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●京都教育センター通信 
復刊第30号
 (2009.2.10発行)

 憲法守って出会い広がる

    中央憲法会議事務局長(元全教・京教組役員) 長谷川 英俊


 先日、京都で定期検診を受けた折に旧教育会館を訪ねました。2階の整然としたセンター室でお茶をいただきながら、この場所で働いていたころを懐かしく思い出しました。 私がここで過ごしたのは、2階の市教組の書記局に74年から2年、いったん現場に戻った後、1階の京教組に80年から11年の計13年です。南座での前進座新春公演の前に、いつもあいさつに来られた俳優の河原崎国太郎(先代)さんらと役員一同で記念写真をとったこと、解同に襲撃され逆封鎖されたこと・・・。お茶をいただきながら振り返ると、一つひとつの思い出が、つい昨日のように浮かんできました。

 私が京都を離れたのは91年の全日本教職員組合結成と同時です。東京での単身赴任生活は18年が過ぎました。07年、全教を退任・退職し、京都に向かったのですが、「箱根の関」で引き戻され、今少し、中央憲法会議で川村俊夫さんを助けながら仕事をせよ、ということになってしまいました。

 憲法会議は1965年、末川博・立命館総長、住谷悦治・同志社大学長、大西良慶・清水寺管主ら33氏の呼びかけで、憲法改悪反対の国民的運動の推進母体として結成された個人と団体加盟の全国組織です。普段は「九条の会」運動や5.3集会実行委員会、明治大学での夏の憲法講座、対国会闘争、学習会への講師活動などに取り組んでいます。

 事務所は神田神保町にあります。近くには古本屋街、岩波ホール、日教組、専修大学があり、私にはお気に入りの街です。晴れた日は万歩計をつけ、皇居の平川門から、NHK大河ドラマの篤姫で改めて注目された大奥、本丸跡を通って北の丸公園、武道館、九段下、神保町に戻る45分の散歩が日課です。国会からの帰りも努めて歩いて帰っています。

 うれしいのは日々の出会いです。「月刊誌『憲法運動』を送ってほしい」との電話の主は、丹後・間人にお住まいの元校長先生でした。加東市の住職さんからは「日本国憲法のパンフを200冊欲しい」と電話が入りました。法事で配りたいとのこと。9条の話をしたところ、「9条ってなーに?」「どんなことが書いてあるの?」と何人かから問われたので、「今度はパンフを配るんだ」と言われるのです。

 今年の5.3集会のスピーチをお願いしたのは、ノーベル賞受賞者で京都産業大学教授の益川敏英さんです。ご自宅に電話を入れたところ、奥さんが出られ、「いま、スウェーデンでの授賞式から家に着いたところなんですよ!」と。どうやら、お帰りになって最初の電話だったようです。お疲れにもかかわらず、すぐ直筆で快諾のお返事のFAXをいただきました。その紙は、私の宝物となりました。

 いま私たちが直面している最大の課題は、憲法改悪反対の揺るぎない多数派をどのように形成するかです。その展望は新たに広がっています。先の戦争の悲惨な体験と、その反省から生まれた平和への希求、9条を守り続けたいとする国民の大きいエネルギーが、職場・地域・学園に広がる無数の「九条の会」の活動で耕され、世代を超えた平和へのエネルギーに深まりつつあります。また「年越し派遣村」に見られるように、憲法の掲げる平和的生存権、憲法原理の具体的な実現を求めるたたかいもまた広がっています。

 とはいえ改憲派はしたたかです。明文改憲のハードルが高いとみるや、解釈改憲で海外での武力行使、集団的自衛権行使の突破をはかろうとしています。護憲派と改憲派の綱引きは長く続きそうです。国内外の大きな変化の流れをしっかりとらえ、次々と生まれる事態に英知を集めて答えを出していく。まず、東京で力を尽くし、さらには延長戦を京都でたたかう。そんな覚悟で日々、仕事に向かっております。





見て、触れて、味わって─体験を大切に─

                   長岡市立長岡第二中学校  武田悦子



 本校で特別支援学級を担任して三年目。今年のクラスは三名の在籍で、こじんまりと穏やかなクラスであるが、発達のレベルにかかわらずどの生徒も生活経験が極端に少ない。外出を一人でしたことがない、買い物も一人ではできない、台所で料理を手伝ったことがない、年末の大掃除も見ていただけで何も手伝っていないという。家で子どもに仕事をさせるのは根気がいることで、忙しい時は親がやってしまう方が早い。なかなかゆっくり見守って仕事を覚えさせる余裕のない家庭が多いのが実情である。

 視覚支援が有効な生徒が多いので、どの教科でも具体物を見たり触ったり実験で確かめたりすることを重視しているが、特に生徒たちが楽しみながら取り組めるのが「総合」の時間や自立活動の授業である。科学や食に関心を持つことを目的に、身近な食べ物を原料から作ってみる体験学習を多く行っている。今までに、バター、カルメ焼き、ところてん、手打ちうどん、綿菓子、(食べ物ではないが)石鹸などを作ってみた。

 先日取り組んだ綿菓子は、まず技術の時間に、ビールなどのアルミ缶に小さな穴をたくさん開けて、ボルトを取り付けモーターをつないでミニ綿菓子機を作った。それにザラメを入れてアルコールランプで熱し、ザラメが溶け始めたらモーターで缶をまわすと穴から綿状になって出てくる。みんなでかわるがわる割り箸に巻きつけて試食した。本にあるとおり実験してみたのだが、実際に綿菓子がこんなふうにしてできるのかと驚き、楽しみながら体験することができた。今後は味噌、ソーセージ、アイスクリームなどを作ってみたい。

 もうひとつ重視していることは、「書く」活動である。私が担当する英語の授業では、「聞く・話す」活動も多いが、一方で文字と音との結びつきを体系的に身につけ、英単語の読み書きがきちんとできるように、アルファベットからローマ字、ローマ字から英単語と順を追ってじっくり学習するようにしている。まず読めて書ける力をつけ、基本的な表現を覚え、わからない言葉は辞書を使って自分で調べる力をつければ、文法の内容は中一の終わりごろまでしか進めなくても、十分高校でやっていける。特別支援学級では通常学級のようなカリキュラムの制約がない分、基礎の部分を手厚く教えることができる。来年度から始まる小学校高学年の「英語活動」でも、コミュニケーション活動やゲームだけでなく、ローマ字の読み書きを徹底するなどの「書く」活動を取り入れてはどうだろうか。  そして、毎日の連絡ノートで、必要な連絡事項のほかに体験活動で学んだことや生徒たちの活動の様子等を必ず書いて家庭に知らせるようにしている。保護者からも帰宅後の様子や休日の過ごし方などをできるだけ書いていただいて、家庭とのコミュニケーションも大切にしていきたいと思っている。






第39回京都教育センター研究集会全体講演(1月24日)から
「競争社会に向き合う自己肯定感」
       ─子どもに自分を愛する心を─ @
               高垣 忠一郎さん(立命館大学教授)



「新しい型研究者」

 今日は、高垣です。たくさん来て頂いてありがとうございます。私はこの 三月で定年退職いたしますので、一月 十六日に立命館大学で定年退職の記念の最終講義をさせていただきました。題は、「私の心理臨床実践とセラピーー文化」という題でお話をさせていただきました。そのときに私の簡単な経歴を話しさせていただいたのですが、さきほど隣に野中先生がお座りになって、ご挨拶をしていただいたわけですけれども、私は一九七三年、ちょうどオイルショックがあった年に長男が生まれまして、その時にちょうど京大教育学部の臨床心理士の博士課程を終えるときだったんです。

 その頃はたくさん集団で研究者として大学院生が養成されるということで、新しい研究者像、「新しい型研究者」というのを大学院生運動で、そういう言い方をしていました。 そして京大教育学部の臨床心理の方の助手になったんですけれども、当時、京大の臨床心理学の教授としておられたのは倉石誠一先生という方だんたんです。助教授が天理大学から来られたばかりの河合隼雄先生でした。その下で助手をしていたわけです。

「森永ヒ素ミルク事件」との関わり

 そして、その助手をやっている最中に、みなさんご存じだと思いますが「森永ヒ素ミルク事件」というのが一九五五年に起こっていまして、それの十四年目の訪問という形で、掘り起こしの追跡調査を大阪大学の丸山という公衆衛生の先生が行われまして、森永ヒ素ミルクの被害を受けた子どもたちの中に後遺症があるということを学会で報告なさいまして、それから各地で追跡調査をはじめたわけです。京大では田中昌人先生が追跡調査をやるということで、私、田中先生から「君もやってくれ」ということでお誘いを受けまして、その追跡調査に関わりました。

 森永ヒ素ミルク事件というのは、国と企業による今までにかつてないような事件でした。母親が子どもに与える愛の象徴であるミルクの中に毒が含まれていたわけですからね。前代未聞の公害だったわけです。その問題に関わりまして、その後、森永と、守る会と、厚生省の三者が協議しまして、恒久救済を行う機関をつくり ました。それで財団法人「ひかり協会」というのができまして、そこで対策委員会をつくりまして、被害者の救済にあたるということをやりました。今でもやっているわけですが。

大阪電気通信大学に就職

 そして三年間の助手を終わりまして、そのときに大阪電気通信大学におられました野中先生に まあ「拾っていただいた」という形でしょうね。行く先がなかったんで・・・(笑)。で、大阪電気通信大学に行きまして、十九年間、仕事をさていただきました。その時に、私も組合の委員長を三年間、次に交代してくれる人がいなくって、三年間、やらざるを得ないということになりまして、まあ、カウンセラーをやる方の中にはあんまりそういうようなことを経験された方はないでしょうね。  

 カウンセリングの時に学生と向き合った時には、「受容と共感」でやりますよね。ところが、それで団交をやったら、これは団交にならんわけですよ。「経営が厳しいんですよ」と言われた時には、「そうですか、厳しいんですか」なんてやっていたら、委員長の役割を果たせないわけです。だから、そういう時には、ちょっとドスをきかせてやらないといけないという、その人間関係のパターンの切り替えがなかなか難しかったことを覚えております。

登校拒否・不登校の子どもたちの急増

 そして、その頃から、一九七〇年代の半ば頃からですけれども、登校拒否・不登校の子どもたちが急増していったわけです。実は、登校拒否・不登校と言われる子どもたちは、一九五〇年代の終わりの頃から出てきておりますので、もう五〇年の歴史があるわけです。その子どもたちの増え方が、うなぎ登りに急激に増えだしたのが、七〇年代の半ば頃からなんです。その頃から私は、この不登校の問題に関わり合いはじめたわけです。     (次号に続く)








【第39回京都教育センター研究集会】

1日目の全体集会には、1日目240人が参加、2日目分科会には118人参加

「今」を検証し「これから」を展望するヒントいっぱい!

−−第39回 京都教育センター研究集会 (全体集会)−−





【山本正行先生の 講演

◇旭丘事件の当事者として、50余年前の実践を具体的にリアルに語っていただきました。「生き証人」の話を聞きたいとの思いで府内の退職教職員多数が参加。また、鯵坂真さんはじめ大阪からの参加もあり、寺島さん(元旭丘の同僚)のメッセージや川口さん(教え子)、生駒さん(歴史学者グループ)のコメントなども注目を集めました。

◇山本先生は、講演の最後に教え子たちと「校歌」を歌われ、青年教師時代の山本さんを彷彿させました。




【高垣忠一郎先生の 講演

◇午後からは「高垣フアン」も多数かけつけて、会場は満員となり、ヒーターを切っても熱気ムンムン。講演は、教育センターとの関わりや臨床心理学への偏見批判から入って、「今の自分でええんやで」と語ってきた高垣流「自己肯定感」についてゆったりと話され、フロイトの言った「大人の条件は働くこと、人を愛すること」に参加者はうなずきながら納得の表情でした。



【パネル討論

◇築山さんの進行で進められ、パネラーの報告が行われました。

深澤さんは、大変な子どもと家庭の実態をリアルに語られ、学校では管理職を含めて、「学テの結果よりも今の子どもと父母を深く理解することが大切」と認識している、と話されました。

◇仙田さんは、児相のケースワーカーとして、虐待への対応についても、権力の力によるのではなく子どもへの福祉の視点を貫くことが仕事を通して試される、と話されました。

◇佐伯さんは、府学連などが参加する学費ゼロネットで取り組んだ学生へのアンケートを通して、今の学生の経済的負担の重さがリアルに伝わった。今後、父母や高校生との共同を広げ社会的にもアピールしたい、と話されました。



【参加者の感想から

◇きのうの「赤旗案内」で「旭丘事件」とあったので好奇心で友達を誘って大阪から来ました。 勤評闘争の証言が聞けてとても有意義でした。私の存命中にまた証言集会をして頂ければありがたいです。オウムに10年以上出家していた知人(40歳)に高垣さんの話を聞かせたくて連れてきました。彼は自己肯定感がないので今日の話はぴったりでとても喜んでくれました。 学生アンケートのけなげな声は政治家に読ませたい。学生の優しさに感動した。

「旭丘事件の時、紫野高校の1年生。時々朝の授業をサボって、市教委と学校側の生徒の争奪戦を目の当たり にしていました。旭丘出身の同級生が多くいて、教師にしっかりと自己主張すると「旭丘出身か?」と言われていました。同じクラブのひとつ下の女子生徒が旭丘の生徒会長をやっていた人で美人だったのと自分をしっかりもっている人という印象で旭丘教育の一端を垣間見る思いでした。

久しぶりに高垣先生のお話を聞きたいと思い参加しました。「自己肯定感」ということばは最近よく耳にする んですが、そのたびに「?」を感じていましたが、今日の話でスッキリしました。深澤先生の学校は私の新採の勤務校でしたので、子どもの実態は当時と繋がるモノがあり大変さを実感しました。その中で父母と対話し、繋がる努力をされていることから多くのことを学ばされました。

 なお、山本正行さんの講演と高垣忠一郎さんの講演の全文は「京都教育センター通信21号(2008年度号)」(2009年3月6日発行予定)に掲載をいたします。詳しくは、そちらをご参照ください。


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