事務局 2010年度年報もくじ

子どもの発達と地域研究会
         2010年度活動のまとめ


        姫野美佐子(子どもの発達と地域研究会事務局)



1. 2010年度を振り返って

 2010年度は、スタートが遅く初夏の頃に事務局会議を持って、動き始めました。事務局会議では最初、普段思っていること、まわりの子どもたちや親の嬉しい話、気になった話を出し合います。そのうち「そう言えば、あそこにこんなことをしている団体があって…」という話になります。今年は、右京区の「NPO法人フォーラムひこばえ」のことが話題になりました。7月に見学に行かせていただき、10月の公開研究会と12月のセンター研でレポートしていただきました。「ひこばえ」の施設・敷地を実際に見たことは私たちにとって大きな力になり、「子どもには、こんな場所で育って欲しい」というひとつの理想を実感できました。また、事務局長の井上さんとのお話も刺激的で、会議をしていると、次から次へと言いたいことや発想が生まれてくる感じでした。

 多くのことはできなかった一年でしたが、質的に深く、また棚橋先生のおかげで研究も少しすすみました。


2. 公開研究会

○10月11日(月・祝)参加28名

レポート@
「ひこばえの実践に学ぶ」井上公子(フォーラムひこばえ事務局長)&森江利香(フォーラムひこばえ職員)

T フォーラムひこばえ設立の理念とこれまで

 「地域を暮らしやすくするためには、住民の一人ひとりができることから動き始めること」フォーラムひこばえは、住民主体の福祉のまちづくりを支援する法人として2005年開設した。事業内容は、赤ちゃんと保護者のサークル、学童保育、仲間作りを目的とした教養文化サークル、子育て講演やくらしのお役立ち講座、さらに地域福祉連続講座と、赤ちゃんからお年寄りまでを対象にしたコミュニティーセンター運営。どの事業も利用者が主体となって取り組むことを意識した支援を行っている。

U ひこばえの地域に対する考え方

 地域→エリアとしての地域
  →人々が交流しあうコミュニティとしての地域/交流し合うことの豊かさ/気遣いあうことからくる安心感/社会を主体的に形成していることへの満足感と責任感
  今のひこばえの実践が20年、30年後の地域社会を豊かなコミュニティにしていくための実践。あるいは、豊かなコミュニティを形成する大人を育てる実践。

V ひこばえこどもくらぶの集団作り

  あ:こどもくらぶの集団作りにおいて大切にしていること
    ○互いに認め合える仲間作り〜仲間といっしょならおもしろい
    ○自治的に生活を管理し集団生活のルールを確立する〜ひこばえはぼくらの城
  い:こどもくらぶの集団作りの年間計画
    ○4〜6月 個々の居場所作り/入所式/3年生団結遠足/高学年団結のつどい/班作り/集団あそびの計画/保護者会親子交流行事
    ○7〜8月 夏休みの様々な活動や一日の生活を通して個々の関係を深め、集団の主体的なつながりを強める。班での当番活動、遊び/保護者会主催親子合宿/地域の遊びのひろば「わいわいひろば」高学年出店/低学年遠足、高学年・少年団交流川遊び
    ○9月〜11月 大きな集団での活動を通して集団の質を高める。 ひこばえまつり全学年で遊びコーナー担当/はんがえ/高学年・少年団交流たそがれハイキング
    ○12月〜3月 全体での集団づくりの時期に入り、じぶんたちの成長を確かめ合う。クリスマス会/児童館行事/卒業を祝う会/もちつき大会/保護者会行事雪遊びツアー
  う:「班は必要か?」との議論
     班は本当に必要なのかとの意見がスタッフ会議で出た。「班がないと当番活動の分担に時間がかかり、スタッフも子どももストレスになる」「班があると便利だが、学校のように管理された雰囲気になり家庭的な雰囲気が壊れる」「班の中で孤立している子がいた」などなどの意見が出された。高学年会議で議論した。「当番活動の度に役割分担をするのは大変なので班はあったほうがいい」「自分の班は女子ばかりなのでいやだった」(4年男子)「Y君(障害を持つ児童)と同じ班になったことでY君のことがよく分かるようになったし、他の人も同じ班になった方が良い。Y君にとってもいろんな人と関わった方が良い」だから、班がえをするべき」「学童の長い机は良くない。四角い机でもっとお互いが近づける方が良い」など、いろいろな意見が出た。これらを踏まえて「高学年会議で班作りを行うこと」「年に1〜2回班がえをする」ことが全員一致で決まった。
  え:保護者のつながり、地域の子ども集団
    ○こどもくらぶのスローガン  「親も子も共に育ち合うこどもくらぶ」
    ○保護者のつながり 2010年「ひこばえみまもりネットワーク」発足
     ボランティアバンクの支援/大人の居場所づくり/ひこばえの運営協力・支援
    ○ひこばえからみた地域の子どもたち
     ・ひこばえ少年団(4年生から中3まで。登録制・親の会あり)
     ・「児童館自由来館」という居場所作り 0歳から18歳
     ・「にじのひろば」「中高生ひろば」「科学あそびくらぶ」


レポートA「集団の活動の質の高次化」棚橋啓一(子どもの発達と地域研究会)

 人間は体外情報型(学習型)の生き物であり、体内の遺伝子情報だけでは一人前の人間になることはできない。「人間的な発達」を身につけるためには、@人間的な環境A人間的な文化を身につけた人との共同の営みB能動性 が必要であり、集団が必要である。その集団の質が「人間としての発達」に大きな役割を担っていることはもちろんである。そしてその集団の質も変化する。横への変化、量的変化もあれば、縦の質的な変化(発達)もある。1人ひとりの子どもの発達の質的な変化(高次化)と同じように、集団の活動も質的に発達し高次化していく。そしてこの集団の活動の質がまた、集団内で活動する一人一人の行動の質に、したがって発達にも大きく関わってくる。子どもは発達の真っ最中であるから、子どもたちの所属している集団(学校のクラスや地域のサークル)の活動の質は子ども一人一人の人間的な発達を大きく左右する。それでここでは、集団の活動の質的な発達について考えたい。

T 子どもの発達、集団の活動の質の発達・高次化

  柔軟性(笑顔)―連結(見通し)―一次元(〜だ)―否定(〜でない)―二次元(〜けれど〜)抽象化の操作―論理的操作 (田中昌人氏)
  ◇下位各層のレベルの活動はいつも基礎にあって、上位レベルの活動と共に生きて動いている。
  ◇矛盾は発達の原動力

U 主体性、仲間、共同、課題

 発達の高次化を、ここでは子ども一人一人についてよりも、集団の活動に注目して考えたい。私が子どもたちと取り組んできたサークルの始まりは、ちびっこプールの掃除を子どもたちにさせることだった。特に目的もなく、気楽に遊んでいた子どもたちが(柔軟の状態から)繋がりグループになってプールにやってくる(連結―見通し・漠然とした期待)「プールの朝の掃除をする」とグループとして決めた。(一次元の行動)この取り組みが進む中で、それぞれの掃除道具の使い方や汚れの落ちにくいところの掃除の仕方、保健・衛生のための仕組みなどなど、掃除の方法の二次元的な段階への発展に気を使った。年を追うごとに、プールの運営に親たちも子どもたちも積極的に参加するようになり、幼児向きの遊び用小物の製作をしたり、スイカ割りやゲームの取り組みなど協力して楽しみながら活動して、しかも社会的な活動の意義もしっかり自分たちのものにしていた。(二次元的な活動の大きな力と抽象的な把握、論理的な操作の活動)

V 柔軟(多様、ゆとり、笑顔)と連結(つながり、見通し)

 植物の伸びる目は柔らかい。人間も発達には「柔軟」性が必要である。この柔軟性は「ゆとり」や「笑顔」として見られることも多い。個人の発達でもそうであるが、集団の発達の系、社会の発達の系も同じように言える。発達の面からも「一人一人の尊重」「自由」は基本的に重要なのである。部屋や乗り物で咳が厳しく固定されていると、いろいろな結びつきもつくるのが困難になる。活動も多様性がなくなる。これでは集団の発達、発展の可能性が乏しくなるのは当然であるが、その集団にいる一人一人の活動も萎縮し硬直化して発達を困難にすることを考えておかねばならない。


討論より抜粋

・「ひこばえ」さんの取り組みをきいて、形をきちんと持ちながらも柔軟性を持っているなあと思った。私も児童館の館長として、子どもたちの力をどう引き出せばいいのかが、いつも課題。論理的な部分が人を説得し、共通理解を広げていくと思う。

・(児童館職員)1年生も早い時期から5時間目が始まっている。学校でストレスをためてやってくるので、学童でストレスを解消して欲しいな、と思う。全員が一週間に一度は必ずしゃべることにしている。

・大山崎チェレンジクラブから来た。チャレンジクラブには中学生も来ている。中学生は、学習もしている。しかしクラブの問題は大きい。クラブの話をきいていると「子どもががんばりたいから、がんばっている」のかどうかよく分からなくなる。

・PTAの活動をしていたとき「親も子も育ち合う」がスローガンだった。ひこばえも同じ。ひこばえは「20年先、30年先」を見据えてやっているのがすごい。

・大山崎チャレンジクラブで育ち、今はスタッフをしている。自分でも「いい育ちをしたな」と思う。子どもが主体的であるとはどういうことか、というつっこんだ議論が必要だと最近思っている。


3. 京都教育センター研究集会

 分科会(詳しくは、集会分科会報告参照)


4. 2011年度方針

@ 通信を発行する。

A より多くの個人、団体との結びつきを広げる

B 「子どもの発達と地域」について研究を深める。


5.事務局体制

代表:中須賀ツギ子(京都教育センター)

事務局長:姫野美佐子

事務局員:池添廣志/棚橋啓一/大平勲/松井信也

会員 (略)

 「京都教育センター年報(23号)」の内容について、当ホームページに掲載されているものはその概要を編集したものであり、必ずしも年報の全文を正確に掲載しているものではありません。文責はセンター事務局にあります。詳しい内容につきましては、「京都教育センター年報(23号)」冊子をごらんください。
事務局 2010年度年報もくじ

              2011年3月
京都教育センター