事務局   2011年度年報もくじ

京都教育センター 第42回研究集会 第2分科会

子どもを取り巻く大人社会のネットワークと子どもの発達

           築山 崇(生活指導研究会・発達問題研究会)

*この報告は、京都教育センター事務局の責任で編集し、見出しは編集者がつけました。
 



 本年度の分科会は、次のような問題意識にもとづいて、標記のテーマで設定された。なお今回は、発達問題研究会との合同のかたちでおこなった。

 参加者は14名で、小学校3、高校3、大学(教員・大学院生)4、地域で子育て・教育に関わる活動をされている方2、海外日本人学校教員1という多彩な構成で、議論を深めることができた。

【分科会設定の背景】

 「心と行動のネットワーク―心のサインを見逃すな、『情報連携』から、『行動連携』へ―」という提言(文科省 調査研究協力者会議)から10年。学校と関連機関(警察、矯正・更生、福祉、保健など)との連携は、サポートセンターの設置、サポートチームの編成などその具体化が京都府内においても進んでいる。

 また、学校支援地域本部事業、学校運営会議の設置とコミュニティスクールの取り組みなど、地域住民と学校との連携も、国や都道府県の教育振興基本計画の策定などを受けて、新たな段階に進みつつある。

 こうした状況の下で、子どもの権利や地域の自治などの原則をしっかり踏まえて、連携・共同の在り方を探っていくことが、教育運動の重要な課題となっている。


【報告要旨】

 学校と関連機関・地域との連携を考える

報告1 地域住民による学校支援をめぐって  築山 崇(生活指導研事務局)

はじめに

 本報告では、最近の「社会総がかりで取り組む教育」(教育再生会議 2008)というスローガンのもとで、学校と家庭・地域社会との連携が進められている実態について、民間教育運動、民主的な教育実践、学校づくりをめざす運動がその理念としてきた、地域にねざす教育・学校づくりとの対比において、その性格を検証しつつ、今目指すべき学校教育、生活指導実践の基本方向を探ることを狙いとしている。〈注1〉

〈注1〉「社会総がかり」というスローガンは、教育再生会議の2008131日最終報告のタイトルが初出であろう。再生会議は、首相の私的諮問機関として設置された「教育改革国民会議」の後を受けて、200610月に設置されたものであり、その答申は、政府・文科省の基本方針となり、このスローガンも全国の都道府県・市町村教委の施策推進のスローガンとなっている。

(1)「改革」構想をめぐって

 「再生会議」の報告における「社会総がかり」の趣旨は、「○国民一人ひとりが「当事者意識」をもって、学校、家庭、地域、企業、団体、メディア、行政などあらゆる主体がそれぞれの役割を自覚し、教育再生に積極的に参画する。 ○それぞれが「連携」を図り、責務を果たすことによって、以上のような教育再生を実現する。」と表現され、いうまでもなく、200612月の教育基本法「改正」で、新たに設けられた条文

(学校、家庭及び地域住民等の相互の連携協力)
第十三条  学校、家庭及び地域住民その他の関係者は、教育におけるそれぞれの役割と責任を自覚するとともに、相互の連携及び協力に努めるものとする。

の規定を受けたものである。また、文科省の通知等においても、「学校と諸機関の行動連携」の徹底が図られている。

 さらに、同基本法の第十七条の規定(教育振興基本計画)によって、都道府県・市町村による「振興計画」においても、「社会総がかり」がキーワードとなっている。

 京都府でも、府教委の「まなび教育推進プラン」で、「社会総がかりで取り組む教育」というスローガンが掲げられている。学校と地域との連携についても、同プランで、「京都式地域連携校『結(ゆい)スクール(仮称)』」として提起されている。「結スクール」構想では、現在実施されている、学校支援地域本部事業(「地域で支える学校教育推進事業」)、放課後子ども教室(「京のまなび教室推進事業」)、「学校運営協議会(コミュニティスクール)」を統合する枠組が提起されている。

 このような背景のもとで進められている学校と地域との連携構想をどのようにとらえるのか、対抗する柱をしっかり立て、労働組合はじめ、自主的民主的運動を進める諸組織・団体・グループが、交流と連携を強めて、運動を展開していくことが求められている。

 この運動においては、自治会・町内会、少年補導委員会、体育振興会、子ども会、社会福祉協議会など、行政主導の取り組みの担い手となっている地域(地縁)諸組織との関係づくりをどう進めていくかの検討が重要である。

 地域での共同の推進について考えていく際には、国のレベルで現在どのような社会づくり(社会構想)が描かれているのか、どのような基本的対抗関係が形成されているのかについても、視野に入れておくことが重要である。

 少子・高齢化対策として打ち出されてきた、社会保障・社会福祉の改革は、財政と人材の2点を主要な論点として、国家戦略を再編するものであったが、これへの対抗軸・構想は、どのように形成されてきているだろうか。

 「新福祉国家」という提起(渡辺治・二宮厚美他『新自由主義か 新福祉国家か』2009.12旬報社、宮本太郎『生活保障』2009岩波新書 など参照)もあるが、国家財政、日本企業の国際競争力の強化を主眼として国民生活を犠牲にするような方向ではなく、説得力のある内容を伴った、対抗的な社会構想(特に教育・福祉分野での)が求められている。

 教育分野にたちもどると、子どもの権利、教師・父母・住民の協同による教育要求の実現を目指す運動における連携・共同の在り方、社会教育における、地域づくり教育(学習)との交流・連携なども意識的に検討・追求される必要がある。

 日本生活指導学会で議論されてきている「地域生活指導」の構想、住民による地域生涯学習計画づくりといった提起にも、大いに学んでいくことが必要である。


(2)生活指導・生徒指導をめぐる「連携」の問題

 すでに(1)で触れたように、学校と地域との連携が行政主導で強力に、また全面的に進められているが、生活指導(生徒指導)分野でも、それは具体的に進められている。

 中教審等での審議を受けて、20049月には、以下のような「少年非行対策課長会議申し合わせ」の内容が、通知のかたちで、地方教育委員会に向けて出されている。

 文部科学省では,これまでもサポートチームの取組を進めてきたところであり,本年3月に取りまとめられた「学校と関係機関等との行動連携を一層推進する ために」(学校と関係機関との行動連携に関する研究会報告)を受け,本年5月11日付け通知「学校と関係機関等との行動連携を一層推進するための取組につ いて」(16文科初第263号)においても,学校と関係機関等との連携を一層推進するための取組の充実をお願いしているところです。

 今回の分科会では、この通知で強調されている「サポート体制の構築」に関連して、京都府内における実態の報告が用意されている。

 また、「通知」では、「学校、教育委員会、警察署、少年サポートセンター、児童相談所、福祉事務所、保健所、少年鑑別所、保護観察所及び少年補導センター等の関係機関並びに PTA、警察ボランティア、主任児童委員、民生・児童委員、保護司及び少年補導委員等地域の人材を構成員とするネットワークを形成する等、地域の機関・人材を生かした組織的な体制を整備すること」が謳われているが、これについては、学校と福祉分野の連携の事例として、スクールソーシャルワークに関する報告が用意されている。

 本報告による、地域住民(地縁的組織)による学校支援の最近の動向についての議論に加えて、上記2報告と議論を重ねることで、私たちが目指す学校づくり、生活指導の方向性が明らかになっていくことを願うものである。


報告2 「スクールサポーター」をめぐって   都築一郎(府内・小学校)

 ここ数年、学校現場において、「生徒指導」対策として、学校と警察との「連携」が強調されている。具体的には、教育委員会と府警との人事交流やスクールサポーター(元警察官)が、小・中学校において「非行防止教室」という名称で万引きや喫煙防止の授業を行っている。また、官制の生徒指導研修会にスクールサポーターが出席、さらに「非行防止

教室」の模擬授業を行うなどこれまでにない状況が生まれている。このような動きの背景や問題点について報告します。

1.スクールサポーターの現状

 2008年度に制度が導入され、当初のサポーターは府下全体で10人であった。本年度は、36名になっており、全員が元警察官である。府内14署と「少年サポートセンター」(東山区)に配置され、「学校の応援団」というフレーズで広報されている。具体的な活動内容としては、非行防止、立ち直り支援、非行防止教室、地域安全に関する情報把握と提供、児童生徒の安全確保支援などが挙げられている。

2.これまでの学校と警察との連携(小学校の場合)

 これまでの連携は、学校警察連絡協議会(学警連)という組織の下で、生徒指導に関する連携が主であり、交通安全教室(自転車の安全な乗り方など)や、防犯教室(不審者対応:教職員への実践的研修 児童への対処の仕方)などが行われていた。

3.学校と警察をめぐる新たな動き

1)府教委と府警との人事交流(昨年度から)2)相互連絡のガイドライン(子どもの情報交換のルール)の設定3)官制研修会・研究会への警察関係者の参加(研修会では、講演のほかに、非行防止教室の模擬授業の実施や指導案の紹介なども行われている。)

 これらを受けて、府内各地で、非行防止教室の開催や特に中学校で情報交換を中心にした学警連携が強められている。

4.連携強化の背景をどう見るか

 背景として、学校での暴力行為の増加や刑法犯の検挙・補導事例の増加という状況があり、一方、この間の「生徒指導」方針の変化(「規範意識(遵法意識)」の醸成・ゼロトレランスな子どもへの管理強化)がある。

5.学校と警察の連携強化の危険性

 1)子ども、教師、保護者間の信頼関係を破壊する危険性 2)「問題児」としてのレッテル貼りになる危険性 3)学校による子どもたちへの管理に利用される危険性(子どもを、よい子、悪い子、普通の子に分け、悪い子に行かないように、学校が警察の力を借りて監視するという子ども観であり、子どもの権利という視点が欠如している。) 4)少年犯罪対応を治安対策のひとつとしている警察戦略の中に位置づけられており、「学校から警察への連絡」が警察にとっては情報収集として重要になっている。

.どう対応するか

1)「教育の原則(子ども・教師・保護者の信頼関係を構築する中で、非行、問題行動の克服にあたる」」を大切にする。2)今までに蓄積されてきた「非行克服」の経験から学び、実践する。3)安易に警察の力を導入しないことを共通認識に。

 報告は、以下の資料の内容も紹介されながら行われ、また非行防止教室に参加した子どもの感想なども紹介された。

 報告後の議論では、連携にあたっての学校の主体性の確保の重要性、生徒の個人情報の扱いなどが話題となった。例えば警察との連携においては、情報共有の程度について慎重な対応が求められるのではないかといった意見があった。

 資料:「取材ノートから」(京都新聞2011.12.14) 「急増する少年犯」(亀岡市民新聞 2011.12.3) 「子どもたちを見張れ! 検証 警察・学校相互連絡制度」(自由法曹団) 「学校と警察との連携の強化による非行防止対策の推進について(通知)」(文科省 2002


報告3 単位制課程におけるネットワーク支援のとりくみ
      〜事例検討会とラーニングアシスタントの活動をめぐって〜
          野本 実希(スクールソーシャルワーカー 近江兄弟社高校)
          春日井敏之(同校スーパーバイザー 立命館大学)

 単位制課程や定時制課程には、小中学校において不登校、いじめ、学力などに関して、様々な挫折や傷つき体験を抱えながら、入学してくる生徒が少なくない。発達障害や家族の課題なども絡み、本人への指導・支援だけではなく、保護者支援を不可欠とするような事例も増加している。

 近江兄弟社高校単位制課程では、いち早くスクールソーシャルワーカーを専任として配置し、毎月1回教員全員による事例検討会を継続してきている。同時に、「ラーニングアシスタント」と呼ばれる学生ボランティアによる生徒支援のシステムを立ち上げ、実践を蓄積してきた。この活動においても、スクールソーシャルワーカーは、コーディネーターとしての役割を果たしている。今回は、単位制課程における二つの取り組みについて報告し、教師、生徒、学生にとっての意味や到達点について報告をしたい。

【野本報告の概要】

1.近江兄弟社高校単位制課程について

 2001年度に、もとからある1学年810クラスに加えて設置された。学年制のみであったころから、中学までの不登校生徒の受け入れには熱心であったが、入学後より効果的な教育支援を行うために、単位制がふさわしいのではないかという意図で設置されたものといえる。

 また、不登校対応に限らず、「単位制」の教育的意義を踏まえた教育改革実践としての意図も存在していた。

 「自分のペースで豊かな学びを」「交わりあい学びあう教育を」をコンセプトに、カリキュラムが組まれている。選択科目も多く、各生徒が自分の必要や関心に応じた科目選択を行うことが可能となっている。

 2006年度1回生から4回生まで全6クラス、200名強の生徒が在籍しており、通学圏は滋賀県全域、京都府にわたっている。20,30代を中心とする10数名の教員と、スクールソーシャルワーカー1名が専属のスタッフで、それ以外にLA(ラーニングアシスタント)と呼ばれるボランティアスタッフ10数名によるサポートが生徒支援の柱のひとつとなっている。

2.ネットワークの取り組みについて

 @事例検討会:単位制教職員及び教育顧問による困難ケースの検討会が月1回開かれており、悩みの共有、複眼的視点からの生徒理解の深まり、教員の研修・エンパワメントとの場となっている。

 Aラーニングアシスタント:大学生ボランティア1213名による、生徒の学校生活支援(平日昼間)が行われている。教員とは別視点からの生徒状況の把握が可能となり、生徒にとって身近な相談相手としての役割を担っている。

 Bスクールソーシャルワーカー(SSW):校外資源(福祉や保健・医療機関・就労支援機関など)のコーディネートにあたり、生徒・教職員の相談窓口ともなっている。担任と他の教職員とをつなぐ、ケース会議の運営にあたるなど、校内のコーディネーター役としても重要な役割を担っている。また、卒業生のフォローにもあたっている。

 C親の会:保護者と単位制教員による、懇談会・食事会・講演会などが年3回程度行われている。保護者同士のつながりづくり、保護者のエンパワメントに貢献している。

3.大切にしていること

 @複数で見る(理解する)、複数で対応する(役割分担をする)A教員・職員・ボランティアなど、立場の違い(独自性)を確保し、活かすBスモールステップを大事にした取り組みCピアサポートDエンパワメント:教育スタッフ(教師、LASSW)自身が元気であることも大切。

 上記のような報告を受けて、単位制課程を設置していること、専任のスクールソーシャルワーカーを置いていることの積極的意義、校内・校外の様々な資源をつないだり、校内の職種間をつなぐといった、スクールソーシャルワーカーの役割などについて、質問があり、ケース会議のスーパーバイザーをつとめている春日井さんから補足的な説明があった。LAの存在もユニークでその役割も重要であるが、LAとなるボランティアは、春日井さんが関わる立命館大学のゼミ生などが中心メンバーとなっているとのことであり、高校と大学との連携した取り組みとしての面もうかがえた。


 子どもの発達環境としての情報通信機器・ネットワークについて

報告4 「最近のケータイ・ネット社会と子ども」

                    浅井 定雄(発達問題研究会)

  携帯電話(ケータイ)が子どもの世界に与える影響の大きさについて指摘されて久しいが、新たに、スマートフォーンやアイホーンなど新機種の参入の中で、子どもたちの世界がどう変わるのか。子どもたちの現状と、今後の方向性について議論を深めたい。

 報告では、まず資料として、携帯電話利用率、携帯を持った時の動機、子どもの人気(携帯)サイト、学校裏サイト、ケータイと子どもの意識、中学生のケータイ事情、自分のケータイ・パソコンを持っている子のコンテンツ別利用状況、家庭で定めるべき(ケータイ使用の)ルール、児童の携帯電話利用についての学校としての基本的な考え方(京都市内の学校の事例)などが紹介され、合わせて、府内のある中学校における、インターネットやケータイメールが絡む問題事象についてのレポートも紹介された。

 今回の報告は、官庁や民間調査機関の調査データによるもので、全国の一般的な状況であったが、報告者も加わっている研究プロジェクトで、山科区、大津市などを対象にした調査が準備中で、そこでは、ケータイ・ネット事情についても位置づけれられることになっており、結果が注目される。

 参加者からは、次のような実態の報告があった。

@高校での携帯所持率は、ほぼ100%。テレビ・ケータイ・ゲームに使う時間は、3時間以上が半数以上。出会い系サイトへのアクセスや、「学校裏サイト」の存在も確認されており、高校生の教師も内容を点検している。携帯は、数年前までは学校に「持ち込み禁止」だったが現状に合わない。持ってきた場合は、電源を切らせる、使っている場合は学校で預かるという対応が多い。

 ゲーム機についても学校への持ち込みが増えており、同様の扱いをしている。

A小学校の状況。京都市内は数年前に一斉に調査をしていたので、データがある。6年生対象に「ケータイ安全教室」の実施例もある。課題があると思っている子が持ち込んでいる場合が多い。子どもが欲しがり、親が止められていない実態がある。持っている子が、他の子どもたちに見せびらかすという問題もある。指導は、いたちごっこの状態になっている。

 「禁止」というより、正しい使い方を教えた方が良いという。機能の進歩や情報コンテンツの実態などに教師自身がついていけていないので、NTTなどの職員がきて話をすることもある。そこでは、「自転車に安全に乗れるようになるために練習するように、ケータイも与えるだけではなく、練習させなければならない」と指摘されている。

B親保護者の問題 親自身がネット世代。そういう中でマナー・リテラシーが大事。そういう中で「いじめ」にどう対応するかが課題。いじめの芽は日常生活の中にあるので、そこをなんとかしていかなければならない。ネットに振り回されずに、うまく使っている中高生もあり、ネットにのめりこんでいる子が学校で孤立していたり、日常生活の中で問題がある子が多く、寂しさを癒す居場所をネットに求めるという場合もある。ネットでは自分の反対の姿を出す子が多い。攻撃性・自己顕示性・自虐性など表現のありようも問題。

C地域での活動の場に、ケータイを持ってくる子が多い。約束事をつくって対応している。

 小学生の様子をみていると、幼い。メールがすぐ返ってくるかどうかに関心がある。中学生は毎晩枕もとにおいて寝ている例もある。女子は依存的になりやすい。しかし、日常生活を充実させることができれば、ケータイから離れられる。日常生活が大事。不登校の子がネットでつぶやきあう、話し合う場があり、そこに書き込んだら、暖かい言葉が返ってきて、元気になる子もある。自分が相談にのっている子もある。危険性に配慮しつつ、自分の生きやすさにうまく使っている子があり、そこが大事。メールは文字だけ見ていると、誤解して傷つくこともあるので、読み手に対する気遣いがある。メールの中でも、子どもたちは人との関係ですごく気遣いをしている。

 欧米では「電磁波」の問題が研究されているが、日本ではあまり問題にされていない。電磁波の危険性についての啓蒙・調査も必要。安全教室と同じように、「ケータイ教室」については、毎年、子ども向けにも、親向けにもやってほしいと思う。


【全体討論】

 全体討論は、最後の最近の携帯事情に関する次のような議論から始まった。

・情報社会の中に子どもがさらされている状況の中で、学校は「電源を切れ」と指示したり、取り上げるだけで良いのか。また、「リテラシー教育」を学校だけが担うことも難しい。学校・家庭・地域の子どもを守るネットワークの構築が大切。

・携帯サイトは、情報の中でも特に映像に問題がある。カメラ機能も、勝手に写真をとって、いじめの材料にしたり、写真を撮った撮られたで生徒同士がもめるなどのケースがある。使う側のリテラシーを教育が大事である。

・どこまで規制するかが問題。私学などは敷地内で使うことを禁止している例もある。ネットいじめが問題なっている現状の深刻さもある。

・学校に持ち込みさえしなければ何やっても良いという問題ではない。

 携帯(ケータイ)をめぐる状況は、上記のような学校での子どもの指導の問題に加えて、保護者世代がいわば“ケータイ世代”となっていることからくる問題も指摘されるようになっている。そして、そこで起こってくる問題に、有効な対応方法、根本的な解決方法が未だ見いだせていない状況にあると言え、今後、実態のさらなる把握・分析や、対応状況の交流などを踏まえて、検討していく必要性がある。

 続いて、学校と地域の連携・協力に関連した議論に移った。

  地域の魅力、資源の再発見とその情報発信の活動に取り組んでいる参加者から、グループの活動の成果に立って、学校に講師を派遣したり、「郷土室」をつくることに協力したりしている事例が紹介された。発言では、自主的活動グループの自立した活動、グループと学校との協力関係づくりへの独自の努力、グループの活動の主体性を高めることが大切であること、地域ごとにまちづく政策を持っていく方向が大事であるといったことが強調されていた。

・地域では「ゆるやかなつながり」が大切で、ピラミッド型のかたい組織でなく、多様なつながり方を認めあっていく新しいネットワークのあり方を考えていかなければならない。

 その際、やりたい、要求のある人が担っていくというかたちや取り組みの進め方が大切である。0歳から青少年を対象とした幅広い取り組みでは、学校とも結びついてやっている。学校では「放課後の学習支援」への参画、地域の中では自治連合会との連携など広がっているが、それとは別に、学校が「地域に開らく」という姿勢をとっていることを受けて、地域のグループの取り組みを学校を通じて広報をさせてもらっている事例もある。「町探検」の活動では、活動の報告書を全学校図書室に配布するなどの取り組みをしている。地域の自主的な活動が学校教育の内容にも活かされている。工夫すれば、ネットワークは広げていけると思う。

 上記のような報告を受けて、今回の分科会討議の柱を整理する次のような発言があった。

◎ ひとつは、次のような課題の整理の提案である。

 「地域と学校との連携」というとき、「地域の学校化」と、「学校の地域化」という二つの方向を想定することができる。前者は、学校が中心となって、地域社会の教育資源を組織化していく方向、後者は、学校を地域社会の中に位置づけ、その教育機能を活用していく方向である。それぞれに必要性や可能性があるが、多様な活動をこの視点のもとで整理しながら、今後のあるべき方向性を探っていくことが基本的な方向である。

◎ もうひとつは、スクールソーシャルワークの事例に典型的に見られるように、学校(教師)、地域組織(団体・グループ)、専門諸機関などを結ぶコーディネーターの役割の重要性である。

 近江兄弟社高校の教訓(スクール・ソーシャルワーカーが結び目になって、学校と学校外の諸資源を結びつけるという“連携”を実現している)を連携の在り方全体にどのように生かしていくか、さらに議論を深めていくことが重要である。

 スクールサポーターに関連しては、「規範意識の醸成」が強調される状況にあって、子どもの中に正義感・倫理観・市民性をどうそだてていくのか、教育の方法として深めていく必要があるのではないかという提起もあった。

 以上のような大きく二つの視点での議論の後、分科会全体を振り返っての感想を交流した。その概略は以下の通り。

  地域連携とか「連携」の言葉が使われるが、機関それぞれの目的と自立性が確保されていないと、連携ではなく「支配・非支配」の関係になってしまう。連携をとっていくことは大事だが、警察官が小学生に万引きやいじめについて直接“授業”することは、問題が大きいのではないか。ちょっとしたトラブル、教育的に処理できる範囲まで警察にゆだねてしまうことによる新たな摩擦も生まれている。教育の論理と法に基づく取り締まりの論理との峻別も大事である。

・地域においては住民の活動が基本で、その中に教育要求があり、それを実現する過程に学校との関わりを位置づけるのが原則である。

・暴力行為で、「京都がワースト3」なのはなぜか、マスコミも注目しているが、統計の数字だけにとらわれずに、背景にある事実を慎重に探り、教育の論理を大事に対応方法も探っていくことが大事である。子どもの暴力が深刻になっているという状況には、身の置き所のない、疎外されている、居場所がない、集団の中で大事にされていないといった問題があるのではないだろうか。そういう中で不登校もなかなか減らない状況がある。

・暴力の前で、言葉の力が萎えている状況があるのではないか。「手紙」など模範文を書くことが重視されて、「自由に書く」ことが軽視されている実態がある。表現する力を育てることに十分力を注がずに、暴力でしか表現できない子どもを大量に作りながら、一方で暴力を抑え込もうとしても効果はないのではないか。

・従来の地域の教育力を活かした取り組みが視野の外におかれて、情報共有など狭い意味での機関相互の連携が強調されているのではないか。「里山の会」「自然を守る会」「生き物調査」など、地域の自然・文化・伝統を伝える活動などを積極的に評価し、活かしていくべきだと思う。

・暴力行為が多いと、「規範意識が低い」と言われているが、規範意識の低下はなぜ起こっているのか。「小学校では学力向上で成果」といわれている反面、支援の必要な子が増えている実態があり、中学校での「荒れ」がある。もっと突っ込んだ研究が必要だと思う。

・それぞれの学校現場で、これまでの実践の蓄積から学ぶことが難しくなっている。世代間が分断され、貴重な実践の成果が“古い実践”として軽視・否定されるような状況もある。世代交代を機に、学校の本来持っている教育機能・専門性を軽視した学警連携などが進むことに危惧を感じる。

・学力至上主義的な傾向の下で、生活指導が弱まっていることも問題だが、学力の中身も問題。特に「読解力」の低下は懸念される。読み込んで自分の言語で主張を展開できることが大切。これができれば、自分の行為への振り返りもできる。学力観がやせ細っているのではないか。

・地域そのものの崩壊が起こっている。その困難な状況のもとでも、子どもたちは「かなり奮闘している」と見るべきではないだろうか。地域の力が低下していると言われ、「社会総がかりの教育」と言われるが、市町村合併と平行し得て学校の統廃合が進んでおり、小中一貫校の設置もあって、大きな校区づくりになっている。そのことで地域の教育力が衰退しているということはないのだろうか。

  「連携」、つなぐ、という点で難しいことが実際には多々ある。コンタクトをとってもすげなく断られることも多い。つながりをつける工夫が大事で、機関の特徴を知ることも大切である。それぞれの機関にいる担当者の顔を知っているかどうかということも大きい。「連携」というが、人と人との顔をつきあわせた日常的な関係が大切だと思う。

・「連携」でいうと、今回の報告で、ソーシャルワーカー配置は、高校では貴重な話である。いろいろな視点を持って、協力してやっていこうという方向性が大切。

 以上のように、教師、父母・保護者、住民、そして教育、福祉などに関わる関連諸機関が、課題の解決に向けて、それぞれの主体性を尊重しながら、固有の役割を果たしていく関係をどのように構築していくかが問われている状況が分科会での議論を通して一層あきらかになった。

 そこで重要なのは、全体社会のありようばかりではなく、ローカルな、身近な地域社会における具体的な相互関係を作り出していくという課題である。

 スクールソーシャルワークのような新しい専門性への注目や、地域での住民の自主的な活動と学校教育の相互交流、子どもを取り巻く情報環境の変化をとらえたコミュニケーションの在り方の探求など、より柔軟で創造的な発想、活動のスタイルが求められていることも見えてきた。生活指導研究会、発達問題研究会での今後の研究の方向性としても貴重な成果が得られた今回の分科会であった。

 「京都教育センター年報(24号)」の内容について、当ホームページに掲載されているものはその概要を編集したものであり、必ずしも年報の全文を正確に掲載しているものではありません。文責はセンター事務局にあります。詳しい内容につきましては、「京都教育センター年報(24号)」冊子をごらんください。

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              2012年3月
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