事務局   2014年度年報目次

第2部 教育センターと各研究会の年間活動
地方教育行政研究会・2014年度の活動のまとめ

                我妻秀範(地方教育行政研究会事務局)

 

1 はじめに

 この間、安倍内閣のもとで集団的自衛権の行使容認の閣議決定(2014年7月1日)、特定秘密保護法の施行(2014年12月10日)、「武器輸出三原則」の緩和(2014年4月1日)など、日本国憲法と戦後日本が堅持してきた平和主義を根本から否定する動きが加速している。

 これと一体に新自由主義と新国家主義に基づく「教育改革」が急テンポで推進されている。この動きはグローバル化した世界で活躍する企業戦士と戦争する国家をになう人づくりを目指したものである。
 私たちには、こうした政策動向をふまえ、憲法を守り発展させる運動、民主的な教育行政と教育内容、子どもたちの学習権保障の取り組みを、今まで以上に旺盛に展開していく必要がある。しかし、後述するように本研究会の体制上の弱点から情勢と課題に見合う研究活動を展開することができなかった。以下、今年度の取り組みを総括しながら課題を明らかにしたい。


2 2014年度の主な取り組み〜概要と課題

(1)第1回京教組・地教行研合同学習会

ア)概要

・2014年5月18日(土)、京都市職員会館「かもがわ」にて開催

・「安倍『教育再生』とは何か〜政権存続の突破口としての教育改革」と題して中田康彦氏(一橋大学)が講演。30数名が参加した。

・その後報告@として、我妻(研究会事務局)が「今日の教科書問題と私たちの課題」と題して、この間の教科書問題をめぐる動き、文科省「教科書改革実行プラン」の概要とその具体化、沖縄県竹富町での教科書採択問題、大阪府教委などの実教出版「日本史A」教科書の採択妨害問題について報告した。

・さらに報告Aとして、葉狩(研究会事務局)が「『道徳の教科化』問題に向き合う」として、自身の「道徳教育観」をふり返りつつ、「今後の道徳教育の改善・充実方策について(報告)」(道徳教育の充実に関する懇談会 平成25年12月26日)の問題点を批判的に検討した。

イ)中田講演の概要(以下は当日の講演レジュメの項目)

   安倍「教育再生」とは何か ―政権存続の突破口としての教育改革―

<報告のねらい>
 安倍「教育再生」による体験は、われわれにどんな変化をもたらそうとしているのか教育改革の意図や本質の解明よりも、機能や効果に焦点をあてて考えてみる

1 安倍「教育再生」の政治的・経済的背景 〜改革推進の積極的要因と消極的要因〜

(1)政治 〜強いリーダーシップを誇示しようとする自信(と誤認)〜
(2)経済 〜効果が出ないアベノミクス、支持率の低下への影響をくいとめる必要性〜
  @改憲・「教育再生」よりも景気対策に重点をおいた一年間は何を意味するのか
  Aしかし主張されていたところのトリックルダウン効果は発揮されていない!!

2 安倍政権の教育政策の全体の特徴 〜価値統制と競争による人材育成の相互補完〜

(1)安倍「教育再生」の3つの柱…A:人材育成 B:国民統合 C:政治主導
(2)平成26年度文部科学予算案にみられる重点 (=政策の具体化に関する方針)

3 福祉国家からの後退                  

4 競争の強化と資源の重点的配分(新自由主義)      

(1)「選択と集中」幅の拡大と資源の重点的配分 〜グロ―バル人材の育成〜
(2)総動員体制としての学テ体制

5 教育内容の保守化と国家による価値統制         

(1)道徳教育の充実 …国家と国民の関係のくみかえ
(2)再び浮上してきた教科書政策
(3)各地で進行するゼロトレランス(zero tolerance)施策

6 強いリーダーシップ論による権限の集中(政治主導)と地方教育行政の再編

(1)教育委員会制度の見直し「今後の地方教育行政の在り方について(答申)」(中教審)
(2)国と地方公共団体の間での、協定なき協同(共犯)関係
(3)政治主導が学校教育に及ぼす影響

7 わたしたちはどう向き合えばよいのか

(1)教育研究運動における正義の掲げ方の見直し
(2)取り組み方の基本姿勢
 
 
(2)京都教育センター研究集会

・2014年12月21日(日)に開催。17名が参加。テーマは「小中一貫校問題と学校統廃合」
  報告者は以下の通り。なお報告・討論の概要は本誌に掲載したので参考にされたい。
   (1)基調報告            松岡寛(京教組)
   (2)京都市内の状況       榎本知子(京都市教組)
   (3)東山区泉小中学校の状況     人見吉春(退職教員。元京都市教組)
   (4)発達の視点から見た小中一貫校  藤本文朗(滋賀大学名誉教授)
   (5)南丹市における学校統廃合    塩貝直樹・小寺功彦(船井北桑田教組)

(3)活動総括

・教育センター事務局が主催する連続学習会との重複を避けるために同学習会終了後に京教組・地教行研合同学習会を設定しようとしたが、事務局体制の不十分さもあって開催できず、結局5月に1   回開催しただけに終わった。

・事務局会議も数回の開催に終わり、継続的な研究活動を行うことができなかった。特にこれまで事務局を実質的に支えてきた新谷剛氏(元京教組執行委員)が死去されたことは、本研究会にとって大きな痛手であった。また、事務局長交代に伴って、引き継ぎがスムーズに行かなかったなどの弱点を反省して、新年度の活動を作り直していくことを意識的にすすめたい。


3 2015年度の活動方針

(1)教育行政をめぐる経過

 以下は2013年末から2014年末までの「教育をめぐる動き」を整理した。ここから教育行政の全国的な展開と課題を探りたい。

<2013年>   
 12月13日  中教審答申「今後の地方教育行政の在り方について」。首長を教育行政の最高責任者とする。文科省、「教員免許更新制度の改善に係わる検討会議」、10年目研修廃止の方針を決定 
<2014年>   
 1月17日  文科省告示。教科書検定基準の一部改正 
 3月26日  文科省調査、全国の小中学校のうち、国が定めた標準時数を超えて授業を実施している学校は全体の約7割 
 4月9日  教科書無償措置法改正 
 5月28日  文科省、公立小中学校統廃合基準を定めた指針を58年ぶりに見直しへ。2014年中 に全国自治体に通知する方針 
 6月6日  文科省、義務教育9年間小中一貫の学校を制度化する方針固める。 
 6月12日  都教委、特定高校日本史教科書の国旗国歌法をめぐる記述が「不適切」として、記述変更がなければ来年度教科書として使用を控えるよう通知する方針 
 6月13日  参議院で地方教育行政法改正案を可決成立 
 6月25日  OECD、中学校教諭の勤務時間に関する調査結果を発表。1週間あたりの勤務時間は日本が53.9時間で最長。授業以外に部活動や事務作業に長時間。 
 7月3日  教育再生実行会議提言「今後の学制等の在り方について」(第五次提言) 
 7月15日  厚労省、「国民生活基礎調査」結果発表。18歳未満の「子どもの貧困率」16.3%。1985年以降最悪。 
 7月25日  文科省、今年度の正規の土曜授業を行う公立小中高校は5573校、2年前に比べて2倍。全体に対する実施率は16.3%と発表。 
 7月29日  文科省、6・3・3制を見直す学制「改革」、教職員の多忙化解消に向けた教職員配置の充実や処遇の確保などについて中教審に諮問 
 8月4日  文科省、「学校教員統計調査」中間報告。12年度に精神疾患による退職教員が国公私立学校(幼稚園から大学)で969人。公立小中高校などの精神疾患による休職 教員は4960人。 
 9月9日  OECD、加盟国の教育施策に関する調査結果を公表。2011年の日本の国内総生産に占める教育への公的支出割合は3.8%で比較可能な32か国中最下位(5年連続)。加盟国平均は5.6%。 
 9月26日  文科省有識者会議、小学校教員に中学校の英語教員免許取得を促すことなどを国に求める報告書。 
 10月21日  中教審答申「道徳に係る教育課程の改善等について」(小中学校道徳の教科化を求める) 
 10月27日  財務省・財政制度等審議会、11年度に制度化した小学校1年生35人学級を従来の 40人学級に戻すように文科省に求める方針を提示。 
 12月22日  中教審答申「子供の発達や学習者の意欲・能力等に応じた柔軟かつ効果的な教育システムの構築について」(小中一貫校導入を促進) 
 12月25日  文科省、学校統廃合の基準見直しの方針を決定  

 以上が2013年末からの教育をめぐる状況である。これらは@教育行政改革、A教育財政改革(学級規模、学校統廃合)、B学制改革(小中一貫校など)、C教員養成・教員免許制度の改革、D教科書制度改革、E道徳の教科化などにおいて具体化されている。

 その一方、学校現場では、深刻な長時間労働(OECD)、精神疾患で退職や休職を余儀なくされる教員の増加(文科省調査)、先進国で最低の教育費支出割合(OECD)による劣悪な教育条件などの問題が放置されている。急テンポで進められる安上がりの「教育改革」が教職員や子どもに深刻な矛盾を引き起こしていると言わなければならない。また、京都府内では高校入試制度の改変、公立の中高一貫校の設置、学校統廃合と小中一貫校の導入などが急テンポで進められている。

(2)基本的な考え方

 以上をふまえ、本研究会は次のような立場で研究を進める。

・2015年度は「反動的な教育改革とどうたたかうか」を研究テーマに掲げ、研究の一層の発展をめざす。

・現在進められている「教育改革」のねらいと問題点を明らかにしてする。

・教育行政や教育条件に関わって地域や学校現場で起きている問題を明らかにする。

・すべての子どもの人間らしい成長・発達を保障する教育を願う立場から、「子どもたち、父母、教職員の願いをふまえた教育条件」を整備する計画の策定を強く求めていく。

・京都教職員組合との「合同学習会」を重視する。

(3)研究会の組織確立

・教職員組合としての課題意識と、行政研事務局員の課題(研究テーマ)を出し合いながら学習会を開催する。

・学習会の案内ビラを作成して、組合員や各団体等に配布する。その際、各分野の研究者や教育運動を進めている方々、青年教職員の参加を重視する。

・研究会会員(登録者)へのメール配信や各支部教組への働きかけをできるだけ早く(1か月以上前)行ない、参加組織・集約を強める。

・学習会の内容等を整理して「発信」する取り組みを重視する。

・教育学にとどまらず法律学・政治学・経済学などを専門とする研究者に協力を依頼する。あわせて事務局員の増員をはかる。

・事務局会議を定期的に開催して情勢と問題意識の共有化をはかる。

(4)おもな研究課題

ア)教育行政と学校

・安倍「教育改革」の批判・検討
・教育振興基本計画の批判・検討
・教育委員会制度、父母・住民の参加と共同
・学校の自主性・自立性確保と教育課程行政

イ)学制に関わって

・小中一貫教育や公立の小中一貫校について

ウ)教育財政・教育条件をめぐって

・教職員定数・配置と学級定数
・教育予算・父母の教育費負担
・学校統廃合問題

エ)教員制度をめぐって

・教員養成・採用・研修をめぐる問題。とくに教員免許更新制について
・教員評価制度、新たな職(主幹教諭、指導教諭など)や賃金制度

オ)子どもの学習権保障

・子どもの貧困、生活保護・就学援助制度
・土曜活用問題

(5)事務局体制

代表:市川哲(明治国際医療大学名誉教授)

事務局長:我妻秀範

事務局員 大西真樹男、奥村久美子、田中正浩、葉狩宅也、本田久美子

会員  東 辰也、新井秀明、石井拓児、磯村篤範、井上英之、射場 隆、植田健男、大前哲彦、大和田弘、梶川 憲、佐野正彦、末富 芳、竹山幸夫、野中一也、藤本敦夫、山本重雄、吉岡真佐樹、淀川雅也

*なお、長年、本研究会の会員としてお世話になった柳ヶ瀬孝三先生(立命館大学名誉教授)が2015年1月15日に死去されました。心からご冥福をお祈りいたします。
 「京都教育センター年報(27号)」の内容について、当ホームページに掲載されているものはその概要を編集したものであり、必ずしも年報の全文を正確に掲載しているものではありません。文責はセンター事務局にあります。詳しい内容につきましては、「京都教育センター年報(27号)」冊子をごらんください。

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              2015年3月発行
京都教育センター