事務局   2014年度年報目次




「憲法が生きる国・教育のあり方−安倍政権の歴史観・教育観とは」


           石川 康宏 氏(神戸女学院大学教授)


※教育センター事務局の責任で編集しました。
 

1.総選挙の結果をどう見るか

 今日は、安倍政権の歴史観・教育観について主に話をしますが、選挙結果についてどう見るかを先に話をします。

 選挙後、「改憲にむけた議論を推進する」と安倍さんは言い出しました。アベノミクスは推進する、原発再稼働も進める、集団的自衛権を含む安全保障法制の整備も進める。今回は「アベノミクスが信任されるのかどうかということが問題」と、争点をごまかしてやった選挙であったにも関わらず、全てのことが信任されたと言って、暴走を始めようとしています。

 ただちに「大歓迎」のコメントを出したのは財界です。要するにアベノミクスをもっと大急ぎでやってくれということです。財界筋は今回の解散・総選挙は反対していました。「今やる必要はない」「今は大急ぎでアベノミクスを進めてくれ、そうしないとわしらはもうからないから」と言っていました。それでも安倍さん達は、選挙をごり押しした訳です。なぜ、ごり押しをしたのか私はこう見ています。

 一つは、今回選挙をせざるを得なかった背景にあるのは、国民の批判が強いということです。「改憲反対」6割あります。「原発再稼働反対」6割あります。「TPPもいや」「増税もいや」それぞれ国民の多数意見です。つまり安倍さんたちの政権は、国民に支えられている政権ではなくて、逆風を受けている政権です。その政権が、総選挙は予定通り行けば2016年の冬でした。ところが今のスケジュールで行くと、来年の夏の国会には、自衛隊を海外に出しますという法案を出さなければいけない訳です。改憲に向けた議論を進めたいと思っている訳です。そうすると、どう見ても国民の批判が高まってくる訳です。高まってくると、選挙で負ける可能性が高くなってくる訳です。そこで、今のうちに争点を曖昧にして、「アベノミクス選挙だ」というふうにごまかして、全体として野党が何も準備をしていないこの時期に選挙をやってしまって、自分たちの議席をできるだけ大きく確保しておこうという目論見があったと思います。

 結果については、すでに新聞報道でご存じだと思います。大事な問題の一つは、自民・公明は「圧勝したのか」という問題です。去年の夏の参議院選挙は、5323万の投票がありました。年末の選挙、5374万の投票、確定票でありました。ほぼ変わらないです。ということは、だいたいどの政党も去年と同じだけ取っていれば、現状維持ということです。ところが自民党は、この一年間に80万票減っています。公明党は26万減っています。合計で106万減っています。どうして「圧勝」になるのでしょうか。その一方で、自民党では嫌、自民に入れるよりは他の党に入れた方が良いというので、民主党が実は265万も増えています。共産党は8議席から21議席ですから、2.6倍に躍進しました。でももうちょっと見ておかなければいけないのは、得票が91万しか増えていません。そこの変化で、ぎゅっと議席数が伸びたというのが現実です。

 議席数は衆議院の小選挙区制がありますので、少ない得票で一番になった者がたくさん議席が取れるということになる訳です。自民は3議席減りました。その限りでは「小負け」でとどめたということでしょう。公明が4議席増えていますから、差し引きで与党は1議席増えました。その他で、大きな変化があったのは、共産が8議席から21議席へ13議席増えた。見て頂いたらわかるように、一番の伸びです。「えらいことですねお宅は」というのは、次世代です。19議席あったのが2議席ですから。

 自民党にとって、「小負け」で抑えた代償として失ったもの、まず一つは、次世代がいなくなったということです。これは安倍さんにとって改憲の最大の仲間です。公明党は、表向き平和の党って時々口走っています。9条を変えるのにホイホイ付いていくという訳にはいかないという部分がある訳です。大失態の二つ目は、最大の敵を増やしてしまったということです。今回の選挙で、「自民党と対決する」といった政党は、驚くべきことに共産しかいない。何のための野党かと思います。今の政治を変えるための野党じゃないのかと思っています。三つ目の大失態は、沖縄での全敗です。基地をつくってよいと言っている自民党が、全員落とされました。ですから、もう沖縄の世論は誰が見ても、基地造りに抵抗する構えを沖縄で固めてしまったということです。これが今回の選挙の大きな特徴だと思います。


2.集団的自衛権のねらい

 さて、安倍政権は、日本の政治をどう動かそうとしているのかという事を話しながら、教育観・歴史観に触れたいと思います。

 まず集団的自衛権の問題です。当面の安倍政権にとって懸案の最大の問題です。集団的自衛権とは日本が常にアメリカと一緒に海外で戦争するということです。国際法上は、「武力行使するだろ」と言われた時に、「違います」とは言えないのが事実です。集団的自衛権を閣議決定した時に、世界中の国が「今の日本はまずいよ」という反応をしました。唯一大喜びしたのはアメリカでした。アメリカにしてみれば、今まで米兵が死んでいた代わりに日本兵が死んでくれると。今まで米軍もミサイルばっかり打っていて、金がかかっていたけれど、今度は日本がミサイルを撃って金をかけてくれる。こんなありがたいことはない訳です。そこで「日米防衛協力指針」ガイドライン、再改訂をした同盟を補完するものだとアメリカのヘーゲルという国防長官が言っています。ガイドラインの再改訂は来年の5月頃にすると言っています。「5月」というのも、良く考えていますよね。3月4月の一斉地方選挙が終わったあとで、これを話題にするという、小ずるいです。ですが裏を返すと、そういう小ずるい知恵を発揮しないと、選挙で負けるかな、という圧力を感じている訳です。このときに琉球新報が見事な分析をしています。「閣議決定を急いだ背後には集団的自衛権でアメリカ側の関心を買うことで、尖閣問題に米軍を引きずり込みたい思惑があった。ただヘーゲル氏は中国との建設的関係を育成するよう話した」これは何だというと、「アメリカさん、私はどこまでもあなたの戦争におつきあいしますよ。その代わり、もし尖閣で日中衝突みたいなことがあったら応援して下さいね」と言ったらヘーゲルが「それはお前がやれよ」と言ったということです。理由ははっきりしています。アメリカにとって、今、最大の貿易相手国は中国です。アメリカも財界第一の国です。その財界が一番もうけているのが中国であり、これからもますますもうけが拡大するのは中国です。なぜその中国相手に喧嘩しないといけないのだということになります。ですからアメリカは、尖閣や東アジアで軍事力を発動するとは一回も言わない訳です。そんなことして中国とまずくなったら、もうからないからです。

 ではアメリカ側が望んでいる集団的自衛権、どこまで日本軍を持って行きたいかというと、去年の正月、すでに日米首脳会談で議論されていた日米共同の作戦範囲です。その昔、福田内閣の時には、福田赳夫が最初にガイドラインといった瞬間は、「それは日米共同戦争をするのは、日本の有事の時ですよ」と言ってました。その限りであれば、日本が大変なことになっている時に、米軍が味方してくれるっていうのであれば、日本人も大して反発はしませんでした。そのあと橋本龍太郎という人が「いやいや違います。周辺事態に対処するのです」と言います。国会で「周辺ってどこですか」と聞かれた時に「地理的範囲ではない」と言いました。今、はっきり言っているのは、アジア・太平洋全域だと。アメリカの目論見は何かと言いますと、中東から南アジアにかけて、アメリカの言うことを聞かない国がいっぱいあり、そこをアメリカは「不安定の弧」と呼んでいます。不安定な、アメリカいいなりにならない、カーブの地域がある。そこを時々、アメリカはミサイルを撃ち込んでいますが、言うことを聞いてくれない。金がかかる。そこで、「日本、お前も金と命を出しに来い」ということです。それが目的です。これが集団的自衛権の実際です。

 念のために集団的自衛権に関わって憲法を再確認しておきます。9条はこう言っています。「国権の発動たる戦争、武力による威嚇または武力行使。国際紛争を解決する手段としては永久にこれを放棄する。国の交戦権はこれを認めない」。どう見ても「戦争しない」と書いてあります。もめ事は軍事力で解決しないというのが、この国の憲法です。


3.安倍政権の教育観

 教育に対する統制強化がいろいろ進められています。6月に教育委員会法が改悪されました。教育委員会というのは、行政とは別の所で教育はちゃんと進めましょうという組織です。これは戦争中に、もう国が教育の内容を決め、国にとって都合のよいことを子ども達に植え付ける。軍国主義教育です。「この戦争は正義の戦争だ」「さあみんな、命を投げ出しましょう」それで2000万人を殺す侵略戦争をやった訳です。そんなものはあってはならない。国が教育権をにぎると、ついつい自分に都合の良いことばかり教えることになる。だから戦後は、教育の内容は教育の専門家が決めることにしようと言って、行政と教育委員会をそれぞれ別の組織にした訳です。ところが実態は、教育委員会の長を決める時に、政治が介入してきて、政治に都合のいい人間を決めるということがあちこちで起こり、「教育委員会は反動的だね」みたいなことがいろいろ起こりました。ところがこの法案で決められたのは、教育委員会の長は自治体の長が決められるようにしましょうということです。ですから、教育を行政の下に置くということが決められました。

 二番目は、愛国心教育の押しつけです。教科書採択を、行政にとって都合の良い教育の教科書を採択しやすくするということです。それから異常な競争教育の持ち込み。要するに教育を政治の道具にするという方向性です。ですから一人一人の人間は、人間としてきちんと大人になる、人格を発達させる目的は、二の次、三ノ次になるわけです。国に奉仕する子どもをつくることが、教育の目的であり、教育者はそれを行うのが仕事である。

 これも今年の夏ぐらいですが、超党派による「人格教養教育推進議連」の発足、「道徳の教科化を後押し」最高顧問安倍晋三、野田佳彦、会長代行田村憲久、副会長山谷えり子、どう見ても右派グループである訳です。この右派グループが、こともあろうか子ども達の人格教養教育を推進しようと、「国のいうことを聞きなさい。大人のいう事は聞きなさい、長いものには巻かれなさい、国家のために生きなさい」という路線です。それを教科として、要するにマルペケをつけたい訳です。

 歴史の問題について、高校に「近・現代史」を新設したいのです。「日本史」の必修化について私は一般論としては賛成です。今、大学に入ってくる子ども達は、日本が50年間侵略戦争をしたことや、戦後日本は7年間アメリカに軍事占領されていたことなど全然知らないです。だから、そういう子ども達に、きちんと真実の近・現代史を全員に教えるというのであれば、僕はとても結構なことだと思います。ただ、大問題は安倍政権だということです。ここに出てくる「近・現代史」は、彼らが大好きな自由社とか扶桑社とかの教科書で、かつての戦争を肯定する方向にいこうとしている。「日本の今後のエネルギーの未来は原発にかかっている」とか書いてあります。そういう教科書を平気でパスさせている政権が「子ども達に近・現代史を教えたいのです」と言う訳ですから、当然内容についても相当介入をしてくることになります。

 大学への介入も深刻です。今年の6月20日に、学校教育法国立大学法人法改悪案というのが成立してしまいました。これは何だというと、大学も、戦前、帝国大学として学徒動員の推進の役割を果たした訳です。それで戦後は、学校の基本方針は全部教授会で決めるということになりました。僕の勤めている学校では、たとえば学費をいくらにするかとか、何人入学させるとか、今年の成績からどこまで卒業生にするとか、全部教授会で決めます。100人集まって相談します。学長は、それを執行する責任者です。議決権は教授会にあるというのが戦後です。それを全部学長が決めていいとなりました。なぜこれをしているかと言いますと、文科省が全国にある600ほどの大学を、指揮下に治めたいと、学長の頭さえ掴めれば、日本中の大学は言うことを聞かせられるという状況にしたい訳です。そのための法律です。


4.若い世代の変化

 こういう時代の中で、少し若い世代に変化が起こってきています。今回の選挙を前後して、「サスプル」という団体が少し話題になりました。8月15日の東京新聞の一面です。「集団的自衛権おかしい。機密法反対、声挙げる。8・15若者の覚悟」9条の9です。ここは若い人だけのデモに、人が何人集まるようになっているかだけの特集です。なんでこんな記事が出たのかというと、集団的自衛権の閣議決定があった後、若い世代の世論が一番大きく変わりました。7月の段階では、集団的自衛権について一番鈍感なのは若者です。ところが7月に集団的自衛権を実際に閣議決定した訳です。そのことにビックリして、一ヶ月後に調査したら、前月まで反対5割だったのが、反対7割にふくれあがりました。社会状況の変化に、一番敏感に対応するのは若い世代です。

 機密保護法反対のデモです。サスプルという団体ですけれども、組織でなくネットで個人の呼びかけです。僕も私も秘密保護法おかしいと思うから、渋谷辺りに集まってくる訳です。トラックの荷台にいっぱい音楽機材を載せて、荷台に次々学生が上がります。マイク持って、「どうして僕や私は、この秘密保護法が気に入らないか」という話をする。2000人の隊列です。2000人の隊列に向かって、語りかけるのです。なかなか感動的です。一人一人が集まって、こういう動きが行われています。ツイッターで「確定です、気合い入れていきましょう。どうせ負けるとかしょっぱいことを言ってないで、出来ることをやりましょう。次につながることをやって行きましょう」「まあつまり選挙に行けよ」ということを書いています。こういう若い世代の動きが起こっている訳です。

 ですから、政治って権力者の思った通りには進まないのです。いつだって権力者と国民との激突の中でしか、政治は進まないのです。


5.「改憲」を第一にした自民党

 今、「自民党は、なんでこんな右よりなのだ。あれは安倍さんの個人の思想か。でも廻りもみんな同じ事を言っている」というのがあります。確認しておきたいのは、「自民党は綱領を変えている」という問題です。2010年に綱領が変わっています。それ以前とそれ以後でだいぶ違います。何がきっかけかというと、2009年に民主党に政権を奪われたということです。そのあと自民党は一時期、ガタガタになります。その時ストップをかけたのは財界です。財界は、民主と自民で二大政党制だと言って、2004年から両党に金を渡して育ててきました。2009年選挙直前の財界通信簿は、民主は普通の子ども、自民党はとてつもない優等生だったのです。財界通信簿というのは、およそ10項目についてAからEの5段階評価です。自民党の評価は、10項目のうち7項目が5です。残り3科目は4です。すごい奴です。つまり、日本経団連から見たら自民党はほぼ完璧な「いいなり政党」です。ところが民主党は、3が一番多くて、4がちょっとあって、2もちょっとある。どこにでもいる普通の子です。だから、そのどこにでもいる普通の子に財界としてはすべてを託すのが怖かったのです。で、自民党に「もう一回、おまえらタガ締めろ」と指示する訳です。それで自民党の中で議論が起こり、1年後にこの綱領です。まとめた責任者の一人は、伊吹文明です。前文では「我が党は選挙敗北の反省の上に、日本らしい日本の保守主義を政治的に再出発する」と言いました。「日本らしい日本の保守」、これがはっきりわかるのは、2年後、2012年に出てくる「改憲案」です。「天皇を頂点にした国づくり」ということです。自民党は、それを政治理念として再出発する。新綱領の第二項目は「我が党の政策の基本的な考え方」、第一に、「日本らしい日本の姿を示し」天皇中心型の日本の姿を示し、「世界に貢献できる」軍事力で、「新憲法の制定を目指す」と書かれています。

 「自民党はどういう政党ですか?」と聞かれた時の、今100点満点の答えは「改憲政党だ」ということです。「改憲って、どう変えるのですか?」と言われたときに、「天皇中心にして、戦争する」ということです。ですから彼らは、いつでも改憲を真っ先に、戦略の中心に置いてくる訳です。「改憲は一番やりたいことだ」とはっきり決めた訳です。

 新綱領では「一国平和的観念論廃止」ですから、「9条なんてダメだよ」と言っている訳です。こんな日本語考えたなと思うのは、「自助自立する個人を尊重する」と言ったのです。尊重するも何も自助自立できているのなら、国が手を出さないだろうと思うのですが。「自助自立できない人間は、この国は尊重しません」と言っている訳です。だから「生活保護なんか受けんと、死ね」ってことです。「じゃあ、国民はどうやって生きたらいいのですか?」、「家族で抱き合え」と書いてあります。だから生活保護法を改悪して、「本人貧乏だ」という書類だけではアカン。一族郎党、みんな貧乏書類を持ってこい、と言うふうにしています。もうその線にもとづいて、この国の制度を変えていっています。

 改憲案ですが、もう2年半前に出ているものです。前文「日本国は国民統合の象徴である天皇を戴く国家」、「戴く」というのは国語辞典を開くと「頭の上に置く」ということです。つまり下々とは別格だということです。そしてそういう国を「末永く子孫に継承するため、ここにこの憲法を制定する」。憲法制定の最大の目的は、「天皇中心の国をつくる」ということです。では、天皇が中心であるというのは、いったいどういう意味でなんでしょうか。第一条、「天皇は日本国の元首である」。元首って、国語辞典で引くと、「その国を対外的に代表する者」だと書いてあります。もう一つすごいのは、さきほど紹介した「憲法擁護義務」です。ここから天皇を外すのです。だからこの国の元首は万世一系で決まって、なおかつその元首は現法を守らなくてよくなるのです。「憲法の意味がない」ってことです。普通の日本語では、こういうものを独裁者と言います。それをつくりたい訳です。それを安倍さんは「美しい国」と言うのです。ここで補足しておかなければいけないのは、今の天皇は繰り返し言っています。「私は日本国憲法の定めるところの天皇の役割を果たしてまいります」。7月17日に集団的自衛権を決めました。その1カ月後の8月15日の終戦記念日に天皇は、「最大の教訓は、二度と戦争をしてはいけないことです」とはっきり言いました。それからこの間の皇后さんの誕生日の時に、皇后も「紛争の芽は、芽のうちにつみとることが大切です」まで言いました。つまり外交で処理しろと言っている訳です。つまり、今、宮内庁と官邸は、けっこうな政治的緊張関係です。だから安倍さんの周辺で、たとえば八木秀次氏が今年の4月の正論という雑誌で、「天皇は左翼か」みたいなことを書いています。だから安倍さんは、今の天皇が好きなんじゃないんです。頂点に一人の人間がいて、その人が右だと言えば、全員が右に行き、左だと言えば、全員が左に行く、「死ね」と言えば、全員が死に行く。そういう「団結」した集団を美しいと思っているのです。恐ろしいほどの時代錯誤です。その時代錯誤が首相を務めているのが、この国です。今の憲法には「戦争しません」とあちこち書いています。改憲案では削除です。「再び戦争の惨禍」「恒久の平和」、全部削除です。理由は簡単です。集団的自衛権で踏み込むからです。

 「全世界の国民が平和のうちに生存する権利」、これを削除しました。理由はなんだ、「オレがミサイル撃ちに行くから」ということです。「お前の国に行くかも知れないから。お前にそんな権利はない」という訳です。代わりにいろんなことが憲法の前文に入っています。「国と郷土を誇りと気概を持って自ら守る」。「家族で助け合え」と言っています。「国に頼るな」ということです。それから「活力ある経済活動を通じて国を成長させる」ですから、「ともかく大企業はもうけさせんとあかん」ということを、憲法前文に書き込んでいます。

 9条をどう変えるかということです。「戦争しない」はもちろん削除です。その上で国防軍は、「第1項の任務の他」と書いてあります。「国防軍」、自衛隊が軍隊に名前が変わった訳です。「第1項の任務」というのは、「独立を守る」。ですから外から攻めてきた者がいて、そこから守りますというのだったら、日本国民の多くは「うん、それはしんとしゃあない」となります。ところが「その他」と書いてあります。任務が二つあります。一つは「国際協調して行う活動」、要するに米軍といっしょにやる活動ということです。日本に130米軍基地があって、1年365日のうち250日は、日米共同演習をしている訳です。それからもう一つ重大な問題があります。「公の秩序を維持する活動を軍隊が行うことができる」と書いてあります。「公の秩序とは何だ?」、定義はないのです。でもこの改憲案を見る限り、要するに天皇を頂点に戴く国の形です。それが「公の秩序」。それを守るための活動ということですから、それを壊そうとする者がいることを想定している訳です。壊す者はどこから来るか、外からか、外からだったら第一項の任務にもう書いてある。ということは内からしか考えられない。つまり、「天皇を頂点にする体制はいや、天皇制は止めてみんな平等でええやないか」「主権在民でええやないか」という人間が出て来たら、国防軍が出る、と言っている訳です。戦前といっしょです。

 12条です。「国民の自由・権利は公の秩序に反してはならない」、つまり国が上にある。国が与えた範囲で、下々は生きていけ、という憲法です。今の日本国憲法は違います。今の日本国憲法は、国民の権利が上にある。国が下から支えますとなっている訳です。だから生存権は国が守ります。教育を受ける権利は国が守ります。労働条件は国が守りますって書いてある。それをひっくり返すと言っている訳です。幸福追求権も国が定めた範囲で、と言っています。信教の自由は、2000万のアジア人を殺すために動員された、活用された訳です。それで、国家が宗教を手元に置くとロクなことにならない。教育といっしょです。自分の目的のために使って、ロクなことにならない。だから国家・地方自治体は特定の宗教活動をしてはいけないことにしよう、これが今の憲法です。そこに自民党は付け加えるのです。「社会的儀礼または習俗的行為はこの限りでない」。OKにしようという訳です。じゃあ今の自民党の幹部達がやっている宗教に関する社会的儀礼または習俗的行為にいったい何があるか。結局「靖国参拝」しかありません。靖国を憲法化するんです。だから廻りの国から文句を言わさない。日本国内からも文句は言わさない。ご存知のように靖国神社は、未だに明治から昭和までのすべての戦争を「正義の戦争だった」と言って、それを国民に普及するための、ナショナルセンターになっています。

 第21条は「結社の自由」。「公の秩序を害する結社は認めない」。72条新設、「内閣総理大臣は国防軍を統括する」。第90条、「緊急事態の宣言」と言いまして、要するに「戒厳令」ですよ。何か重大事態があった瞬間は、法律全部一旦止めて、「国民のみなさん、権力の言うことを聞いて下さい」というやつです。どういう時にそうするか。外部から武力攻撃があった時、大規模な災害があった時、もう一つ、「内乱による社会秩序の混乱があった時」。内乱を起こすのは、国民です。でも国民は、天皇を戴く下々ですから、下々が戴いている人に対して、反乱を起こしてはならない、ということです。その時は、戒厳令を敷いて軍隊を出します、ということです。


6.日本の歴史問題

 なんで日本社会では、民主主義を守る、平和を守る力が、なかなか発揮しないんだろうかという問題があります。これは日本の歴史問題です。実は、憲法というものが国家権力をしばるようになるのは、資本主義が生まれてくる過程での事です。それまで世界に憲法なんて存在しないのです。権力者をしばるルールなんてないのです。近代になるのは、封建制の身分社会が壊れていって、議会と民主主義と自由と博愛が必要だ、という人たちが出て来て、そしてフランスのようなブルジョア革命が行われていく、その過程です。その過程で、最初に出来上がる憲法が、「近代憲法」と呼ばれるものです。そのあと20世紀の半ばぐらいから出来上がっているのが「現代憲法」と呼ばれています。憲法には二種類あって、近代憲法の特徴は「自由権」です。それは何からの自由かというと、その前の身分制社会からの脱却を意味しています。拘束されない、拷問にかけられない、職業選択の自由、移転の自由、身分の自由です。ところが自由だけでは人間は、幸福になれないということに、人間は気づいていく訳です。きっかけは1871年にパリコンミューンというのが労働者階級の権力が、瞬間的にできます。フランスで。その時に、フランスの労働者たちが「自由だけではオレ達は貧困の中であえぐだけだ」と。「生きるための最低限の暮らしを国が守らないとダメだ」ということをハッキリさせるのです。生存権です。いわゆる「社会権」という奴です。国民が国家に対して、「オレの幸福を実現しろ」と求める権利、これが社会権です。それが初めて憲法の中に書き込まれるのは、1919年のドイツのワイマール憲法です。それが世界全体に広まる。だから日本国憲法の中にも、生存権、教育権、労働権という自由だけではなくて、社会権が入れられている訳です。

 ところが、日本の憲法を見ると、日本は二つ憲法を持っています。実質的に言えば、近代憲法と現代憲法です。近代憲法、大日本帝国憲法、国民の自由はほぼ皆無です。何も書かれていません。これは憲法学者の世界では、近代憲法の中の最も後進的な、異端的な憲法。それはプロシア憲法と日本と言われています。日本はプロシアに学びました。だから王さま中心の憲法を作ったのです。権力をしばるのが憲法のはずですが、権力に全権を与える憲法です。その中で、多少、自由民権運動等があって、自由権を求める取り組みがあったというのが、日本の戦前の実態です。ヨーロッパはこの時代には、もう自由権だけではダメだ、社会権が必要だと人民の運動が進んでいった段階です。ところが日本国憲法は、世界のすぐれた憲法のあちこちを全部総合してつくられた憲法ですから、すごい最先端憲法です。「人権は侵すことのできない永久の権利」が繰り返し出て来ます。自由権だけじゃなくて、社会権も出て来ます。経済活動は、財産権について、公共の福祉という制限は、すでに入っています。男女の平等です。戦争放棄です、すごい内容です。

 ところが日本国民は、戦前まで自由権すら満足に考えたことのない民族だったので、戦後いきなり社会権まで与えられたら、どうなるか。意味がわからなかったのです。その意味がわからないので、奪われていくことに痛みを感じないのです。生存権を奪われることの重大性がわからない。労働権、労働条件を国が定めているのが、今、壊されていっている訳ですが、それが奪われていることの重大さがわからないです。だから、今の安倍暴走に対して、ただちに機敏に反応することになっていない弱みがあります。


7.安保条約の縛りと克服の道

 戦争の問題で、侵略戦争を肯定し、あのような時代に戻りたいという衝動と共に、もう一方で強く表れているのは、強い国になっていく上で、日本は自力ではなかなか難しい。そこで外圧を利用して海外に軍隊を出していける国になろう。弱い外圧は、世界と一番強い奴と組もうというのが日米安保路線です。そして日本の保守派はアメリカに従属することを自分たちに納得させている訳です。安保条約です。日本とアメリカとの国家間の約束です。第6条です。「アメリカ合衆国は陸軍、空軍、海軍が日本国において施設・区域を使用することを許される」と書いてあります。これが国の約束です。だからアメリカからすれば、「何お前ら、普天間がイヤだと言うのか。」と言って、アメリカさんが沖縄の地図を広げて、「じゃあ今度はここに基地をよこせ」と言ったら、日本政府は「イヤ」と言わない訳です。「そうですね、お約束ですから」と言う訳です。これに反対するのは、常に国民の側になっている訳です。これが日米関係の実態です。そもそも、あの「美しい国」と言っている人たちは、戦時中「鬼畜米英」と言っていた訳です。「アメリカこそが最大の敵だ」と言っていた訳です。でも、その思想を脈々と引き継いでいるはずの彼らが、今、アメリカに従属して生きていくという。どう考えても両立しないだろう。だけど現実政治の中では両立させるしかないのです、という妥協路線をとって、この国の権力者になっている訳です。

 例えばうちの学生たちは、生まれた時からすでに安保条約があって、というよりも、自分のお父さん、お母さんが生まれた時から安保条約があってという世代ですから、「これはもう変わらないのですか」「日本からアメリカの基地はなくならないんですか」と言います。でも無くし方は書いてあるのです。日本がアメリカに「やめる」と言ったら、1年後に安保条約はなくなります。「この条約は10年存続した後は、いずれの締約国もこの条約を終了させる意思を通告することができる」。「通告」というのは、合意ではないです。知らせればいいってことです。「その場合にはこの条約は、通告後1年で終了する」と書いてあります。それはすでに合意されている訳です。同じことで止めたのはフィリピンです。フィリピンはずっとスペインの植民地だったのを米西(西班牙)戦争でアメリカが奪って、アメリカの植民地でした。戦後もずっと米軍基地がありました。今のアキノさんのお母さんが出て来て、「ラバン」と言って、「自由」と言いながら、米軍基地を全部追い出した。それでアメリカとフィリピンは戦争になったのか、全然ならないじゃないですか。オバマさん、今でもアセアンの帰りの時に、フィリピンの大統領と握手しています。という関係をつくりました。日本だってそれが出来るのです。要するに「それをしてもいい」という国会議員を、いっぱい国会に送り込むことができれば、このアメリカに対する従属関係から抜け出すことが出来るんですけど、全ては国民の判断です。


8.なぜ侵略や加害を正当化する動きが強いのか

 なぜこの国で、侵略や加害を正当化する動きがこんなに強いのか、という問題です。基本線は、侵略戦争をやった連中が、戦後の支配者に残っているからだという事です。これが一番の基本です。ドイツとの決定的な違いです。ドイツは「ナチスは根絶やしにする」というのが戦後のスタートラインです。しかもそれはアメリカやイギリスやフランス、ソ連が求めた訳ではなくて、ドイツは自分の国で裁判をやりました。我がドイツにこんなバカな思いをさせたのは誰だ、とナチスに対する告発をしました。日本は日本人によって戦争犯罪を裁いたという経験はありません。それどころか、占領軍が、一方的にやったのがあの裁判だというふうに、難癖をつけています。なぜ難癖をつけるか。それは例えば、この国の政権を一貫して握っている自民党、自民党の初代幹事長は、岸信介という人です。安倍さんの母方のおじいちゃんという人です。岸信介という人は、戦争中一つは、満州国を統治した日本人のナンバー2です。植民地支配、植民地経営をやった張本人です。それから、その後日本に戻ってきて商工大臣になります。商工大臣になって彼がやったことの一つは、アジア太平洋戦争を始めた瞬間の商工大臣だったということです。もう一つは、この戦争の中で日本の男子が全部アジアに行きますから、国内に労働力がなくなる訳です。で労働力を、中国人強制連行をおこないました。ですからこの男は死ぬまで、「あの戦争は、別に不正義の戦争ではなく、自存自衛のための、この天皇の国を守るための生命線をたまたまちょっと外に広げていっただけである。あれは正義の戦争だった」という考え方です。その人間が、戦後つくった政党が自由民主党です。そこの戦争犯罪に対する裁判は、アメリカが途中で「投げた」のです。投げた理由ははっきりしていて、戦後、日本をアメリカいいなりに作り変えたいというふうに、占領政策が転換したので、そこで、いいなりになってくれるなら、どんな奴でもいいよ、と言って巣鴨の刑務所から岸信介を、1948年の12月25日に、「クリスマスプレゼントだ」と言って出しました。いっしょに出て来たのが笹川良一と小佐野賢治です。同じ日に、同じ場所から出て来た。戦後の親米右翼です。ソ連・中国・日教組の悪口はさんざん言うが、絶対アメリカの悪口は言わなかった右翼です。それが日本の戦後をつくってきた訳です。

 その自民党の中で、2世、3世に対して、ずっと歴史教育が行われていく訳です。この人たちが権力者ですから、末端の兵隊たちは、「オレは天皇の赤紙でいやいや戦争に行ったんだ。天皇も謝らないし、あの時の将校も誰も謝らないのに、なぜ末端のオレが謝らならんのだ」という空気が日本社会に蔓延する訳です。だから52年に、米軍が、日本の軍事占領を止めて帰る瞬間に、日本ではB・C級戦犯の「恩赦」の署名が、2000万も集まることになる訳です。「全員、牢屋から出してやれ。あの人ら悪くないよ」これが戦後のスタートラインです。

 だから日本国民というのは、あの侵略戦争を「侵略戦争でした」というふうに、全体で議論して認めたという歴史を持っていないのです。すごく大きな弱点を持っています。 メディア、朝日・毎日・読売、戦後経営者は一時的に辞職しましたが、全員復帰しました。「一億火の玉、死んでいけ」と書いていた人たちが、戦後「今日から民主主義です」と言って新聞書いていたのです。財界人もいっしょです。財界人も「産業報国」と言って戦争に協力した人間が、戦後、経団連をつくっていきます。ですから、その人たちは、じいさんと同じことを言う訳です。「先の大戦で東京裁判という勝者の判断によって断罪された」と。「オレたちが勝っていれば、あんな判断はなかったのだ」と言いたい訳です。


9.靖国神社の役割

 去年、今年も、学生といっしょに靖国へ行ってきました。去年はちょうど「御霊祭り」でした。三日間のお祭りです。何も知らない若者からすると、単なるデートコースです。あの綿菓子も売っていますし、リンゴ飴もありますし、お面もありますし、境内にずらっと並ぶ訳です。その奥に並んでいたのは提灯です。「みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会」右から左に並んでいましたけれど、谷垣禎一というのも書いてありました。1万1000円カンパすると、提灯に名前が書いてもらえるという「名誉」が与えられるのです。数えたら前1列で9個ありました。9万9000円です。10万円です。ということは、横に10列行くと100万円です。見える範囲で億の単位です。これが境内の中に入ると、今度は提灯じゃなく、相撲取りの手形、それから漫画家が色紙に一つ漫画を書いたやつ、これはカンパ、奉納です。お金をあげるから飾って下さい、というものです。ですから、この祭りだけで、数億の金が、毎年定期的に靖国神社には入ってくるのです。そして靖国神社は、大量のお客様を迎え入れるために、今、駐車場の整備を進めていますから、駐車料金も毎日入って来る訳です。すごい金が入ってきます。こういう金を定期的に、もう何億の単位で、与えたくて仕方のない人たちがいるのが日本社会です。

 ですから、日本の社会とか政治の問題を言うときに、「アメリカいいなりけしからん」「財界いいなりけしからん」その通りだと思うのですが、もう一つ、侵略戦争を正当化する力がきわめて強いというのが、この国の特徴である。その特徴と、正面からちゃんと闘う、征していくという取り組みをしないといけないと思います。


10.従軍慰安婦問題

 歴史の中で引き起こされたひどい犯罪が慰安婦問題です。慰安所はすごくパターンがいろいろですから、これが決まりだというふうに思わないでほしいのですが、この人たちは見物ではありません。順番待ちです。順番待ちで、服装に特徴があります。それは足下のゲートルを外しています。ゲートルというのは分厚い包帯みたいな奴です。裾がひっかかってこけたりしないよう、水が入らないように、蛇が入らないように、グルグルッときちっと止める訳です。で、全員はずしているのは何故ですかというと、オレの順番がきたら、すぐにズボンが脱げるようにしているということです。で、次々レイプを繰り返して、そのための順番待ちだということです。被害者十数万とも言われています。右派の方でよく「資料がない」とか言いますけれど、資料集何冊も発売されているという話です。軍の資料で最初に確認される慰安所は1932年の上海に、ということは、満州建国の頃です。海軍の陸戦隊が上陸して、つくったものが最初です。私が学生といっしょにナルムの家とか韓国に行って撮ってきた写真ですが、実際に使われていた金だらいとか、軍が配分していたコンドーム、もう風化してボロボロになっていますけれど、現物がいっぱい残されています。

 今で言うミャンマーから中国に入った辺りで、日本軍は伝令一人を残して全滅。その周辺を逃げていた女たちが捕まえられた。当然米軍は日本人だと思う訳です。でも聞いてみたら違う。朝鮮人だ。「何でお前らこんな所に」という所から、アメリカ軍は戦時中に、「日本の軍隊には慰安婦制度というものがある」ということを知っていきます。当時の米軍の兵隊が読む新聞に、「コンフォート・ガールズ」という名前で紹介されています。文字通りの慰安婦です。米軍は事情聴取する訳です。その資料が、いっぱいアメリカに残されています。慰安婦になった人たちは、どういう所にいた人たちですか、という問題です。いろんな公的資料で、すでにたくさんのものが確認されています。被害者には10代後半の子どももたくさんいます。証言には、一日数十人によるレイプというものもあります。めずらしくないです。東京の早稲田に「女たちの戦争と平和資料館」という慰安婦問題専門の、日本唯一の資料館があります。そこが作っている「慰安所マップ」があります。テンテンテンと赤い点が400カ所ぐらいありますが、慰安所が確認されている場所です。資料集もいっぱいあります。「従軍慰安婦資料集」などは、誰でも手に入るものです。

 かつての侵略戦争を肯定する人たちが政権の中枢にいて、そして侵略戦争を肯定する人たちの影響力が、日本社会の中には非常に強くあって、その強くある力を自覚して、我々が取り組む必要があります。さきほども学生といっしょに取り組んでいるという話を紹介させていただきましたけれど、たとえば学生達といっしょに3泊4日で韓国へ行くよ、というふうにします。学生達は、多少はバイトもします。でも全額は作れません。お父さん、お母さん、3万円お金を、みたいになる訳です。夏休みです。そうすると親が「韓国へ行って何を勉強するの」となります。「慰安婦問題です」となります。その瞬間に親はどんな反応をするか。典型的だなど思ったのは、一人の親は、その瞬間に、大東亜戦争はいかに正しい戦争であったかという大演説が始まったそうです。娘と父親で、一年間、ずっと家庭で論争したそうです。これが平均的な家庭の姿です、日本の社会の。あとは、家庭でそれを言った時に、おじいちゃんがこう言いました。「お前が行って勉強してくるのは勝手だ。だがわしはあんな国のお土産はいらん」と。アジアに対する蔑視の思想がそのまま残っている訳です。これが日本社会です。だから、何かその取り組みをやってみたら、簡単にその社会の厚い壁が、学生にも来る訳です。


11.政治を変えていく力

 そういう力を押し返しながら、政治を変えていく。そこはいろいろ抵抗が強いのだなと、よく理解した上で、押し返していく取り組みをする必要がある訳です。覚悟がいります。とはいえ、日本社会で今の安倍さんに対する、安倍さんのような歴史観・教育観を「是」とする人は多数派ではありません。改憲については、反対が多数です。産経新聞の調査でさえ、反対派が多数だっていうのがミソです。NHK、7月1日の閣議決定の後の調査ですが、閣議決定評価する38%、評価しない54%、9条評価する76%、評価しない16%。これで安倍さんたちは苦労している訳です。国会では多数をにぎれそうだが、国民がいうことを聞かん、という所で苦労している訳です。
 私たちは、みなさん方は勉強されるということは日常的なこととしてされている訳ですが、今の社会をどう捉えて、今の社会をどう作り変えていくかということについての勉強もしていただきたいと思います。新聞を読むだけではなくて、社会科学をきちんと勉強していただくということです。日本の社会は、なぜこうなっているかということについて、勉強していただくということ。

 もう一つは「発信する」ということです。先ほどのサスプルの運動なんかは、ネットで全国につながっているような運動ですけれど、そこに、この国の平和・民主主義を守るために体を張ってがんばったぞという人たちの声が登場しないんです。なぜならば、インターネットが苦手だからということです。「ツイッターはしたくない」とか「フェイスブックはしたくない」とか言う訳です。娘、息子、孫に教えてもらえばいいじゃないか、という事です。僕57です。何で出来るかというと、学生がいるからですよ。学生に教えてもらっているからです。教えてもらえば、誰でも出来るようになりますから。

 今回の選挙は、共産党伸びました。NTTの調査ですが、「政党別で、どこが一番ツイッターを活用していましたか」、共産が一番、二番が民主、要するに得票数がぐっと増えた所が一番ツイッターをがんばっています。これはもはやビラを配る能力があるのか、電話かけをする能力があるのか、同じレベルの問題ですから。「ツイッターはちょっと」と言っていると、「あれはビラが配れないのと同じだね」というふうに言われる時代が、もう目前まで来ています。みなさん、そう言われないように、がんばって力をつけて下さい。

 これで終わります。どうもありがとうございました。


 
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              2015年3月発行
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