事務局 2010年度年報もくじ

地方教育行政研究会  2010年度研究会活動のまとめ

          葉狩 宅也(地方教育行政研究会事務局)



1.地方教育行政研究会・京教組合同学習会としての運動

 2000年度から始まった京都教職員組合との「合同学習会」は今年で12年目を迎える。「合同学習会」を含む研究会活動では、広く、深く子どもたちと教育にダメージを与えている新自由主義と国家主義を批判し、その対抗軸を明らかにすること、そして子どもの学習権を具体的に保障する教育条件整備に向けた理論と運動を励ますことを課題としてきた。「改悪」教育基本法、その後に続く教育3法成立後の「教育改革」の動向を共同して学び合うことは、民主党政権になった今日の教育行政を批判的に検討する重要な取り組みとなる。

 一昨年夏の総選挙後、国民の審判が下り、歴史的とも言える政権交代が行われた。民主党を中心とする連立政権は、マニフェストに掲げた教育政策のうち、「子ども手当の支給」「高校授業料の無償化」は施行したが、その他の政策は自公政権下の延長線を維持する状況にとどまっている。

  「教員養成、教員免許制度」の見直しは足踏み状態で、新たな資質向上策が打ち出されるまでは現行制度を維持することになっていたり、「全国一斉学力テスト」は悉皆から抽出・希望実施になったものの、新自由主義的教育改革の流れにのみ込まれるような高い「希望」に支えられたりする状況になっている。さらに、改悪教育基本法の具体化を進めようとする流れは、改訂学習指導要領の移行措置・本格実施に向けて、子どもと学校・教職員を枠の中に締め付け、管理していくことに拍車がかけられている。学校統廃合を視野に入れた「小中一貫校教育」や「高校の再編統合」、地方での教育振興計画づくりの動きなど、引き続きその本質と問題点を明らかにしながら批判的な運動を進めていく必要がある。

 また、「学校評価・教員評価」の押しつけも一気に広がり、査定〜賃金リンクへとますます教職員が分断され、その専門性が無視される事態となっている。「目標管理」の手法や、「PDCAサイクル」の強調、「評価」を意識させる徹底した数値目標の押しつけなどが、ベテランから若手の教職員まで、子どもと教育への情熱を奪い取るような状況をつくり、精神疾患などで休職・退職者を余儀なくされるような事態にもつながっている。 そうした課題に適切に向き合えるような学習・研究活動を意識して取り組んできた1年間であったと言える。


2.2010年度の合同学習会の経過

■ 第1回 「政権交代で学校・教育はどうなるか?」 1月24日(日) 教育文化センター 101
兼:第40回京都教育センター研究集会(2日目)第1分科会「地方教育行政研究会」
                            司会…午前:我妻・午後:大西(研究会事務局)

○開会あいさつ・・・市川哲氏(研究会代表)
○分科会の基調報告・・・葉狩 宅也氏(研究会事務局長)
○講演:「『新』政権で学校・教育はどうなる」     講師:中嶋 哲彦氏(名古屋大学教授) 
○報告と質疑応答、議論
 報告@知事選挙と教育分野の争点・課題は・・・河口 隆洋氏(京教組書記長)   
 報告A京都府議会での教育関係の論戦から・・・上原ゆみ子さん(日本共産党府会議員)    
 報告B2010年度政府予算案についての検討・・・新谷 剛氏(地方教育行政研事務局)
○まとめと閉会あいさつ・・・市川 哲氏(研究会代表)
【参加】26名 宇治久世1、綴喜2、乙訓1、亀岡1、福知山1、市教組3、府高4、市高1、本部3 小計17 府会議員団2、市会議員団1、退教1、センター2、ほか3 小計9

■ 第2回 「教員免許更新制と教職員研修」 2月28日(日) 教育文化センター301
                            司会:我妻

○講演:「教員免許更新制と教職員研修のあり方」     講師:久保 富三夫 氏(和歌山大学)
○09年度教員免許更新制の実態・・・今年度の受講者から(佐藤敏正氏) 
○報告「初任者研修の実態」・・・09年度新採者、「指導教官」
 ※別紙「年間指導計画」参照
○報告「京都府の研修について」・・・東 辰也氏(京教組教文部長)
【参加】25名  宇治久世2、相楽2、綴喜1、乙訓1、舞鶴1、市教組3、府高4、市高2、本部2 小計18         センター3、府会議員団1、府職労教育1、京私教1、講師(久保) 小計7

■ 第3回 「憲法問題と平和教育をめぐる動向と課題」 6月6日(日) 教育文化センター301
                             司会:葉狩

○講演:「現代的課題を考える 〜疎外か共生か〜」・・・講師:野中 一也 氏(京都教育センター代表)
○報告:「沖縄で今、何が起こっているか」・・・梶川 憲 氏(京都総評事務局長)
【参加】21名 宇治久世2、綴喜1、乙訓1、市教組1、本部3 小計8 府職労1、府会議員団1、総評1、センター4、他6 小計13

■ 夏季学習会(事務局内) 「教育改革をめぐる動向と課題」 7月31日(土) 教育会館4F会議室

報告@ 学校評価と教職員評価・・・ 葉狩 宅也氏(綴喜、「研究会」事務局長)
報告A 大山崎町の教育行政の状況・・・大西 真樹男氏(乙訓)
報告B 「地域主権と教育」を中心に・・・ 河口 隆洋氏(京教組)
報告C 教育委員会・教育行政・・・ 新谷 剛氏(京教組)  報告D 学校統廃合・・・ 市川 哲氏(「研究会」代表)
【参加】 6名 

■ 第4回 「民主党政権下での教育政策を検証する」 9月18日(土)  教育文化センター203
                             司会:葉狩

○講演 「混迷する民主党政権の教育政策」・・・講師:石井 拓児 氏(名古屋大学)
○報告 @京都で30人学級を実現するために・・・東 辰也氏(京教組教文部長)
     A文科省の概算要求について・・・新谷 剛氏(京教組)
【参加】34名 宇治久世2、相楽2、綴喜3、船北1、奥丹1、市教組5、府高1、市高3、本部4 小計22  日高教1、大阪府高教1、教育センター3、府会2、市会1、退教1、他3 小計12

■ 第5回 「『地域主権改革』で京都府は?教育は?」 11月27日(土) 教育文化センター301
                             司会:葉狩

○講演:「地域主権改革の問題点と地方自治・地方財政」 講師:平岡 和久氏(立命館大学教授)
○報告:「関西広域連合で京都府はどうなるか」 ・・・新井 進氏(日本共産党府会議員団団長)
○報告:「地域主権改革で教育はどうなるか?」・・・市川 哲氏(研究会代表)
【参加】・・・25名 宇治久世2、相楽1、綴喜1、市教組1、市高1、本部3 小計9 府職教育1、自治問研1、府会2、市会1、母連4、センター4 ほか1、小計16

■ 第6回 「貧困・孤立・競争をのりこえ、子どもを育てる学校づくりを考える」 ―子どもをとりまく実態と求められる実践・運動― 12月26日(日)教文101 兼:第41回京都教育センター研究集会(2日目)第1分科会「地方教育行政研究会」
                              司会…午前:我妻 ・午後:葉狩 

○基調報告・・・葉狩宅也(研究会事務局長)
○講演:「憲法に立脚した教育政策への転換めざして」・・・講師:本田 久美子さん(全教副委員長)
○報告と質疑・応答、議論
報告@「子どもの貧困」の実態と就学援助制度…奥村 久美子さん(京教組事務職員部)
報告A課題を抱える高校生とその支援体制をめぐって…我妻 秀範氏(府立高教組綾部高校東分会)
報告B京都府の「教育振興プラン」を検討する…河口 隆洋氏(京教組)
報告C「京都府教育振興プラン策定の経過と議会論戦、問題点について(12月府議会報告も含めて)」…山内 よし子さん(日本共産党府会議員)
【参加】17名(のべ154人) 宇治久世1、綴喜2、市教組1、府高1、京教組3 小計8 センター2(市川、植田)、全教1、総評1、府会議員団2、退教1、ほか2 小計9

 今年度も活動の中心は合同学習会に置かれた。引き続き府職労との三者学習会、さらには府議会議員と結んだ情報収集の活発化などを図り、より学習会を実りあるものにしていくことに力を注いだ。 また、京都府内の教育行政の動きと、私たちの運動の到達と課題を交流することを常に意識して、学習の柱にし続けてきた。

 今後、共同学習会の内容や調査活動、「教育改革」や教育運動に関する資料、論考も公開していきたい。 3.2011年度研究活動の方針 国民の一定の期待を受けて誕生した民主党政権であったが、この間、混迷を続け支持を失うばかりとなっている。

 今後の政局はきわめて流動的に推移し、選挙のたびに揺れ動くことはまちがいない情勢となっている。しかし、財界もアメリカも今のような民主と自民の「駆け引き」は望まないし、どのような政権ができたとしても、普天間と消費税は今まで通りに政策課題として上がることになると予測できる。また、新自由主義的傾向は強くなることはあっても弱まることはないことも現局面としては継続される情勢だと言える。 そこで、2011年の研究活動のメインテーマは「具体化する新自由主義とどうたたかうか」とし、この間の研究を継続発展させる内容で取り組みたい。

 今年度も研究会活動の中心に京都教職員組合との「合同学習会」を位置づける。これは組合員だけではなく、誰でも参加できる開かれた学習会であり、そのため広くビラ・インターネット等を通じて学習会の内容や研究成果を知らせていきたい。

 研究課題としては、

1.「新自由主義論再考:新自由主義とは何か−政治、経済、文化レベルで新自由主義を再認識する−」

 このテーマで政治学か経済学の研究家に文化・教育を視野に入れた講演をしてもらい、われわれ自身が今の新自由主義の到達点や表れ、その克服の方向を確かなものとして理解する。

2.新自由主義の具体化とのたたかい

  @教員政策に表われる新自由主義とたたかいの方向−教員評価、研修、免許更新制−
  A学校〜行政の関係に表れる新自由主義とのたたかい−学校と教育行政、教育委員会のあり方−
  B子どもの学習権と新自由主義−貧困とのたたかいと学習権保障−
  C新自由主義による学校政策のもとでの子ども、親、住民、学校の共同−新自由主義的な「学校づくり」をのりこえる教育運動を展望する−
  D新自由主義と教育運動−われわれが情勢を切りひらく方向を考える−

 また、事務局体制をさらに強化しつつ、継続的に研究を推進していくことを意識的に取り組みたい。

4.研究会員と体制 代表者 市川 哲 事務局 葉狩宅也、大西真樹男、奥村久美子、新谷 剛、我妻秀範 会員  東 辰也、新井秀明、磯村篤範、井上英之、射場 隆、植田健男、大前哲彦、 大和田弘、梶川 憲、佐野正彦、末富 芳、竹山幸夫、野中一也、藤本敦夫、 柳ケ瀬孝三、山本重雄、吉岡真佐樹、淀川雅也、


 「京都教育センター年報(23号)」の内容について、当ホームページに掲載されているものはその概要を編集したものであり、必ずしも年報の全文を正確に掲載しているものではありません。文責はセンター事務局にあります。詳しい内容につきましては、「京都教育センター年報(23号)」冊子をごらんください。
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              2011年3月
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