事務局   2011年度年報もくじ

京都教育センター 第42回研究集会 第1分科会

「子どもの貧困」と食・健康・子育て−−子どもをとりまく実態・運動−−」

           葉狩 宅也(地方教育行政研究会)

*この報告は、京都教育センター事務局の責任で編集し、見出しは編集者がつけました。
 
はじめに

 昨年度のこの分科会は、「貧困・孤立・競争をのりこえ、子どもを育てる学校づくりを考える」とし、社会の「貧困問題」とリンクしつつ、独自の実態とその解決のあり方について実践・研究・運動が応えていかなければならないという問題意識のもと、報告論議をすすめた。

 今年度も、その問題意識を継続し、分科会テーマを「『子どもの貧困』と食・健康・子育て―子どもをとりまく実態と求められる実践・運動―」とし、午前の分科会冒頭に葉狩宅也(地方教育行政研事務局長)が分科会の基調報告を行った後、奥村久美子氏(京教組事務職員部)が特別報告をおこなった。午後は、木村啓子氏(八幡市立八幡小学校)、宇野和代氏(府立城陽高校)、水野勇氏(宇治市立平盛小学校)の3本の報告を受け、討論を行った。

 学校事務職員、栄養教諭(職員)、養護教諭、担任教諭など学校教育をすすめる様々な立場・視点から見た子どもの実態と取り組みを交流して、子どもたちの成長発達を保障する学校をつくることの課題や方向性を明らかにしていくことが引き続き求められている。


1.特別報告「『子どもの貧困』の実態と就学援助制度」
   〜「就学援助制度お知らせ」の分析と課題、これからの学校事務職員の役割について〜
                           奥村 久美子(京教組事務職員部)


1.はじめに

 今回の報告にあたって、「格差と貧困」−経済的状況と子どもの問題についての報告者の最初のとりくみから紹介されました。それは、1998年全教の提起から始まった「経済状況による子ども・教育への影響調査」を京都教職員組合として発展させたとりくみでした。この調査にあたって、こだわったこととして、一人ひとりの教職員が目の前の子どもの実態を通して影響をつかむことをあげられました。そのために回答については、ほとんど記述式としたことで、それは、この調査を単なる統計的データのためのものではなく、目の前の子どもを丸ごと見つめる活動に発展させたかったからということでした。それ以降、8年間毎年この調査にとりくみ、この調査を通してみえてきたことは、調査を開始した98年より状況が深刻化・一般化していることでした。そして、現在の状況の一つの指針として京都府の平均受給率が20%程度となっていることや就学援助を受けている児童・生徒の数が100人以上かつ25%超える学校が83校(京都府の小学校420校(京都市173校)、中学校175校(73校))という深刻な事態となっていることが紹介されました。これらの実態をふまえて「子どもの貧困」についての報告が行われました。

2.「就学援助制度のお知らせ」調査について

まず、京都教職員組合事務職員部としてとりくまれた「就学援助制度のお知らせ」調査についての報告がありました。この調査は、京都府下の各自治体が発行している「就学援助のお知らせ」をいくつかの項目に分けて比較・検討しているもので、そのポイントとして@認定基準を公開しているか、A所得による認定基準額を明示しているか、Bリード文が保護者にとって受け止めやすいものとなっているかをあげられました。リード文比較の意味として、福知山市では憲法を引用して「等しく教育を受ける権利」と掲げられていることや宇治市でも「等しく教育を受ける権利」と表現されていることを示しながら、そのほかのほとんどの自治体では、「経済的に困難」と記載されていて、この部分の表現によって保護者としては、申請に対する受け止めが変わると説明されました。他にもC未だ民生委員の意見を必要としているのか、D学校以外に問い合わせる窓口やHPを開設しているのかといった点がありました。そして、この調査が単なる制度比較ではなく、何故「お知らせ」比較なのかについては、実際に受給する保護者視線からの分析であるとされました。2年間続けた調査によって、にいくつか制度が充実した自治体があることや要保護部分で拡充された「クラブ費」「生徒会費」「PTA会費」について準要保護部分へ拡充させている自治体が複数あるのは、全国的にも先進的であることも報告されました。

3.就学援助制度の課題

 次に、2005年度より国の三位一体の改革により準要保護世帯に係る国庫負担金廃止され、市町村へ税源移譲してから自治体によって特に顕著にその内容に格差が生じ、2007年度以降京都府各自治体でも認定基準の引き下げが始まっていることが報告されました。この格差については、参議院企画調整室からも指摘(2009年2月 経済のプリズム)されていることや文科省専門家会議が自治体毎に差がある就学援助の認定基準を統一するよう求める報告書(毎年進級時に制度を説明した書類を配布する必要も言及)作成(9/24)していることを示され、今日的課題であるという認識が拡がっていることが示されました。

 そして、制度改善に向けての視点として@広報−いつでも・誰でも情報がうけとれるように・・・毎年の案内配布 HPや常設窓口の開設、A基準−自分自身で認定されるかどうか判断できるように・・・所得基準の明示、B手続きの簡素化−特に所得に関する証明は行政が確認出来るように 受付窓口の複数化、C給付時期の改善−新入学生への給付時期を4月当初に(2月に認定4月支給している自治体も)、D給付内容の拡充−要保護部分拡充の「クラブ費」「生徒会費」「PTA会費」の準要保護への拡充や「アルバム費」の新設、「修学旅行費」・「校外活動費」等の上限緩和、給食費の完全実費があげられました。

4.今、子どもたちの現状は

 今日の子どもたちの貧困の実態について、ともすれば表面からは見えにくいことがいくつかの職場での経験等も紹介しながら指摘されました。そして、経済的貧困が文化的貧困・社会的貧困を引き起こしている現状の問題点も示されました。貧困の状況をいくつかの統計的資料をもとに説明され、そのような状況にあるにも関わらず、教育に対する公的支出が、経済協力開発機構(OECD)加盟国28カ国中28位(08年)であることや教育機関への公的支出の対GDP比3.3%(加盟国平均5%)、公財政支出全体に占める教育分野の割合も9.4%(OECD平均の12.9%)で最下位、教育支出に占める私費負担(民間からの奨学金など含む)の割合は、33.6%(OECD平均(16.5%)の2倍以上)といった日本の教育費の現状を指摘されました。

5.義務教育無償化を目指すものの・・・

 2010年度決算から公費需用費:約560万(実習材料140万・印刷経費・図書整備等)と預り金:約850万(実習材料180万・テスト230万・ドリル類280万等)とを比較し、私費が公費の1.5倍であり、他にも社会見学費や修学旅行、給食費等多額の保護者負担の中で学校教育が成り立っている現状が報告されました。これらの状況を少しでも改善していくことがこれからの課題であり、公費増額をどう推進するのか、学校・社会全体の課題にしていくことが大切ではないかとされました。

6.「子どもの貧困」解決に向けて

 最後に、学校事務職員として(学校財政を預かるもの)公費・私費のアンバランスの改善を目指して、学校予算の課題を全体のものとするとりくみが重要ではないかとされました。また、学校という行政機関の一員としての役割、特に社会的つながりをもちにくいと思われる部分の保護者にとっては唯一の行政機関の窓口として、学校だけでは解決出来ないことをどう他の行政機関とつないでいくのかということがこれから大切だとされ、その中でスクールソーシャルワーカーのとりくみの重要性も指摘されました。

 「子どもの貧困」を考える視点として、他の「貧困」との関連からいわゆる「自己責任」を追及できない「貧困」であるとされました。その上で、「貧困」の再生産を許さないとりくみ、就・就学の保障・就職の保障・進路選択の自由の保障をふまえたとりくみが必要であるとされました。

 こどもたちを「格差と貧困」から守るためには、広範な人達との共同無くしてはすすめられないこと、ネットワークづくりの大切さを強調されて、報告をまとめられました。


2.【報告@】「食をめぐる子どもの実態と学校給食」
                            木村 啓子(八幡市立八幡小学校)


 食のアンケート結果から朝食の喫食率に変化は見られなかったが、内容に大きな変化があった。栄養のバランスが摂れている割合が5年前と比べても11%ほど減り、23.5%と言う結果になった。

 また、主食だけの児童が27.5%で、5年前と比べると約4%ふえている。主食が5年前ではごはんの方が多かったのだが、パンが約50%、ごはんが約40%とパン食が大きくふえているのも、バランスがくずれてきている要因の一つである。

 外食の割合も週に1回以上が33%と5年前の27%からふえてきている。保護者の生活の不安定さがそのまま子どもの食生活に表れ、手作りの普通の食事から遠ざかる傾向にある。

 その中で学校給食の果たす役割は大きい。手作りの味に慣れ、手間をかけた献立をし、バランスの摂れた食事内容の提供と、食事が楽しい場であることや、食事を文化として伝えていかなければいけない。食べることは、直接子どもの成長に関わることであり、次の世代を作ってゆく土台である。学校給食を教育としてとらえ、充実していくことが今後の課題である。


3.【報告A】「高校の保健室から」
                    宇野 和子(府立城陽高校)

 山城通学圏は、2005年に高校再編・統廃合が強引に進められ、今まで大勢通学していた近隣の中学校からの入学生が激減し、木津町から京都市まで40近い中学校から登校してくるようになった、生徒数900名余りの普通科単独校である。それと伴い「来たくなかったこんな学校」などのことばを発する生徒たちに見られるように、いわゆる「不本意入学」といわれる生徒の入学が増加した。

 保健室は他校ではみられない京都府の「京の木の香り整備事業」により2010年生まれ変わった。ヒノキと杉の香りのする外装・内装・机・カウンター・ベッド・ベンチ・棚に至るまで木製になり、「落ち着くなぁ」と生徒たちは異口同音に言う。

 その変化も関係あるのか、ここ2年保健室の来室者は倍増し、2010年度は年間6500名を超え、2011年度の12月までですでに5000名を超えている。2005年から養護教諭は複数配置で、2008年からは正規の複数配置となっている。生徒のいない時間はないに等しく、親と喧嘩してきたイライラの朝の始業前から、帰りたくない放課後まで生徒の姿がある。

 来室者数は、2010年度は全校生徒の7割弱で、その2割が15回以上である。一日40名から50名の来室で、多い日は70名あった。かつて精神科医の石田一宏 氏は「保健室は学校の健康度であり、社会の縮図が見える場」といわれた。納得の日々である。

 保健室に何を求めているのか、生徒たちに願いを聴き取ってみると「とにかく話を聴いて」「無視せんといて」「怒こらんといて」というものだった。

 また保護者の願いはなにか。「クラブと学習の両立」「楽しく高校生活を」「友達作りがうまくできるように」などが保健調査に書かれてある。

 生徒たちは大半イライラして来る。いらいらの理由は広く大きい。「授業がわからない」「大人は兄弟や友人と比べられ頑張りを認めてくれない」「大人は話を聞いてくれず先入観を持つ」「親は存在を否定される」など訴える。また、ネグレクト・スポーツクラブもしてバイトもして疲労を感じている生徒・親の娯楽にかかる費用のために生徒が稼いだアルバイト料を親に取られている生徒・合格した大学の入学金を支払えず進学をあきらめ就職に変更した生徒・健康診断の精密検査料が支払えず未検の生徒・諸費用の未納者など増加している。自衛隊へ入る生徒も近年増加しており、アメリカの貧困と兵士志願者の関係と同じものを感じ胸がざわめく。

 2011年本校が全国の「保健室利用状況に関する調査」の対象になり、秋の日の1日を調査したところ95名の来室者で、午前中の授業中が一番多いのが特徴だ。体調が悪い・休養したいを合わせると50,5%である。

 自分を責めて傷つけ、他人を排除する「自傷他害」の生徒が多い。「うざい」「殺したる」「死ね」などのドッキリすることばを言いながらも、さまざまな訴えをすることで、自分の中で考えがまとまり問題の矛先を整理し、解決の道筋を共に考えられるようになる。ことばに出すことで「文句から問題点」として見出せるようになる。

 保健室には何かあるから来る。まずは受け入れ生徒の話をじっくり聴く。そして「あなたは大切な存在である」ことを実感させ、穏やかに安心感を持てるような工夫がいる。生徒や保護者と共に保健室から幸せになるための解決策を探り、生徒たちの代弁者として声を上げていく必要があると感じる。


4.【報告B】「子どもの実態から歩み始める学校教育」
                   水野 勇(宇治市立平盛小学校)

 格差社会、経費削減、構造改革等、現在の世の中のひずみが、子どもたちに襲いかかっている。経済的な不安、将来への不安、生活の不安など、子どもたちの生活には種々の影響が出ている。

 本校は、44棟の府営団地から登校する子どもたちがほとんどで、その入居条件は厳しく(母子家庭等は優先して入居できたり、所得制限があったりなど)、離婚して転居してくる家庭が少なくない。また、中国残留帰国児童受け入れセンター校として、「日本語教室」を開設しており、児童数の減少に伴って帰国児童の割合が増加する傾向にある。

 また市の就学援助を受けている児童の数は多く、教材費等の滞納は増加する傾向にあり、宇治市の就学援助条件が厳しくなる中、学期途中で援助が受けられず滞納する事例もある。

 子どもたちの実態は怠学による欠席や遅刻が多く、学力に課題を抱える子が多い。学校に行かせようという意識が少ないと思わせられる家庭も増え、始業前からモーニングコールをしなければならない状況がある。

 そうした困難な家庭を背景にした子どもたちの実態を前にして、「縦割り集団を基礎にした全校集団づくり」「学力保障の取り組み」「少人数によるきめ細かな指導」をはじめ、「学校で支え・鍛える」ことを意識した取り組みを教職員集団で一致して進めようとしている。

 愛情不足な子どもたちだからこそ、愛情を持って接することや、頻繁に家庭訪問や連絡をして保護者とつながること、全教職員で一人ひとりの子どもを育てるという視点を持つことを大切にしながら、ねばり強く実践を前進させたい。


5.討論から

◆進路が決まらないまま高校を卒業する生徒が増えている実態がある。また、就職できた卒業生との交流の中で浮かび上がってくる「驚くべき労働現場の実態」からは、若者を育てるというより、使い捨て的な働かせ方が見えてくる。そんな中で離職や再就職、挫折や立ち直りなどを繰り返している教え子達をつなぐようにクラス新聞『ホットステーション』を発行している。卒業生達には大好評であるとともに、教師としての私のありようをふり返らせるとともに、高校で何をどう教えなければならないのかを問いかけてくる。一つは「自分の人権を守る力を培う」、もう一つは「次世代の若者を社会で育てる」という課題をいかにつくり出していくかと言うこと。

◆大阪市の労働可能人口の4分の1が生活保護を受けている。働くより生活保護を受けている方が収入が多いという状況をどう見るのか。「基準の認定は国がやっているのなら、全て国でやってくれ(財政保障)」という橋下氏の主張をどう批判するのか。中高校生の一部にある退廃的な状況をどうとらえて、変えていくのか。スクールソーシャルワーカーの位置づけなど問題意識を持っている。

◆奥村報告や水野報告を聞いて、宇治市の就学援助制度の認定基準改悪について考えなければならないと感じた。

◆京教組が取り組んできている1998年からの調査は重要だと思う。そのデータが運動の力になる。給食費の無償化は2010年度までに全国21ぐらいの自治体で実施している。また、山梨県早川町では小さな自治体ながら、給食費に加えて修学旅行費や教材費など義務教育費を無償化にすることを平成24年度から実施する予定です。

◆子どもたちの中にある「甘え」や「攻撃性」など、育っていない課題と親の貧困は表裏一体の関係。課題を持っている子ほどその成長には手間がかかる。どうしても教育条件を整えることが必要。

 「京都教育センター年報(24号)」の内容について、当ホームページに掲載されているものはその概要を編集したものであり、必ずしも年報の全文を正確に掲載しているものではありません。文責はセンター事務局にあります。詳しい内容につきましては、「京都教育センター年報(24号)」冊子をごらんください。

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              2012年3月
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