のいく進路を求めて

 ゼミの卒業生の「その後」は、現代を生きる青年が納得のいく生きかたを求める探索の歩みであり、生徒指導・進路指導を研究テーマのひとつとする私にとって、貴重なテキストでもある。この間、何名かが転職を果たしている。高齢者施設から社会福祉協議会へ、銀行から自治体行政へ、飲食店から高齢者介護の世界へ。この三つの事例は、とにかく就職≠フ世界から、大学で学んだこと、専門性を活かしたい、あるいは人とかかわり人を助ける仕事につきたいというそれぞれの願いを実現したケースである。

 私のゼミは、社会教育・生涯学習分野の専攻であり、この間、身近な地域における住民の地域福祉やまちづくり活動の実際に触れる活動を軸にしている。毎年夏の恒例行事となった長野県松本市訪問(調査・研修)では、地区や町内会の公民館を拠点に、安心して住み続けられる地域づくりに元気に取りくむ多くの住民と出会う。その人たちの暖かくも強い思いは、自分に自信がもてず、将来に漠然とした不安をいだいている青年たちに、人間に対する信頼感を育ててくれている。

 転職によって納得がいく仕事に就くためには、自分に対する信頼と粘り強さが必要であるが、身近な地域で地道な努力を続ける住民の姿が彼らを力づけてくれている。不確かな社会の中に息づく信頼できる存在に出会っていくことが、本当の意味で人間を育てるのだと思う。


キャリア教育への違和感

 昨今、生徒指導・進路指導にかかわって、キャリア発達、キャリア教育という視点・考え方が強調されている。文科省の調査協力者会議の報告書(二〇〇四年一月)によれば、「キャリア」とは、「個々人が生涯にわたって遂行する様々な立場や役割の連鎖及びその過程における自己と働くことの関係付けや価値付けの累積」とされ、その「キャリア」が、「子どもたちの発達段階やその発達課題の達成と深くかかわりながら段階を追って発達していくこと」が「キャリア発達」とされる。

 「立場や役割の連鎖」「自己と働くことの関係付けや価値付けの累積」という定義には、違和感がつきまとう。そして、「生徒一人ひとりのキャリア発達を支援し、それぞれにふさわしいキャリアを形成していくために必要な意欲態度や能力を育てる教育」としてのキャリア教育という定義も、私にはどうもしっくりこない。なぜだろうか。

 私にイメージでは、子どもたちの発達は、その内的世界の構造の質的変化である。キャリアという言葉は、日常語としては、経験の蓄積、その結果形成された能力のイメージが強いからかもしれない。教育用語としてのキャリア意味は、そうではないのであるが、やはり、キャリアが発達するのではなく、子どもたち自身がそのキャリアを変容させる過程で発達していくのであって、あくまでも発達の主体は子ども自身ではないのか。「連鎖」「累積」という概念は、子ども自身を語っていないように思えてしょうがない。


適応ではなく、変革・創造の営みに学ぶ

 すでにキャリア教育は、職業体験やインターンシップ、ボランティア活動、社会人・職業人講話などの様々な体験活動の奨励・実施として具体化され広がりつつある。「生徒の適性と進路や職業・職種との適合」ではなく、「時代の変化に力強くかつ柔軟に」適応していけるようにする指導が重要であると先の報告書はいうが、はじめに紹介した学生たちの進路開拓の力を育てたのは、適応というテキストではなく、社会の変革・創造に向う生活者の姿ではないだろうか。働くことと学ぶことを結びつけていくことに異議はないだけに、キャリア教育の行方が気になる。





今日の算数はおもしろかった

    京田辺市立田辺東小学校  和気 政司



「今日の算数はおもしろかった」と言わせたい

 算数の授業では、教具をいろいろ工夫したりわかりやすいプリントなどを準備していますが、なかなか「おもしろかった」とは言ってもらえません。体育や理科の実験などとちがって、活動したから楽しいというわけにはいきません。新学習指導要領で強調されている「算数的活動」は大切ですが、活動させることが目的になっていたのでは、楽しくないと思います。子どもたちが一番楽しいと思う授業は、討論の中で事実を見つけていくことだと思います。


小数×整数の2時間目の授業



 子どもたちの意見は@とB半分ずつに分かれました。

@の意見の子どもたちは、位をそろえなければいけないと主張します。

Bの子どもたちは塾や公文などで、すでに筆算を習っているのですが、なぜBのように筆算を書くのか考えたことはありません。

 最初は位をそろえる@の意見が優勢でした。今まで、小数のたし算・ひき算で位をそろえることを指導されてきたのですから。しかし、しばらくするとBを主張する子の中から、3.12は3.12gだけれど、3は3gではないという意見が出てきました。

 実は、この前の時間に1.6×3の計算を1mが1.6gのアルミ線を3本用意して、実際に4.8gになることを上皿てんびんで測定しています。この活動を通して、数字が表す量を意識したのだと思います。  ここで、形勢はBの意見に傾きました。



 次に@の意見の子が「Bが正しいのなら、Aでもよいのではないか」と言い出しました。Bでなければいけないと思っていた子どもたちは困ってしまいました。

 ここでいったん多数決をとりました。Aが正しいと主張する子はいませんでした。そして、@AB全ての方法で計算して見ました。どれでも、9.36という答えを出すことができます。  次に、1.25×4という計算をさせました。




 さらに、1.25×200という計算をさせました。  @を主張していた子が「Bの方がやりやすい」と言いました。そこで、私は「どのやり方でもまちがいではありません。Bは今までの筆算と同じ方法で計算できるから、計算しやすいだけなのです」と、教えました。「算数の答えは一つとは限りません」また、「絶対にこうしなければならない決まりがあるわけではありません」ということも教えました。


算数の指導をゆっくり・ていねいに

 今、私の学年は少人数学級で編成されています。このような討論が成立するのも、子どもたちの人間関係や教師との関係も大きいと思います。今盛んに言われている「国語力」というのは、子どもたちが考え、意見を出し合う授業のことではないかと思います。少人数授業では、考えを出し合うことより、1時間で隣のクラスと同じ所まで進むと言うことが第一の課題にどうしてもならざるを得ません。少人数学級の良さをもっと生かした授業の工夫を続けたいと思っています。

 いつも算数の授業は学年の先生と一緒にできるように教材を用意しています。教科書も意識しながら、あまり特別な方法ではなく、親にも先生にも納得してもらえるようなプランを考えるようにしています。しかし、新学習指導要領では、指導時間の充分な保障もしないで、内容は前々回にほぼ戻してしまいました。私たちは、前回の3割削減を批判してきましたが、今回の方がもっと危険な気がします。ゆっくり、ていねいな算数の授業ができなくなることが予想されます。父母にも理解してもらえる算数科の自主編成を早急に考えないといけないと思っています。







【報告門川大作氏・寺脇研氏・陰山英男氏: 教育を語る資格なし  堀場雅夫氏の「暴言」に一言も反論せず?! 

京都教育懇話会1周年記念シンポジウム



 6月10日(水)の夕刻から京都教育懇話会(会長:堀場厚堀場製作所社長)が主催するシンポが立命館朱雀キャンパスで開催され、教育センター事務局から倉本頼一氏と大平が申し込みの上、参加しました。当日は雨天にもかかわらず、学生・学校長・産業界・PTAなど「動員」された方々、約400名の参加がありました。「京都教育懇話会」は「人づくり」をキーワードに行政・教育機関・地域・企業・メディアなどが垣根を超えて教育議論する組織で、この1年間、岡田武史(サッカー日本代表監督)、張富士夫(トヨタ自動車会長)等を講師に迎えて、全国の先進を自負する京都市の教育を「自慢」することを柱にしています。この「会」の事務局は立命館大学内にあり、毎回のパネラーである門川市長と陰山立命館小学校副校長が推進役を担っています。

 この日も記念講演に立った堀場雅夫氏(堀場製作所会長)はモノづくりの経験から「未来は予測するのではなく自分でつくりだすもの」との持論を展開する中で驚くべき「暴言」を連発しました。「地球温暖化なんてうるさく言うより地盤沈下の方が深刻」「企業に儲けをはき出させたお金で、汗流さずに生活保護とは何事か」「不登校は子どもの甘えだ」などに会場の多くの人々は「頷く」。自由に発言できるパネラーの門川、寺脇、陰山の3氏は一切反論せず。「ゆとり派」の寺脇研氏(元文科省審議官、現京都造形大)と「詰め込み派」の陰山英男氏の対決論争を「期待」して参加したが、二人とも語らず、陰山氏が「かつて持ち上げられた人は今バッシングをうけているが、私もやがて同じ憂き目にあう」と茶化すだけであった。京都市の教育の行く末を見極める機会として参加したが、そのお粗末さに「激怒と楽観」を覚えるのみであった。


失望と暴論に終始した講演・パネル

                                 倉本 頼一

  「日本の未来と人づくり――チャレンジ精神が活路を拓く〜子どもが一番輝くとき〜」と題した堀場雅夫氏の講演は、氏の昔話で失望した。現代の京都の教育についての具体的な話もヴィジョンもなかった。「不登校、引きこもりは子ども、若者の甘えだ」と自分の育った時代で論じるのは、その典型で今日の教育課題に反する暴論。パネルも門川市長、寺脇研氏、陰山英男氏が揃いながら堀場氏に反論しないでいた。市長が「百マス計算は学力向上にならないとの主張のある寺脇氏」と「挑発」したが、陰山氏も寺脇氏との討論を意識的に避けた。堀場氏の「温暖化の原因はCO2排出が原因でない」と何度も繰り返す言葉で「会」が終了したのには呆れた。フロアー発言を予告しておきながら、予定した3人(模範学生、社長、小学校長)にのみさせる運営はこの「会」が「子どもが輝く」教育とは無縁であると確信しました。



これからの教育センター公開研究会  《ご案内》  どなたでも参加できます(無料)


T.高校問題研究会  7月18日(土)13:30〜 教文地下公益室

▼ 
特色選抜入試は本当に必要か
  【1】〜和歌山の運動から学ぶ〜和歌山県教組武内正次委員長

▼【2】京都の「特色選抜」を検証する


U. 民主カウンセリング研究会   7月19日(日)10:00〜16:00
    教文204号
 
あたたかい人間関係をつくるために
    グループ・エンカウンター方式にて





V. 事務局企画公開研究会  9月13日(日)13:00〜
    教文301号 

「戦後、京都における教育をめぐる状況−教職員組合運動の位置づけについて」 生駒佳也氏・櫻澤誠氏(歴史ワーキンググループ)




[定期刊行物]

・季刊誌「ひろば」158号〜161号の4回発行   

・「センター通信」毎月発行 ※ 京教組の取り組みに共同します

・ 民主教育推進委員会への参加:5/9 9/12 11/1

 ・京都教研への共同:11/14〜15



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