事務局   2011年度年報もくじ

学力・教育課程研究会

《2011年度活動のまとめ》
                  小野英喜(学力・教育課程研究会事務局)

 
 1. 2011年度の活動の方針
   今年度の活動方針は、次のテーマで研究活動を進めた。
(1)改訂学習指導要領と教育評価の問題点を明らかにして、改善の展望を明らかにする。
 2011年度は、中学校と高等学校を重点に取り組む。
(2)子どもの学力の変化を明らかにするため、各種の調査結果を収集し資料として配布する。
(3)学習指導要領の改訂に伴う小学校から高等学校までの教育課程編成の課題を検討する。
(4)学期に一回の例会を計画する。各種民間研究会と合同して、「学力・教育課程研究会」を例会として開催する。
(5)研究部会委員の拡充と恒常的参加の体制を作り「委員の拡充によって部会の研究体制づくり」と、部会のニュース『学力・教育課程研究部会便り』の発行を続ける。
学力・教育課程の「資料配布」を会員からの情報提供を受けて積極的に進める。
 
2. 総括
   (1) 部会の研究活動について

 学力・教育課程研究部会は、4年目を迎えた新体制の下に研究活動を進めることができた。昨年度に引き続き、学習指導要領の改訂に伴う教育課程づくりと、小・中学校の検定教科書の課題や問題点の研究を進めることができた。また、部会員に限定した拡大事務局会議を3回、研究会を2回実施し、昨年度に引き続き部会の活性化をすすめた。

 今年度の活動方針にかかわって、(1)と(3)については、下記の通り独自の研究会と京都教育センターの研究会の第三分科会の成功のために取り組むことはできたが、本年度の研究テーマに沿った研究活動を十分行うことはできなかった。

 (4)の部会の研究活動については、「学期に一回の例会を計画する」ことは、できなかった。 (2)の「学力の変化を各種の調査結果を収集し基礎学力の内容を確認」することは、3月11日の福島第一原発事故を教育課題としてどのようにとらえるかを検討することと合わせて、原発や放射線等についての大学生の知識がどの程度あるかを調査した。その内容を、京都教育研究集会や大阪教育研究集会の「発達・学力・評価分科会」、京都教育センターの研究会の第三分科会でその結果を明らかにして、教育課題を提起する資料にした。

 (5)の「委員の拡充による部会の研究体制づくり」は、新しく事務局に加わっていただいた部会員の積極的な参加と研究部会を推進する体制作りとともに内容の充実を図ることができた。部会のニュース『学力・教育課程研究部会便り』の発行は、2回に止まった。

 学習指導要領と教科書問題については、昨年度に引き続き京都教育センターとの共催の形で、公開学習会を開催し充実した研究会になった。一昨年度は、部会や公開研究活動を合わせてのべ69人、昨年度は4回の研究活動でのべ73人以上の参加者を得たが、今年度は独自の研究活動が一度だけであり年間での部会研究活動の参加者は約50名に止まった。

 今年度は、「国語の基礎学力とは何か」をテーマにして、小学校国語科の改訂学習指導要領と新教科書の検討を深め、下記の一覧表のとおり研究会を実施した。

 来年度は、引き続き中学校と高等学校の内容についても、算数・数学科、理科、英語科、芸術科、技術・家庭科、体育科等の教科について「義務教育段階における基礎・基本的な学力とは何か」の研究活動を進めることが必要である。さらに、事務局会議では、当面する事務的な課題だけでなく、テーマを設定せずに研究協議をすることができた。この取り組みは、来年度以降の取り組みにつなげていくことが大切である。

2011年度の年間研究会のまとめ
 回  日 程  内 容  報告者等
 第1回
事務局会議
4月24日
参加者8名
2011年度の方針と研究課題についての協議と学習会 ・学力問題の協議から、学力は「保障」するものかどうか、「保障」できるのかが話題になった。
第2回
第一回公開研究会 
7月3日
参加14名
テーマ・
国語の基礎学力とは何か 
1.「義務教育段階における国語の基礎・基本的な学力とは何か」
提案者・西條昭男先生(教育センター)
2.「改訂学習指導要領による国語教育はどうなっているか」
報告者・現役小学校の先生 
第3回事務局会議  10月10日参加7名  12月25日の分科会の構成と内容  「基礎学力とは何か」を協議、来年度も研究課題にすることを決める。 
第4回事務局会議  11月13日
参加5名 
12月25日の分科会の役割分担等  司会、基調報告者等の役割分担を決める 
第5回
センター研集会
第3分科会・第二回研究会 
12月25日
参加14名 
テーマ
「今日の教育課題としての学力の基礎と教育課程を考える」
基調報告・小野英喜 
【分科会レポート】
@「南アメリカの識字学級とキューバの教育事情」大塚冨章先生(元京都市立小学校)
A「原発事故と学校教育―文部科学省の副読本をめぐって―」
市川章人先生(府立高等学校)
B「原発問題の授業をどのようにすすめるか」辻健司先生(市立双ヶ丘中学) 

(2) 事務局会議

 第一回事務局会議では、昨年度は4月24日の沖縄県民集会における日米軍事同盟に対して新しい歴史をつくる大きな動きになっていることが話題になったが、今年は、3月11日の東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故が話題の中心になった。その中で、中学・高校の生徒だけでなく、大学生が地震や活断層やプレートテクトニクスなどの地学の基礎知識が身についていないことと、原発や原爆や放射線などの基本的な知識・理解がないため、テレビや新聞などの報道の内容が理解できていないことが具体的に示された。

 学習指導要領が改訂されても、社会生活に必要な知識の欠落という傾向は、改善されないことから、教育課程の課題のひとつと位置づける必要がある。「科学的な認識」をめざす私たちの取組みからも、すべての子どもたちに正しい知識を身につけさせ、社会問題について科学的に判断できる大人に育てることが、私たちの研究課題であることを確認した。これを研究テーマに加えて、センターの研究集会の分科会で取り上げることができた。

 参加者の意見として、文部科学省作成の「放射線副読本」に対する私たちの「副読本」を作成する必要性が強調され、本部会の来年度の研究テーマとして取り上げたい。「副読本」の検討や製作などの具体化は、各種の民間研究会と京都教育センター事務局との合同の取組みとし発展させたい。

(3) 研究会


 改訂学習指導要領に基づく教育活動が始まり、学校現場は極めて多忙な状態に置かれている中で、第一回の研究会を「国語の基礎学力とは何か」をテーマにして開催できた。

 最初に西條昭男先生から「義務教育段階における国語の基礎・基本的な学力とは何か」について提案があった。

 〔1・私の問題意識〕では、「大震災と原発事故を受けて、『安全神話』や、誰が何のためかがわからない『がんばれ日本』や、テレビで原子力安全委員会や東電がくり返す『・・すみません』に関して支配者はリアリティーのないことばで庶民を支配している。明日を生きる希望とことばの教育が必要である。」と、〔2・国語教育の危機〕では、読みの時間の削減で「読まない、書かない国語教育」や「態度主義や話型が効率的な伝達の手段として押し付けられ、伝え合うという言葉の役割がなくなっている」、特にPISAが持ち込んだ「読解力」が現場を混乱させていることを、具体例をしめして述べられた。

 西條先生は、〔3・国語の基礎・基本的な学力〕として、「言語としての漢字指導・音読指導・語彙・敬語・文法指導を挙げ、文章を読み取る力、作文ではなく短くまとめる書く力」を育てる。「基礎・基本を段階論でとらえるのではなく、相互に影響しあうものであり総合的にとらえる。例えば、作文と文字指導では、文字が書けないことは一つのつまずきの要因になるが作文が書けないのではない。描きたいという気持ち、書いて伝えたいという生活があるかどうかによる。」ことを強調された。

 〔4・新しい世界を開く国語教育を〕では、「学ぶ楽しさや喜びは、未知の世界が開けることにある。そのためには、@言語教育として新しい言葉を獲得させる、A文学教育として形象を読む。言葉にこめられた心情や生活を読み、新しい世界を体験させる。B説明文教育では、言葉によって展開される新しい世界を獲得する。発想、考え方を学び、批判精神を培う。C作文教育では、生活の中から題材を見つけて自分の言葉で書く、物事・対象をリアルにとらえ価値の発見と表現する喜びを身に付ける。D作品の交流、友達との共感、理解を深めて、学び合いつながりあう喜びを教える。」ことの大切さを強調された。

 また、西條提案では、京都国語サークル連協が主張してきた国語科の三分野とは異なり、「説明文」を加えているが、「この位置づけについては、概念形成ともかかわって今後とも議論になる」と述べられた。

 続いて小学校のTF先生から国語の実践「子どもたちと共に」が報告された。「はじめに」では、現在の小学校の教師は、7時10分に学校に出勤して9時まで仕事をしているという実態があること、生活作文を書かせ、通信を出すなどのやりたいことができずストレスをためていること、子どもの理解力が低下していることなどを具体的に報告された。

 教科書は、「中身が1時間単位の細切れで、何もおもしろくない。今まで、6年生で学んでいた短歌や俳句が3年に移り、理解することは困難で読んで終わりになる。」、そのため「学校では、学年で話し合い、〔ありの行列〕、〔モチモチの木〕、〔ちいちゃんのかげおくり〕など重点的に取り組む内容を決めている。」ことなど、取組みが報告された。

 国語教育として大切にしてきたこととして、「日々の生活を生き生きと書かせること、自分の感動を自分の言葉で書くこと、生活を見つめること、作品を読みあい互いに理解することを通してクラス作りに反映させている。」そして、終わりとして「発達段階にあわせた到達目標に到達させきれていないことが、後の学習でつまずくこと、レポートを引き受けて自分の実践を振り返ることができたこと、若いときは何でも引き受けることで教育力がつくといわれた先輩の教えを受けてがんばってきた、いつまでも学び続けたい、これらを後輩に伝えていくためにも、若い先生と一緒に学ぶことを大切にしたい。」と述べられた。

【参加者の感想】

・新学習指導要領で進められている国語教育が大きな問題と課題を持っていることがかなり理解することができた。その中で、西條先生の5つの指摘の重要性を知ることができました。実践報告は、すばらしい実践だと思いました。このような実践が京都全域に広まってほしい。

・私は国語の授業が難しいと思ったことがなかったので、分からないという子どもの気持ちが理解できなかったが、国語は軸になる重要な科目なのでこれからは注目したい。

3.今後の課題

 2012年度は、小学校から中学校までの義務教育と高等学校の理科・数学で改訂学習指導要領に基づく教育課程と授業が本格的に実施されることになる。中学校で「教科選択の授業」が全廃され、高等学校では学校教育法の目標が変わるなど大きな改訂があり、各学校で子どもの実態を踏まえた教育課程がどのように具体化されるかが大きな焦点になる。

 小学校は、「ゆとり」が一変して「時間不足」や「特急授業」が増え、学力問題が起こっている。中学校では、生徒の荒れと不登校が顕著になる学校が増えてきている。高校の学習指導要領の「義務教育の内容を保障する」ことの意味の検討とともに、これに関係する高校と関係しない高校とで高校教育に大きなちがいが生じることに視点を当てる必要がある。教科書検定、道徳教育の実施計画の作成など、改訂学習指導要領と07教育基本法による教育委員会からの締め付けが例年にも増して厳しい強化されることが予想される。

 本研究部会は、2010年度から各学校で具体化される教育課程と学習内容に注目し、調査活動と研究活動をはじめたが、今年度はそれらを踏まえてさらに民主的な学校づくりと共に実現可能な提言などを検討していく必要がある。教育評価については、観点別絶対評価の4観点内で項目の変更があったが、その実態と内容について今までの評価・評定の課題とを明らかにして、その対応を検討しなければならない。また、2011年度に新しい課題になった、原子力発電事故に対して文部科学省が作成した「放射線読本」の問題点を明らかにするだけでなく、それに対置する「授業のための資料」を作成する必要がある。「資料」作成の京都教育センターの取組みに全面的に協力していく必要である。

 本研究会としては、今後とも新しい部会員の参加をめざし、来年度も引き続いて学習会を例会として開催し、今日の学力と教育課程に関する問題点を明らかにし、学校で対応できる対策を検討する。

4. 2012年度の方針と部会の研究計画

1. 部会の研究活動

(1)昨年に引き続き、改訂学習指導要領と評価の問題点と改善の展望を明らかにする。
(2)子どもの学力や生活の変化を各種の調査結果を収集して明らかにする。
(3)学習指導要領の改訂に伴う教育課程編成の課題を検討する。
(4)学期に一回の例会を計画する。各種民間研究会と合同して、『学力・教育課程研究会』を例会として開催する。
(5)部会のニュース『学力・教育課程研究部会便り』の発行を続ける。
学力・教育課程の「資料配布」を会員からの情報提供を受けて積極的に進める。

2. 研究会の体制

【部会員】
天野正輝、 市川章人、 市川 哲、 井口淳三、 植田健男、 大八木賢治、大平 勲、 大西真樹男、 小野英喜、 金子欣也、 川村善之、 柏木 正、川地亜弥子、 上中良子、  久保 齋、 澤田 稔、 田中耕治、 照屋美奈子、  中西 潔、 中須賀ツギ子、 西原弘明、 仁張美之、  野中一也、 人見吉晴、 平田庄三郎、 平野健三、 淵田悌二、 鋒山泰弘、 本庄 豊、 八木英二、山上和輝、 我妻秀範、 和田昌美

【事務局】
代表・ 鋒山泰弘
事務局員・ 市川章人、 久保 齋、 平田庄三郎、 西原弘明、 淵田悌二、中西 潔、 平野健三、 和田昌美、  小野英喜


 「京都教育センター年報(24号)」の内容について、当ホームページに掲載されているものはその概要を編集したものであり、必ずしも年報の全文を正確に掲載しているものではありません。文責はセンター事務局にあります。詳しい内容につきましては、「京都教育センター年報(24号)」冊子をごらんください。

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              2012年3月
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