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第45回京都教育センター教育研究集会 第7分科会
高校生活を輝かせるために 3つの検証
―普通科コース制度・レクチャー式授業・新高校入試制度―

                原田 久(高校問題研究会事務局)

 

 参加者は9名で、報告は「京都市・乙訓地域の2014年度高校入学選抜制度改編の結果と課題」(向陽高校分会和気徹)、「『共同的な学び』の考え方を取り入れた実践の模索」(朱雀高校小寺康之・中井秀樹)、「進路保障とコース制」(田辺高校 毛戸祐司)の3本であった。

 各報告の概要は以下のとおりである。

 和気報告は、2014年度から変更になった高校入試制度(前期・中期・後期3段階選抜、普通科類型制度の廃止と普通科一本化、京都市内乙訓通学圏の1本化と総合選抜の廃止・単独選抜化)の下で行われた入試結果の検証だった。前期選抜に受験生が殺到し、7,112名(府全体)の不合格者が出たこと、「入りやすいタイプの学校」が5〜7倍の異常な高倍率になったこと、進学系専門学科が「意外な」低倍率であったこと、中期選抜でも不合格者が増加したこと、中期不格者の多くは私学に進学したことなどの傾向が見られた。前期選抜の高校側メリットは進学系専門学科のみで、公立高校の序列化・階層化が進み入学生徒の「学力」の均質化が見られたこと、入学生徒の出身中学が拡大したこと、短期間に私学を含めて3回受検の生徒の増加や早期の合格者と不合格者が同じ教室で学ぶ困難さなど中学校現場の困難さが増大したこと、高校入試が長期化し、在学生への指導が手薄になったり、通学不便校が敬遠されるなど高校現場でも困難さが増加したことなどの課題が指摘された。

 小寺・中井報告は、入学生の変化中での、従来のレクチャー中心の授業ではなく、生徒たちの「共同的な学び」を取り入れた授業実践の試みの報告であった。最初に「アクティブ・ラーニング」型授業の歴史に触れ、佐藤学氏の「学びの共同体」と西川純氏の「学び合い」のそれぞれの内容と関係について説明が行われた後、実践報告に移った。

 2012年度の「現代社会」では、教科書完全準拠のプリントを作成し、1時間1枚プリントを4人1グループ(全体で8グループ)で穴埋め学習し、その後指名された班が黒板に答えを書き、それを踏まえて教師が解説と質疑を行い、2013年度では席に近いものでグループを構成する以外は前年度の形式を踏襲した。ただ、形だけを作っても効果は薄く、この形で授業をすることの意味を生徒たちに理解させることが重要。生徒たちに任せきりでなく、生徒達の声を引き出し、生徒達をつなぎ、生徒達に戻すという教師の役割が大切。生徒たちの反応は予想以上に良好で、生徒同士のことばでの学び合いが、「分かる」ことにつながっている。均質化の進んだクラスや多人数のクラスでは取り組みにくい(小寺)。2人ペアでプリントに取り組み、その後教員がまとめる。小テストをペア採点する形もある。小テストでは語句を答えさせるが、定期考査では、語句を答えさせず,語句を使って文章を書かせ、論理を答えさせる。これまでの到達度評価をもとに、それを具体化していく方向が大切。生徒の主体性を重視すると言っても、授業規律が確保されないとこの形の授業も上手くいかない例もある(中井)。

 毛戸報告は、学校間格差が開く中で「低位」に位置付けられ、コース制のもと「学力」で「輪切り」にされた普通科と職業科併設校で、生徒達の意欲を引き出し進路実現に取り組む実践報告だった。進路先は就職と進学その他が3対7の割合。就職では女子の人気の職場や有名企業の求人が急減。進学では過去に比べて「中堅以上の大学」への進学者減少し、AOや推薦入試での合格者が増加している。就職進学を問わず、「より上に挑戦しよう」という意欲が低調である。

 普通科に発展コース(旧U類に相当)と標準コース(旧T類に相当)が設定されているが、発展コースのクラス分けは1年では診断テストの成績順で、2年では1年次の評定でクラス替えを行う。コース制をとる背景には、進学コースを作り、「(本校が)受験競争から降りていない」ことを示して入学者の減少を防ぐこと、発展コース+習熟度別クラス編成で「特進クラス」を作り、進学実績を上げることがある。発展コースは平常補習・学習合宿・模擬試験は必須で、標準コースは希望者となっている。発展コースで、最上位クラス以外では、補習や模擬試験の欠席、授業中の雰囲気の悪さ、評定が上がらないなど課題が山積し、進学希望実現の上で困難を抱えている。こうした中、「最上位のクラスに力を集中したらいい」という誘惑、危険性さえ感じる。最上位のクラスが引っ張って、勉強する雰囲気を学年全体に波及させることを目指しているのだが。現実は最上位クラスも2年後半からペースダウンしている。コース制のもとクラスにより課題が違うので、担任団としての協同、分掌と学年団との協同に困難性が生まれている。

 各報告を受けての質疑意見交換を行った。

 和気報告をめぐっては、多くの不合格者が出た前期選抜試験の問題性、中期選別を受けずに私学に進路変更した生徒たちの家庭の経済的負担増の問題、通学に不便な学校に志願者が集まらず、統廃合の口実になる懸念、学校ごとの特色化のもとでの偏りのある教育課程で全面発達が保障できるのか再検討が必要等の意見が出された。また、府教委による異例の入試アンケート(合格者対象)が実施され、8割の支持があったと言われるが、果たしてこの結果は新入試制度への正当な評価になっているのかという指摘もあった。

 小寺報告については、どの学校でもできるのかという疑問に、導入した中学校でも成功している例も報告され、教師の想像以上に生徒に受け入れられていること、その理由として生徒のことばでの教え合いが理解し易さとなっていること、教師の板書を移すだけの授業への不満と主体的に授業に参加出来ることへの肯定感があることが指摘された。この授業を成立させるには、このような授業を行う目的を生徒に理解させることが重要で、形だけを取り入れても失敗すること、生徒に任せきりではなく、生徒の声を聞き、つなぎ、再び生徒に戻すという教師の働きかけが不可欠であること、さらに、この授業を通してどのような力を生徒に育むのかを明確にして評価を行うことが求められることも出された。

 毛戸報告については、「コース制を行うと、職場の中に特定のクラスを優遇するフィルターがかかる。ないところでは、どのクラスもみんな伸ばそうという姿勢がある。全ての生徒に目標を下げずに向き合うと生徒たちの中にもやる気が芽生える」「課題の多いクラスの担任にしんどさが集中しすぎる」「コースを作らないと生徒が集まらないという呪縛がある」「類型制度のもとで教職員として過ごしてきた人が多くなっている中で、差をつけることに抵抗感が少ない」「総合選抜に戻すことは容易ではない。分けないとダメという想いが保護者にも浸透している」「制度のディメリットは各学校の中だけを見ていては見えにくいこともあり、他校の状況を知る中で見えてくる」などのコース制にともなう課題に意見が集中した。

 30年近くにわたった普通科の類型制度のもとで同じ学校で選別し差をつけることの常態化や定着した学校間格差の弊害が深刻になっていることが改めて明らかになった。

 今回の分科会のテーマとした、「高校生活を輝かせるため」には、今後このことへの丁寧な検証が必要になっている。
 
 「京都教育センター年報(27号)」の内容について、当ホームページに掲載されているものはその概要を編集したものであり、必ずしも年報の全文を正確に掲載しているものではありません。文責はセンター事務局にあります。詳しい内容につきましては、「京都教育センター年報(27号)」冊子をごらんください。

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              2015年3月発行
京都教育センター