事務局   2014年度年報目次

第2部 教育センターと各研究会の年間活動
生活指導研究会・2014年度の活動のまとめ

                横内廣夫(生活指導研究会事務局)

 

2014年度の経過報告

1.活動の柱

@隔月の研究例会を、公開研究会も含めて開催する。
A将来教員を目指している、あるいは教育問題に関心を持っている学生・院生の参加を追求していきたい。
B若い教員の参加が得られるように工夫する。
C新自由主義教育政策のもとで「競争」と「自己責任」を強いられ、[ゼロ・トレランス]指導が実行されつつあるが、それらの状況の中で子ども・生徒たちが何に苦しみ、何を求めているのかを客観的に整理し、それらの教育政策の欺瞞性と矛盾をあきらかにする。
D若い教員・中堅の教員・ベテランの教員の多様な教育実践の報告を受け、子どもたちをとりまく今日的状況の深刻な実態とその課題克服のために子どもたちを繋いでいく教育実践の有り様を、理論的に整理していく。
E小・中・高校における子どもたちの「荒れ」と向かい合う教育実践の今日的な原則をさらに理論的に整理し、その教訓を一般化する。
Fとくに「いじめ問題」等を様々な角度から読み解くことで、再度学校と学外組織とのふさわしい連携の在り方を議論し、いじめ問題等についての原則的な理解と対応のあり方を探っていく。
G職場を取り巻く管理主義的な環境や職場体制の中で、若い教員が困難さを克服していく筋道に視点を当て、教育実践を教員の自己変化・発達の視点から整理していく。
H上記C〜Gを丁寧に数年かけて、近い将来本研究会編の出版物『希望をはぐくむ教育実践−繋ぎの回復から』(仮題)の内容作りを志向する。
Iその他

2.研究例会等の経過

3月15日 第一回例会

@事務局報告「最近の問題事象から」

・自殺をネット生中継女子中学生 評判は「真面目で大人しい」取材/小川善照 ※週刊ポスト2013年12月13日号

・「校舎内を自転車で走るな!」に逆ギレ中学生4人と卒業生2人が教員らに暴行(1月9日)
 京都府警は9日傷害などの疑いで、府内の町立中学校3年の男子生徒(15)ら中学生4人 を逮捕・送検、土木作業員の少年(18)ら同校の卒業生2人を逮捕したと発表した。
 →洛南タイムズ 大平先生投稿文

・「担任教師に暴行、男子中学生を逮捕 札幌市」(2月15日)
 −北海道・札幌市の中学校で担任の教師に暴行したとして、14歳の男子生徒逮捕

・「『言い方に腹立った』 口論止めに入った女性教諭殴る 女子中学生逮捕」(2月18日)
−滋賀県栗東市内の私立中学校で女性教諭の腹を殴ったとして、滋賀県警草津署は17日、暴行の疑いで2年の女子生徒(14)を逮捕した。

・「なんで早く飛び降りないの?」慶大生がLINEで送ったメッセージの「暴力性」(3月 1日)産経新聞 20時0分配信
  元交際相手の女子大生(21)に「死んでくれ」とメッセージを送り、約10時間後に自殺させたとして、慶応大学3年の男子学生(21)が2月19日、自殺教唆容疑で警 視庁に逮捕された(その後釈放)。

・「中1飛び込み死>生徒に任意で事情聴く…山形県警」(3月2日)
  山形県天童市で1月7日、市立第一中1年の女子生徒(12)が山形新幹線の線路に飛 び込み死亡した事故で、女子生徒が「いじめがあった」と記したノートを残していた。

 これらの問題事象について意見交換をし、特に洛南タイムズに投稿された大平先生から当該中学校の教育実践上の課題について整理していただいた。先生が強調された内容は「問題生徒への対応は外面だけを見てのゼロトレランスや排除の論理ではなく、内面から外面に迫る指導の重要性」でした。また市内私立高校で事務局内が教員に配布している生徒部通信「『生徒を知る』とは...」に、以下のようにまとめたことを紹介した。

「*私たちが注目しなければならないのは、逮捕された少年少女たちが『担任教師に注意されたことに腹を立て』とか『言い方に腹立った』と供述していることにある。逮捕された少年少女たちは「注意」そのものを疎ましく拒絶しているのではない。そうではなくてその『注意』の仕方、その時の教員の様態に突然の爆発感情を抱き、暴力という形で発露してまったのではないか。『注意』を受け入れられない暴力的な生徒とか我が儘勝手な傍若無人な生徒という見方で、これらの中学生たちを排除していくことが、大きな間違いではないだろうか。*指導とは『生徒の内なる価値観や世界観』に『外なる(公的な)価値観や世界観』を取り込ませ『生徒の内なる価値観や世界観』をより開かれた『外なる(公的な)価値観や世界観』に自らの認識と判断で近づかせることにある。そのためには生徒の自らの静かなる内的な対話を指導のプロセスの中に教師は作り出していかなければならない。教師の自噴をぶつけたり、生徒の価値観や世界観を一方的に非難したり傷つけるだけでは、指導にはならない。それはまさに生徒の心に響かない自己満足の表現としての怒りの表現に過ぎない。*『外なる(公的な)価値観や世界観』の体現者としての教師もまた自己吟味していく必要がある。その立場での対応が、どれほど生徒の内的な心の有り様を傷つけ、生徒の発達の権利を奪っているのかを深刻にとらえ直す必要があるのではないか。それは逆に『自らの価値観や世界観』に近い生徒だけを『好き』になり、それに反する生徒を攻撃するといういびつな教育関係を生み出す土壌にもなるのではないか。*取り上げた最近の新聞記事は、多くのことを考えさせるものであった。はたして私たちは、teacherとしてもeducatorとしてもその名にふさわしい『指導』が展開できているであろうか。自戒をこめて冷静に考えてみたい。」

A発達問題研究会との合同公開研究会について

5月17日 生活指導研究会&発達問題研究会合同公開研究会 

テ−マ:少年犯罪「厳罰化」の動きがある中で...青少年立ち直り支援の活動に光を!
[講演]「青少年の立ち直り支援に関わって」藤木祥史先生
[報告]「高校生の中退問題」谷口藤雄先生
「中学生逮捕問題から学警連携を考える」大平勲先生

10月11日 第三回例会

  内容 【1】倉本頼一先生報告
   その@佐世保事件を考える
   そのA現代のいじめ問題−全国教研二つの報告から

 事務局から「最近の動向」について報告し、倉本先生の報告と関連して「佐世保女子高生殺害事件」の資料を準備した。

・長崎・中3自殺 ラインに「死ね」 いじめ原因か 2014/05/27
・中2長男、虐待受け自殺か  2014/07/31、08/01
・佐世保女子高生殺害事件 2014年7月26日
・天童・中1自殺 校長「」いじめあった」 生徒十数人を指導  2014/07/17
・少年3人、恐喝容疑で逮捕=被害男子、500万円引き出す―愛知県警 2014/08/04
・児童虐待7万件超 過去最高に、厚生労働省  2014/08/04
・道徳教科化へ中教審部会が骨子案 検定教科書の使用求める  2014/08/07
・<中学生>教諭への暴行など逮捕相次ぐ 警察介入是非で議論  2014/8/19
・殺人未遂容疑で中2逮捕=同学年生徒切り付ける−兵庫県警  2014/10/02
・生徒会長に就任予定だった17歳 母と祖母殺害  2014/10/02

@「同調主義を克服し、主体的教育を展開するために」横内

A「佐世保高一同級生殺害事件を考える」倉本頼一先生
 加害者A子の成育史を様々な資料から読み解き、少女の攻撃性を誘発させてきたものに焦 点を当てようとする報告でした。この報告を倉本先生は、「事件にこめられた少女の思い、 怒り、攻撃性の背景を、少女の小学校時代の作文と中学時代の詩を読む中で、考えてみる」 と位置づけています。

B「現代のいじめ問題−全国教研二つの報告から」倉本頼一先生
 8月に四国・香川県高松で開催された全国教研で報告された「愛知・名古屋中2転落死事 件」の概要を紹介され、問題点を整理されました。そしてこの報告と討論を通じて「いじめ問題」について以下の7点を問題点として提起されました。
 1.公平な専門的立場からの「三者委員会」設置の教訓が生かされている。
 2.子どもの自殺を「いじめ問題」だけに原因を求めるのは乱暴な分析になる。こどもの 自殺の原因・要因は複合的である。
 3.「うざい、きもい、死ね」「自殺しろ」等の暴言が「日常的だ」という現実が今日の「いじめ問題」「自殺問題」の背景にある。言葉狩りでなく全校で今の学校生活を児童・生 徒と見直していくことが大切。一人一人が本当に大切にされているのか問うてみる。
 4.中学の「部活・クラブ活動」のあり方について根本的に考える。
 5.スク−ルカウンセラ−に「校内指導・授業参加」まで要求するのは問題がある。
 6.いじめは「発達上の課題」「人権問題」であり「集団暴力・恐喝等は犯罪」という認識 が大切である。
 7.教育委員会は指示命令でなく、「相談」「人的支援」をすべきである。

11月24日 第四回例会・公開研究会

 <テ−マ>「今日の子どもたちの状況と生活指導実践の課題」

@「つながって生きる力とは」春日井敏之先生

A「佐世保事件を考える」倉本頼一先生
 当初予定していた報告「A子との一年〜」都築一郎先生に事務局の運営の不手際から大変なご迷惑をお掛けし、参加者の皆さんに深くお詫びしておきたい。

 春日井先生から資料1「つながって生きる−子ども・青年の自己形成と支援を考える」と資料2
「教育実践における教師の主体性と共同性−子どものいのち、権利を守る教育」というタイトルの論文が配布され、より詳細に報告された。資料1 については日本生活教育連盟編『生活教育』786号2014年、資料2 については同792号2014年に収められているので是非一読していただきたい。誰かを助けてつながって生きる、誰かに助けてもらってつながって生きる、誰かと一緒に楽しいこと、やりたいことを目一杯してつながって生きる、これらが「つながって生きる」ことの本質であり同時につながって生きていると実感できる実質ではないかと強調される。子どもの理解もこれらのパイプを通して分析し、教育実践の軸にこれらの取り組みを置き、双方向の支援関係を築いていくことが教育実践に求められている、と提起された。さらにその支援関係を築くために「気にしているんだよ」というメッセ−ジを含めた「どうしたんや」と問いかけること、「子どもの言動の意味を自らに問う」こと、「周辺の教員や保護者などと子どもの言動の意味を問い合う」こと、つまり『問う』という関わりかたの大切さ、「子どもの負の感情を聴き取る」という姿勢の『聴く』、自分の失敗を含めて「アイ・メッセ−ジ」発信しながら、押し付けではない双方向の人間関係を生み出す『語る』、これら三点を丁寧に説明された。

3.成果・到達点と課題

@小中高校における子どもたちの「荒れ」と向かい合う教育実践の今日的な原則のいくつかが 議論を通じて明らかになりつつある。引き続き更に深めていく必要がある。

A学校と学外組織とのふさわしい連携の在り方を議論し、いじめ問題についての原則的な理解を深めた。

B管理主義的な職場を取り巻く環境や職場体制の中で、若い教員が困難さを克服していく筋道に視点が当てられた。今後もこの視点を重視した研究会運営に留意していく必要がある。

C教育実践上の教師としての基本的なあり様の原則を確認することができた。


2015年度の計画

1.活動の柱

 上記のような到達点にたって、前年度の柱を引き継ぎ「私たちのめざす生活指導実践」を理論的に整理していく研究活動に取り組む。

2.研究会の体制

代表  築山 崇   事務局 横内廣夫

3.会員

 浅井定雄 石田暁 大平勲 恩庄澄 春日井敏之 北村彰 倉本頼一 高垣忠一郎 谷田健治 玉井陽一 築山崇 西浦秀通 野中一也 細田俊史 横内廣夫

 
 「京都教育センター年報(27号)」の内容について、当ホームページに掲載されているものはその概要を編集したものであり、必ずしも年報の全文を正確に掲載しているものではありません。文責はセンター事務局にあります。詳しい内容につきましては、「京都教育センター年報(27号)」冊子をごらんください。

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              2015年3月発行
京都教育センター